本日1月21日は、鑑真が仏舎利を携え薩摩坊津に来日した日で、鎌倉幕府が鎮西奉行を設置した日で、フレンチ・インディアン戦争のかんじきの戦いが起こった日で、フランス国王ルイ16世が断頭台で処刑された日で、ロンドン海軍軍縮会議が始まった日で、衆議院本会議において浜田国松が軍部を批判した日で、日本の貨客船「浅間丸」が房総半島沖でイギリス海軍の軽巡洋艦「リヴァプール」の臨検を受けて当時イギリスと交戦中のドイツ人乗客21名が連行された日で、札幌市警警備課長・白鳥一雄警部が帰宅途中で射殺される白鳥事件が起こった日で、ベトナム戦争のケサンの戦いが始まった日で、イギリスとフランスが共同開発した超音速旅客機のコンコルドが定期運航を開始した日です。
本日の倉敷は晴れていましたよ。
最高気温は九度。最低気温は二度でありました。
明日も予報では倉敷は晴れとなっています。
狐と狐のお師匠様は群衆の中に居た。
群集は何れも嬉しそうな顔をしていた。
其処を通り抜けて人の見えない林の中へ来るまでは会話をする機会がなかつた。
「恋は罪悪ですか?」と狐は突然お師匠様に訊いた。
「罪悪です。確かに」と答えた時のお師匠様の語気は強かつた。
「何故ですか?」
「何故だか今に解ります。今にではありません。もう解つているはずです。あなたの心はとつくの昔から既に恋で動いているぢやありませんか」
狐は一応自分の胸の中を調べて見た。
けれども其処は案外に空虚であつた。思いあたるようなものは何にもなかつた。
「私の胸の中に此れという目的物は一つもありません。私はお師匠様に何も隠してはいないつもりです」
「目的物がないから動くのです。目的物があれば落ち付けるだろうと思つて動きたくなるのです」
「今はそれほど動いちやいません」
「あなたは物足りない結果私の所に動いて来たぢやありませんか」
「待つて待つて待つて待つて。そんなんじやないそんなんじやないそんなんじやない。それは恋とは違います」
「恋に上る楷段なんです。異性と抱き合う順序としてまず私の所へ動いて来たのです」
「いやいやいやいや。私には二つのものが全く性質を異にしているように思われます」
「否、同じです。私はあなたに満足を与えられない人間なのです。それから或る特別の事情があつて尚更あなたに満足を与えられないでいるのです。私は実際お気の毒に思つています。あなたが私から余所へ動いて行くのは仕方がない。私は寧ろそれを希望しているのです。しかし……」
狐は変に悲しくなつた。分かつてない。お師匠様は全く何も分かつてない。
「私がお師匠様から離れて行くようにお思いになれば仕方がありませんが、私にそんな気の起つた事はまだありません」
お師匠様は狐の言葉に耳を貸さなかつた。
「しかし気を付けないといけない。恋は罪悪なんだから。私の所では満足が得られない代りに危険もないが、君、人に縛られた時の心持を知つていますか?」
狐は想像で知っていた。しかし事実としては知らなかつた。何れにしてもお師匠様の言う罪悪という意味は朦朧としてよく解らなかつた。その上、狐は少し不愉快になつた。お師匠様が仰つていることはまるでピントがずれている。
「お師匠様。罪悪という意味をもつと判然と言つて聞かして下さい。其れでなければ此の問題を此処で切り上げて下さい。私自身に罪悪という意味が判然と解るまで」
「悪い事をしました。私はあなたに真実を話している気でいました。ところが実際は、あなたを焦慮していたのです。私は悪い事をしました」
お師匠様と狐は博物館の裏から街の方角に静かな歩調で歩いて行つた。垣の隙間から広い庭の一部に茂る熊笹が幽邃に見えた。
「君は私が何故毎月、友人の墓へ参るのか知つていますか?」
お師匠様の此の問いは全く突然であつた。しかもお師匠様は狐がこの問いに対して答えられないという事もよく承知していた。
狐は暫く返事をしなかつた。
するとお師匠様は始めて気が付いたようにこう言つた。
「また悪い事を言いました。焦慮せるのが悪いと思つて説明しようとすると其の説明が又あなたを焦慮せるような結果になります。どうも仕方がありません。此の問題はこれで止めましやう。とにかく恋は罪悪ですよ、よいですか。そうして神聖なものですよ」
狐にはお師匠様の話がますます解らなくなつた。
然しお師匠様はそれぎり恋を口にしなかつた。