ぶきっちょハンドメイド 改 セキララ造影CT

ほぼ毎週、主に大人の童話を書いています。それは私にとってストリップよりストリップ。そして造影剤の排出にも似ています。

楽園ーFの物語・バックヤードー青のサキシア

2021-05-14 21:55:03 | 大人の童話
 サキシアは生まれつき、顔にアザがあった。
 ひんやりと薄青い、滑らかなアザだ。
 額から左目を囲むように、清らかにくすんでいた。
 サキシアはそれを、あまり気にすることなく、幼少期を過ごした。
 隣近所だけの小さな世界では、最初からそれが、当たり前だったからだ。
 父は腕の良い家具職人だったが、あまり裕福ではなかった。
 それでもサキシアの将来を思い、学校に通わせることにした。
 初等部五年、中等部三年を優秀な成績で終え、教育部に進めれば、二年で教師になることが出来る。
 一人で生きていくには、確実な手だてだった。

学校は隣町にしかなかった。
子供の足ではゆうに一時間以上かかる距離を、サキシアは父と歩いた。
明日からはこの道を、一人で通わなければならない。
サキシアの村から学校に通うのは『お金持ち仲間』の男の子ばかりだったからだ。
隣町は大きかった。
高い建物が並んでいて、道が広い。
一際大きな家に見とれたり、たまに通る馬車を目で追ったりしているうちに、学校に着いた。
「おっきいね、お父さん。こんなにおっきい木の建物があるんだね」
 興奮気味のサキシアに、父が言った。
「お前はここで、頑張って勉強するんだよ。そして教師になるんだ。一人で生きていけるように」
「一人で?私は結婚しないの?」
 サキシアが驚いて見上げると、父親は少し困った様子で、
「するともしないとも限らないさ」
と、言った。

「おはよう」
 と言いながらサキシアが教室に入っていくと、中の子供達が一斉にそちらを見た。
 皆一様に驚いた顔をして、互いにひそひそ話し合う。
 返事をしたのは三人だった。
 大きな赤いリボンを二つ、髪に着けている女の子が、サキシアの前に来た。
「ねえ、その顔、どうしたの?」
「顔?」
「目の回り、青いじゃない」
「ああこれ。生まれつきなの」
「へえ」
 その女の子は、勝ち誇るように、言った。
「かわいそうねえ」
 サキシアが戸惑っていると、前の扉から、女が入ってきた。
 目も体も細い。
 教壇に立ち、生徒達に着席を促す。
「初めまして。私はカドワといいます。これから一年、貴方達に色々教えていきます。皆さん仲良く一緒に学んで下さい。特に見た目や貧しさで、差別することがないように」
 血の気が引くような思いで、サキシアは覚った。
 父が言っていたのは、このことだったのだ。

 サキシアは背筋を伸ばし、授業を受けた。
 学んだことを思い出しながら帰り、家に着いたら確認する。
 同級生にからかわれても放っておいた。
 『貧しい』家でも『無理して』学校に通っているのは、『顔にアザがある』からなのだ。
 それは教師になる為で、同級生と遊ぶ為ではない。
 サキシアは、そう自分に言い聞かせていた。
 そのまま三ヶ月耐えていると、面と向かって馬鹿にされることはなくなった。
 そしてある日、生徒達に厚紙が配られた。
「今日はお友達の顔を描いてみましょう。好きな子と、二人一組になって」
 サキシアは困った。
 このクラスは女子五人、男子十五人なのだ。
 一人余ったサキシアに、ギャンが言った。
「俺が組んでやるよ」
「ありがとう」
 サキシアは訝りながらもほっとした。
嬉しかった。
 けれど仕上がった絵には、サキシアの左目と、アザだけが描いてあり、題名が入っていた。
『青のサキシア』
 教師はギャンに両手を出させ、棒で叩いた。

 その日からサキシアは、『青のサキシア』と影口を叩かれるようになった。
 一部の教師でさえ、そう呼んでいることを知った時、サキシアは全てを割り切ってしまうことにした。
毅然とさえしていれば、負ける気がしなかった。
サキシアは孤独なまま、成績優秀者に与えられる青い花のバッチの全てを、手にしていった。
やがて『青のサキシア』の『青』は、『よくも悪くも際立っている』という意味に、変わっていった。

サキシアが十五歳になり、中等科を卒業する年に、父親が亡くなった。
 母は看病疲れで風邪をこじらせ、治った後も、息を深く吸えなくなった。
 収入も母親が刺繍の内職で得る、細々としたものだけになった。
サキシアは進学を諦め、成績次第で職に就けるという、王宮の試験を受けることにした。