今日は日下公人著書「『超先進国』日本が世界を導く」より転載します。
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(二世代にわたるポケモン文化)
日本が示す次のステージは、単純に数値化、計量化、可視化できない、より複雑で高度な価値であり、それに基づいたモノである。日本には未来をつくる力があり、現につくっている。世界が脱近代化に追いついてくれば日本株は自然に上がる。
1970年頃からその実例はたくさんあるが、たとえば日本の新幹線の輸出先は台湾、中国に続いてイギリスとアメリカである。また化粧品、東京ブランドのファッション、日本食の鮨、アニメーション、漫画など多種多様にある。日本語や日本文化教室の需要もある。
とくにアニメーションについては、日本の作品が世界の主流となって久しい。相手国の文化や価値観に影響を与えていくソフトの力は、長期的に見て統計数字などには現れない、計れない大きな効果をもたらす、たとえば『ポケットモンスター』は登場して十数年が経つが、国内外での人気はいまもきわめて高い。そして夢中になってポケモンを見た世代がいまや大人になっている。
かつてアメリカ滞在中に招かれたホームパーティーで、こんな話を聞いたことがある。
海外出張の多い父親に子供が寂しさを募(つの)らせていた。もっと家にいてほしいとせがまれ、彼もそろそろ仕事を変えようと考えていたが、日本に出張することになった。
そこで「お父さんが今度行くにはポケモンの国(日本)なんだよ」と言うと、子供は目を輝かせて、「えっ、本当?それなら行ってらっしゃい。その代わりポケモンのおもちゃをたくさん買ってきて」と明るく送り出してくれたという。
十年以上前の話だが、アメリカの家族の中で、ポケモンがどんな存在かがうかがえる。ポケモンは、アメリカに上陸してから二世代にわたって受け入れられているのである。
(敵同士が許し合うという哲学)
ポケモンにかぎらず、日本のアニメーション、もっと広く日本のポップカルチャー全般の世界への浸透を考えれば、日本の外務大臣が国連でポケモンを話題に演説しても少しもおかしくない。
受験秀才として勝ち上がって政治家や官僚になったような人間にはそうした発想力、柔軟性はないだろうが、諸外国の国民に向けてメッセージを発しようとしたら、ポケモンの世界観、哲学をふまえて日本の主張を展開することは何ら荒唐無稽(こうとうむけい)ではない。
ポケモンの哲学とは何か。物語の結末を見ると、みんなで話し合って、わかり合って、許し合って、涙を流して・・・・・というものが多い。『ワンピース』も同じである。日本人がつくればこういう結末になるが、たとえばアメリカ人がつくると、最終的には神と悪魔の戦いのような善悪二分法の世界となって、悪を倒すとしても皆殺しや殲滅(せんめつ)となる。お互いがわかり合う、許し合うという結末はなかなかない。
アメリカの子供たちはそうした和解という結末のあり得ることを「ポケモン」や「ワンピース」で知り、それまでのアメリカ人とは異なる価値観、考え方に触れるようになった。もちろん、日本のアニメーションにも暴力的で平和的でないテーマや結末の物語はあるが、両方そろっているところが幸せである。
余談ながら、『第三の波』の著者アルビン・トフラー氏とロサンゼルスで食事をしたとき、彼は「日本のアニメーションが洪水のように入ってきて、アメリカの子供たちの小遣いを日本が吸い取っている。これは由々しき問題だ」というので、私は「それはディズニーの宣伝だ」と答えた。
エンターテインメントの王様であり続けたいウォルトディズニーがアメリカ中にそんな“宣伝”をして日本のアニメーションを排斥(はいせき)しようと裁判まで起こしたことがある。そのとき、アメリカの庶民は「ディズニーはもっと面白いものをつくればいいのに、つくれないからといって弁護士を百人も並べて日本叩きするとは・・・・・」といった。
私が「あなたは経済学の分野だけではなく社会思想におよぶ評論をしているのだから、産業上の利益移転よりもっと別の問題を語るべきだ」というと、彼は「日本のアニメーションはセックスと暴力場面が過激で、子供の精神に悪影響を与える」と返してきた。私はこう反論した。
「日本は一年間にアニメ作品を二千~三千本も制作している。それだけテーマも描写も多様なのだ。上品なもの、ほのぼのしたものから、暴力やセックスを描いたものまで日本には全部そろっている。そのなかから、あなた方がセックスと暴力をテーマにした作品ばかりを買っているのではないか。あなたたちのほうが偏(かたよ)っている。日本のアニメーションを全部見てから決めなさい」
トフラー氏は、「とても合理的な説明だった」と理解してくれたが、日本の外務省もこのくらいの説明ができなければ存在している意味がない。だが外務省が何もしなくとも、たとえば『少年ジャンプ』のモットー“友情・努力・勝利”という価値観は、その作品を通じて世界の子供たちのあいだに広がり、愛されている。
---owari---
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