有志舎の日々

社長の永滝稔が、 日々の仕事や出版・学問などに関して思ったことを好き勝手に 書いていきます。

『思想』2017年7月号の特集「現代台湾と〈1945〉―「跨境」する歴史経験―」が素晴らしい

2017-07-02 18:03:33 | 学問
『思想』最新号(2017年7月)の特集「現代台湾と〈1945〉―「跨境」する歴史経験―」が素晴らしい。
おそらく『思想』として初めてくらいの「台湾現代史」特集なのでは?
なかでも、北村嘉恵さん(北大)の「台湾先住民族の歴史経験と植民地戦争―ロシン・ワタンにおける「待機」―」を読んで考えたのは、日本の植民地研究は、まず大江志乃夫さんの研究を振り返る必要があり、さらに近年の愼蒼宇さん「日朝150年の非平和」に関する議論と永原陽子さんの「植民地支配責任」についての議論を考慮しながら、単なる政策論や善悪二元論(反日と親日)ではない、植民者と被抑圧者の心性にまで踏み込んだ複雑な歴史叙述が必要になってきたと思った次第です。
北村さんはそれを目指しているのではないか。
そのうえで、「先住民たちの重層的な歴史経験への着目は、同時に「戦後」を標榜してきた日本社会における戦争体験の捉え直しをも要請している」わけです。

私見ですが、日本の植民地研究史は90年代くらいからポストコロニアルやオリエンタリズムといった外来概念に左右されすぎて、「土着」の歴史的視点を作れていない。その一方で、ただ実証だけの面白くも何ともないタコツボ研究が多くなっている。その間にネトウヨ的なウソ話が大手を振って歩くようになってしまった。
どれもダメだと思うのです。
それがようやく突破されようとしているのではないかと期待させてくれました。