博客 金烏工房

中国史に関する書籍・映画・テレビ番組の感想などをつれづれに語るブログです。

『古代中国の虚像と実像』その1

2009年12月20日 | 中国学書籍
落合淳思『古代中国の虚像と実像』(講談社現代新書、2009年10月)

ここ数日間タミフル飲んで寝込みながら、この本の一体どこがどうダメなのかを考え続けていました。で、出た結論としては、古籍の説話にツッコミを入れること自体が悪いわけではない。また著者が提示する「実像」もそれなりにもっともなのが多い。(もっともでない点については次回以降触れていきます。)しかしツッコンだらツッコミっぱなしで「ではどうしてそのような『虚像』が創作されたのか?」「そのような『虚像』が受容された社会とはどんなものだったのか?」について全く触れていない点ではないかと思い至りました。

少なくとも最後の章あたりでそれについて触れておれば、本書の印象も随分違ったものになったのではないかと思います。(あと、本書ではしばしば説話の「捏造」という言葉が使われていますが、「創作」という言葉の方が適切だと思います。)それこそ「『史記』にもっともらしく記載されている個人の密談なんて誰が聞いてたんじゃーーーーっ!」とツッコムだけなら、前回も触れたように宮崎市定が既にやっているわけですから。

中華圏の近年の研究を振り返っても、王明珂『華夏辺縁』は経書などに見える王侯の祖先神話を創作としつつも、それが創作され、受容された背景についてしっかり考察しています。また郭永秉『帝系新研』「古帝王の説話が史実を踏まえているなんて一体何の根拠が?あんなの戦国時代に創作された伝説ですよ!」というようなことを述べていますが、これは本書の結論ではなくあくまで出発点です。

つまり現在の研究は既に説話が史実ではないと認識したうえで、その意味を探るというところまで進んでいるのです。となると、本書の問題点はやはり説話を「虚像」と切って捨てるだけでそこから話を広げていないことということになるでしょう。

以上がまずは本書の総評。

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