博客 金烏工房

中国史に関する書籍・映画・テレビ番組の感想などをつれづれに語るブログです。

『帝系新研』

2009年01月02日 | 中国学書籍
郭永秉『帝系新研 楚地出土戦国文献中的伝説時代古帝王系統研究』(北京大学出版社、2008年9月)

昨年こちらで話題だった本です。

要するに戦国楚簡を主要な資料として先秦の古帝王の系譜を考察した書なのですが、古帝王に関する説話を夏王朝以前の史実を踏まえたものとせず、あくまで戦国時代に語られた「古史伝説」として捉えている点が素晴らしいです。「何当たり前のこと言ってんだ」と言われるかもしれませんが、この分野の研究はこの当たり前のことを軽くスルーしているものが実に多いのです……

このほか、顧頡剛・童書業ら疑古派の研究成果を割と肯定的に評価・引用している点も注目されます。70年代後半以後、この分野の研究では「古史伝説」を直接「古史」、すなわち歴史的な事実として理解しようとする「信古」の傾向が強かったのですが、段々にその揺り戻しが来ているようです。当然「信古」的な研究方法のバイブルとなっている李学勤の『走出疑古時代』にも批判的です。

また、神話伝説の研究はしばらく前までは伝世の文献が主要な資料でしたが、この分野においても戦国楚簡のような出土文字資料が不可欠な資料となっているのだなあと再確認。ただ、上海博物館蔵戦国楚簡の『容成氏』を読解するうえで「有虞迵」なる古帝王を創出しているのは気になる点ですが……

著者の郭永秉は1980年生まれで、現在は復旦大学出土文献与古文字研究中心の所属ということですが、この分野にも「80後」の流れが来ているのでしょうか。

【附記】

復旦大学出土文献与古文字研究中心と言えば、同機関から関係者に送られた今年の年賀状は、2008年に発表された古文字・出土文献関係の論文のWordファイルと、同機関で開催された講演の音声ファイルをCD-ROMに収めたものだったとのこと。これはこちらでも類を見ない試みのようですが、日本の大学・学会もこれぐらいのムチャはして欲しいという気はします(^^;)

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