博客 金烏工房

中国史に関する書籍・映画・テレビ番組の感想などをつれづれに語るブログです。

2024年6月に読んだ本

2024年07月01日 | 読書メーター
頼山陽──詩魂と史眼 (岩波新書 新赤版 2016)頼山陽──詩魂と史眼 (岩波新書 新赤版 2016)感想
頼山陽の生涯と漢詩、『日本外史』など、その作品について。弱年の頃の脱藩騒動によって廃嫡されたこと、廃嫡された後に神辺に移っても現地での生活に満足できずに京都に移ることになり、支援者と関係が悪化したこと、書籍を集めるよりは書画を収集するのに熱心で、そのために門人とトラブルを起こしたことなどを見ると、はたから見るとかなり困った人だったようである。作品論については『日本外史』の執筆の際に『史記』や『左伝』の筆法や描写を参照したことなどが触れられている。全般的に山陽の漢詩の紹介が多い。
読了日:06月01日 著者:揖斐 高

印綬が創った天下秩序: 漢王朝の統治と世界観印綬が創った天下秩序: 漢王朝の統治と世界観感想
印綬制度から見る漢代の官制と行政機構、そして国際秩序。正直なところ印綬でここまで話が広がるとき思わず、面白く読んだ。漢代において周制は単に儒学的観点からいたずらに理想化されていたのではなく、統治の安定のための権威づけとして「漢の伝統」とともにうまく活用されていたという話や、公印が周代の青銅器に相当する役割を担っていたという話が個人的にポイントだった。
読了日:06月03日 著者:阿部 幸信

戦国ブリテン アングロサクソン七王国の王たち (集英社新書)戦国ブリテン アングロサクソン七王国の王たち (集英社新書)感想
イングランド七王国時代の覇王たちの物語。覇王の事跡は晋の文公など中国の春秋時代の覇者たちを思わせるところがあり、またイングランドにも「春秋の筆法」めいたものがあったようである。タイトルは『戦国ブリテン』よりも『春秋ブリテン』の方がふさわしい気がする。内容自体は本書の著者による『イングランド王国前史』と重なる部分が多い
読了日:06月04日 著者:桜井 俊彰

日本の動物絵画史 (NHK出版新書 713)日本の動物絵画史 (NHK出版新書 713)感想
ユーモラスな、あるいはかわいい動物絵画の系譜。鳥獣戯画のルーツを発掘によって得られた「落書き」から見出したり、江戸時代の漫画的な虎の目付きのルーツを中世の禅画に見出すといった分析が面白い。こういった古代からのいとなみが「ちいかわ」などに繋がっているのかもしれない。しかし著者の言うように西洋流の芸術では動物を描くことが低く見られたとすると、中国で活躍した西洋人画家郎世寧が西洋の画風による動物絵画を多く残しているのはどういう位置づけになるのだろう?

読了日:06月06日 著者:金子 信久

最終講義 挑戦の果て (角川ソフィア文庫)最終講義 挑戦の果て (角川ソフィア文庫)感想
最終講義というのは何かひとつ専門に関係するテーマを定めて講演を行うというものだと思っていたが、本書を見ると案外これまでの半生であるとか研究者としての来し方であるとか「自分語り」に終始しているものが多い。その中にあって京大人文研の甲骨の来歴や中国の研究者の評価を行う貝塚茂樹、慶應SFCのあり方に苦言を呈する江藤淳、今日の米中関係を予見した中嶋嶺雄の章なとどを面白く読んだ。
読了日:06月09日 著者:桑原 武夫,貝塚 茂樹,清水 幾太郎,遠山 啓,芦原 義信,家永 三郎,猪木 正道,梅棹 忠夫,江藤 淳,木田 元,加藤 周一,中嶋 嶺雄,日野原 重明

闇の中国語入門 (ちくま新書 1798)闇の中国語入門 (ちくま新書 1798)感想
「闇」というよりはネガティブ中国語入門といった趣。本書で取り上げられている単語には「内卷」「躺平」など近年の流行語もあるが、実の所現地の大学で使われている留学生用の語学の教科書に普通に出てくるものもある。単語や例文そのものよりは著者によるその社会的背景の解説が読みどころ。流行歌の歌詞や中国版Yahoo!知恵袋の「知乎」からの引用が面白い。
読了日:06月11日 著者:楊 駿驍

馮道 (法蔵館文庫)馮道 (法蔵館文庫)感想
中公文庫版からの再読。「夷狄」の契丹を含む五朝八姓十一君に仕えたということで乱世にあって無節操、恥知らずの代表格と見なされてきた馮道再評価の書。乱世にあって人民をまもるという意志があったことや九経木版印刷の開始といった彼の功績とともに、六朝以来の貴族の没落・衰退を個別の人物のありさまによって示し、当時の節度使の幕僚がいわば影の内閣を構成していたといった指摘をするなど、中世の終わりという時代性を意識した記述となっているのが読みどころ。
読了日:06月13日 著者:礪波 護

恐竜大陸 中国 (角川新書)恐竜大陸 中国 (角川新書)感想
恐竜や化石そのものより化石をめぐる人間模様の方を面白く読んだ。(特に戦前・戦中の)研究者の武勇伝、近年の若手研究者とネットとの親縁性、化石の発見に農民が多く関わってきたこと、化石の盗掘、研究機関がブラックマーケットとの取り引きを厭わないこと、それに対する出土地などの情報が失われるなどの学術的批判、海外からのコンプライアンスをめぐる批判など、多くの事項が青銅器や竹簡など中国の出土文献をめぐる事項や問題と共通していることに驚かされる。その他、中国語ピンイン表記をめぐる不都合など恐竜の学名をめぐる問題も面白い 
読了日:06月14日 著者:安田 峰俊

アッシリア 人類最古の帝国 (ちくま新書 1800)アッシリア 人類最古の帝国 (ちくま新書 1800)感想
古代オリエントの専制君主による軍事大国という程度のイメージしかなかったアッシリア。本書は出土した粘土板による文書類、図像、遺跡などの史資料を駆使して国家の興りから帝国化、サルゴン2世、アッシュルバニパルなど最盛期の王の治世、そして滅亡後に残された記憶までを描き出す。思いのほか詳しいことまでわかるものだと驚かされる。卜占に関する文書が多い点は殷周王朝を連想させる。母后サムラマトがセミラミスとして欧米でも伝承されているというのは面白い。
読了日:06月17日 著者:山田 重郎

アーリヤ人の誕生 新インド学入門 (講談社学術文庫)アーリヤ人の誕生 新インド学入門 (講談社学術文庫)感想
西欧での言語学の成立、あるいはインド・ヨーロッパ語族、「アーリヤ人」概念、「アーリヤ人侵入」説の誕生の経緯について。ダーウィンが言語学から影響を受けていたということや、考古学の立場から「アーリヤ人侵入」説に疑問を死すのに「言語学の暴虐」が持ち出されたという点を面白く読んだ。第Ⅴ章で展開されるインド学がテキスト偏重という問題や、補章で言及される固有名詞のカタカナ表記の問題などは中国学でもかなりの程度あてはまるのではないか。
読了日:06月19日 著者:長田 俊樹

広東語の世界-香港、華南が育んだグローバル中国語 (中公新書, 2808)広東語の世界-香港、華南が育んだグローバル中国語 (中公新書, 2808)感想
街角の表記、香港映画やポップスの歌詞などを利用しつつ広東語の歴史と特徴を探る。実は広東語話者が世界に広がっていることはスペイン語やポルトガル語の広がりを連想させる。また広東語が抱える問題としてローマ字表記が一定していない点や言文一致ではない点を挙げる。ただ言文不一致であることにより、却って広東語が北京語と同様に「話す・聞く・読む・書く」のすべてを達成できているという。広東語に触れることで、北京語や中国語全体の評価が変わってきそうである。
読了日:06月21日 著者:飯田 真紀

文房具の考古学: 東アジアの文字文化史 (599) (歴史文化ライブラリー)文房具の考古学: 東アジアの文字文化史 (599) (歴史文化ライブラリー)感想
いわゆる文房四宝だけでなく、広く文字使用のはじまりや書写行為そのものを対象としており、「文房具の考古学」というより「書写の考古学」と題した方が良さそうな内容。地域も中国と日本だけでなく、著者の専門らしい朝鮮半島の状況も大きく取り上げている。また、実験考古学的な試みもある。本書で大きく問題としているのは、文字、あるいは文房具(らしきもの)の登場・導入と普及とは異なるということである。これは書写行為にまつわるものだけでなく、たとえば鉄製兵器などの登場と普及についても同じことが言えるだろう。
読了日:06月26日 著者:山本 孝文

百年の孤独 (新潮文庫 カ 24-2)百年の孤独 (新潮文庫 カ 24-2)感想
南米のマコンドという未開地に入植したブエンディア一族の六世代にわたる物語。壮大なサーガとか人間の業を描いた 物語のようなものを予想していたが、実際読んでみたらひたすら下世話で突拍子のない話ばかりが続く、一種のファンタジーだった。序盤はとっつきにくいが、世界観というかノリに慣れてきたらそれが快感になる。そんな物語。
読了日:06月30日 著者:ガブリエル・ガルシア=マルケス
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最近見てるドラマ(2024年6月)

2024年06月06日 | 中華時代劇
『慶余年』第2季
殺害されたと見せかけて実は生きていた范閑。彼は亡き母の理想を実現させるために動き出す。ということで前作から5年を経て放送された待望の続編……なんですが、どうもイマイチ。個別のシーンは悪くないんですが、全体で見ると10点満点で6~6.5という感じです。ストーリー展開、駆け引き、アクション、細かいギャグのどれを取ってみても次に紹介する『天行健』にまったく及んでいません。おまけに中盤の科挙のあたりから『雍正王朝』など90年代末~2000年代中盤の反腐敗古装で見たような展開が今更出てくる始末。どうしてこうなってしまったのか……

『天行健』
ということで、こちらは辛亥革命前夜の清朝末期が舞台。光緒帝の元侍衛で戊戌の変法に関与していたことにより12年間獄中にいた使い手門三刀、しがない天津の捕快王家洛、弱小門派の掌門卓不凡、この3人が主人公で、彼らにプラスして日本のスパイが文淵閣に残されていた「蔵宝図」を手がかりに南少林の残した秘宝・秘伝を求めて丁々発止の駆け引きと抗争を繰り広げるという武侠大作、もとい「時代劇の時代」の終わりを描く作品です。『慶余年』でもなく『狐妖小紅娘 月紅篇』でもなく今作こそが今月のお薦め作品です!
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2024年5月に読んだ本

2024年06月01日 | 読書メーター
後期日中戦争 華北戦線 太平洋戦争下の中国戦線2 (角川新書)後期日中戦争 華北戦線 太平洋戦争下の中国戦線2 (角川新書)感想
河北では八路軍との戦い、山東では毒ガス・細菌兵器の投入、河南では蒋介石による黄河決壊のような人災も含めた災害、山西では閻錫山の動向という具合に華北の省ごとの特色を強調した構成となっている。ただ、特に細菌戦については日本軍側の記録の有無がネックになっているようだ。本書終盤では8/15以後も戦闘が継続したことが触れられている。閻錫山と残留日本兵側との関係の実相は、あるいは現地の解放のために戦ったと信じられている東南アジアの残留日本兵の実態をも示唆するのではないか?
読了日:05月04日 著者:広中 一成

地中海世界の歴史2 沈黙する神々の帝国 アッシリアとペルシア (講談社選書メチエ 802)地中海世界の歴史2 沈黙する神々の帝国 アッシリアとペルシア (講談社選書メチエ 802)感想
アッシリア、アケメネス朝ペルシアなどメソポタミアを支配した大帝国の興亡。今巻のテーマは一神教、アルファベット、貨幣の発明ということになると思うが、多神教から一神教を求める動きと多数の文字を擁するヒエログリフからアルファベットが生まれる動きを関連したものと見ているのは面白い。今回ペルシア戦争についても触れられているが、ペルシア戦争は次巻でもギリシア人の視点から取り上げられるようだ。
読了日:05月07日 著者:本村 凌二

派閥の中国政治―毛沢東から習近平まで―派閥の中国政治―毛沢東から習近平まで―感想
民国期の国民党・中共から現在まで、林彪集団、石油閥、上海閥などの派閥を軸に中国の政治史を辿る。自他ともに対比される習近平と毛沢東だが、毛沢東が鄧小平ともども派閥に対して超然的な態度を取ったのに対し、習近平は江沢民ともども派閥に依存した指導者であるという。また日本の自民党など各国の派閥との比較も行っており、国政選挙がないという点では日本などとは派閥の形成やそのあり方が違っているが、派閥を単位とした党内の競争が党内の多様性を高め、危機への対応力が高まり、政権の持続に寄与するなど共通点も存在するようだ。
読了日:05月09日 著者:李 昊

初学者のための中国書道史入門 (文芸社セレクション)初学者のための中国書道史入門 (文芸社セレクション)感想
時代ごとに動向、主要な書家と作品、そして「双鉤填墨」「蚕頭燕尾」のような基本的な用語を解説。書道通史というよりは書道史に関する便覧的な使い方ができる作りになっている(ただ、図版はほとんどないが)。ハンディなので手元に置いておけば便利かもしれない。
読了日:05月11日 著者:中山 不動

哲学史入門II: デカルトからカント、ヘーゲルまで (2) (NHK出版新書 719)哲学史入門II: デカルトからカント、ヘーゲルまで (2) (NHK出版新書 719)感想
今巻は近世・近代編。一読してわかったような気になる度は前巻より上がっているような気がする。「我思うゆえに我あり」は順番が逆という話や、大陸の合理論とイギリスの経験論、あるいはフィヒテ→シェリング→ヘーゲルの順番のような現在の哲学史の枠組みが最初から所与のものというわけではなかったという話を面白く読んだ。哲学から科学がどう芽生えたかという話も盛り込まれている。
読了日:05月13日 著者:上野 修,戸田 剛文,御子柴 善之,大河内 泰樹,山本 貴光,吉川 浩満

隠された聖徳太子 ――近現代日本の偽史とオカルト文化 (ちくま新書 1794)隠された聖徳太子 ――近現代日本の偽史とオカルト文化 (ちくま新書 1794)感想
近現代における偽史言説としての聖徳太子論というか、特に前半は聖徳太子が間接的にしか絡まず、ほとんど秦氏とユダヤ人、景教論となっている。梅原猛『隠された十字架』(これは本書のタイトルの由来にもなっているであろう)や山岸凉子『日出処の天子』も俎上に挙げられている。聖徳太子にまつわる偽史言説がアカデミズムによる通説を批判しつつもアカデミズムの権威に寄りかかることによって成立するという指摘は、漢字の字源説など他の分野についてもあてはまるだろう。
読了日:05月15日 著者:オリオン・クラウタウ

秦帝国と封泥 社会を支えた伝送システム秦帝国と封泥 社会を支えた伝送システム感想
谷論文は封泥についてのわかりやすい概説になっている。鶴間論文は従来36郡とされていた秦の郡の変遷を時期ごとに追い、それとの関連で始皇帝の巡行についても俎上に挙げている。もっとも面白く読んだのは髙村論文2編である。「始皇帝の手足の指の先」では地方で史官になりたがらない人々が多くいたという所から秦帝国の滅亡に議論が及ぶ。「官印は誰が捺したのか」は県令・県丞の印は書記官が捺印することもままあったのではないかという議論は、現代の文書類の捺印を想起させるよい議論。
読了日:05月16日 著者:谷 豊信,瀨川敬也,籾山 明,青木俊介,高村武幸,鶴間和幸,松村一徳

王墓の謎 (講談社現代新書 2745)王墓の謎 (講談社現代新書 2745)感想
比較考古学の観点から世界の王墓の果たした役割や造営の経緯などを議論する。威信財経済学の考え方や王墓が築かれなかった社会も検討対象とするという方針、エジプトと中国の始皇陵の葬送複合体の設計プランが一致するといった指摘などは面白い。しかし当時の人々がある種の原罪意識によって自ら進んで過酷な王墓の造営に参加したのではないかという想定など、所々疑問に思いつつ読んだ。
読了日:05月18日 著者:河野 一隆

臨済録のことば 禅の語録を読む (講談社学術文庫 2818)臨済録のことば 禅の語録を読む (講談社学術文庫 2818)感想
「麻三斤」「柏樹子」など、今では意味不明なやりとりという意味での「禅問答」とされているものも、唐代にまでさかのぼると哲学を感じさせるような脈絡があったのだということと、それが宋代になると哲学的な脈絡を読み取る態度を「死句」と否定し、本来の脈絡と切り離して「活句」に仕立て上げたという話が面白い。禅問答に対するイメージが変わりそう。
読了日:05月20日 著者:小川 隆

台湾のデモクラシー-メディア、選挙、アメリカ (中公新書, 2803)台湾のデモクラシー-メディア、選挙、アメリカ (中公新書, 2803)感想
政治的な意図もあってか日本との関係ばかりが取り沙汰されがちな台湾論だが、本書はアメリカ政治学の専門家がアメリカ(文化)の影響という視点から台湾の民主主義を論じている点に特色がある。また在米華人の動向やSNSを通じた中国の影響にもかなりの紙幅を割いている。台湾国内で、苦慮しつつも原住民や客家の、特に言語面での多様性をできる限り認めようとしているのは、中国に対して台湾の独自性を訴える都合上そうせざるを得ないという面もあるのではないかと思うが。
読了日:05月24日 著者:渡辺 将人

中国の信仰世界と道教: 神・仏・仙人 (598)中国の信仰世界と道教: 神・仏・仙人 (598)感想
『風俗通義』などの記述を手がかりにしつつ古代から現代までの民間信仰の中の神仙の変遷を追う。内容的にはかなり雑多だが、孫悟空の設定の変遷、日本に持ち込まれた道教や民間信仰の神々、『封神演義』の信仰に与えた影響、地域ごとの信仰される神仙や廟の建築様式の違い、イエスやムハンマドなど民間信仰の世界観の中に取り込まれた外国の宗教の始祖たち、儒仏道の神仙とジェンダー、海外で信仰される神仙等々興味深い話題が多い。
読了日:05月26日 著者:二階堂 善弘

台湾老卓遊 台湾レトロテーブルゲーム図鑑台湾老卓遊 台湾レトロテーブルゲーム図鑑感想
ボードゲーム、カードゲームなど、台湾の様々なテーブルゲームとその歴史を紹介。モノポリーをローカライズした大富翁のように海外のゲームを持ち込んだものもあれば、陞官図のように前近代中国に起源のあるものもあり、台湾オリジナルのヒット作もあれば、映画やドラマ、アイドル、日本の漫画などのキャラクター物もありと、様々なゲームが系統立てて紹介されている。印刷されているメッセージやデザインからは当時の時代性をうかがうこともできる。ボードの図版も豊富で、本書を読めばいくつも遊んでみたいゲームが出てくることだろう。
読了日:05月27日 著者:陳介宇,陳芝婷

元朝秘史―チンギス・カンの一級史料 (中公新書, 2804)元朝秘史―チンギス・カンの一級史料 (中公新書, 2804)感想
モンゴル帝国史の基礎文献『元朝秘史』の概要と読みどころ、そしてその記述に関連して近年の発掘や研究の成果を紹介する。序章が『元朝秘史』の解題、本編がその内容、終章が考古学の成果による補足という構成。神出鬼没のジャムカの活躍ぶりなどを見ると、『元朝秘史』は歴史書というより歴史物語集、説話集という印象を強く受ける。
読了日:05月29日 著者:白石 典之
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最近見てるドラマ(2024年5月)

2024年05月05日 | 中華時代劇
『惜花芷』
祖父を中心とする大官一家の花家。しかしその祖父が皇帝に諫言して不興を買ってしまい、花家の男たちは北方へと流刑、女と子どもたちは屋敷を追われ、財産を奪われて城外の荘園に逼塞することに。花家の長男の長女である花芷は花家の掌家となり、厳しい祖母やくせ者の叔母たちを説得して商売を始め、謎の青年顧晏惜の力も借りつつ花家の復興をめざすことに。アイデアと誠意を武器に世間の荒波に立ち向かっていく細腕繁盛記的な内容ですが、面白いです!ここんところ時代劇の大作がこけ続けていますが、ようやく心からお薦めできる良心大作が来たという感じです。

『烈焔』
人族が䰠族に支配されている世界。辛王は䰠族からの人族の解放をめざして戦いを決意するも、䰠王の黒瓏に敗北。その息子の伍賡は母親の差配により難を逃れ、貧民として少女白菜たちとともに再起を期すことに…… 原作のアニメは『武庚紀』ということですが、もともとは殷末周初の時代を舞台にしたファンタジーだった模様。紂王っぽいやつや哪吒っぽいやつが出て来ます (^_^;) わかりやすさに満ちたB級大作です。何も考えずに楽しめますw 鉱山での強制労働の場面とか、見ようによっては中国政府のウイグル族弾圧が投影されていると見えないこともないですがw
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2024年4月に読んだ本

2024年05月01日 | 読書メーター
BLと中国—耽美(Danmei)をめぐる社会情勢と魅力BLと中国—耽美(Danmei)をめぐる社会情勢と魅力感想
歴史上の男性同性愛の位置づけ、BL小説をめぐる事件と当局の政策、そしてそれを原作として制作された実写ドラマやラジオドラマをめぐる制作者側の検閲を掻い潜るための戦略と、ドラマ化作品を利用しようとする政治的思惑、日本側の評価等々、小冊ながら内容が濃い。取り上げる作品は『魔道祖師』『鎮魂』などが中心。現地での原作者の評価など、海外からはなかなか見えてこない事情も多々盛り込まれている。BLやブロマンスだけでなく、中国エンタメとその検閲に興味がある向きは読んで損はないと思う。
読了日:04月01日 著者:周密

暴力のありか: 中国古代軍事史の多角的検討暴力のありか: 中国古代軍事史の多角的検討感想
戦争における暴力や「暴力機関」としての軍隊についての論集。以下個人的に興味深く読んだポイントを挙げる。金秉駿論文では諸子から『史記』に至るまでの正戦論を概観。佐藤論文では田猟賦と画像石が共通の説話に基づいている可能性に触れる。古勝論文では軍事面で期待される仏僧像を議論。これは後世の物語での軍師・国師像につながるかもしれない。宮宅第二論文では秦による統一戦争に伴う貨幣の増産について言及。鷹取論文では「五十歩百歩」の故事が当時の戦争の実態に基づいていたと指摘。
読了日:04月04日 著者:

魔女狩りのヨーロッパ史 (岩波新書 新赤版 2011)魔女狩りのヨーロッパ史 (岩波新書 新赤版 2011)感想
近世という時代性特有のものとしての魔女狩りのメカニズムを紹介する。魔女狩りは裁判にゴーサインを与える国家や地域の政治上の問題、あるいはジェンダーや、老人と若者、子どもといった世代間の問題とも関係していたことを指摘している。ルネサンスの画家が題材として取り上げることで却って魔女のイメージをステレオタイプ化させてしまったことや、印刷技術との関わり、魔女の判定に関与した大学の罪を取り上げ、魔女狩りは理性的でないから起こったのではなく、むしろ理性の陥りやすい罠にはまったからこそ発生したとまとめている。
読了日:04月06日 著者:池上 俊一

漢文の読法 史記 游侠列伝漢文の読法 史記 游侠列伝感想
別途出版された漢文の語法解説書をベースにまとまった篇を講読するという変わった漢文入門。しかも『史記』游侠列伝というのは刺客列伝などと比べて一般にあまり読まれていない篇ではないかと思う。ただ講読といっても語法解説、あるいは漢文を読むこと自体が目的なので、時代背景などの解説は抑えめ(それでも所々関係の論文を引いたりはしているが)。
読了日:04月07日 著者:齋藤 希史,田口 一郎

香港の水上居民―中国社会史の断面 (1970年) (岩波新書)香港の水上居民―中国社会史の断面 (1970年) (岩波新書)感想
かつて「蜑民」などと呼ばれることもあった香港水上居民の生活、生態、信仰などについてまとめる。半世紀以上前の本なので、これ自体が歴史資料と化している感がある。彼らの漁業について拘束時間が長いように見えて実働時間は以外に短く、休憩時間が長いというのは、2020年代の現在と比べると当時の労働自体が一般的にそういうものだったのかもしれない。
読了日:04月09日 著者:

日本思想史と現在 (筑摩選書 272)日本思想史と現在 (筑摩選書 272)感想
渡辺浩の雑文集というか自著も含めた書籍の紹介・書評・解題を中心とする文集。「可愛い」ことを求められる日本の女性、「性」を学界の重要課題として見なしてこなかった日本の政治学会の問題(これは歴史学に対する批判として現在も有効であろう)、「儒教」を宗教と見なすべきかという問題など、読みどころが多いというより著者が取り上げる論著が読みたくなるという仕掛け。テキストを適切に理解するためにまず自分の名乗りからしてそれらしく変えたという荻生徂徠たちの試みはなかなか真似できそうにないが、面白い。
読了日:04月10日 著者:渡辺 浩

地中海世界の歴史1 神々のささやく世界 オリエントの文明 (講談社選書メチエ)地中海世界の歴史1 神々のささやく世界 オリエントの文明 (講談社選書メチエ)感想
メソポタミア、エジプトの歴史をメインにしてヘブライ人、フェニキア人なども扱う。本巻で引き込まれたのはタイトルにもある神々の世界である。アクエンアテンの一神教信仰は彼の死後完全に忘れ去られてしまったわけでもなく、個人が直接に神に語りかけるという形での個人信仰のめばえに影響を与えたのではないかと言う。個人的にはオリエントの人々が神の声を聞いたとしたら、同時代の中国人は神の声を聞けたのかどうか気になるところである。
読了日:04月12日 著者:本村 凌二

中国古典小説史 ――漢初から清末にいたる小説概念の変遷 (ちくま学芸文庫 オ-38-1)中国古典小説史 ――漢初から清末にいたる小説概念の変遷 (ちくま学芸文庫 オ-38-1)感想
『荘子』の「小説」に始まり、志怪から伝奇へという出だしの構成こそオーソドックスだが、基本的にはジャンルや類話ごとに文言・白話小説を織り交ぜて発展の跡を追っていくという構成になっている。しかも三国演義や西遊記といった有名作品を大きく取り上げないなど、内容もなかなか野心的である(しかし後年の著者とは違ってトンデモでない)。太古の夔から財神への有為転変、先行作品では活躍しながらも梁山泊に加われなかった好漢たちの事情などの話を面白く読んだ。
読了日:04月14日 著者:大塚 秀高

清代知識人が語る官僚人生 (東方選書 62)清代知識人が語る官僚人生 (東方選書 62)感想
清代の官箴書『福恵全書』を中心にして見る地方官のキャリアと生活。科挙受験から始まり任地での知県の仕事ぶり、官吏同士の関係、そして離任までを解説。正規の役人だけでなく胥吏や衙役、幕友の生態についても紙幅を割いている。清初には挙人止まりでも知県として任用される道があったというのが意外。本書で取り上げられている黄六鴻は会試には受からなかったのに、後年会試の同考官を務めているのも思しい。知県や衙役などは中国時代劇でも登場することが多く、鑑賞のうえで必要な知識を提供してくれるだろう。
読了日:04月17日 著者:山本英史

哲学史入門I: 古代ギリシアからルネサンスまで (1) (NHK出版新書 718)哲学史入門I: 古代ギリシアからルネサンスまで (1) (NHK出版新書 718)感想
インタビュー形式ということもあって取っつきはいいが、内容は決してわかりやすいわけではない。今巻で扱われる範囲のうち、中世とルネサンスの哲学は一般に馴染みがない分野であろう。しかし古代から時代を追って解説されることで何となく脈絡のようなものが見えてくるような気がする。その古代についても、哲学のはじまりは固定されているわけではなく、後から振り返ることではじまりの地点も変化していくという議論がおもしろい。
読了日:04月19日 著者:千葉 雅也,納富 信留,山内 志朗,伊藤 博明

訟師の中国史 ――国家の鬼子と健訟 (筑摩選書 227)訟師の中国史 ――国家の鬼子と健訟 (筑摩選書 227)感想
訴訟社会だったという近世中国。「水際対策」のような形で訴訟を減らそうとするお役所に対していかに訴状を受理させるかで腕を振るう訴状の代書屋にあたる訟師は、歴代王朝によって弾圧の対象となり、社会的に蔑まれてきた。しかし彼らは政府の儒家的な理念と政策によって生み出された「必要悪」とも言うべき存在だった。本書では彼らの姿を他地域や近現代中国の状況との比較の上で描き出している。同時期に出た『清代知識人が語る官僚人生』の裏面的な内容で、セットで読むと面白い。
読了日:04月21日 著者:夫馬 進

神聖ローマ帝国-「弱体なる大国」の実像 (中公新書, 2801)神聖ローマ帝国-「弱体なる大国」の実像 (中公新書, 2801)感想
歴代皇帝の事跡とともに帝国の体制に着目した通史。「ドイツ国民の神聖ローマ帝国」など各段階での国号変更の事由や選帝侯位の推移などについても詳しい。菊地良生も新書で同じタイトルの本を出しているが、帝国クライスや帝国議会など、帝国の政治制度についてはほとんどまり語っていなかったように思う。帯の背に「強くない国家が長く続いたのはなぜか」とあるが、長く続くには続くだけの理由があるというのが本書によって見えてくる。
読了日:04月25日 著者:山本 文彦

日本語と漢字: 正書法がないことばの歴史 (岩波新書, 新赤版 2015)日本語と漢字: 正書法がないことばの歴史 (岩波新書, 新赤版 2015)感想
漢字・漢語の読みからたどる日本語(彙)論。話は古代→中世→近世と時代順に進んでいくが、各章で議論されるポイントはそれぞれ異なる。個別のテキストの中での字形などの細かな差異に着目した議論が目立ち、「生のテキスト」を丁寧に読むことの大切さを教えてくれる。万葉の頃には日本語を書き表す文字として漢字をどう使うかという試みは一通り終わっていたのではないかという議論や、かな書きの連綿活字の話、近代中国語の取り込みの話などを面白く読んだ。
読了日:04月27日 著者:今野 真二

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