博客 金烏工房

中国史に関する書籍・映画・テレビ番組の感想などをつれづれに語るブログです。

『清平楽』その8

2020年05月30日 | 中国歴史ドラマ
『清平楽』第36~40話まで見ました。

仁宗は三皇子、七公主と立て続けに子供を亡くします。八大王は病床で彼に「これも生前に実母李宸妃を宮廷に迎えず、その死に目にも会わなかった罰だ」という呪いの言葉を吐いたようで、仁宗は忘れかけていた実母に対するトラウマが再びぶり返します。


本作序盤の若い頃の八大王。包青天物の八賢王に相当する人物ですが……

李宸妃といえば、彼女と縁のあった梁家の梁元生が、このあたりで開封随一の酒楼で迎賓館的な役割を担う礬楼を買い取る買い取らないという話が挿入されます。仁宗は彼が梁家果子店の身寄りであると承知していた模様。ついでに言うと仁宗お気に入りの梁懐吉もそうなのですが、まだそのことには気付いていません。


そして官界では范仲淹・韓琦らが進めていた新政に暗雲が垂れ込みます。慶州知州の滕宗諒の公金使い込みが中央で問題となり、王拱辰は彼を弾劾しますが、范仲淹は西夏との戦いに従軍した兵士たちを労う際に生じたミスで、公金を私物化したものではないと擁護。仁宗も一旦はその言い分に理解を示しますが、これに不満を持った王拱辰は朝廷への出仕をボイコットし、髪をざんばらにして自宅に籠もります。

いわゆる「慶暦の党議」と呼ばれる事件ですが、王拱辰は妻のことを范仲淹の一派の欧陽修に長年からかわれていたことを苦にしていたのです(王拱辰は初め薛奎の三女を妻としていたのを、その死後にその異母妹を娶り、同じく薛奎の四女を妻にしていた欧陽修からそれをいじりのネタにされていた)。結局仁宗は政治的判断もあり、范仲淹を陝西に、同じく新政派で謀反の噂を立てられていた富弼を河北に飛ばし、こうして新政は潰えたのでした。


後宮でも更に不幸が相次ぎます。花粉アレルギー事件以後すくすく育っていた四公主瑶瑶が寒暖差アレルギーから喘息を発症して急死。仁宗は李宸妃の肖像画を前に「これも私が不孝を重ねたからでしょうか?」と必死に詫びようとします。呪いの言葉を残した八大王はつくづく罪深いなと。しかし仁宗の懇願も空しく、唯一残された男児の二皇子最興来が蜱虫(マダニ)に噛まれたことから熱病を発症。疫病ということで、その見舞いすらかないません。

仁宗は、最興来の熱病は天からの予兆ではないかと解し、各地で虫鼠の駆除などの疫病対策を進めさせようとします。ここで范仲淹ら新政派が進めていた冗員整理が問題に。官署の人員が足りなくなったことで疫病の対策に手が回らなくなっていたのではないかという批判です。これに対して新政派の方は、冗員整理の対象となっていたのはまともな働きをする能員ではなく、いても役に立たない連中だと反論。

ともに現代日本の公共事業であるとか、目下の問題の公衆衛生での議論で取り沙汰される論点です。この作品でもなぜか日本の世相を反映する描写が出てきましたね。
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『清平楽』その7

2020年05月25日 | 中国歴史ドラマ
『清平楽』第31~35話まで見ました。

仁宗は地方に回されていた范仲淹・欧陽修らを宮廷に呼び戻し、韓琦・富弼といった鉄壁の布陣による、官員の冗員整理を核とした政治改革に乗り出します。


ここらへんで徽柔も成長し、大人の関係の機微というか、仁宗&曹丹姝夫婦の真実というか、この2人が微妙な仲であることに気付いてしまいます。お陰で宗実(後の英宗)と高滔滔の婚約にも否定的な見方をしてしまいますが、これは確実に自分の結婚にも響いてくることでしょう……

そしていつぞやの巫蠱疑惑の一件が尾を引いて、張妼晗にも反抗的な態度を示すようになります。曹丹姝主催の聞香会で許静奴が褒賞を授けられるのですが、彼女がすっころんで褒美を破損してしまいます。彼女への処分をめぐって張妼晗がイチャモンをつけてくるのですが、これに徽柔が反論。張妼晗の方も性格が大概子供なので、いよいよ困った状況に。

これまで宗実ら宗室の子女と宮学に通っていた徽柔ですが、宮学の教師である石介が改革支持派で学生たちもその影響を受けがちということで、曹丹姝は彼女を政治的な影響から遠ざけるために宮学から退学させ、家庭教師による教育に切り替えることにします。宮学での勉強が外の空気に触れるよい機会となっていた徽柔は当然不満顔。


彼女が公主の立場を離れて気軽に本音を吐き出せる存在は、いよいよ梁懐吉しかいなくなります。後宮の管理人たる曹丹姝は、徽柔が将来後宮の安寧を脅かす重大なセキュリティホールになるであろうことを察知して今からあれこれと手を打っているのでしょうが、これが果たして良い方向に作用するのでしょうか?

張妼晗といえば、三公主楚玥を亡くした後、四公主瑶瑶を出産していましたが、これが季節外れの花粉アレルギーにより重篤となってしまいます。実のところこれは教坊時代の張妼晗の同僚で、現在はその侍女となっている許蘭苕の仕組んだ陰謀なのでした。ついでに巫蠱の一件も問題となった人形を仕込んだのは彼女です。ここで張妼晗には良い印象を持っていない董秋和が瑶瑶を救い、陰謀を察知するきっかけを作るのが面白いところ。


教坊時代の二人の師で、張妼晗に請われてそのお付きとなっていた賈玉蘭は、陰謀を察知して許蘭苕を問い詰めますが、教坊時代の張妼晗の振る舞いや、自分と同じように彼女を快く思わない同輩がいることを持ち出し、結局有耶無耶にせざるを得なくなります。

一方、外界では長年北宋を苦しめた西夏との和平が成立し(いわゆる慶暦の和約)、都ではこれを祝って祭りが開かれることになります。仁宗や徽柔らもお忍びで祭りを見物し……というあたりで次回へ。開封の街並みや祭りの様子なんかは、『長安二十四時』ほどではありませんが、それでもかなり作り込んでいます。
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『清平楽』その6

2020年05月20日 | 中国歴史ドラマ
『清平楽』第26~30話まで見ました。

張妼晗の産んだ公主は結局あのまま病死してしまい、一方の苗心禾は男児を出産。


前回の件で梁懐吉を怨む張妼晗一派は、仁宗から司馬光に下賜されるはずの瑠璃盞を割ったという濡れ衣を着せて彼を陥れようとしますが、ここで若き日のイケメン司馬光が「宝物は慎重に扱うべきですが、一方で宝物は壊れやすいもの」と『礼記』や白居易の詩を典拠に梁懐吉を擁護。張妼晗一派の陰謀はあっさり仁宗にも見破られ、仁宗はそれをネタに皇嗣宗実や愛娘徽柔が学ぶ宮学で特別授業をします。何ですかこの出木杉君な皇帝は…… これを機に梁懐吉は仁宗や苗心禾のお付きとなります。

その徽柔、遼国から太子妃として嫁入りするよう求められますが、仁宗は「夫婦の関係は兄弟・朋友より間隙を生みやすい。宋と遼は今まで通り兄弟の関係でよい」と、やんわりと拒絶。この台詞、何気に彼の人生経験が反映されてますよね……

その頃、曹皇后は若年ながら腕利きの髪結い職人として苗心禾に推薦されてきた董秋和を、そのような抜擢は却って本人のためにならないとして尚服局での勤務を続けるようにと諭します。仁宗の方も、髪を結っている最中に政治に関して口出しした髪結い係の李司飾とその一党をさっくり追放処分に。しかしその場で本人に怒らずに、後になってから人を介して重大な処分を下すって、あなたそれ郭皇后を廃する時にもやりましたよね……?

張妼晗は後任の司飾として、自分のお気に入り許静奴を推薦しますが、普段は人と争わない性格の苗心禾がこれに対抗するかのように董秋和を推薦。前回徽柔が巫蠱の疑いをかけられた件が余程腹に据えかねている様子です。仁宗は他の妃嬪にも職人を推薦させ、七夕節の宴で彼女らが結い上げる妃嬪の髪型の品評会を催して後任を決めることとします。


その晩、曹丹姝は寝室で苗心禾に「もうあんな波風を立てるようなことをしてはいけない」と諭します。しかし女同士が夜な夜なベッドに腰掛けて「10年後、20年後もお互いこのようでありたい」と語りあう後宮物というのは新しいですね。


一方、この2人の美しい関係と対比するかのように、賈玉蘭との関係がもとで正妻との夫婦関係が破綻する美しくない夏竦…… 賈玉蘭との関係は正妻との結婚以前からのものなんですね。

そして七夕節の品評会で新しい司飾に選ばれたのは、許静奴でも董秋和でもなく、兪婕妤が推薦した顧采児なのでした。帰りの馬車の中で「董秋和はあんなに腕が良くて賢いのに、どうして司飾に選ばれなかったの?」と問いかける徽柔に対して「最も優れた者は必ずしも側に置く必要はない。最も賢い者が最もよいというわけでもないのだ」と答えますが、「でも皇后様は最も賢くて最も優れた女人よね」と返されて言葉に詰まります。皇后として賢明なら賢明で不幸がある。このドラマ、やはり宮廷物として地味に革新的ですね……
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『清平楽』その5

2020年05月15日 | 中国歴史ドラマ
『清平楽』第21~25話まで見ました。

仁宗が対西夏情勢の処理に追われる中、張妼晗が懐妊。案の定「お腹が痛む」だの「かと言って太医は信用できないから処方される薬は飲みたくない」だの「官家に側にいて欲しい」だのとわがままを皇后にぶつけます。曹丹姝は仁宗がそれどころではないと知りつつも、彼女が皇嗣となる男児を産む可能性もあるということで、わがままを聞き入れてやります。仁宗も皇后の処置が妥当だと褒めていますが、こんなことの繰り返しで曹丹姝さんが精神を病まないかどうか不安になってきます……

曹丹姝は皇后への不信感を仁宗にぶつけます。ここで仁宗が彼女の言うことを真に受けたらベタな後宮物になるのですが、このドラマの仁宗は良くも悪くもそこまではバカではないので、そういう展開になりそうでなりません (^_^;)

ここらへんで歴史イベント、畢昇の膠泥活字と活版印刷術の発明が挿入されます。と言っても「こんなもんが発明された」と韓琦や蘇舜欽らが官署で現物を手にするだけなのですが。

その韓琦らのもとで書記のような仕事を務める梁懐吉くん。温厚な性格と才識を買われて危うく張妼晗の側仕えにさせられそうになりますが、死亡フラグを適当に回避していますw また張茂則からさりげなく兄の梁元生も死亡フラグを無事に回避して生存していることを知らされます。この梁元生、対西夏戦の主将劉平の冤罪事件の証人として出頭する場面で、この作品では珍しいアクション・シーンで活躍したりしております。

そして康定二年、対西夏の最前線延州では、和平策の范仲淹と積極策の韓琦とが対立。韓琦の意見が通りますが、探索に出た宋側の軍が大敗してしまいます。


『左伝』に見える「止戈を武と為す」の字源説を狄青に説く范仲淹。結果としては范仲淹の和平策の方が妥当であったということになるのですが、李元昊と書信を取り交わしていたりして、西夏との内通を疑う声もあり、燿州へと左遷。

そんな中、張妼晗は女児を出産。ところがこの楚玥公主が病気がちということで色々ナーバスになっています。そこへ巫蠱によって楚玥が呪詛されているという疑惑が発生。張妼晗は側近の申告を信じて徽柔がその犯人ではないかと騒ぎ立てますが、梁懐吉の証言により、徽柔は心労で倒れた父帝のためにお祈りをしていたのだと明かされます。張妼晗は当然不満顔ですが……というあたりで次回へ。
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『刺客列伝』

2020年05月12日 | 中華時代劇
ここのところ『陳情令』『清平楽』と並行して捜狐のウェブドラマ『刺客列伝』を見てました。中国語版は第1季&第2季「龍血玄黄」それぞれ全30話ずつの計60話×35分程度、日本語版はこれを全42話に調整しているようです。

舞台は戦国時代をモチーフにした架空世界「中垣」。現実の歴史の周の天子に相当する鈞天国の英主啓昆帝が天璿国の差し向けた刺客裘振に刺殺されたところから物語は始まります。天璿、天璣、天枢、天権といった有力諸侯国の君主たちは能力ある臣下を抜擢してお互いに生き残りを賭けて駆け引きを繰り広げ、南方の蛮夷遖宿国が虎視眈々と「中垣」進出を狙います。

タイトルは『史記』刺客列伝から取っているのですが、内容はほとんど関係ありません (^_^;) また、低予算で製作されたということで、特に第1季はセットや小道具がチャチいです。戦争の経過なんかも説明台詞で済まされたりします。第2季では予算面が大幅に改善されたらしく、セットや小道具がグレードアップし、小競り合いや城攻めの場面なんかも出てきます。第1季と第2季とを見比べると、諸国同士の謀略戦という題材で構想通りに作ろうとすると最低限どのくらいの予算が必要なのかが見えてきそうです。

俳優も有名俳優はキャスティングできないということで、ブレイク前の生きのいいイケメンをキャスティングしています。更に特徴的なのは、後宮の妃嬪や侍女はもちろん街の通行人や店舗の女店主に至るまで、女性が一切登場しないということです。これは他の時代劇と見比べると異様さがはっきりするのですが、恐ろしいことに本作だけ見てると段々違和感を抱かなくなってきます。

第1季は腹心の裘振が自害して後君主が誰にも心を開かなくなった天璿、国の大事を卜占で決定し、卜占を司る太師が強い影響力を持つ天璣、君主の即位をも左右する三大氏族が実権を握る天枢、最も富裕であるが君主が絵に描いたようなバカ殿の天権の角逐と、これらの国々が共同で遖宿国に対処するさまが描かれます。


四カ国の代表者による対遖宿結盟。各国ともイケメンの君主に補佐役の老臣がつき、更に身分は低かったり出自に問題があるが、能力のあるイケメンが抜擢されるという構図となります。


誰が主役かは決めづらいのですが、天権のバカ殿執明と、天璿に滅ぼされた小国瑤光の王子で、身分を隠して執明のお気に入りとなり、復讐と故国復興を図る慕容離でしょうか。その執明も、第2季では親しい人々を亡くしたことで君主として成長を遂げていきます。一方の慕容離も故国復興という目的のためには手段を選ばずであったのが、執明に感化されて彼の友情や誠意を信じるようになります。


各国の統合が進む第2季では、西域出身で執明の側近となる子煜、新興の開陽国の面々など、新たなキャラクターも登場。

『史記』や『戦国策』に見える話を下敷きとしたエピソードなどは実のところ全くないのですが、同盟や対立といった諸侯国同士の離合集散、各国の君主が旧弊にとらわれた臣下を排除し、有能な臣下を抜擢しようとする実力主義の風潮などは戦国時代を彷彿させるというか、そのパロディと見ることもできそうです。
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『清平楽』その4

2020年05月10日 | 中国歴史ドラマ
『清平楽』第16~20話まで見ました。

西北では西夏の趙元昊(李元昊)が宋の支配から離脱して皇帝を称したということで、北宋朝廷に緊張が走ります。


ここで一瞬登場する名将狄青。県令を告発したということで辺境に流されていた梁元生も彼の配下のようです。


張妼晗さんの入内の夢もそれどころではないということで頓挫を強いられます。一方、仁宗と感情が通い合わないことに思い悩む曹丹姝は、将軍である伯父から贈られた甲冑に身を包み、仁宗お付きの宦官張茂則に、いっそ皇后の座を辞して西夏との前線に一将兵として赴きたいと訴えます。そう言えば同じく仁宗の時代が舞台の『花と将軍』は、武門の娘が西夏との戦いに従軍して凱旋し、皇室に嫁ぐという話なんですよね。2人のヒロインの境遇を対比してみると面白いかもしれません。


こちらは宦官の張茂則。幼い頃から仁宗を見守る忠実な家臣で、仁宗の行動に口を挟むことには慎重ですが、曹丹姝の立場には同情的です。あと彼女の剣の相手ができる程度には強いw

仁宗の方も群臣の前で西夏との戦いに親征すると宣言しますが、晏殊に「万が一戦死されると跡継ぎがいなくなるので、皇嗣を指名してからにして下さい」と言われてしまい、ようやく重い腰を上げて一族の子弟宗実(後の英宗)を皇嗣に指名します。

さて張妼晗はと言えば、教坊の同僚でライバルの許蘭苕の陰謀により、禁書(政治的なやつではなくエロ方面のです)を持っていたことにされ、監禁されてしまいます。教習の賈玉蘭は彼女を助け出して仁宗のもとに駆け込みます。張妼晗は仁宗の差配により、教坊から皇帝お付きの侍女となり、更に後宮の妃嬪となります。仁宗の妃嬪は宮廷物と思えないぐらいにみんな大人しいですが、彼女が秩序を乱す存在となっていくのでしょうか?後宮がよく収まっているというのは、曹丹姝が自分の感情を犠牲にしてちゃんと皇后としての仕事をしているということでもあるわけですが。

西北情勢はと言えば、ひっそりと宋軍が西夏に大敗していた模様。茂則に兄のことが心配ではないかと聞かれても「そんな人などいません」と気丈に答える梁懐吉くんも、敗報を耳にして辺境に出征している兄が死んだものと思って悲しんでいます。それにしても懐吉のような年端もいかない少年宦官もいっちょ前に重臣たちの人物論評をしたり、対外情勢について話題にしたりするところはなかなか面白いですね。
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『清平楽』その3

2020年05月05日 | 中国歴史ドラマ
『清平楽』第11~15話まで見ました。

宮廷では苗心禾が仁宗の初めての子を懐妊。宰相呂夷簡は苗心禾を昭儀に昇格させることを提案しますが、皇后曹丹姝は昇格は出産後にすべきと反対。このドラマ、他の宮廷物だと懐妊した妃嬪に毒を盛るだの盛らないだのという話に力を入れるところを、こういう細々とした礼制とか政治に関わる論争の描写に力を入れているのが面白いです。


一方、一家離散した元梁家果子店の次男坊梁元亨くんは、母親とともに母方の実家で暮らしていたところ、母親と伯父が病没し、生き残った伯母に身柄を売っ払われて宦官にさせられておりました。しかも上官の前で自分の名前の説明をするのに『易経』の「元亨利貞」を引いて仁宗の諱「禎」を犯してしまい、良くて宮中から追放、悪くて死罪となるところを、仁宗お付きの宦官張茂則のはからいにより処分は一時保留となります。

苗心禾の方は無事に皇女徽柔を出産。こちらの名前の由来は『尚書』無逸の「徽柔懿恭、懐保小民」。皇女誕生による恩赦で救われる形になった元亨くんも、皇后の提案により懐吉と改名。


さて、梁懐吉の兄の梁元生は一家離散の後、一人酒場の小二として働いておりましたが、どうやら伯母が聊城県県令と結託して口減らしに弟を売っ払ったと察し、人身売買を行ったとして2人を告発。しかもその県令が宰相呂夷簡に賄賂を使って科挙に合格したという疑惑が噴出し、呂夷簡、そして彼を弾劾した王曾が地方に出ることになります。


そしてここらへんで宮中の教坊の踊り子張妼晗が登場。実は子供時代に仁宗と一度出会っているのですが、仁宗はすっかり忘れてしまっている様子。仁宗に恋い焦がれる張妼晗は何としても彼に近づこうとし、彼女の踊りの師匠である賈玉蘭はその意気込みと魅力を見込み、懇ろとなっている重臣の夏竦の力も借りつつ彼女をバックアップしようとします。

そんな中、都では大きな地震が発生。曹丹姝が仁宗を庇いつつ屋外へと避難した後に、「太妃は大丈夫か?」「あそこで火災がおこってないか確認せよ」と宦官にテキパキ指示する姿を目にした仁宗は、彼女の後ろ姿を亡き劉太后と重ね合わせるのでありました……

ということでこの作品、今のところベタな宮廷物になりそうでならない絶妙なバランスを保っています。また宮廷での政争を描いてはいるのですが、従来の歴史物とは違ってどぎつい印象はありません。類似作がたくさんあるように見えて実は似ているものがないという、いい意味で不思議な作品になっています。
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2020年4月に読んだ本

2020年05月01日 | 読書メーター
教育は何を評価してきたのか (岩波新書 新赤版 1829)教育は何を評価してきたのか (岩波新書 新赤版 1829)感想
日本の教育制度・教育政策の展開を、「能力」で表される垂直的序列化と、「資質」「態度」で表される水平的画一化とのせめぎ合いであると位置づけて読み解く試み。序盤のメリトクラシーを「能力主義」と訳することの危うさ、「能力」がフィクショナルな概念であり後付けの理屈であるという議論、そして終盤の現在教育政策の中で進行しつつある「ハイパー教化」に関する議論を興味深く読んだ。「教化」はもともとの意味合いからしても、日本で忌避されがちな「儒教」と相性が良いはずなのである。
読了日:04月02日 著者:本田 由紀

貨幣システムの世界史 (岩波現代文庫)貨幣システムの世界史 (岩波現代文庫)感想
貨幣を額面通りの価値で受け取って貰えるのは当たり前なのか?悪貨は良貨を駆逐するのか?本国で使われなくなった後も中東・東アフリカで広く流通したマリア・テレジア銀貨の話を皮切りに、中国の銅銭、銀、紙製通貨、そして日本の状況などを踏まえつつ、多元的、非対称的な貨幣流通・交換の歴史を垣間見ていく。キャッシュレス時代にこうした歴史の知見がどう生きるかという展望が巻末にでも付記されていればなお良かった。
読了日:04月05日 著者:黒田 明伸

感染症の中国史 - 公衆衛生と東アジア (中公新書)感染症の中国史 - 公衆衛生と東アジア (中公新書)感想
台湾や関東州での日本の植民地行政と公衆衛生との関係、中華民国が日本をモデルとして公衆衛生の制度化を進めたことを議論する。植民地での感染症対策は「善政」とされることが多いが、植民地統治のもとでの開発政策により、赤痢・ジフテリア・結核などは増加傾向にあったとも言う。「東亜病夫」「日本住血吸虫病」のネーミングの由来といったトピックも読みどころ。「感染症は克服されるどころか、むしろ顕在化しつつある」という著者の見通しは、初版から10年以上経って再確認されることとなったが… 
読了日:04月07日 著者:飯島 渉

古関裕而の昭和史 国民を背負った作曲家 (文春新書)古関裕而の昭和史 国民を背負った作曲家 (文春新書)感想
中公新書の『古関裕而』と比べると、英国の作曲コンクールで二等当選したという話の真相追究、妻の金子が株に熱中していた話など、ゴシップ的な話題が多く、良くも悪くも飾らない内容になっている。SPレコードや当時の専属契約の説明があるのもよい。ノンポリゆえにどんな政治的音楽でも自由自在に作れたという指摘には若干保留をつけた方がいいようにも思うが。
読了日:04月10日 著者:辻田 真佐憲

七王国の騎士 (氷と炎の歌)七王国の騎士 (氷と炎の歌)感想
本編でも時折言及されていたダンクとエッグの物語。本編とは趣が異なり、ファンタジーというよりは騎士物語として読める。2人の出会いから少しずつ年代を進めていっているので、2人の最期までとは言わないまでもエッグの即位あたりまでは書き進めていってほしいものだが…
読了日:04月15日 著者:ジョージ・R・R・マーティン

椿井文書―日本最大級の偽文書 (中公新書 (2584))椿井文書―日本最大級の偽文書 (中公新書 (2584))感想
実のところ椿井文書がどういうものなのかもよくわからずに手に取ったのだが、特に今の日本史学研究のあり方が古代・中世・近世と時代別、あるいは文献史学と美術史といった具合に分野別に細分化していることが、椿井文書が真正の文書として活用される下地になったという点を興味深く読んだ。椿井文書そのものもさることながら、著者も言うように近世には他にも無数に偽文書が作られたわけだが、「偽文書学」のモデルケースとしても椿井文書が面白い存在であると感じた。
読了日:04月18日 著者:馬部 隆弘

ファシズムの教室:なぜ集団は暴走するのかファシズムの教室:なぜ集団は暴走するのか感想
ナチス時代の研究者による、大学での「ファシズムの体験学習」の実践と考察をまとめる。白シャツとジーパンをユニフォームとしてリア充のカップルを糾弾するという、一見お笑いのネタになりそうな実践だが、学習意図や暴走を防ぐための配慮、工夫などが細かく解説されており、体験学習の手引きとして使えそうな内容になっている。今の日本でも学校の制服や学級会、運動会などを通じてファシズムの構造が存在しているという指摘に何とも言えない気分となる。
読了日:04月20日 著者:田野 大輔

『紅楼夢』の世界――きめこまやかな人間描写 (京大人文研東方学叢書)『紅楼夢』の世界――きめこまやかな人間描写 (京大人文研東方学叢書)感想
『紅楼夢』の入門書というよりは、既に思い入れのある中級者向けの内容。『紅楼夢』の続編群の紹介は、読者が求める幸せな夢の続きを描こうとすると俗悪な現実の肯定にずり落ちていくというジレンマを示していて面白い。逆に81回以降の補作は、80回までの内容と整合性に難があるとしても、「続編」としてはよく出来ているということになるだろうか。
読了日:04月23日 著者:井波 陵一

時代劇入門 (角川新書)時代劇入門 (角川新書)感想
時代劇の歴史、ジャンル、主要作品、俳優などをまとめた総合的入門書。忠臣蔵の映像作品が作られなくなった理由は、若者に題材が知られなくなったからとかテーマがピンとこないからということではなく、そもそも忠臣蔵の映像化自体が時代劇の中でも一大プロジェクトであり、制作する力がなくなったからだという解説が特に面白い。
読了日:04月26日 著者:春日 太一
人類と病-国際政治から見る感染症と健康格差 (中公新書)人類と病-国際政治から見る感染症と健康格差 (中公新書)感想
国際政治の文脈から見たWHO簡史。感染症対策だけでなく生活習慣病への対応なども話題にする。新型コロナウイルスへの対応ではWHOの政治的中立性が問われているが、本書ではそもそも冷戦時代には米ソの動きが感染症対策に強く影響したり、糖類摂取量ガイドライン制作時にアメリカが分担金の減額をちらつかせてWHOを脅したりするなど、大国が政治的にWHOに影響力を行使してきたこと、反面、WHOが大国の政治的影響力を利用して事業を展開してきたことを示している。中国のWHOへの影響力も、そのようなものとして評価できるだろう。
読了日:04月29日 著者:詫摩 佳代

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