博客 金烏工房

中国史に関する書籍・映画・テレビ番組の感想などをつれづれに語るブログです。

『三国機密之潜龍在淵』その8

2018年05月28日 | 中国歴史ドラマ
『三国機密之潜龍在淵』第40~45話まで見ました。

鮮卑に包囲された盧龍城では兵士たちの間に郭嘉の死が徐々に知れ渡り、動揺が広がります。劉平は士気を高めるために、これまで身分を隠して城内に滞在していたのを、兵士たちに皇帝の身分を明かします。そして仮病の下半身不随をやめた許都の司馬懿は、荀彧・崔琰・賈詡の支持を取り付け、偽の虎符で援軍を調達して劉平らの立てこもる盧龍へと急行。

司馬懿、そして彼に合流した曹丕率いる援軍を得て鮮卑を打ち破る盧龍城の劉平たち。本作後半でようやく本格的な戦争シーンが出てきたわけですが、官渡の戦いは適当に済ましたのに、こういうオリジナルエピソードの戦いは力を入れて作るあたりなかなか憎いですw 

司馬懿が偽の虎符で援軍を動員したことは結果オーライでお咎めなしになるはずが、許都に帰還後はあっさり掌を返されて投獄。劉平は司馬懿の釈放と引き替えに曹操に丞相の地位を与え、郭嘉の遺志を引き継いで曹操と手を結ぶ意向を伝えますが、曹操からは生前の郭嘉が確認した通り、いずれ伏寿を廃して彼の娘・曹節を皇后にすることを求められます。

そして物語開始の建安四年から十年近く経った建安十三年、曹操は荊州に出征。赤壁の戦いとなるわけですが、当たり前のように戦いの経過はスルー。もちろん結果は曹操の敗北に終わったわけですが、司馬懿はこれによって却って漢王室への圧迫や統制が強まるのではないかと予測します。

そんな中、曹植と河北の士人の領袖・崔琰の娘との婚礼が執り行われ、曹植に平原侯の爵位が与えられます。これで曹植の後継者の地位がほぼ固まったと面白くない曹丕ですが、妹の曹節が何やら秘密を抱えているらしいことを目ざとく探り当てます。


曹操の娘・曹節。劉平に片思いをし、その気持ちを抑えきれません。

で、死の間際の郭嘉から託された「天下の機密」を封じた袋のことを明かし、曹丕・曹植兄妹三人で袋を開け、実は今の皇帝が劉協の双子の弟で、密かに入れ替わっていたことを知ってしまいます。本来は曹操と劉平との対立がのっぴきならなくなった時に、彼の皇后に収まっているだろう曹節一人が袋を開けよというのが郭嘉の意図だったはずなので、彼が最後に犯したミスということになるでしょうか?はたまたこれも彼の計算の内なのでしょうか?

衝撃の真実を知った曹節の反応。「えっ、それじゃ陛下と皇后は義理の弟と兄嫁の関係……?」注目するのはそこかよ(困惑) まあ確かにそうなんですが…… 

曹節は伏寿に、曹植は劉平にそれぞれ正体を知ったことを打ち明け、内々に処理しようとしますが、おそらくは曹丕から事情を知らされた曹操が曹植と劉平との対面の場に踏み込み、正体を知ってなお劉平を評価し、彼とこれまで通り連携しようとする曹植に「お前には失望した」と宣告し、曹丕を後継者に据えることを決意。曹植が劉平に打ち明けたのは曹丕にそうせよと言い含められたからなのですが、このあたり曹丕のいいように動かされている感がありますね。

そして劉平の秘密を知る司馬懿を拘束・拷問。彼の擁立に関わったということで司馬氏ごと処分しようとしますが…… ということでこのドラマの面白いところは、知られてはいけないはずの劉平の正体が割とあっさり周囲にバレてしまうところですよね。秘密を隠す話ではなくて秘密が少しずつバレていく話になっているわけです。そのかわり秘密を知った者がこれまではいろんな事情で次々死んでいったわけですが……
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『三国機密之潜龍在淵』その7

2018年05月22日 | 中国歴史ドラマ
『三国機密之潜龍在淵』第34~39話まで見ました。

任官をよしとせず帰郷した司馬懿の態度に不安を覚えたのか、曹操は満寵に温県の司馬家殲滅を命令。自分が恩を受けた司馬防とその末の息子だけ残しておけばよかろうということで、司馬家の門前で小競り合いがおこります。このドラマも合戦シーンをさくっとスルーする割には、こういう武侠的アクションは積極的に入れてきます。事態を知った劉平は曹操と取引をし、袁紹の子・袁尚と結んだ烏桓の征伐に自分と皇后が微服して随行し、曹操の留守中に許都で妙な動きを起こさないと確約するかわりに、司馬家からの撤退を約束させます。

しかし司馬懿は敢えて満寵に随行していた楊修に挑発するような言葉をかけ、彼に胸を刺されてしまいます。彼は一命を取り留めますが、刺さり所が悪かったのか、足が動かなくなって半身不随の状態に…… 実はこれ、穏便に任官を避けるための仮病のようなのですが、温県で療養というわけにはいかず、許都で暮らすことに。唐瑛とも再び引き離されてしまい、彼女も許都に連れ去られ、弘農王府で暮らすことを強いられます。


このドラマでも車椅子生活を送ることになった司馬懿。

で、伏寿とともに曹操の北征に随行することになった劉平ですが、北征の兵士の中に本作第1話冒頭で彼が命を助けた流民(すなわち劉平=楊平の素顔を知る人物)が存在することを知り、大ピンチに。彼はあれよあれよと言う間に郭嘉に身柄を取り押さえられてしまいますが、劉平は自分の正体を察した郭嘉から、自分が楊平ではないという証拠を提示するか、伏寿を廃して新たに曹操の娘の曹節を皇后とするか選択を迫られます。曹節を新たな皇后として迎えさせるのが曹操の意思ということですが……

そして曹丕から弟・王服の真の仇は劉平と吹き込まれた王越は劉平暗殺を謀りますが、郭嘉に随行してきた任紅昌らに阻まれて失敗。王越自身もトカゲの尻尾切り的に曹丕に刺殺されてしまいます。しかし劉平をかばった任紅昌と宦官・冷寿光(郭嘉の弟弟子でもあります)はそのまま負傷死。任紅昌の死に衝撃を受けた郭嘉の持病の労咳は更に深くなります。

曹操は作戦通り郭嘉と曹植に盧龍の陣を託して出撃しますが、その間許都では楊修が伏完とともに、鮮卑を味方に付けて盧龍の陣を急襲させようと悪巧み。曹操に劉平の正体を隠しておくことにした郭嘉でしたが、曹節には「天下の機密」を封じた袋を託して息を引き取ります。

で、烏桓と結んだ鮮卑の軍が盧龍に攻め寄せますが、曹操へと託されたいまひとつの郭嘉の遺言には、盧龍を見捨ててそのまま目的地の柳城へと進軍するように書かれておりました。そして例の流民は鮮卑の捕虜となり、無残な死に方をさせられる前に劉平によって射殺。彼の正体を知る者がまたもや非業の死を遂げることに…… そして主君袁紹の死後に江湖の生活に戻っていたらしい潘揚は、劉平から許都に援軍を求める伝令の役割を託され……というところで次回へ。
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『三国機密之潜龍在淵』その6

2018年05月10日 | 中国歴史ドラマ
『三国機密之潜龍在淵』第28~33話まで見ました。

曹丕と司馬懿は鄴から出たところで袁熙の手勢に取り囲まれ、甄宓を奪還されてしまいます。その後官渡の曹操の陣に到着しますが、曹植が軍営を出払っている父親の名代を務めておりました。曹操の後継者の地位を念頭に「今のうちに曹植を追い落とそう」というわけで、司馬懿の入れ知恵で曹丕は曹操・郭嘉が運搬してきた兵糧の一部が穀物ではなく砂が詰めてあるのを摘発し、曹植の監督不行届を責めるのですが、実のところそれそれは兵糧不足をごまかすために曹操・郭嘉が仕込ませたものなのでした。ということで「お前わかっててやってるやろ?」とばかりに、郭嘉からスケープゴートとして処刑された兵糧監督官の首を送りつけられてしまう司馬懿……


一方、袁紹の陣で足止めを食らい、間諜ではないかと疑われた劉平は、袁紹らに自分が皇帝であると種明かしをしますが、袁紹を見限って曹操に肩入れすることを決意。袁紹側の兵糧の隠し場所の情報を郭嘉に流します。


曹操はその情報を承けて兵糧が隠されている陽武に出撃。司馬懿は一介の隊長のような顔をして出撃の準備をしていた曹操と遭遇。ということでようやく曹操が登場しました。中の人は『那年花開月正圓』で沈四海を演じていた謝君豪。悪くはないのですが、さすがに『軍師聯盟』の曹操よりは見劣りがするなと……

そして曹丕は司馬懿のセッティングにより張繍の口から、宛城の変の際の長兄・曹昂の死の真相を知らされます。実は張繍による曹操の襲撃は曹丕の実母・卞夫人が仕組んだことで、丁夫人の子の曹昂を亡き者にして自分が産んだ曹丕らを後継に据えるのが目的であり、曹操・曹丕は手を回して逃がすよう手はずが打たれていたとのこと。曹操も後にそのあたりの事情を察知し、曹昂の死によって長子となった曹丕を疎むようになったということでした。

事実を知らされた曹丕はやけ気味となり、かつて自分の命を奪おうとした王越に官渡の乱戦の中で再会すると自分の命を差し出そうとしますが、なぜか王越に気に入られて弟子入りすることに。 曹丕「オレに剣法を教えたらいつかそれであんたを殺すかもしれないぜ?」 王越「その意気だ!」 この作品ひょっとして武侠ドラマなんでは……? 曹丕はこの王越に彼の弟・王服の死の黒幕は劉平であるという嘘情報を告げ、憎悪を煽っておりますが……

乱戦の中で劉平・伏寿は唐瑛の身柄を引き取り、袁紹のもとから逃れて曹操の陣へと向かいますが、実は唐瑛は戦いに先立って袁紹から服従の証の慢性の毒薬を飲まされていたのでした。やはり武侠ドラマによく出てくるシチュエーションですね。その毒薬は袁紹の参謀・蜚先生の手によるもので、解毒薬は彼にしか作れないということですが、その頃蜚先生は烏巣にてかつての弟弟子の郭嘉と対峙し、郭嘉が師匠・華佗の娘を襲ったのは、自分が密かに彼に春薬を盛ったからで、自分は二人の中に嫉妬していたのだと告白。逆上した郭嘉によって刺殺されていたのでした…… その郭嘉も刺殺した際に蜚先生の毒血を浴び、昏倒してしまいます。

官渡の戦いは曹操側の勝利に終わり、劉平はここで初めて曹操と対面。曹丕は捕虜として連行されてきた甄宓と再会し、父親から二人の結婚を認められます。そして郭嘉は劉平の治療により命を取り留めます。そのお礼にということで郭嘉は自分の血を提供し、それを飲ませることで唐瑛の治療に協力。また、司馬懿との結婚のため、唐瑛を死んだことにして身分を抹消するのに協力することも約束したのでした。司馬懿は曹操からの任官の誘いを固辞し、唐瑛を妻として故郷温県へと連れ帰ります。ここで鄴の話で彼の親友となった審栄が再登場しますが、このドラマ、こういうキャラクターの使い方も丁寧なんですよね。

曹操・劉平らは鄴に入った後に許都へと凱旋しますが、曹操の口から「楊平はどこにいる?」という不穏な言葉が出たところで次回へ。今回は官渡の戦いの話だったわけですが、大軍がぶつかり合う場面はなし。でもやっぱりそんなのがなくてもちゃんと面白いんですよね。
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『三国機密之潜龍在淵』その5

2018年05月04日 | 中国歴史ドラマ
『三国機密之潜龍在淵』第22~27話まで見ました。

袁紹の陣地で監禁状態から解放された劉平らでしたが、同じく淳于瓊に捕らえられていた鄧展と引き合わされます。この鄧展、劉平の正体を知る人物で、囚われの身となった後も陣内で郭嘉のスパイとして活動していたようですが、その正体を淳于瓊や主筋の曹丕にばらすこともなく、劉平らと共同で陣地からの逃走を図りますが、結局劉平・曹丕らを逃すために自らは犠牲に…… このドラマ、張宇・趙彦と、うっかり劉平の正体を知ってしまった人物は漏れなく非業の死を遂げていやしませんか?

さて、劉平一行は袁紹の本拠地の鄴へと逃れ、そこで身分のある者たちが華やかな都市生活を送る一方で、貧民たちがスラム街で苦しい生活を強いられるという袁紹の統治の実態を目にすることになります。そして崔琰ら鄴の名士や河南からやってきたその子弟たちと交流したり、審配の子の審栄に気に入られ、その参謀役に収まっていた司馬懿と再会したりします。伏寿は劉平が司馬懿と再会して見せるウキウキ顔に嫉妬を隠せないようですがw


曹丕は街中で袁紹の子袁熙の妻・甄宓と、何か久しぶりに見たような気がするベタな愛のメリーゴーラウンドでばったり出会います。甄宓は何と言うか『軍師聯盟』の時とキャラが違いすぎます (^_^;)


そして一行はなぜか鄴にやってきていた任紅昌とも遭遇します。ここで彼女の正体が貂蝉であったとネタばらし。彼女の目的は、袁紹の邸宅で軟禁状態にある上の画像の呂布の娘・呂姫を救出することにありました。この呂布の娘というのは袁術と婚約するはずだった人物でしょうか?

司馬懿は許攸の屋敷の警備が厳重で、袁紹によって軟禁状態にあることから、許攸が曹操に反発する朝臣たちが袁紹に投じたことを示す文書類や名簿を保管しているのでは推測。それを手に入れられれば曹操と対抗しやすくなるということで、許攸と接触するために袁紹の印を押した文書を入手しようということになります。折しも袁紹夫人の誕生宴が催されるということで、曹丕・伏寿・任紅昌は許都で評判の踊り子とその楽団に扮して袁紹邸に潜入。甄宓の協力もあり、呂姫の救出と袁紹の文書の入手に成功。ここで任紅昌と呂姫とが一戦交えるシーンが出てくるのですが、呂姫が武功高手なのは父親譲りとして、任紅昌もなかなかの好身手であるのに驚きです (^_^;)

しかし曹丕が袁紹の文書が持ち逃げ。単身許攸と接触し、かつての宛城の変での長兄曹昂の死の真相を聞き出そうとしますが、「曹昂の死によって一番得をするのは誰だね?」という意味深な言葉を引き出したあたりでタイムオーバー。審栄の兵に踏み込まれます。一方、司馬懿らは地下牢から恋仲となっていた唐瑛を救出しますが、その兄弟子潘揚が追っ手となり、彼を引きつけるために唐瑛がおとりとなり、二人はまた離ればなれに……

地下牢脱出後、任紅昌と呂姫は二人で行動をともにすることにし、司馬懿は曹丕と彼に付いてきた甄宓を曹操のもとに送り届けることに。劉平と伏寿は、自分たちの味方をして囚われの身となった名士の子弟たちを救出しようとしますが……

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2018年4月に読んだ本

2018年05月01日 | 読書メーター
「論語」2000年の誤訳 (ベスト新書)「論語」2000年の誤訳 (ベスト新書)感想
本書で違和感を抱いたのが、冒頭の「定本」と「定訳」の話。『論語』のような古典文献には、「底本」は存在するが、通常はそれを基礎として更に学者・研究者の校訂が施され、従来の注解を踏まえつつ批判を加えて訳が作られるわけで、定本も定訳も存在しないのではないだろうか。本書での著者の解釈も、仮にそれが従来の解釈と比べて妥当なものであったとしても、数ある『論語』の注解のひとつという扱いになるはずである。あと、本書で触れられていない宮崎市定のものは「オチャラケ解釈」に入ると思う。
読了日:04月01日 著者:佐久 協

教養としての中国古典教養としての中国古典感想
『論語』や『老子』、『十八史略』など、日本でよく読まれてきた主要な漢籍の解題を収録。漢籍の概要や読みどころのほか、訳注類を中心とする参考文献についての簡単な紹介もある。巻末に現代中国の古典教育に関する解説もあり、行き届いた古典ガイドになっている。
読了日:04月04日 著者:

知性は死なない 平成の鬱をこえて知性は死なない 平成の鬱をこえて感想
著者の躁うつ病と、日本の大学の現状、そして「反知性主義」に覆われた世界、これらが重ね合わせに語られる。リハビリの過程で触れたボードゲームなどのゲームデザインから社会的モデルのあり方を見いだす話に、Yahoo!個人での歴史学者廃業宣言を踏まえると、今後文筆業を再開するとしても、これまで「中国化」路線とは全く違った方向で議論を展開することになるのではないかと感じた。
読了日:04月08日 著者:與那覇 潤

オスマン帝国の解体 文化世界と国民国家 (講談社学術文庫)オスマン帝国の解体 文化世界と国民国家 (講談社学術文庫)感想
第一部・第二部でネイション・テイストやイスラム世界そのものについて解説するなど、本論の前提の解説について多くの紙幅を割いている。本題は第三部となるが、これもオスマン帝国の歴史から説き起こす。多民族帝国であるハプスブルク帝国に対して、オスマン帝国が民族や言語ではなく宗教を軸とする多宗教帝国であり、多種多様な民族と言語を持つ人々がモザイク状に分布するという状況の中で「パクス・オトマニカ」が維持され、「西洋の衝撃」以後もある時期までは宗教を軸に国家統合を図ったという対比が面白い。
読了日:04月09日 著者:鈴木 董

a href="https://bookmeter.com/books/12753792">征夷大将軍研究の最前線 (歴史新書y)征夷大将軍研究の最前線 (歴史新書y)感想
12本の論考を通じて、鎌倉~江戸時代の征夷大将軍像、あるいは源氏像の変遷を追う。足利尊氏が征夷大将軍となるまでは、源頼朝個人とのつながりは意識されても、「源氏の嫡流」が将軍となるべきという発想が存在しなかったという点、第三部の八幡信仰との関係、第四部の江戸時代の新田源氏の諸氏の扱いを面白く読んだ。欲を言えば、「前史」として古代の征夷大将軍についても1章を割いて欲しかった。
読了日:04月14日 著者:

漢帝国成立前史漢帝国成立前史感想
陳勝・呉広の乱から楚漢戦争までの流れや論点を追う。著者の論文が下敷きということだが、概説調で読みやすい。秦の統一が一時的な武力制圧にすぎなかったこと、群雄が戦国七雄並立体制があるべき姿という発想から容易に抜け出せなかったこと、項羽も劉邦も他の諸王に対して圧倒的に優位な立場にあるというわけではなく、劉邦は垓下の戦いにおいてようやく反項羽連合の盟主としての実質を備えるに至ったことなど、読みどころとなる主張が多い。「その後」のことは著者もしくは後人の課題ということになるだろうか。
読了日:04月16日 著者:柴田 昇

鎖国前夜ラプソディ 惺窩と家康の「日本の大航海時代」 (講談社選書メチエ)鎖国前夜ラプソディ 惺窩と家康の「日本の大航海時代」 (講談社選書メチエ)感想
藤原惺窩の半世紀なのだが、近世初頭の学術史でもあり、朝鮮使節との交流などをとっかかりに、当時の日本をめぐる国際交流史ともなっている。話があちらこちらへと自由に展開されるさまは、確かに「ラプソディ」という感じがする。当時が「日本の大航海時代」であり、惺窩の学風がそれを支える思想で「日本の近代」を準備したと位置づけるなら、「鎖国前夜」と「開国」の間の「鎖国時代」に関する続著にも期待したいところ。
読了日:04月18日 著者:上垣外 憲一

明治史講義 【人物篇】 (ちくま新書)明治史講義 【人物篇】 (ちくま新書)感想
軍事的指導者としてのリーダーシップが強固な組織作りに生かされる一方で、権力への執着心が弱かったという板垣、財政と民主主義との矛盾に直面した大隈、シュレースヴィヒ・ホルシュタイン戦争の視察によって赤十字の思想を学んだ榎本、福田英子のセクシュアリティの問題、嘉納治五郎の柔道が警察の道場に採用された事情など、伊藤・西郷・山県などより割とサブに近い人物の評伝の方を面白く読んだ。
読了日:04月21日 著者:

日露近代史 戦争と平和の百年 (講談社現代新書)日露近代史 戦争と平和の百年 (講談社現代新書)感想
伊藤博文・後藤新平・松岡洋右と、各時期の対露外交を担った人物を中心に近代の日露関係史を描き出しているが、印象に残ったのは伊藤による日露交渉の失敗をはじめとする対露交渉の失敗・挫折である。戦前の日露対立には民族・宗教・イデオロギーの相違や貿易の不均衡は絡んでおらず、自国の安全保障の問題が絡んだ時のみ両国が激しい角逐を繰り広げたとまとめるが、その点にこそ日露関係の独特の面倒くささのようなものがあるのかもしれない。
読了日:04月25日 著者:麻田 雅文

歴史修正主義とサブカルチャー (青弓社ライブラリー)歴史修正主義とサブカルチャー (青弓社ライブラリー)感想
歴史修正主義をメディアとの関係の中でとらえる。ネット前夜の1990年代に論壇のサブカル化、雑誌等でのハガキ職人の隆盛、歴史ディベートの登場、相対主義の絶対化、朝日新聞を叩くと売れるという構図の出現などによって現在の状況の下地が作られていったと分析する。「ゲームが違う」という歴史修正主義者の基づくルールを熟知したうえで、その「ゲーム」を壊せるか、ルールを変えられるかと考えると、かなり絶望的な気分になるが…
読了日:04月30日 著者:倉橋 耕平

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