踏み切りで
急行列車をやり過ごすとき
遮断機の向こうに
予期せぬ 知人の顔があり
列車が近づいて
ゴオ ゴオ ゴオ と
通り過ぎる 数秒のあいだに
遮断機が 魔法をつかった
ゴオ ゴオ と
過ぎていく 列車の向こう
駆け抜ける 記憶の走馬燈
恋人に出くわしたような
胸騒ぎが
顔に出てしまうのを
繕う時間が 必要で
何げない素振りで
踏み切りをわたるのを
思いとどまり
道の脇へと 体をずらす。
ただの 旧知の人が
かりそめの恋人に
一瞬で 変身する。
わたしの 動揺など
意に介さぬ 表情で近づいて
やあ、 久しぶり、 どうしてた、
矢継ぎ早に 語りかけ
じゃあ また いつか で
姿を消すまで
ほんの 数分
わたしは かんたんに
遮断機の 魔法にかかり
夢想空間に さ迷ったようだ
鬼灯(ほおずき)
花言葉 欺瞞