思考の7割と収入の3割を旅に注ぐ旅人の日々

一般的には遊び(趣味)と見下されがちな「旅」も、人生のなかでやるべき「仕事」である、という気概で旅する旅人の主張と報告。

服部文祥本に関する最近の“私事”の成果

2014-01-31 23:59:59 | 出版・言葉・校正

一昨年から触れている服部文祥氏の著書とのかかわり、というかこの年末年始に出版のその新刊にまつわる僕の“私事”の成果やそのほかの本の最新情報について。

ひとまず、先月発売の『百年前の山を旅する』(新潮文庫)と今月発売の『富士の山旅』(河出文庫)の写真だけ挙げておく。
その下に敷いた、発売中の『岳人』14年2月号が通巻800号という節目の号であることも少し触れようかしら。
いろいろ写っている本の過半数は服部氏からのいただきものですけど。それも含めて後日。



追記。

それで校正者の立場としての僕の、上記の「かかわり」について。
『富士の山旅』のほうは特に何もないのだが、『百年前の山を旅する』の文庫版のほうは昨年、4刷まで進歩していた東京新聞が出版の単行本版は一昨年からの“私事”として校閲の作業を続けていた最中の黄金週間あたりに5刷の増刷を止めて新潮文庫へ移行することを聞き(もちろんこれは、その段階では社外秘に近い重要事項だと認識し、この件は昨年末に発売されるまで口外することなく黙っていた。さすがにこのような情報の扱いは僕の信用問題にもかかわるので、それなりにちゃんとやります)、歴史のある大手版元のあの文庫の作品群に加わるのかー、と驚いた。

でもまあ4刷以降を出版する版元がどちらにせよ、この状態のままでは改善できるならばすべき問題点が多々あるのはわかっていて新しい本を出すわけにはいかず(と、服部本という「舟」に一度乗りかかった僕としては看過できないもので)、引き続き僕にできる作業を続け、思ったよりも時間がかかりながらも夏前にその校閲分を服部氏に渡した。今回は別紙の表を作成とかではなく、本を1冊いただいてそれにいろいろ書き込むカタチだったので幾分やりやすかったが、10回近く通読しても次から次へと疑問点が浮上したもので……。
僕がなんでもかんでも書き込んだそれを基に服部氏が原稿を直したのが、今回の文庫版で。でも文庫では紙幅が限られるので、単行本のほうには掲載されている写真や(国土地理院の)地形図の引用は大幅カットで、本文の分量も削ったために全体的には減っている。良く言えば文章が「引き締まった」とも言えるのだろうか。

ちなみに、本文とは別のことで(服部氏に責任はなく)対外的にもあまり悪影響もなさそうなことだと思うが、実は単行本版の「黒部奥山廻りの失われた道」の章の挿絵として引用していた地形図の一部で標高の誤植を1か所見つけたりもしたが(白馬岳西方の不帰岳の周辺)、でもこれは現在は紙の地形図でも電子版の地理院地図でも修正済みと確認した。地形図の誤植は珍しいので、ひとつ勉強になったなあ。しかし文庫版ではそこはカットで、まあ仕方ない。

そんなわけで、僕の(結局は一昨年の年末から6か月以上かかった)校閲による指摘もいくらか反映されているし、原稿が新潮社に渡ったあとは出版校正・校閲では最高峰であるここの校閲部も通ったので、手前味噌ながら文庫版のほうが本としてはよりしっかりしたモノになったと、他人事ながらやや得意気になっている。
とはいえ実は、新潮社のほうで文庫版の本文に新たにここの社内基準? によってかルビが大量に追加されたのだが、そのなかでルビの誤字もあるにはある……。でもまあこれもそんなに悪影響はないかも。

また、文庫版は今や大作家? の角幡唯介氏による解説も加わり、でもまあこれは解説というよりも角幡氏が朝日新聞の記者職を辞めて物書きとして活動し始めた頃からの『岳人』および服部氏との数年来の関係を書いた身の上話のようなものだが、それでも面白い。最近のノンフィクションの分野においては人気上昇中で昨年末にはアイドル顔負け? の娘さんも誕生して現在は公私ともにノリノリの、しかし今冬も特注の六分儀を携えて北極の探検へ出かけてしまったくらいに約3年前から“北極バカ”に成りつつあるノンフィクション作家・探検家(および朝日新聞書評委員)の一文も加わってさらに箔も付いた感もあるので、本としての完成度は単行本版よりも高まったはず。もちろん、「新潮文庫」という出版業界的には屈指のブランド力にも期待している。
文庫なので比較的安価ですし、『百年前の山を旅する』を一家に1冊、ぜひ。

『富士の山旅』は、たぶん来月以降に読むつもり。

それから、年始の2日(木)のNHKBSプレミアム『地球アドベンチャー ~冒険者たち~』の放送に絡む販促の一環なのだろうが、みすず書房からの既刊の『サバイバル登山家』と『狩猟サバイバル』をこの年末年始にまた増刷した。前者が15刷(2013年12月6日付)で後者が9刷(2014年1月15日付)。まあ以前から、これらは造本的にも上製本(=ハードカバー)で本文も良質の紙を使っている単価の高い本なので、増刷の部数も損しない程度に細かく刻まざるを得ない影響でその回数が多いのだろうけど(僕は製本の現場もよく知っているので、発行部数も含めたそういう出版業界の裏事情もだいたい予測できる)。
よって、昨年同時期の投稿から服部本(主に単著)の現況を整理し直すと、

サバイバル登山家 (みすず書房、2006年)  15刷
サバイバル! ――人はズルなしで生きられるのか (ちくま新書、2008年)  初版
狩猟サバイバル (みすず書房、2009年)  9刷
百年前の山を旅する (東京新聞出版部、2010年)  4刷(5刷の増刷はなし。だからこれで絶版?)
狩猟文学マスターピース (みすず書房、2011年)  初版
百年前の山を旅する (新潮文庫、2014年)  初版
富士の山旅 (河出文庫、2014年)  初版

となる。
昨年の投稿で書いたとおりに僕の“私事”があったものの『狩猟サバイバル』は何も変更なく8刷になってしまったが、今回の9刷は服部氏からいただいた本を確認すると僕の視た箇所でいくらか改善されている。しかし、そうでもない箇所もまだあって完璧主義者の僕としては納得いかない面も少々あるが、それでも本の完成度としては二、三歩は前進した感がある。こちらもまだまだ絶賛? 発売中なので、ぜひ。

最近、本業の「仕事」が少ないので、この服部本とかかわる“私事”が(ちょっと失礼な言い方だが本心を正直に挙げると)僕にとっては「仕事」の感覚を取り戻すためのちょうど良いリハビリにもなり、こちらとしてもいくらか勉強にもなる良い、そしてありがたい機会であった。

上の写真には『岳人』14年2月号も2冊入れているが、1冊は服部氏からいただき、もう1冊は買った。この号は通巻800号という節目にあたり、その特別企画「明日へのエール」が良かったから久々に保存用として買ったわけで。なかでも「真摯に山と向き合う 座談会 塩沼亮潤大阿闍梨×山野井泰史さん×竹内洋岳さん」は、人力派としては考えさせられることが多いので、今後も事あるごとに何回も読もうと思う。

そういえば、服部氏の連載「超(スーパー)・登山論」で1月号からは先のロシア行のテレビ放送の内容というか取材の顛末を詳述しているが、この話も含めて今後は連載の書籍化も目論んでいるらしいので、この件で服部“文章”(←ええ、もちろんダジャレですけど、ホントに文章のことだもの)とのかかわりはまだまだ続くかも。
これまでは報酬は一切断っているがその代わりのお礼として著書を今回のように“現物支給”されているあくまで趣味的な“私事”だったが、今年以降は金銭的な対価の発生しそうな「仕事」として触れることになるとよいけどなあ。

あと、発売中の『BE-PAL』14年2月号の、国内の世界遺産をはじめとする歩き旅の特集に服部氏も「歩けば歩くほど世界は美しくなる」というタイトルで2ページ寄稿しているが、「人力とは現場に生身で飛び込むという覚悟なのかもしれない」など、人力派としても納得の良記事で『百年前の山を旅する』の内容にもかかわることで、かつ服部本に触れる前の取っ掛かりとしても最適の一文なのでぜひ一読を。
僕が数年前から服部本に採算度外視? で入れ込んでいる最大の理由は、近年の活動で目立つ言わば(一般的には色眼鏡で判断されてしまいがちの? 05年秋から山梨県で銃による狩猟を始めて今冬で9シーズン目の)猟師の立場の「サバイバル登山」以前に、人力移動が主体で正直でもあるいち旅人としてのこの一文のような姿勢に共感しているからなのですよ。人力派の旅人は皆、正直者だと信じたい。

もちろん、同業他社からも特に野外関連の媒体の質をより引き上げるための校正・校閲の話があれば引き続き、よろしくお願いします。


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