今日、10月3日の非公式の「登山の日」に合わせて、登山絡みの最近気になる複数の小ネタをまとめて放出。
●不測の事態のためにある避難小屋を、商業的な宿泊地にしてはいけません
先月発売の山岳専門誌
『山と溪谷』09年10月号と
『岳人』09年10月号でそれぞれ、7月中旬に発生した北海道・トムラウシ山周辺の大量遭難を検証する記事が出ていて、読み比べてみた。
『山と溪谷』のほうでは、
アルパインツアーサービス社長・黒川惠(くろかわ・さとし)氏と
NPO法人日本トレッキング協会理事・越谷英雄(こしがや・ひでお)氏の対談や、遭難したツアーを企画した
アミューズトラベルのそのツアー案内と遭難発生当時の気象衛星画像を見せたりもして画的にわかりやすかったし、『岳人』のほうではツアーの当事者の動向を時系列で並べて分単位で洗い出して一覧表にしているのも良かった。
ただ両方とも、参加者の証言がいくらか取れたのが良かったが(特に、このツアーの惨状を明らかにして今後の教訓として活かすために各種取材にも実名顔出しで積極的に発言している、参加者のひとりの戸田伸介氏のような存在は助かる)、これに加えて会社やツアーを担当したガイドの言い分もあるといいんだけどなあ。そこまで過剰な取材? というか突っ込んだことは業界の代表的な専門誌といえども難しいのかなあ。
で、ともにツアーガイドの力量というか資質を問うのはもちろんだが(しかも客よりも体力的に強くあるべきガイド役が1名亡くなってしまったし)、それとともに興味深かったのは『岳人』のほうで深く突っ込んでいたことだが、会社が「避難小屋を宿泊地として利用している」ということ。
これ、『山と溪谷』のほうに掲載されていたツアーの旅程表にも「ご宿泊先」として7月14日は白雲岳避難小屋、15日はヒサゴ沼避難小屋、と明記されていて(電話なしとも明記。そりゃそうだ)、ふつうに登山をやっている者からすると、この書き方だけで違和感がある。大雪山系の縦走というと、僕はまだ未体験だが過去の事例をいろいろ見聞きしたり調べたりすると大半がテント泊で行っている山々で、ツアーでこんなに積極的? に避難小屋を利用している事例はほかにはないのではないかと。主に台風並みの大雨や強風や濃霧や落雷やヒグマ出現のような不測の事態が発生したときに逃げ込むことはいくらかあるだろうけど。
しかも、遭難があったツアーのほかにもその前後の日程でこれらの避難小屋を別のツアーが毎日入れ違いで利用しているらしく、それをやってのけるために主に小屋泊まりのときの食事作りのための鍋やコンロなどの共同装備を残置したりツアー参加者たちの寝場所の確保のために常駐役? の人物も会社は雇っているとか。なので、悪天で仮に停滞すると、それらの複数のツアーのそれぞれ十数人の大所帯かな、が同じ小屋で重複してしまい、収容人員30人程度の小屋が満杯かそれ以上になる恐れもあり、よって停滞はできずに天気が悪くても一部の参加者の体調が思わしくなくても小屋のぎゅうぎゅう詰めを回避することが優先でやむなく出発しなければならない、という内情もあるようで。
だがこれ、ほかのツアー外の一般の登山者も避難小屋は利用するわけで、その商業的なツアーが小屋内の一角を占拠し続けるのはおかしいし、そもそも不測の事態のための避難小屋を最初から宿泊地と謳って山行計画に組み込むのがおかしい。
僕も主に奥秩父で避難小屋を利用することはたまにあるが、その場合はいつもテントかツェルトは携行しているしより簡素な野宿の覚悟もできたうえでも行っているから、宿泊地としてやたらめったら利用はしないぞ。それにだいたいは単独行で行くから、大所帯のツアーよりは省力化で行けるし。やはり避難小屋を宿泊地として利用、というのは違うよなあ。
ほかのツアー会社では、その小屋占拠の恐れがあるために満杯になったときのために(国立公園内ではテント泊は指定地以外では禁止だが、小屋から溢れた場合は仕方なく小屋のそばに張る)テントを持参するツアーもあるというのも聞いたことがあるが(行く山によってはそのテントやら共同装備やらの荷運び役もツアーに帯同する事例もある)、このトムラウシ山のツアーでも一応テントは携行していたようで散り散りになったうちの後方の1組が後手後手で使用していたが(それでも対処が遅れたために亡くなってしまった方がいるが)、ガイド個人への責任以前に会社の山行計画の立て方のほうがまず問題なのか、と記事を読んで思った。
ホントは全国どこの山でも、服部文祥さんの「サバイバル登山」ほど求道的ではなくても、安易に小屋に頼らずにせめてテントやツェルト利用でできるだけ山に負担をかけずに分け入るべきだ。今夏にある野宿仲間が剱岳の麓の山小屋にアルバイトで入っていたりもしたものの、やはり小屋をできるだけ利用しない、というのを老若男女問わず登山の基本姿勢とすべきだとも感じた。
●標高3776mで96%って……
先月末に終了したNHK教育テレビの『
趣味悠々』、田部井淳子×ルー大柴の登山話10回シリーズの最終回は目標の富士山しかも最高点の剣が峰に登頂した。撮影時の天気も最高で、良かったね。
その番組の最高潮のあとに、近くにある旧富士山測候所で現在は各種研究に活用していることも触れていた。ついでにひとつネタを挙げると、『週刊ヤングジャンプ』で連載中の山マンガ『
孤高の人』の最近の回で、主人公の森文太郎が冬季にここに滞在してNPOから山頂(主にお鉢の内部?)の積雪データ収集の仕事を請け負っていたりもするな。
で、そこで田部井さんとルーが高山病か否かの目安となる経皮的動脈血酸素飽和度(SpO2)の数値を計測できるパルスオキシメーターを利用していたが、ルーが83%、田部井さんが96%という結果だった。一応、標高3700m超の高所なのでルーの結果が一般的なのだが、田部井さんの96%ってなんだ。僕もこれは以前に数回計測したことがあるが、地上で100%かそれに近い結果が出なければおかしいとも言われていているが、高所なのに平地とあまり変わらない状態の田部井さん、いくら登山に慣れているとはいえ凄いな。老練と言っては失礼かもしれないが、やはり経験の賜物なんだろう。呼吸法とか。複式呼吸が高山病予防に効くというのはよく聞くけど。
また、その対策のひとつとして、手の親指と人差し指の股の「合谷(ごうこく)」という神経の集まる場所を刺激すると酸素飽和度が上がる、ということも紹介していたが、今後試してみようっと。
ちなみに今年始めだったか、ある登山関係の知人がふつうに東京都内の平地での酒盛り時にちょうど(仕事帰りで)パルスオキシメーターを携行していたので酒酔い状態で測らせてもらったら、結果は95%だったことがある。これ、平地ではふつうに呼吸をしながらの状態でも少なくとも98%か99%は出ないとおかしいので、かなり問題アリの数値だったりする。肥満も関係あるのかな?
●『男の隠れ家』09年11月号の、ちょっと高尚? な登山特集
僕は普段あまりチェックしない男性向け月刊誌
『男の隠れ家』09年11月号は、珍しく登山特集だったりする。
で、立ち読むと冒頭から
服部文祥さんの「山に行くということ」という4ページの記事から力が入っていて、登山する人がよく言う山に対する「謙虚さ」への反意を表していたり、服部さんお馴染みの「フェア」の精神について説いていたりして、のっけから刺激的。
でもそれ以降は各地の山小屋への取材やこれからの秋深まる季節にぴったりの山の簡単な案内が続き、写真もよろしく、最近は女性誌でも登山についてよく取り上げられるようになったようだがそれよりもおそらく数段落ち着いた、大人な雰囲気の誌面になっている。他誌と比べると『
BE-PAL』や『
fenek』よりも硬派だが『山と溪谷』や『岳人』よりは軟派な感じか。軟派というよりも、『
サライ』や『
旅の手帖』みたいな雰囲気か。
書き手も、いずれの記事もバリバリの山岳専門というわけでもない感じのライターばかりで、例えば最近は沖縄関連本で有名な
カベルナリア吉田さんが尾瀬を歩いたことを書いた記事もあったりする(失礼ながらいつも島ばかり旅する吉田さんが山歩き、ということに軽く違和感がある)。でもその筆致はおちゃらけがちな自分の沖縄本よりもちゃんとしたものになっているけど。
ほかにも、僕は一方的に名前を知っている野外業界内で活躍するライターやカメラマンの仕事が並び、まあ僕好みの特集にはなっているね。
なかでも、取材対象への視点というよりは記事の完成度という意味で特に注目なのが、北八ヶ岳・黒百合ヒュッテの記事かな。この書き手と写真の撮り手はいずれも僕とほぼ同年代なのだが、この業界内では今後バリバリ活躍するであろう組み合わせで、良い。誰のことかはあえて名前は挙げないので、実際に雑誌を手に取ってチェックしてみてちょ。
ただ、僕は買うか否かはちょっと迷うところで、現在検討中。
●栗城史多氏、エヴェレストの登山中にそんな「余興」に力を入れている場合なのか?
6月にもブログのリンク先で少し触れた、世界七大陸最高峰“セブンサミッツ”の無酸素登頂の最後の目標として、世界最高峰のエヴェレストに先頃向かっていた北海道出身の以前は「ニート登山家」で最近は「小さな登山家」の
栗城史多(くりき・のぶかず)氏、結局は今秋の登山は体調不良などで断念だそうで。
彼に関しては僕も3年ほど前から一応注目してはいるが、これまでの言動や登山の手法については数年前の
野口健氏の「世界最年少記録」のときよりも賛否両論激しく飛び交っている感がある。僕個人的には総論賛成・各論反対、みたいな感じで彼の動向を見ている。
彼についてよく叩かれているのは、特に「無酸素」の解釈の仕方についてなのよね。単に酸素ボンベを担いで吸いながら登るか否か、ということだけでなく。
でもそんな外野からの雑音がありつつもエヴェレスト以外は登頂して、昨秋にはその予行演習的な意味合いで8000m峰のひとつのマナスルにも登頂して(もちろん無酸素で。ただ、この登山も一部では叩かれているようで)、ネパールの高山では特にバカ高い登山の資金を集める意味でのスポンサー探しも含めて“セブンサミッツ”完遂のために着々と進行してきた模様はなんとなくブログで拝見している。
ただ、今回の登山でエヴェレストの登頂に純粋に臨むのならまだしも、
YAHOO!JAPANと組んで現地からの衛星中継を敢行する、みたいな企画もこなしていて、たしかに近年の通信技術の発達ぶりを活かしたい、それに登山をリアルタイムで伝えて多くの人々と感動を分かち合いたい、という意図はわかるが、それはどうなんだろう? と疑問に思うふしも多々ある。いちいち細かく挙げると面倒なのでやめておくけど。
雑誌
『モノ・マガジン』09年10月16日号でも触れていたが、先月にその連動企画? として、標高6400m地点で流しそうめん、7600m地点でカラオケ、をそれぞれ生中継してギネス記録を狙ったそうだが、僕はそういうのにはまったく興味がなく、「余興」は登山隊の内々でやればいいじゃんよ、それを全世界に公開して周りに押し売りしてどうすんだよ、そんなことよりも肝心の登山をちゃんとやれよ、君の道楽のために自分(と家族)の生活を懸けて登山に参画している現地スタッフもたくさんいるだろうに、と外野からはある意味悪ふざけにも見えるその様子を垣間見るとつい毒づきたくなる。諸外国の方から、最近の日本の若者の道楽ぶりがみなこんな感じだと勘違いされそうで、それは困るよなあ。もっとマジメに取り組んでいる登山者もたくさんいるし(というか、本気で取り組まないと簡単に死んじゃう可能性のある場所だから)。まあ栗城氏もその「余興」に本気で取り組んでいるのだろうが、その方向性が「登山家」を名乗るのであればちょっと違う気がする。
「余興」というと、大学時代に所属していたワンゲルのかなり年代は上の先輩が十数年前に、ある7000m峰の登頂時にギターを担いで登頂してそれを山頂で弾いた、という登山隊の内々のサプライズ? の話を聞いたことはあるが、そのくらいだったらまだ良いと思う。でも今回のは全世界に発信するようなものだからねえ、しかも世界最高峰の真っ只中で。これによってヒマラヤ登山の敷居はいくらか低くなったかもしれないが、視聴者からは思いっきりいろもん扱いされただろうな。
まあ今どきの若者の自己表現、という意味で考えるとこれはこれでアリなのかもしれないが、生死の境を行く高所登山でそれがすぎるのはいかがなものか、と訝しがる、登山に精通した人でなくてもそのような行動をイタイと思う人のほうが多いだろう。今回もその「余興」のやりすぎで肝心の登山がうまく行かなかったのでは? もし体調不良のみならず悪天続きを言い訳にするのであれば、それが好転する運を呼び込めなかった意味でもより自分の責任は重いのでは? とも思う。
栗城氏、ふつうに淡々と真摯に登山していればよかったものの。せっかく出身大学の先輩に探検の分野では特にシーカヤックの経験が豊富な
新谷暁生氏もいるというのに、「余興」によってそのホンモノの先輩の存在にまで悪影響がおよびそうな(とばっちり)、ニセモノまっしぐらの存在になってしまうぞ。山岳専門誌や同業の登山家からは彼の行動はほとんど触れられていないように、すでにそういう見方をしている人も多いけど。僕はまだ辛うじてホンモノ扱いしてあげているのに。もったいない。
来春も再びエヴェレストを登りに行くようだが(ネパールで天候が安定する可能性が高くて比較的登りやすいのは春のほうで、今秋に行ってしまったのは勇み足とも言える。まあ許可の関係で春はダウラギリに変更せざるを得なかったのはわかるが)、企業のみならず一般の人々からも講演会ついでにその入場料にあらかじめカンパの金額を上乗せして募ったうえでその収益を登山の資金に充てている現状を考えると、今回の「余興」によって来年以降の、もし自前の登山隊になるとン百万円かかる(いや8桁を超えるか?)登山の賛同者が増えるのか減るのか、今後も見モノである。
●「森ガール」よりも「山ガール」
僕は今年始めあたりから、「森ガール」という言葉をよく耳にするようになってきた。これは取り上げる媒体によって解釈は異なるようだが、意味を総合すると「いかにも森のなかにいそうな雰囲気を持っている女の子」ということになる。格好で考えるとワンピースやチュニックが似合うみたいな、髪型もメイクもゆるゆるでふわふわでしぜんな感じで脱力感や透明性があるやや神秘的な雰囲気も醸し出す、やさしい空気を身に纏っている若い女子、なのか。
最近の邦楽で人気のユニット・Perfumeのメンバーで例えると、ボーイッシュなのっちではなく、より女子的なかしゆかとあ~ちゃんみたいな感じか。ほかの芸能人で例えると、代表的なのが役者の蒼井優や歌手のYUKIとはよく聞く。僕もまだその概念は引き続き勉強中。
最近、それをさらに活動的に進化というか深化させた? のかどうかはわからないが、「山ガール」という言葉もあることを知った。誰が創ったんだそれ。
昨年あたりからか、男性誌のみならず女性誌でもエコだロハスだとかいう意味なのだろうがそういった健康面や自分磨きみたいな入り方から登山について取り上げる機会が増えてきた、というのはよく聞く。特に出版社の野外系フリーマガジン『
フィールドライフ』を通読していてもその傾向はわかり、今春からはその女子向けの情報のみを抽出した雑誌として季刊誌の『
ランドネ』が創刊されたりもしているし。
で、「山ガール」のわかりやすい例として、
好日山荘が今年から年4回刊で発行しているタブロイド紙『guddei(グッデイ)』の3号目の2009秋号(上の写真参照)の巻頭ロングインタビューで、現在、モデル・役者・ラジオDJなど芸能で多岐にわたって活躍中の
KIKIという女子が取り上げられている。
彼女、一般には主にテレビドラマやCMのような芸能面の活躍のほうが有名なのだろうが(現在、
資生堂の「AQUALABEL」のCMに出演しているのが特に目立つか)、僕的には『フィールドライフ』で07~08年に表紙モデルも含む雑誌の“看板娘”として毎号登場して、登山やカヤックやテレマークスキーなどの野遊びに出かけたことを書いた連載を持っていたことのほうから認識するようになった。この野遊び企画の数々によって鍛え上げられた結果、特に登山に徐々にはまっていったようで。インタビューを読むと、最近は仲間内で「女子登山部」のノリで行ってもいるようだし。登山の基本的なことがわかっているお目付け役がいれば、そんな軽い感じもよろしいかと。ただし行く山とその季節の選択にもよるけど。
また、僕よりもちょい歳下の彼女の経歴を見ると面白いのが、武蔵野美術大学略して“ムサビ”の造形学部建築学科を卒業していて、芸術面に詳しいということ。というか、学業のほうが先で、芸能活動や野遊びを始めたのが順序的にはあとになるのか。今のところは芸能の仕事ではその知的な一面はまだあまり目立っていないが、今後そういった芸術と野遊びを絡めた仕事も増えるのかしら。
KIKIさんについて、最近にわかに増えている“ムサビ”出身の友人知人のひとりに先日訊いてみると(たしか彼女と専攻は異なるが同年代だったか?)、在学時からそこそこ有名ではあったようで、建築方面よりももっと明るい場に出て正解のひとなのかなあ、と改めて『フィールドライフ』の過去連載を読み直すと思う。
今後もし実際に会う機会があれば、母校で「グレートジャーニー」の
関野吉晴さんが教授に就いていることも知っているはずだから、そのへんの認識や、本人や仲間内の女子目線からの登山の捉え方についてより突っ込んだことを訊いてみたいものだ。
と、複数まとめるとどうしても長くなっちゃうのよね。そこはご勘弁を。