さむらい小平次のしっくりこない話

世の中いつも、頭のいい人たちが正反対の事を言い合っている。
どっちが正しいか。自らの感性で感じてみよう!

ユキとかぶとむし

2017-06-13 | 小説


応援クリック



 『ユキとかぶとむし』


 初夏、と言うには強めの陽射しが、カーテンの隙間をすり抜けてから少しだけやさしさを取り戻し、左の頬を枕にうずめて眠っていたユキの右の頬をおだやかに撫でていた。そんな陽射しに呼び覚まされゆっくりと目を開けたユキは、窓ガラスに映る見覚えのない黒い染みを見つけ、左の頬を枕にうずめたまま、夢心地の余韻の中、しばらくそれを見つめていた。

(なんだろう…、) 

 昨日までは間違いなくそこにはなかった黒い染み、それでもさほど気にするでもなく、まんじりとそれを見つめていたユキであったが、ある瞬間、飛び上がるように上半身を起こし、じっと目を凝らした。視線は黒い染みに向けたまま、左手は枕元の眼鏡を探した。左手が眼鏡を探し当てると、急いでそれを掛けてからベッドを降り、そっと窓に近づいた。

(動いた…?  虫…?)

 染み、と思っていたものが、確かに動いたように見えたのだ。それが虫なのであれば、かなり大きな虫だ。 ユキはロックをはずし、おそるおそるかすみ模様の窓を開いた。
 網戸にあった黒い染みは、やはり虫のようであった。

(かぶとむし…?)

 その身体の裏側からでも、立派な『つの』を備えているのが見えた。
 ユキはとっさに今日が何月何日であるかを思い起こそうとした。

(五月三十日…、)

 子どものころでさえも、もちろん女の子であったこともあるが、ユキがかぶとむしなどに興味を魅かれていた時間など、決して長くはなかった。弟が捕まえてきたかぶとむしを、腐葉土を敷いた水槽に入れ、一緒に真綿に染み込ませた砂糖水を吸わせたりしたこともあったが、特別その生態に興味があったわけでもなければ、詳しいわけでもなかった。それでも、今、かぶとむしがここにいるのはあまりに早い、ということぐらいはユキにもわかった。
 ユキは静かに、少しだけ網戸を開け、そっと外から手を伸ばし、網戸にしがみつくかぶとむしの短い方のつのをつまんだ。それからできるだけやさしく、網戸からかぶとむしを引き離そうと引っ張ってみた。かぶとむしの方はなんとか連れ去られまいとして鉤爪を網目に引っかけ、それぞれの足をピンと伸ばして抵抗していたが、やがて観念して網戸から離れた。 かぶとむしの六本の足が、それぞれに生命がやどっているかのような複雑な動きを見せユキの手で暴れていた。

(ちょっと前なら、こんなの、絶対にさわれなかった…、)

 思いもしなかった自分の行動に少し驚きながらも、ユキはそのままキッチンに向かい、毎朝、手作りの野菜ジュースを飲むときに使う丸い大きめのグラスを手に取った。そしてそのグラスにそっとかぶとむしを入れ、下に敷くはずだったコースターを上にかぶせた。それから冷蔵庫を開け、オレンジ色の液体が入ったグラスポットを取りだし、かぶとむしを入れたものよりはちょっと小さめのグラスにたっぷりと注いだ。
 右手にかぶとむし、左手に手作り野菜ジュース、ユキはリビングへ移り、静かにテーブルの上に二つのグラスを置いた。今日は一日、それを聞きながら本を読んで過ごそうと思い、前の晩からデッキにセットしておいた、自分のお気に入りのJAZZばかりを集めたCDを回した。
 最初に流れたのは、John・Coltraneの“Giant・Steps”、艶やかなサックスの音色を聴きながら、ユキは立ったままジュースを少し口に含み、丸みをおびたラタン椅子を引いて浅く腰かけた。両腕をテーブルの上に伏せるように置き、その腕を枕にして左の頬を乗せ、グラスの中でシャカシャカと足を滑らせているかぶとむしを、しばらくの間眺めた。

(こんなに早く土の中から出てきてしまったのに…、キミはとても元気だね…、でも、仲間たちが恋に落ちる真夏の日まで、元気でいられるの…?、)

 リビングに流れる曲はMiles・Davisの“My・funny・valentine”に変わっていた。Valentineとは言いながら、マイルスの狂おしく陶酔的なトランペットは、この季節にとても心地よい、ユキは常々そう思っていた。
 ユキは顔を上げ、またすこしだけジュースを口に含んでから立ち上がり、部屋の窓を思い切り開けた。

(そうだ、今日は読書はやめにして、駅前のホームセンターで水槽を買ってこよう、あ、園芸用品売り場で、土も買ってこよう…、)

 開け放たれた窓から、夏になりかけた若い風が舞い込み、先週切ったばかりのユキの髪をさらりと跳ね上げた。 




コメント (2)
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「土管争奪戦争」 幼き日の思い出 

2016-10-03 | 小説


 それはある日突然やって来たのであった。

 学校から帰ってきたぼくは、となりの、同じ造りの小さな借家に住む同い歳のジュンジと、ボール遊びをしようと家の目の前の空き地に出て、思わず声を上げた。

「うわっ!なんだこりゃ!」

 いつもぼくらが遊んでいる空き地に、一年生のぼくらならば、少しかがめば中に入れるくらいの、大きな、たくさんの『土管』が、三段に積み上げられ聳え立っていたのであった。

「すっげえな!、ジュンジ」

「うん、すっごいね!」

 まるで『ひみつきち』が突然ぼくらの前にあらわれたかのようだった。いてもたってもいられず、競い合うようにぼくとジュンジは土管の中に入り、コンコンとこぶしで中から叩いてみたり、大きな声を出してみたり、まずは少し警戒しながら『ひみつきち』の様子をうかがってみたのであった。

「上ってみようぜ!」

 『土管の山』の右端は、いずれまたこの空き地から運び出す時に作業をするためか、一段、二段と階段状に三段目の土管の上まで上れるようになっていた。まだ小さなぼくらは、一段目、二段目と土管をよじ登るようにして三段目の土管の上まで上った。

「うわあっ…」

 せまい平屋の家に住み、学校の教室だって一階、『土管の山』のてっぺんから見る景色は、ぼくらにとってとても新鮮で刺激的であった。それからぼくらは、何度も何度も土管の中をすり抜けてみたり、てっぺんで仮面ライダーごっこをやったり、夢中になって遊んだのであった。

 しばらくすると、五年生になるぼくの兄と、やはり同じ五年生のジュンジの兄、タカシ君が学校から帰ってきた。近所のトンコもやってきた。人数がそろったところでぼくらは缶けりを始めた。土管があることで、缶けりもこれまでよりもずっとスリリングなものに変わった。いつ、だれがどの穴から飛び出して来るかわからないのだから、オニの緊張感って言ったら、これまでの缶けりとは比べようもなかったのだ。

 ぼくの父の話では、土管は下水道工事が始まるまで、一か月くらいは空き地に置いてあるそうであった。

「一カ月もどかんで遊べるなんて…」

 ぼくはうれしくてたまらなかった。

 それから数日間、ぼくらは毎日土管で遊んだ。オニごっこ一つも土管を使えば格段に楽しくなった。他にも新たな遊びをいくつも発見した。土管のおかげで、ぼくらの毎日の遊びは一変したのであった。

 しかしそんなある日、学校の授業が終わったあと、担任のやまね先生のおこごとがいつもより長引き、ぼくは少しばかり学校を出るのがおそくなってしまった。急いで走って帰り、ガラガラと玄関を開けランドセルを放り投げると、すぐに空地へと向かった。すると、なぜかジュンジが、空き地の入り口で呆然と土管の上を見つめながらつっ立っていたのであった。土管のてっぺんで、見知らぬ男の子が四人、なんだか決闘ごっこのようなことをやって遊んでいたのだ。

「どかんがとられた!!」

 明らかにぼくやジュンジより歳が上であろう四人組にどうすることもできず、しばらく呆然として土管の山を見つめているほかないのであった。

 四人組の一人、少し体の大きな大将格らしい男の子が、ぼくらの視線に気づいた。

「なんだよ!なに見てんだよ、おまえら!」

ぼくとジュンジはただ黙っていた。

「おまえら一年だろ!おれたちは三年だからな!今日からここはおれたちのもんだ!」

ぼくは悔しくて涙が出そうになった。二年生相手ならケンカして勝ったこともある。しかし相手は三年、しかも四人、勝ち目はなかった。その上ジュンジなんてヤツは、子供のくせに重たい鉄製の手提げ金庫に小銭をため込んでいるようなヤツだから、こんな時はまったくアテにはならないのであった。

 その時、ふと一つの考えがぼくの頭をよぎった。

(そうだ、もう少ししたらきっと兄ちゃんとタカシ君が帰ってくる、兄ちゃんとタカシ君はケンカも強い、あんなヤツらすぐにやっつけてくれる)

 強気になったぼくは言った。

「なんだよ!おまえらこそでてけ!でてかなけりゃ五年生よんでくんぞ!」

(五年生…)

この言葉に大将格が明らかにひるんだ。あとは一刻も早く兄ちゃんとタカシ君が帰って来るのを祈るだけだ。と、そう思っていたその時、大将格の陰にいた小柄の、うす汚れたランニングシャツを着たイガグリ頭が一歩前に出てきた。そして土管の上からぼくとジュンジを見下ろして言った。

「なにが五年生だ!それならこっちは六年よんでくんぞ!」

今度はぼくとジュンジがひるんだ。

(六年…、うーん…)

それでも後へは引けない、ぼくは大声で言い返した。

「そ、それなら、こっちは中学生よんでくんぞ!」

だが、もう相手もひるまない、イガグリ頭がすぐに返してきた。

「だったらこっちは高校生よんでくんぞ!」

(高校生!…うーん、高校の次はええっと…」

「だいがくせいだよ…」

ジュンジが小声でぼくにささやいた。

「そ、そっか! そ、そしたら、そしたらこっちはダイガクセイよんでくんぞ!」

もちろんアテなどない。それでもぼくとジュンジは勝利を確信した。大学の上はないはずだ。さすがのイガグリ頭も少しうろたえているようだった。しかし!何かを悟ったか、イガグリ頭はさらに一歩前に出て、胸を張りぼくらを見下ろした。

「だったら、だったらな!こっちは『オトナ』(大人)よんでくんぞ!」

(オトナ!)

ぼくとジュンジにもはやなす術はなかった。『オトナ』より上なんて思いつくはずもなかったからだ。期待の兄ちゃんとタカシ君もまだ帰ってくる様子はない。敗北したことを十分に悟ったぼくとジュンジは、目に涙を浮かべながら家へと引き返したのであった。

 その日の晩、夕食のとき、ぼくは兄に先の出来事を話した。

「『オトナ』なんて言われたら、もうなんにも言えないよ…」

焦げた皮がぷっくりと浮いたさんまの塩焼きの身をほぐし口の中に入れてから、兄はハシを置いて呆れたような顔でぼくの方を見た。

「バカだな、おまえは、そんなときはな、『ソウリダイジン』をよんできてやる!って言えばいいんだよ!見てろ!」

兄は茶碗に置いたハシを右手と左手に一本ずつかみ、ぼくの前に突き出した。

「こっちの左手のハシが『オトナ』な、で、右手が、『ソウリダイジン』な」

そう言って兄は両方のハシを徐々に近づけ始めた。やがてハシとハシがぶつかる!、とその瞬間、兄はまるでチャンバラの刀のように「カッ!カッ!」とハシとハシを打ち合わせた。少しの間兄の手はそのまま止まっていたが、やがて左手の『オトナ』のハシだけがぽろりとテーブルの上に落ちた。

「な、『ソウリダイジン』の方が強いんだ!」

『ソウリダイジン』が何をする人かなんてぼくにはまったくわからなかった。それでも普通の『オトナ』よりはえらい人だというのは知っていた。

「そうか!あしたは『ソウリダイジン』であいつらをやっつけてやる!」

 ぼくはふとんに入ってからも、何度も何度も順番を間違えないように、最後に自分が『ソウリダイジン』と言えるように繰り返し、眠りについたのであった。

 翌日はやまね先生のおこごとも短く、ぼくは授業が終わるとすぐに家へ帰ってきた。ジュンジと二人で空き地に行くと、四人組の姿はまだ見えなかった。しかし『オトナ』までよんでくると言っていたヤツらが簡単に土管を明け渡すとは思えない、ヤツらはきっと来る、ぼくとジュンジは一番乗りしたものの、常に警戒しながら遊んでいたのであった。

 ほどなくして、やはりヤツらは現れた。

「おい!おまえら、なんでおれたちのどかんであそんでんだ!どけよ!」

大将格が土管のてっぺんのぼくらを見上げて言った。ぼくは昨晩からこの日の学校の帰り道まで、なんども練習した『ソウリダイジン』までの流れを思い出しながら、少し緊張して口をひらいた。戦闘開始である。

「ふん、どくもんか!おまえらこそでてけ!でてかなけりゃ五年生よんでくんぞ!」

昨日と同様、大将格の脇にいたイガグリ頭がまた一歩前に出てきた。

「おまえバカだな、だったらこっちは六年よんでくんぞ!」

「それなら中学生よんでくんぞ!」

「高校生よんでくんぞ!」

(いよいよだ…)

「なら、だいがくせいよんでくんぞ!」

イガグリ頭は、少し呆れたような顔をしながらも、また一歩前に出てぼくらを見上げて言った。

「だったらな!こっちは『オトナ』よんでくんぞ!」

(来た!ここだ!)

ぼくも一歩前に出て、土管の上から四人組を見下ろし、緊張しながらも胸を張って言った。

「そっちが『オトナ』なら、こっちは…、『ソウリダイジン』よんでくんぞ!」

(ソウリダイジン!)

 予想外の人間を呼んでくると言われ、明らかに四人組がうろたえているのがわかった。四人組の内、こんな時に頼りになるのはイガグリ頭しかいないらしく、「ど、どーすんだ、どーすんだ!?」と他の三人がイガグリ頭をせっついた。

「く、くそっ!…」

ぼくとジュンジはさらにたたみかけた。

「どうした!『ソウリダイジン』よんでくんぞ!さっさとかえれ!」

「えっと、えっと…」

下を向いて頭を抱え、困り果てているイガグリ頭を見て、ぼくとジュンジは今度こそ勝利を確信した。しかし!突然何かを閃いたかのようにイガグリ頭が顔を上げた。そして、自信に満ち溢れた顔でさらに一歩前に出てきた。

(何を言う気だ?)

ぼくとジュンジは少し不安になり身構えた。イガグリ頭はこれまで以上に大きく胸を張ってぼくらを見上げ、そして言った。

「おまえらが『ソウリダイジン』なら、こっちは…、『てんのうへいか』をよんでくんぞ!」

(て、てんのうへいか!)

 『ソウリダイジン』の顔は知らなくても、昭和天皇陛下のお顔は、幼いぼくらでも知っていた。一番えらい人だということも知っていた。もちろん『ソウリダイジン』よりもえらいということも。

 もはやぼくもジュンジも途方に暮れるほかなかった。しかしその時、ぼくらの背後から大きな声がした。

「こら!おまえらオトウトになにしてんだ!」

ぼくの兄とタカシ君が学校から帰ってきたのだ!兄とタカシ君は一気に四人組に飛びかかった。『土管争奪』をかけたとっくみあいが始まったのであった。

「うわあああっ!」

ぼくとジュンジも加勢すべく土管を駆け下りた。ひ弱なジュンジはもちろんのこと、一年生のぼくもほとんど戦力にはならなかったが、兄とタカシ君はケンカが強かったから、この『土管争奪戦争』はあきらかにぼくらの優勢に進んでいった。



「こら!あんたたちなにしてるの!」



 突然の大きな金切り声でぼくらはとっくみあったまま動きが止まった。ゆっくり振り向くと、騒ぎを聞きつけて家から出てきたぼくの母が仁王立ちでぼくらをにらみつけていた。

「ケンカなんかしないで仲良く遊びなさい!」

ホンモノの『オトナ』の登場で、ぼくらの『土管争奪戦争』はあっけなく幕を閉じたのであった。

 結局ぼくらは、四人組を交えて缶けりをすることになり、その後はいつの間にか一緒に遊ぶようになっていったのであった。

 そして、それからさらに数日後、ある日突然空き地にやってきたぼくらの土管は、毎日数本ずつ消えてゆき、最後の一本となった土管も、ぼくとジュンジが見つめる中、大きなクレーン車でトラックに積まれどこかへと運ばれていったのであった。元の姿に戻ったがらんとした空き地の片隅で、小さな白い花を咲かせた雑草が、少しばかり冷たくなった秋の風に吹かれて揺れていた。




こんにちは!

小野派一刀流免許皆伝小平次です

このお話は、多少脚色はしておりますが、小平次の幼いころにあった実話です

そうなのです!

天皇陛下はえらいのです!

もちろんソウリダイジンよりもえらいのです!

そのえらい天皇陛下が、無私の御心で、全て公のために日々すごしていらっしゃるのです

無私の御心で、日々、国と、俗世にまみみれた私たち民の「平穏」と「安寧」を祈られていらっしゃるのです

だからこそ私たち民は天皇と皇室を敬うのです

あの、織田信長も、豊臣秀吉も、あれだけの軍事力を持ち天下統一を目指しながらも、天皇を打ち倒そうとすることなどありませんでした

なぜなら、そんなことをすれば次から次へと「力で支配しようとするもの」が現れ、争いの絶えない国になってしまうとわかっていたからであります

天皇を君として戴いているからこそ、同じ島国のイギリス始め欧米諸国、支那王朝などと比べ、圧倒的に戦争、侵略、滅亡の連鎖と関わっていた歴史的時間が少ないのです

『てんのうへいか』は『ソウリダイジン』よりもえらいのです

子供でも知っていることです

にもかかわらず今、我が国の『ソウリダイジン』は天皇陛下のおきもちやおことばを無視し、蔑にし、宮内庁の人事にまで口を出し、天皇と皇室を自分の管理下に置こうとしているのです

絶対に許してはなりません

首相官邸にメールを送りましょう

野田元総理を支援しましょう

少しでも私たちにできることをして天皇と皇室をお護りしましょう



御免!

コメント (1)
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする