明日に向けて

福島原発事故・・・ゆっくりと、長く、大量に続く放射能漏れの中で、私たちはいかに生きればよいのか。共に考えましょう。

明日に向けて(1260)原発の危険性の核心―書評『元原発技術者が伝えたいほんとうの怖さ』下

2016年05月08日 08時30分00秒 | 明日に向けて(1201~1300)

守田です。(20160508 08:30)

小倉志郎さんの著書の書評の最終回です。早速内容に入ります。

[原発の危険性の核心]

小倉さんは前回までの話に続けて「事故被害の甚大さ・深刻さ」という章で、原発と原発事故の特殊性にも言及されています。
というのはそもそも技術は一般的に事故や故障に学んで前進していくものですが、原子力では事故はあってはならないし、しかも一度起きれば福島原発がそうであるように放射線値が高すぎで学ぶこともできない「まったく新しい知見」です。
また事故の規模もいたって深刻で、戦争ではまだしも「国破れて山河あり」とは言えても、原発事故では「山河無し」になってしまいかねません。その意味で「戦争の被害よりも深刻かもしれない」と小倉さんは語られています。

それらも踏まえた上で、「原発の危険性の核心―結論」と題したPart1のまとめの章で、まず新規制基準のあやまりが一言で鋭く解明されています。
「同基準は体裁だけのもので、中身は審査の判定基準とは言えないしろものであり、その最大の欠陥は、今後、各原発を襲う可能性のある地震の最大の大きさ(地震動)が示されていないことである。」(本書p61)
現在の熊本・九州地震と川内・伊方原発との張りつめた緊張関係にも的確にあてはまる大切な指摘です。

さらに『原発をやめる100の理由―エコ電力で起業したドイツ・シェーナウ村と私たち』に触れつつ、ここから原発の何が問題なのか、5つがピックアップされています。

1、フクシマやチェルノブイリのような環境に大量の放射能を放出する重大事故の可能性がある。
2、事故は起こさなくても、運転中に低レベルの放射能を環境に放出する。
3、運転を継続するには保守・点検・補修などの維持作業に携わる人々が被ばくする。
4、運転をすれば使用済み核燃料(高レベル放射性物質)を必ず生み出す。
5、運転を永久に止めても、過去に原発によってつくられた放射性物質(高レベル・低レベルとも)を安全に保管・処分する方法が見つかっていない。(本書p63~64)

小倉さんは、地震や津波でも壊れない原発を仮に作れたとしても2~5はクリアできないし、原発をすべてとめてすら2の作業員の被曝は続き、5の膨大な放射能の保管・処分の問題も続くことを指摘しています。
原発の矛盾と危険性を見事なまでにコンパクトに要約した「核心」だと思います。ちなみに僕自身はとくに2,3の内容をもっと語っていかなくてはいけないと思いました。

最後に小倉さんは、こんな矛盾の塊の原発を「安全」と思わせてきた推進派の情報に惑わされないヒントを「一つだけ、原発技術者として過ごした35年の体験を基に紹介したい」として「確率論的安全解析」のあやまりを解説されています。
システムを構成する部品などが故障したり壊れたりする確率を掛け合わせるなどして、原発の安全性を求めるというもので、「原子炉の炉心が損傷する確率は100万分の1になっているから安全だ」などと主張されてきたものです。
しかし実は原発の部品は特殊なものが多く、確率を算定できるほどのデータがない上に、過酷事故が起こった時に被る人々の負債や損失も、本来、数値化できないものに溢れています。
だからこそ「確率論的安全解析」を行う「専門家」と言われる人々などに任せず、市民が判断を下していった方が良いと小倉さんは言います。「普通の感覚をもった市民の方がより正しい結論を出せるだろうと私は信じている」というのです。


以上、詳しく見てきましたが、小倉さんの主張は、現場を本当によく知っている技術者の目を通したものであり、そこにリアリティに満ちた迫力があります。
机上の理論からではなく、実際の場から起ちあがっているからこそ、説得力があり、深い共感を呼び覚まされます。
オムニバス形式で書かれているPart2とともに、ぜひみなさんに『元原発技術者が伝えたいほんとうの怖さ』(彩流社)を手に取って熟読することをお勧めします。

最後になりますが、そんな素晴らしい技術者である小倉さんに、僕の『原発からの命の守り方』を極めて高く評価していただけました。以下、ご紹介します。Facebookへのご投稿です。

 「みなさんに必読と思う本を紹介します。守田敏也著『原発からの命の守り方-いまそこにある危険とどう向き合うか』(海象社、2015-10-27初版)です。
 3・11東電福島原発事故の後、環境の放射能汚染から自分や子どもたちの命を守るために、どの情報を信じ、どうすればよいのか、迷い悩んできた人々が待ち望んでいた本がついに出現したという印象を私は持ちました。
 日本中の人にぜひ読んでいただきたいと思います。」

なんとも光栄のいたりです!同時に「ああもっと頑張ろう」と身が引き締まる思いがしました。
小倉志郎さんや、何度も「明日に向けて」でご紹介してきた後藤政志さんに学んでいると、日本にまだまだすごい技術者がいらっしゃることが分かり、未来に展望を感じることができます。
肝心なのはその力をもっと大きく市民に開放し広げていくこと。市民が科学を自らものとしていくこと。そのことで真っ当な技術者がもっと活躍できるようにもすること。そのための「媒介」を僕はこれからも続けていきたいと思うのです。

書評終わり


なお本日は京都府長岡京市でお話します。
いつも僕の話は、小倉さんや後藤さんから学んだものに支えられています。
お近くの方、ぜひお越しください!

原発からの命の守り方〜福島の教訓から学び、明日の暮らしにつなげる一歩へ
https://www.facebook.com/events/534057556775068/?active_tab=highlights

日時:2016年5月8日(日)14:00〜16:30
場所:長岡京産業文化会館1階大会議室
〒617-0826 京都府長岡京市開田3丁目10-16
阪急長岡天神駅より徒歩5分・JR長岡京駅より徒歩7分 ・駐車場有り)
定員 :150名
参加費: 300円
キッズスペース:あり(会場内にスペースを設けます)
お問合せ: 090-6067-1053(トリハラ)
主催 :災害から子どもを守るプロジェクトin長岡京

==================
プログラム(予定)
13:30 開場
14:00 齋藤夕香さんスピーチ
14:15 守田敏也さん講演会
15:45 質疑&意見交換
16:15 閉会予定
 閉会後、守田さんサイン会
==================

------------------------
守田敏也 MORITA Toshiya
[blog] http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011
[website] http://toshikyoto.com/
[twitter] https://twitter.com/toshikyoto
[facebook] https://www.facebook.com/toshiya.morita.90

[著書]『原発からの命の守り方』(海象社)
http://www.kaizosha.co.jp/HTML/DEKaizo58.html
[共著]『内部被曝』(岩波ブックレット)
https://www.iwanami.co.jp/cgi-bin/isearch?isbn=ISBN978-4-00-270832-4

コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする