田中川の生き物調査隊

平成12年3月発足。伊勢湾に注ぐ田中川流域の自然と生き物を調べ、知らせる活動をしています。三重県内の生き物も紹介します。

カワスナガニ

2009-08-28 | カニ
カワスナガニ
カワスナガニDeiratonotus japonicus (Sakai, 1934)

熊野灘流入の中小河川2ヵ所でカワスナガニの生息を確認した。既知の生息地以外である。

かつてはスナガニ科ムツハアリアケガニ亜科とされていたが、現在はムツハアリアケガニ科となっている。

三重県では絶滅危惧ⅠB類(EN)としている。三重県レッドデータブックによると、「甲長6.5mm、甲幅7㎜ほど。甲はほぼ六角形で表面には小顆粒が密生し、歩脚の長節後縁、前節前後縁に長い毛が列生する。砂泥中の有機物をすくって食べる」
また同書によると、現況・減少要因を「1969年に尾鷲市賀田の古川河口で生息記録があるのみであり、その後36年間確認記録が無い。満潮時に淡水と海水が混じり合う場所に生息していること、河口の砂泥底の転石下に生息することから、このような生息に適した環境が減少したことが要因と考えられる」としている。
さらに保護対策として、「生息地の河川工事や汚染などによる環境の破壊をさけなければならない。また、潮間帯の転石下に生息するため、このような環境を確保する必要がある。今後は既知生息を始めとする熊野灘沿岸河川河口を精査し、生息状況を把握することが最も重要である」としている。

環境省の干潟調査報告書(2007)によると、
「伊豆半島,紀伊半島,四国南岸,九州沿岸,奄美大島(Kawane et al. 2005),それに沖縄島(仲宗根・伊礼, 2003a)の汽水域上流部から知られる日本固有の希少種である.今回の調査からは,以上の分布域に加え,周防灘沿岸の山口県光市島田川からも記録された.」

環境省のカテゴリでは 準絶滅危惧(NT)、福岡県では絶滅危惧Ⅰ類、高知県や鹿児島県、沖縄県では準絶滅危惧種としている。

三重県内での生息記録については、2006年に古川で1個体、また熊野川では高密度の生息を当時東海大学の学生であった上野淳一君が確認している。彼は「県内では尾鷲市の古川以南に生息し、最南端の熊野川では高密度であったことからやや南方系であることが示唆された。また、河口から約1~2km上流の砂泥地の転石下に多く生息しており、汽水域を好むことが分かった。」と三重自然誌の会情報誌70号に発表している。
彼は三重県内での分布を古川以南と決め付けているが、決め付けるのはいかがかと思う。その時の調査結果にしか過ぎない。

ネット検索をすると、三重県内のカワスナガニの生息については、すでに複数のサイトで熊野灘流入河川とか紀伊半島河川とかの表記で明らかにしているところである。しかも県外の人がである。私もある人に1ヶ所教えてもらって、生息を確認した。
なお、今回はカニ屋が一人同行しているので、然るべき所へ記録を残してくれることだろう。

カワスナガニと同じ所でタイワンヒライソモドキやヒメヒライソモドキも見つかる。ヒメヒライソモドキは1枚だけ撮れていたので載せておく。
2009.8.22~23

追記
南紀生物,51(1):3-34,29に木邑聡美らが「三重県赤羽川河口域で採集されたカワスナガニ(ムツハアリアケガニ科)」を発表した。2007年10月6日に採集したという。
それによると、1991年にも古川での採集記録があることが明らかにされている。その根拠となる文献は
寺田正之.1995:カワスナガニDeiratonotus japonicus (Sakai, 1934) (スナガニ科,ムツバアリアケガニ亜科)のゾエア幼生.Crustacean Research,24,203-09.

また、同報告書で木邑聡美らは「これら以外に,三重県内で生息地の記録は見当たらなかった。」としている。
つまり木邑らは上野淳一君の記録を確認していないのである。三重自然誌の会情報誌はお目に留まらなかったようである。

なお、赤羽川、古川、熊野川の既知産地以外に、2009.9に津市のカニ屋が紀北町内3河川、尾鷲市内4河川でカワスナガニを見つけている。


カワスナガニ
この写真の中に5個体のカワスナガニが居る。分かるかな。

カワスナガニ

カワスナガニ

カワスナガニ

カワスナガニ

カワスナガニ

カワスナガニ
以上がすべてカワスナガニ

タイワンヒライソモドキ
カワスナガニと同じ所に居たヒメヒライソモドキ(タイワンヒライソモドキではない)。てっきりカワスナガニと思って撮っていた。