新型インフルエンザ・ウォッチング日記~渡航医学のブログ~

照会・お便りetcはこちらへどうぞ
opinion@zav.att.ne.jp(関西福祉大学 勝田吉彰研究室)

カナダの混乱にコメント

2009-10-11 18:49:42 | インフルエンザ:海外の動き/海外発生

今、カナダ国民は混乱しています。 先日来お伝えしている「季節性ワクチンヤブヘビ報道とそれに続く当局の動き」は氷山の一角にて、評論家が直言。

Andre Picard氏の評論。

現在のカナダの状況はconflusionである。混乱がいっぱい集まりごちゃごちゃになった状態。

H1N1に関する、矛盾するニュースがとどまること知らぬ流れの如く押し寄せてきている。ここ数週間だけで、以下のニュースが次々と出てきた。

  • インフル予防に最も効果の高いのは手洗いである。
  • 新型インフルワクチンは十分な量用意され、インフルシーズンまで十分な時間的余裕がある。
  • 新型インフルと季節性インフル両方のワクチンを接種すべきである。互いにオーバーラップするところは無いから。
  • 季節性ワクチンを接種したら、新型インフル罹患の確率が高くなる。そしていくつかの保健当局は季節性インフルワクチン接種計画を中止した。
  • H1N1が優勢になるだろうから新型インフルワクチンだけを接種するのがベストである。しかし、後日、季節性ワクチンキャンペーンも行われるであろう。
  • インフルシーズンは予想より早く到来し、ワクチンは11月まで接種できない。
  • 季節性ワクチン接種を受けた群は、新型インフル感染リスクは少ない。
  • 手洗いは実際にはあまり感染を防げない。

これらが混乱のもとである。
さらに加えてワクチン製造法のこと(カナダではアジュバント入り、米国はアジュバント無し)、安全性確認臨床試験妥当性、接種回数は1回か2回か・・・

一体、科学者と公衆衛生当局は協調してやるという事が出来ないの? と思われるかもしれない。

実際のところ、今起こっているのは、科学的にはノーマルなことなのだ。まず仮説が立てられ、それを検証し、結果にそって政策が立てられる。難しいのは、こうした科学的議論は技術的なところで行われ、世の中に提示されるとき、一般と共通の言葉で出てこないところにある。科学的議論は専門的・正確そして曖昧な面をもって語られる。

それに対して、社会一般、マスコミ含めて、シンプルな白黒はっきりさせた答えを求める。 「新型インフルは本当にコワイの?」「私はワクチン打つべきなの?」「ワクチンは安全なの?」

公衆衛生当局に求められる役割はこれら2者の橋渡しである。通訳の役割を。

しかし、公衆衛生当局は、コミュニケーションの役割を十分はたしてこなかった。手を洗えと忠告することはすれど、人々がわかりやすく咀嚼して説明するということはしてこなかった。

彼ら(当局)は、不確かなことをクリアにするという、最も大事なスキルを身につけていない(They have not mastered the all-important skill of conveying uncertainty with clarity)。

 それどころか、水から出てしまった魚のように右往左往し、科学者、一般人ともに混乱させ、混乱をクリアにするより拡大させてしまった。

以下、保健当局の批判、そして、基礎的事項のおさらいと続きます。

う~ん。これは難しいところです。保健当局の無能のせいにしてしまえば、それは簡単でしょうが・・・
こういう評論がまかり通れば、行き着くところは「民は依らしむべし、知らしむべからず」という所になってしまいそうな気がします(もちろん、そんな事は書いてないけれど)。

オルポートとポストマンの法則というのがあります。流言・噂が流れる量は、「重要さ」と「あいまいさ」の積であらわされる。
流言が流れ社会不安高まる・・・という事を少なくするには、やはり、「ちぎっては投げ」式のこまめな情報が社会に流れるのが良いのではと、これは、SARS@北京での現場実感でもあります。

今、瞬間的に、カナダ国民は混乱し右往左往しているのだろうけれど、長い目で見てみれば、「矛盾した情報から、科学的仮説から、どうやって自分の行動を決めてゆくか良い訓練」になるのではと思います。
日本では、マスコミ情報が右向け右!式になりがちという側面もあり、上記箇条書き部分はあまり社会に伝わっているとは言いがたいのも事実です。ただ、ワクチン「ヤブヘブ」も「有効」も「手洗いだけでは×」も当ブログでは既にお伝えし、それなりのアクセス数でお応えいただいています。幾人ものお母様からメールやコメントいただき、そこにはじっくり自分の頭で考え、意見を求め、そして考えと、やりとりにも頼もしいものが感じられました。きっとこの方々に育てられたお子様方は立派な大人に育つのだろうなあと。日本でも一部では「矛盾した情報から、科学的仮説から、どうやって自分の行動を決めてゆくかの良い訓練」はちゃんと行われているようです。

そしてカナダ保健当局。次々と新知見が出てくる中での右往左往で鍛えられてゆくのでしょう。かつて当ブログではカナダ当局を揶揄するような事を書いたこともありますが、”公衆衛生先進国”だといって高姿勢(今から振返るに、ある時期、カナダ公衆衛生が日本よりすすんでいるかの如く記述がいくつかのサイトで繰り返され管理人が苛々していた一面があったかもしれません)なら揶揄でも、今こうやって、マスコミ・評論家に”They have not mastered the all-important skill of~”なんて無能扱いされながら国民とともに右往左往(they have flip-flopped around like fish out of water)するカナダ当局の姿を見せられると、逆に、暖かく見守ってゆきたいと気になるこの頃です。

ソースはThe globe and mail↓
http://www.theglobeandmail.com/life/health/stop-theconflusionhere-are-theh1n1-facts/article1317237/

Stop the conflusion: Here are the H1N1 facts


 

 

この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 季節性ワクチンは有能だ!と... | トップ | 論文紹介いただきました »
最新の画像もっと見る

インフルエンザ:海外の動き/海外発生」カテゴリの最新記事