以下は今朝の産経新聞3頁からである。
中国の知財侵害 巧妙化
トランプ米政権が中国製品に高関税を課す制裁措置の発端となった知的財産侵害の問題。
中国では従来、模倣品を大量に出回らせる単純な知財侵害が横行してきたが、近年は、米企業の従業員やサイバー攻撃などを駆使して、機密情報を窃取するなど手口の巧妙化が目立つ。
空港でUSB手渡し
「お土産です。サンドイッチと一緒にかんじや駄目ですよ」
昨年2月7日の昼過ぎ。
米ワシントン近郊のダレス国際空港のラウンジで中国人男性が流暢な英語を話しながらサンドイッチが入った袋を一緒に食事をしていた男性に手渡した。
袋には、サンドイッチとともに長さ1センチ弱の小型USBメモリーが入っていた。
USBを提供した中国人男性は、米東部デラウェア州の化学メーカーの研究開発の部署で勤務していた従業員。
情報漏洩の調査にあたった危機管理の専門家、ティム・オグラッソ氏によると、USBには同メーカーの研究者が書いた発表前の論文などのデータが保存されており、渡した相手は中国人民解放軍の関係者と判明したという。
オグラッソ氏は「同様の手口で中国人の従業員が機密情報を漏洩した事実を昨年だけで複数確認した。私が見つけたのは、氷山の一角だろう」と指摘する。
1ヵ月で2万件以上
今年6月中だけで2万件以上―。
民間の研究機関「情報安全保障研究所」(東京)の主席分析官、今泉晶吉氏は独自調査で中国がサイバー攻撃で米国から情報を窃取した件数を突き止めた。
具体的な手口は、米国内で軍事に関わる職員や企業従業員らがウイルスが仕掛けられた不正なアプリやソフトをスマートフォンやパソコンでダウンロード。
ウイルスに感染したら、情報が中国政府に支援を受けるハッカー側に自動的に流れる仕組みだ。
今泉氏は「少しずつ水漏れするように情報が流れていく。盗まれた情報量は大きな水たまりになるが、被害者は盗まれた事実になかなか気づけない」と話す。
米ホワイトハウスは6月19日、制裁関税の正当性を主張するため、中国の知財侵害の事例を例示した報告書を発表した。
米政権は報告書で、サイバー攻撃による技術や知財の窃盗などを指摘している。
模倣品の製造は規制
テクノロジーを駆使して情報を裏で盗む中国だが、10年以上前は他国のコピー製品を堂々と国内外で厖大する手口が目立っていた。
「ここは、日本の展示会か?」
2002年。当時、日本貿易振興機構(JETRO)北京センター知財室長を務めていた日高賢治氏は視察に訪れた上海の業務用ミシンの見本市で言葉を失った。
数千台のミシンの大半は中国の企業名で展示されていたが、「デザインは日本のメーカーの丸写しで、中国政府も黙認していた」(日高氏)。
だが、その数年後、情勢が変わった。
中国の事情に詳しい元日本特許庁長官の荒井寿光氏によると、05年ごろから模倣品などを製造する企業の取り締まりを強化。
14年には北京などで知財侵害を扱う裁判所が同国で初めて設置され、模倣品を展示する光景は国内でほぼ見られなくなったという。
荒井氏は「世界貿易機関(WTO)の加盟国から批判にさらされ、追い詰められた中国は表向き『ニセモノ国家』から決別せざるをえなくなった」と話す。
ただ、元陸上自衛隊システム防護隊隊長の伊東寛氏は「中国は知財分野の優等生ぶりをアピールする一方で、情報窃取の手口は巧妙化している」と指摘する。
(板東和正)