文明のターンテーブルThe Turntable of Civilization

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感情を排除してありのままに発言を解釈すれば、「財務省の職員が自殺したから安倍総理が主犯である」とする何の脈絡もない原理と

2018年04月24日 10時16分03秒 | 日記

以下は前章の続きである。

自殺者を利用した山井議員 

ここで言う論理チェックとは、被疑者側・追及側の主張に論理的な誤りである【誤謬logical fallacyが存在するか否かを判定することです。

具体的には、各者の主張に含まれる演繹的推論、あるいは帰納的推論における(1)論証構造(2)原理(3)概念・情報に対して、誤謬の有無をチェックすることになります。 

この論理チェックの結果、各者の主張に誤謬が存在する場合には、事案の真偽を確定することができないと判定され、逆に主張に誤謬が存在しない場合には、事案の真偽が確定されるか、既出の証拠では真偽を確定できないことが確定されます。 

このような論理チェックを常に繰り返すことで、被疑者側・追及側の詭弁に騙されることなく、事案の真偽を把握できることになります。 以下、演繹的推論・帰納的推論の別に、過熱する追及側の主張に認められる誤謬の例を示しながら、(1)論証構造(2)原理(3)概念・情報に対する論理チェックのポイントを示したいと思います。

1・演繹的推論に対する論理チェック 

演繹的推論とは、正しい論証構造の下で、普遍的な原理に従って、前提となる概念から結論となる概念を厳密に導くものです。

1・1 論証構造 

演繹的推論では、事実のみを前提として結論を導く論証構造が要件となりますが、今回の野党の追及ではこの最低限の要件が確保されていない言説が散見されます。

「財務省『森友文書』改ざん問題野党合同ヒアリング」において、希望の党の山井和則議員が、書き換えの目的について次のように主張しています。 

[前提1]安倍総理は「私や妻が関係していたら総理も国会議員も辞める」と言った。 

[前提2]財務省はこれに合わせるために改ざんして安倍昭恵夫人の発言を削除した。 

[結論]財務省は安倍総理が主犯であることを隠ぺいしようとしている。 

この主張は【覆面男の誤謬masked man fallacy】と呼ばれる形式的誤謬であり、事実の証明になっていません。

山井議員の主張のうち、[前提1]は事実ですが、「前提2」は個人の認識に過ぎず、山井議員は事実と個人の認識を混合させる誤った論証構造の下で「結論」を導いているわけです。 

事実と、個人の認識を混合させた推論で得られるものは仮説に過ぎず、山井議員は財務省の役人に対して仮説を無理強いしているということになります。

1・2 原理 

演繹的推論は普遍的な原理に基づいて結論を導きますが、今回の野党の追及では、その原理に誤りがある言説が散見されます。

ここでも、上述した山井議員の主張を例として説明します。 

「国民は誰一人として理財局の単独犯行だと思っていない。バレている。図星だと思うが、正直に言ってもらえないか」 

この主張は、結論が含まれた前提によって結論を証明する【先決問題要求begging the questionと呼ばれるものです。

そもそも、「国民は誰一人として理財局の単独犯行だと思っていない」という前提も事実ではく憶測に過ぎませんが、この主張では、そのことがバレているので「理財局の単独犯行ではない」という結論を暗示しています。 

また、この主張では、「国民」の認識を勝手に決めつけて、それをある種の権威として用いて自説の根拠としています。

これは権威者の言説を無批判に肯定して推論する【権威に訴える論証appeal to authority/ad misericordiam】のヴァリエーションです。 

さらに山井議員は、次のように続けます。 

「職員の尊い命も失われている。いい加減、安倍総理のために財務省も日本の国もメチャクチャにするのは止めてもらいたい。職員の人が亡くなっているではないか」 

これは、情報受信者に同情心を喚起させて自説に導く【同情に訴える論証appeal to pity/ ad misericordiam】という【感情に訴える論証appeal to emotionの一つです。

感情を排除してありのままに発言を解釈すれば、「財務省の職員が自殺したから安倍総理が主犯である」とする何の脈絡もない原理となります、これは、自説を正当化するために明らかに自殺者を利用するものです。 

山井議員は2018年2月28日、衆議院予算委員会において泣きながら質問を行いましたが、その内容も政策議論の本質とは直接関係しない【感情に訴える論証】に過ぎません。 

また、「財務省と日本をメチャクチヤにしているのは安倍総理のためである」とする明らかな【ルサンチマンressentimentの原理で結論を導いている点では、典型的な【人格に訴える論証】を展開していると言えます。 

さらにこの問題の本質は、書き換えの事実関係について解明することであるにもかかわらず、わざわざ【論点転換diversion し、事実解明が前提となる責任追及を行っています。 

いずれにしても、わずかな発言にこれだけ様々な原理不全が認められる山井議員は、言論の府の構成員として明らかに不適格と言えます。

事実の解明を野党に期待するシチュエーションのなかで、このような不合理発言が頻繁に飛び出すようでは、野党は一層国民の信頼を失うことになるものと推察します。


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