以下は月刊誌HANADA今月号の巻頭に掲載されている大阪大学名誉教授加地伸行氏の連載コラムからである。
儼矢…強軍(矢はミサイル)まさに至らんとす。以て(だからこそ) 盾…矢を防ぐ武具…(対抗軍備)無かるべからず。
老生、老耄(おいぼ)れて、ただただ昔の記憶の世界に沈みこんでいる。
そして世の老人の決り文句、昔は良かったと呟く日々であったが、暇つぶしにテレビの国会中継を観ていて、疑問に思った。
森友学園が公有土地売買をめぐって、あれこれ手を尽して安くしてもらおうとしたとき、財務省側(実質窓口は近畿財務局)が非常に安くした云々……に始まり、近畿財務局の公文書が改竄されているのではないか云々……となり、その総責任をとって国税庁長官が辞任という話。
これがなぜ大騒ぎとなるのか、分らない。
分らないその訳ははっきりしている。
この騒ぎにおいて、公務員側が収賄したのか、森友学園側は贈賄したのか、そのような点等々がまったく出ていないからである。
贈収賄もないのに、なぜ国会は問題にするのか。
となると、下世話風に言えば、何もないのに因縁をつけて脅すやくざ者の手口とほとんど同じではないか。
それこそ、品格の欠片(かけら)もない話である。
そんな暇があるのなら、野党は贈収賄に由る公有財産の私物化を根拠にして、司法に捜査を依頼することだ。
もちろん、その際、疑惑の根拠をきちんと揃えて出す。
それが、立法・司法・行政三権の分立を守るということではないのか。 しかし、そういう正面な手順を踏むことは、まずないであろう。
と言うのは、国会議員の多くの者の言動は、テレビの国会中継だけを意識してのものがほとんどだからである。
三権分立なんて頭のどこにもない。
ただただテレビに映る己れの映像だけが命なのである。
なぜなら、テレビ信仰があり、テレビに出ているということ自体に宣伝価値を抱き、その映像を中心にして選挙区に御披露目、おひろめ。その程度の人問である、本性は。
国会が議すべきものは、もっと他に数多くある。
例えば、国防問題。
となると、早速、彼らは反対する。
日本は平和を守っています、軍もありません、もしどこかの国が攻めに来ましたら、戦わず白旗掲げて仲良くし、話し合うので大丈夫云々……などという言説の下に。
うんざりである。
もう厭(あ)き厭き、そういうお経を聞くのは。
老生、国防問題の主柱である軍事について議論する前、現実的重大案件を先に議論すべきであると思うので、それについて述べたい。
それは、緊急時における国家組織の安定である。
もし仮に東京が他国に由って壊滅的打撃を受け、首相以下の重要人士が不在となったとき、どうあるべきか、どうすべきか、という問題である。
老生の結論だけを先に述べよう。
人材の多い地域-と言えば、名古屋・京阪神・福岡等であろう。
それら被害なき地が候補。
例えば、名古屋としよう。
東京が前述のように壊滅したとき、臨時に、愛知県知事を首相代理とし、愛知県組織を現中央省庁代行とする。
そして日本国民全員が協力して、国家の運営をする。
もちろん、その間、生き残った閣僚や中央省庁職員は、東京からたとい徒歩ででも名古屋に行き合流する……。
この第二首都・第二閣僚・第二中央省庁のみならず、安全のために、第三、第四、第五まで決めておくべきであろう。
もちろん、これに伴なう細かな問題が数多くあるであろうが、それは徐徐に解決してゆけばよい。
なによりもまず第二首相(首相代理)・第二中央省庁以下を立法化すべきであろう。
このような立法こそ国防の第一なのである。
こういうようなことを真剣に議論することこそ、国会の任務ではないのか。
それに比べれば、森友問題など井戸端会議あたりで扱っていい、小さな愚劣な問題である。
冷静に見よ、他国からの攻撃は、目前ではないか。
古人曰く、儼矢(強襲飛行武器)まさに至らんとす。以て 盾 無かるべからず、と。