「あなたは他の土地からここにやってきたの?」と彼女はふと思い出したように僕に訊ねた。
「そうだよ」と僕は言った。
・
・
・
「僕に思い出せることはふたつしかない。
僕の住んでいた街は壁に囲まれてはいなかったし、我々はみんな影をひきずって歩いていた」
そう、我々は影を引きずって歩いていた。この街にやってきたとき、
僕は門番に自分の影を預けなければならなかった。
「それを身につけたまま街に入ることはできんよ」と門番は言った。
「影を捨てるか、中に入るのをあきらめるか、どちらかだ」
僕は影を捨てた。
~世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド
村上春樹~
「そうだよ」と僕は言った。
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「僕に思い出せることはふたつしかない。
僕の住んでいた街は壁に囲まれてはいなかったし、我々はみんな影をひきずって歩いていた」
そう、我々は影を引きずって歩いていた。この街にやってきたとき、
僕は門番に自分の影を預けなければならなかった。
「それを身につけたまま街に入ることはできんよ」と門番は言った。
「影を捨てるか、中に入るのをあきらめるか、どちらかだ」
僕は影を捨てた。
~世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド
村上春樹~