「坪尻」駅は土讃線の阿波池田駅より高松方面へ3つ目の駅である。
徳島県と香川県の境の、猪ノ鼻峠の下にある谷底の駅で、
周囲を急峻な山々に囲まれた場所にあるため、汽車か徒歩で行くしか方法がない。
この無人の駅は、トンネルとトンネルの間の、猫の額のような狭い平地に、
時間に忘れられたようにひっそりと建っていた。
時空を区切るトンネル
日本に3か所以上はないと言われる秘境の駅で、
JR四国が開設60周年を記念してミステリーツアーを企画、
一躍人気のスポットになり、今では関東はもちろん青森や九州方面から、
若い人や中高年のファンが多く訪れる場所となった。
また此処は勾配が急なためスイッチバック方式が採用される珍しい駅でもある。
珍しい「スイッチバック方式」
駅に降りて帰る汽車を待つ60分間、何もすることがなく、
正に壺の底に居るような、また、1坪の庭を思わせる駅周辺の広さに
「坪尻」とは良くつけた名前だと感心した。
時空に忘れられた坪尻駅
不気味なくらいの静寂の中で思いだした、
昭和38年10月14日~15日にかけて起きた事件は、
映画「13日の金曜日」を思わせるものだった。
多度津方面トンネル
樫尾 何某が、池田町のヒカゲ浄水場管理人一家を斧で惨殺、
女2人、子供2人、男1人の計5人の命を奪い、
1万5千円だったと思う金額を盗み、この地に逃亡、
徳島・香川・愛媛の警察を大動員させたことは、静かに暮らすこの地の人々と、
県警察本部を震撼させた事件だった。
トンネル以外何もない
西村 望の書いた「鬼畜」はその事件を描いたものである。
物音1つしない静寂の中に居て、なぜ急に古い事件を思い出したのか分からない、
山の気が霊魂を呼んだのかも知れない。1つ隣の箸蔵駅は町の賑わいを見せて、
坪尻駅とは別世界のようだ。
あの駅は未だに昔のまま時空に置き忘れられた駅だと思う。
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