興味津々心理学

アメリカ発の臨床心理学博士、黒川隆徳によるあなたの日常の心理学。三度の飯よりサイコセラピーが好き。

孤独について

2012-11-24 | プチ精神分析学/精神力動学

 今回は、yumeさんの2つ目の質問、「孤独」について考えてみようと思います。この質問も、非常にOpen-endedで、奥の深いものです。後に述べますが、これは実際、我々人間が誰でも多かれ少なかれ経験するもので、それ故、実存主義的、Existentialな問題でもあります。以下がYumeさんからの質問の引用です。

*******************************

【1.孤独について】
私は、さびしいという感情をよく感じます。つらい感情ですよね。好きな人たちと交流をする時間はもちろん好きなので、そういう時間も持てています。一人の時はその時間を楽しむ努力もして、楽しむこともできています。それでも、さびしいという感情が根強く残っているような気がするのです。自分でもこんなにさびしがり屋だったのかと、びっくりしています。
一人で生きていけるようにならなくてはいけないという気持ちと、一人になるのが怖い・さびしいという気持ちで葛藤することがあります。このさびしさにどう折り合いをつけるか、克服するか、なかなかいい方法や方向が見つかりません。

*******************************

 孤独感、Lonelinessにおける理論は、社会心理学(Social psychology)、認知心理学(Cognitive psychology)、実存心理学、及び人間性心理学(Existential psychology, Humanistic psychology)、対象関係論(Object relations theory)など、心理学におけるいろいろな分野で展開されています。

 社会心理学と認知心理学の孤独感の定義は多少異なるものの、共通のキーポイントは、その人の他者との交流におけるこころの必要が(きちんと)満たされていないときに経験される感覚であるというところで、つまり、誰とどれだけの時間一緒に過ごしたか、という量(Quantity)的なものよりも、質(Quality)的なものである、ということです。

 分かりやすく言うと、どれだけたくさんの人といろいろな時間を過ごしても、そこでその人たちと質的に十分なこころの交流がなかったら、人は孤独感を経験するし、逆に、時間や人数こそ限られているものの、そこに本当の、深いこころの繋がり、交流を経験できていたら、その時間が終わってさびしい気持ちはあるかもしれませんが、その良い経験が内在化されて残るため、苦痛な孤独感にはなりません。むしろ、その次にまた会うことが楽しみになります(これはもちろん、定期的に会っている人たちについてのことで、海外出張の単身赴任の夫を持つ女性が、半年振りに彼と再会し、良い時間を過ごしたけれど、今度会えるのはまた半年後、などという場合は話が異なります)。

 ここで、まず考えてみるのは、あなたがその好きな人たちと、どのくらい本当に深いところで心のつながり、心の交流を経験できているか、ということです。その人たちに、あなたはいろいろな感情、考え、思いなど、自由に共有できているでしょうか。また、共有したものを、きちんと聞いてもらっている、理解されている、という感覚はありますか?また、逆に、彼らはどのくらいあなたに彼らのことをシェアしてくれますか。彼らが今何を経験していて、何を感じていて、何を思っているのか、どのくらい知っていますか。これらのことは、どの親しい人間関係においても大事ですが、とりわけ、あなたのパートナー、配偶者、恋人との人間関係において重要です。というのも、他にどれだけ良い人間関係があっても、あなたの第一の人間関係、第一のサポートシステム(Primary support system)である人との繋がりに問題があったら、人は孤独感を経験し続けます。

 さて、上記の質問に、すべて肯定的で確信のある回答ができるようであれば、あなたは対人関係的な問題はあまりない、ということですが、もし何か問題がある、という場合は、まず、彼らとの人間関係を深めることを追求してみましょう。どうしたら彼らとより深く心の繋がりが持てるか、より親しくなれるか、より理解し、理解されるか、考えていろいろと試してみましょう。

 ところで、Yumeさんの場合は、孤独感をきちんと経験できているので、改善は割りとしやすいと思います。本当に問題なのは、そうした孤独が慢性的になって、やがてその気持ちを満たすことを諦めてしまって、無意識にそのこころの必要を自分から切り離して否定しまっている人たちです。彼らは、自分が孤独であることすら忘れて生きています。その満たされない必要を感じ続けるよりかは、それを無意識に否定(Denial)するほうがむしろ精神的に楽だからです。

 さて、ここまで述べてきたのは、対人関係、Interpersonal relationshipについてですが、もうひとつ非常に大切な側面に、Intrapersonal (Intrapsychic) relationship、つまり、自分自身との関係性、というものがあります。これは、Yumeさんのほかの質問、「自信について」の記事でも触れたことですが、あなたが自分自身とどれだけ繋がっていて、どれだけ自分の気持ちに敏感で、その自分のこころのニーズを満たしてあげているか、ということ、つまり、あなたがどれだけあなた自身のよい親であるか、ということに繋がります。

 なぜなら、自分の本当の気持ちに向き合ったり、感じたりすることが出来ずに、向き合う代わりに、いろいろな人との人間関係や、他人の問題に集中して、そちらに注意を逸らして生きている人は世の中に少なくないからです。それがひどくなると、いろいろなグループの人間関係の問題やドラマに常に参加して自分を忙しくしたり、恋人やパートナー以外のひとと関係を持ったりします。なぜ彼らがそのように振舞うのかといえば、幼少期に、親との人間関係で、その人たちの気持ちが親に無視されたり(親に悪気はなくても)、その気持ちを軽視されたり、大事にされなかったりした経験があったり、親のほうに何かしら問題があって、子供であった彼らが、逆に親の気持ちのニーズを満たすことで生きてきた経歴があったりするからです。

 人は、子供のときに、親から自分の気持ちを汲んでもらい、共感してもらい、その気持ちを正確に反映してもらうことで、自分がどういう気持ちを経験しているのかよく理解できるようになり、また、そうした親の態度から、自分の気持ちを大切にすることを学びます。その機会がなかったり、希薄だったりすると、ひとは大きくなって、自分の気持ちに目を向けることができないし、また、他人の気持ちを満たすことで代理的に自分の気持ちを満たしたりします。

 もしこれらのことがあなたに当てはまるようであれば、ここでやはり大切なのは、あなた自身があなたのよい母親になることです。今、この瞬間に、あなたが何を感じていて、何を思っていて、どのようなこころのニーズがあるのか、耳を澄ませて聞いてあげてください。そして、そのニーズをどうしたら満たしてあげられるか、いろいろと試すのです。そうした心がけを続けること自体が、自分の感情、情緒体験に敏感になるプロセスで、これを続けていく中で、あなたのあなた自身との人間関係はだいぶよくなり、孤独感も減ることでしょう。

 さて、そのようにして自分の気持ち、こころのニーズをよく理解できるようになったら、それをあなたの親しい人たちに伝えることを心がけてください。最初に述べた、Interpersonalな関係の改善になります。Intrapersonalな、つまりあなたのあなた自身との関係の改善は、そのままあなたのInterpersonal、対人関係の改善へと繋がるのです。そして、あなたのこころのニーズを聞く機会を得たあなたの近しいひとが、そのニーズに答えてくれたり、答えようと努力したりしてくれることで、あなたは彼らとより深い人間関係を経験します。そのこころの繋がりは当然あなたの孤独感を減少させます。

 最後になりますが、この世の中に、完全に独立したひとは存在しません。あるのは、成熟した、上手な依存(Mature dependency)と、機能不全な、未熟な依存(Dysfunctional dependency)だけです。つまり、あなたはひとりで生きていく必要はないし、また、ひとりで生きていこう、という心がけ自体が、人間の本来持っている性質に反するもので、それはあまり健全なありかたとはいえません。自分自身の依存心を無意識に否定して生きているひとはいますが、彼らが成熟した人格者であるかといえばそうとはいえず、彼らが本当に幸せであるかといえば、それは大いに疑わしいところです。そして、世の中の多くの立派な人たちは、まず必ず、彼らの近しいひとたちに、上手に依存しています。これは、健全なInter-dependence(相互依存)のあり方で、Co-dependence(共依存)とは異なるものですが、これはまた長い話になるので別の機会に話します。

 孤独感とは、辛い感覚ですね。しかし、その感覚は、あなたの何かのニーズが満たされていない、という大切なシグナルなので、そのシグナルを大切にし、あなたのこころにじっくりと向き合って、そのニーズを見極めて満たしてあげることが大切です。孤独感とは、人間にとって本質的に避けられない感情です。克服するものではないかもしれません。しかし、それを上手に使えば、より深く自分を理解し、大切にし、大切なひととより健全に深く繋がれるようになり、孤独を経験することもずっと少なくなります。逆説的ですが、ひとは孤独感から回避しようとすればするほどその孤独感はついてくるし、その孤独感とじっくり向き合えば、それは減少するのです。

 

 


最新の画像もっと見る

4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (yume)
2012-12-01 22:42:00
孤独についてもご意見いただき、ありがとうございました。

おっしゃる通り、もしかしたら”質”的な意味で交流が不十分なことが多かったのかなぁとちょっと思います。わかってもらえないような気がしたり、聞き役が多かったり、どこかさびしかった気がします。
それから、自信の記事でもあったように、自分の良い親になってあげる、というのが私にはいいのかもしれないですね。
ひとりで生きていく必要はない、という言葉になんだか安心した気がしました。でも、わかりあうとか上手な依存といういことは、やり方という意味でもチャンスという意味でも難しいものですね。
でも、トライしてみる価値がありそうだなと思いました。ありがとうございます。

記事中に、単身赴任の夫を待つさびしさは別だ、との記載がありましたね。こうした別離や、関係性が終わる時の(強烈な)さびしさの癒し方は、記事のやり方とは違うということでしょうか。
Unknown (Yodaka)
2012-12-03 16:46:38
Yumeさん、

そうですね、聞き役が多いひとは、しばしば自分自身の気持ちを誰かに表現したり、じっくりと話を聞いてもらう機会が不足していたりします。バランスの取れた、真に互恵的な関係が築いていけたら、寂しさはずっと和らぐと思います。それから、自分の良い親になる、つまり自分自身との人間関係ですね。上手な依存、やり方はいろいろと試行錯誤が必要ですが、チャンスはたくさんありますよ。まずはその今は見えみくいけど確かに存在しているチャンスを見極めていくことが大事だと思います。

海外に単身赴任の夫をもつ女性は、その離れるときの現実的な難しさが、一緒に暮らしている夫婦、また、赴任でも隣の県、という夫婦と比べて強いわけですが、それでも、彼らが本当に深いところで繋がっていて、とても親密で、深い絆があったら、ひとりでもふたり、という境地が存在するから、やはり、どれだけこころの繋がりを、親密さを深めるかが鍵だと思います。ただ、そのカップルに要求される親密さ、繋がりの深さのレベルが格段なものなので、別だと書きました。根本は同じものです。
主体的な距離の取り方 (シオピー)
2013-08-10 18:52:45
人との境界線の位置関係が、現実の自分を正確且つ十分に理解し合えるものであるかどうか、これにより人は、他人の自己中心的抑圧に脅かされたり、希薄さ故に孤独に陥ったりするのだと理解できます。

人は社会的な存在であり、決して一人だけでは生きられない生き物であればこそ、主体的な関係性維持の重要性と難しさを、日々思い知るのだと思います。

誰と誰の関わり方を、どのように深め、或いは距離を置くべきか、自らの今後の現実の質的向上に、大きく影響する重大事であることに間違いなさそうです。
Unknown (Todaka)
2013-09-30 14:42:29
シオピーさん、

かつて、日本の社会不安障害、対人恐怖症の心性について内沼氏が展開していた精神力動学(これは対人恐怖症に限らず、日本人心性一般に通じる理論だと思いますが)で、人が、その対人関係のなかで、没我性、我執性の二極の間を行き来し続ける様子が説明されていましたが、実際人は、その微妙なバランスのなかで生きている社会的な存在ですね。

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。