多くの人が、高校で文系コースに進むか理系コースに進むかの選択の時に、「数学が苦手だから文系」「数学が得意だから理系」と、数学を基準にコースを選んだ人も多いのではないだろうか。特に私立大学文系学部の入試科目は、国語、英語は必須でも、数学は社会との選択になっていることが多い。「数学が苦手だから」という理由で、私立大学文系学部を志望した人も多いはずだ。
ところが、2021年からはもはや数学を避けて通れなくなるかもしれない。現在実施されているセンター試験に代わり、大学入学共通テストが実施される。ここでは数学が必須科目となる。そして、早稲田大学が、政治経済学部、国際教養学部、スポーツ科学部でこの大学入学共通テストに参加することを表明した。他の大学の動向はさまざまだが、これまで数学は苦手でも文系科目を頑張れば、私大文系の最高峰の一つとされる早稲田大学政治経済学部に入れたのに、2021年からはそれが不可能になるインパクトは大きく、多くの文系学部もこれに追随し、大学入学共通テストに参加するのではないかと見られている。もはや大学受験生は、文系志望でも数学を避けて通れなくなる。
「思考力・判断力・表現力」を養うのに数学という科目が適している
では、なぜ大学入学共通テストは数学を必須科目にしたのか。文部科学省は「知識・技能」「思考力・判断力・表現力」「主体性・多様性・協働性」を学びの3要素として定めていて、このうちの「思考力・判断力・表現力」を養うのに数学という科目が適しているからだ。
2020年度に小学校から順次必修化されていくプログラミング教育も、プログラミング言語をマスターさせてエンジニアを養成するというわけではなく、プログラミングを通じて「思考力・判断力・表現力」を養うのが目的だ。
ビジネスの現場でも必要な「思考力・判断力・表現力」
では、なぜ文部科学省は「思考力・判断力・表現力」にこだわるのか。それは現在のビジネスの中で業種にこだわらず「思考力・判断力・表現力」の3つが必要だからだ。
ビジネスの現場で、因数分解や三角関数が必要というわけではなく、あくまでも数学を学ぶことで養われる「思考力・判断力・表現力」が必要だということだ。数学以外の方法で養ってもいいのだが、数学ほど適している教材は他にはあまり見当たらない。
数学が苦手な人にとっては、数学は「意味不明の公式を山ほど暗記させられる科目」というイメージを持っていると思う。あれは、単に期末試験の問題が作りやすいから覚えさせられていただけで、数学の本質ではない。今の数学の授業は変わりつつあり、公式の暗記などというナンセンスなことはせず、必要があれば公式集を見るようにして、その公式を使って課題を解くことを問うようになっている。
ビジネスの現場で因数分解が必要になることはまずないと思うが、万が一必要になっても、公式はネットか何かで調べて使えばいいだけのことだ。
このようなテスト向けの数学を除いた思考力、判断力、表現力は誰にでも備わっている。例えば、「弊社の組織は、開発部と営業部が密接に協働し、その業務を総務人事部と経理部が支援しています」と文章で説明するよりも、
弊社=(開発部×営業部)+総務人事部+経理部
と数式風に表した方が、直感的に理解しやすくなるのではないだろうか。あるいは図解でもいい。こういう表現力はビジネスの場では、考え方を共有するためにきわめて重要な能力になっている。