Shpfiveのgooブログ

主にネットでの過去投稿をまとめたものです

Yahoo!知恵袋で見かけたトンデモ議論(20) 日ソ中立条約を先に破ったのは日本などというような人に日本国政府をバカにする資格などない その2

2019-01-31 22:05:20 | 政治・社会問題
こちらの続きです。

・米国ダレス国務長官に恫喝され4島返還主張から後に引けなくなった。


これは、いわゆる「ダレスの恫喝」と呼ばれる、1956年8月19日に当時のアメリカ国務長官だったジョン・フォスター・ダレスが、ソ連と平和条約の交渉中だった日本の外務大臣だった重光葵に

とにかく千島のソ連帰属を認めるということは認められない。いわんや択捉・国後まで含めて認めることなどは認められない。もしも日本がそういう態度をとる場合には、サンフランシスコ講和条約の第二十六条を注意してもらいたい。サンフランシスコ条約不参加の国とのあいだには、サンフランシスコ条約と同一の内容で日本が講和するのが原則であって、もしも条約で規定している以上に、その国に日本が譲歩するというならば、すでに条約を結んでいる国は日本に追加の代償を請求することができる

高野雄一『国際法からみた北方領土』(岩波ブックレット)P42より

と言ったとされるものです。

この時、ダレスは

もし千島をソ連領として認める、いわんや択捉・国後まで認めるという場合には、たとえば沖縄をアメリカが併合することだってあり得る

(上掲書P42より)

とも言ったとされ、重光葵は相当に腹を立てたようです。

重光は、当時日ソ国交正常化の全権として交渉にあたっていた松本俊一に、その憤懣を語っています。

重光外相はその日ホテルに帰ってくると、さっそく私を外相の寝室に呼び入れて、やや青ざめた顔をして、「ダレスは全くひどいことをいう。もし日本が国後、択捉をソ連に帰属せしめたなら、沖縄をアメリカの領土とするということをいった」といって、すごぶる興奮した顔つきで、私にダレスの主張を話してくれた。
このことについては、かねてワシントンの日本大使館に対して、アメリカの国務省からダレス長官が重光外相に述べた趣旨の申し入れがあったのである。しかしモスクワで交渉が妥結しなかったのであるから、まさかダレス長官自身がこのようなことをいうことは、重光氏としても予想しなかったところであったらしい。重光氏もダレスが何故この段階において日本の態度を牽制するようなことをいい、ことに米国も琉球諸島の併合を主張しうる地位に立つがごとき、まことに、おどしともとれるようなことをいったのか、重光外相のみならず、私自身も非常に理解に苦しんだ。


松本俊一『日ソ国交回復秘録』(朝日新聞出版)P125~126

では、重光外相、松本全権をはじめとするソ連との国交正常化交渉に当たっていた政治家たちは、この「ダレスの脅し」に屈して、それまでの方針を変更し、急にソ連側に対して「四島返還」を要求するようになったのでしょうか?

実は1955年6月にソ連との国交正常化交渉がスタートした当初より、松本俊一日本側全権は歯舞諸島、色丹島、千島列島南樺太が歴史的には日本の領土であるということを前提に主張していました。

これは松本俊一全権が1955年6月7日に、ソ連側のマリク全権に手渡した覚書にも明記されています。

該当箇所を抜粋します。


(3) 歯舞諸島、色丹島、千島列島及び南樺太は歴史的にみて日本の領土であるが、平和回復に際しこれら知識の帰属に関し隔意なき意見の交換をすることを提案する。

『日ソ国交回復秘録』P26より


それを踏まえて1955年8月16日に日本側がソ連に提出した条約案にはこうあります。
(言うまでもなく「ダレスの恫喝」より以前のものです)

第五条
一 戦争の結果としてソヴィエト社会主義共和国連邦によつて占領された日本国の領土のうち、
(a) 択捉島、国後島、色丹島及び歯舞諸島については、この条約の効力が生じた日に日本国の主権が完全に回復されるものとする。
(B) 北緯五十度以南の樺太及びこれに近接する諸島並びに千島列島については、なるべくすみやかにソ連邦を含む連合国と日本国との間の交渉によりその帰属を決定するものとする。

『日ソ国交回復秘録』P205 「附属資料」より

さすがに、日本側としてもサンフランシスコ平和条約で正式に放棄している南樺太、「千島列島」の領有権は主張していませんが、同地域が「帰属未定」であるとの判断は示しています。

「ダレスの恫喝」と呼ばれる、日ソ国交回復交渉に対するアメリカの介入は、あくまでも日ソ間の交渉の末に二島返還に落ち着きかけた時に行われたものであって

「ダレスの恫喝」があったから、急に日本側が無理やり四島返還を主張し始めたわけではないんです。


ネットに流布された情報ばかりを信じるのではなく

ちゃんと参考書籍くらいは読みましょう。


Yahoo!知恵袋で見かけたトンデモ議論(20) 日ソ中立条約を先に破ったのは日本などというような人に日本国政府をバカにする資格などない 

2019-01-31 06:56:33 | 政治・社会問題
先日、Yahoo!知恵袋でこのような質問が投稿されました。

NHKの日露首脳会談を見ていて疑問に思ったのですが、これまでの戦後交渉を説明するビデオのところで、「日ソ共同宣言で平和条約締結後に2島を返還することなどが約束されたが、
冷戦によりソ連が領土問題は解決済みであると主張するようになったため、約束が果たされなかった」というナレーションが入っていました。
つまり、アメリカの圧力により日本が約束違反の4島一括返還を主張しだしたため実現不可能となった事実を完全に無視し、もっぱらソ連の身勝手のせいで解決されなかったような説明でした。

NHKは事実を歪めて国民を洗脳するプロパガンダ機関ですか?

https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q10202328780


個人的には私もNHKは確かにご都合主義なことを言っているな、となら思っています。

が、それは別として

当該案件の質問者の方がどのようなご判断でベストアンサーを選択したのかは、ちょっと分かりかねるのですけど

いずれにしても、ここで選ばれた「ベストアンサー」なるものがトンデモ回答であるのは否定しようがないので、あえて、ここで引用します。

さすが安倍さまのNHK。

客観的事実を述べればよい。


・ソ連は米国大統領ルーズベルトに唆されて進軍した。
・日ソ中立条約を先に破っていたのは日本。
・日本がポツダム宣言受諾後も戦闘は続いたが、自衛の戦闘を続ける
日本軍に武装解除を命じたのはマッカーサー。
・米国ダレス国務長官に恫喝され4島返還主張から後に引けなくなった。



日本政府は肝心な記憶がすっぽりと抜け落ち、痴呆なのか?というぐらい愚かな主張を繰り返し、まーこればっかりは安倍さんだけのせいではないけれど日本政府の愚かさは中国さんや韓国さんを笑えないですね。


どこが「客観的事実」なんでしょうね(笑)。

私にはこの人こそ「アメリカに洗脳されている」としか思えませんけど…

まず

・ソ連は米国大統領ルーズベルトに唆されて進軍した。

ここは「アメリカをはじめとする連合国に唆されて」とすべきでしたね。

単なる事実として言えば、ソ連は「ポツダム会談」の時点でも、まだ対日宣戦については態度を保留にしていました。

その理由は以下のようなものです。

https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E6%97%A5%E3%82%BD%E4%B8%AD%E7%AB%8B%E6%9D%A1%E7%B4%84

日本の敗色が濃厚になっていた大戦末期の1945年(昭和20年)4月5日、翌年期限満了となる同条約をソ連政府は延長しない(ソ連側は「破棄」と表現)ことを日本政府に通達した。この背景には、ヤルタ会談にて「秘密裏に対日宣戦が約束されていたこと」がある。さらに、ポツダム会談で、ソ連は、「日ソ中立条約の残存期間中であること」を理由に、アメリカと他の連合国がソ連政府に「対日参戦の要請文書を提示すること」を要求した[1]。

これに対して、アメリカ大統領ハリー・S・トルーマンはソ連首相ヨシフ・スターリンに送った書簡の中で、連合国が署名したモスクワ宣言(1943年)や「国連憲章103条・106条」などを根拠に、「ソ連の参戦は平和と安全を維持する目的で国際社会に代わって共同行動をとるために他の大国と協力するものであり、国連憲章103条に従えば憲章の義務が国際法と抵触する場合には憲章の義務が優先する」という見解を示した[1][2]。

この回答はソ連の参戦を望まなかったトルーマンやジェームズ・F・バーンズ国務長官が、国務省の法律専門家であるジェームズ・コーヘンから受けた助言をもとに提示したものであり、法的な根拠には欠けていた[3]。


スターリン、つまりソ連側は疑う余地なく「日ソ中立条約の残存期間中である」と認識しており、それを理由に、アメリカと他の連合国がソ連政府に「対日参戦の要請文書」、つまり「お墨付き」を要求し、トルーマン、つまりアメリカ側もそれに応える形で文書を用意しているんです。


・ソ連は米国大統領ルーズベルトに唆されて進軍した。


少なくとも対日宣戦に関する限りでは、スターリンはこの時点までは態度を保留にしていましたので、その意味においてソ連はルーズベルト大統領に唆されたから対日宣戦を行ったということはできません。

また

・日ソ中立条約を先に破っていたのは日本。

どこが「客観的事実」なんだ?

こちらの記事でもふれていますが、ソ連の日ソ中立条約破棄は「国際法違反」と考えるのが妥当です。

・日本がポツダム宣言受諾後も戦闘は続いたが、自衛の戦闘を続ける
日本軍に武装解除を命じたのはマッカーサー。


これも嘘、というよりマッカーサーに対する過大評価でしょうか?

日本軍の武装解除は日本国政府の「ポツダム宣言受諾」に伴うものですが、例えば占守島の例なども見てもわかるように「自衛のための戦闘」は引き続き行われており、ソ連軍に対する降伏も現地軍の判断で行われています。

https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E5%8D%A0%E5%AE%88%E5%B3%B6%E3%81%AE%E6%88%A6%E3%81%84

そもそも軍の降伏というのは順次個別になされるのが通例であり、例えばマッカーサーが命令したから「はい、そうですか」と目の前の相手に対して降伏できるわけではありません。
(この件、キチンと説明すると長文になるので、後日別なところで改めたいと思います)

そして

・米国ダレス国務長官に恫喝され4島返還主張から後に引けなくなった。


アメリカ国務長官だったジョン・フォスター・ダレスによる、いわゆる「ダレスの恫喝」と呼ばれるものがあったのは本当のことですけど

日本全権だった松本俊一は、それ以前から四島返還を前提にしてソ連側と交渉していました。

これについては、次の記事で詳しく述べたいと思います。

続きは後ほど、あらためて。

既に音をたてて崩れ落ちている「南京大虐殺」否定論者の願望

2019-01-29 21:15:43 | 近現代史関連
Yahoo!知恵袋で、例によってこのような質問がたっています。

南京大虐殺の嘘は、音を立てて崩れ始めましたか。ようやくですか。
音を立てて崩れ始めた「南京大虐殺」の嘘

森 清勇 2019/01/22 06:00


https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q14202550069?


2015年10月20日、エリザベス女王は習近平国家主席を主賓として迎えた晩餐会を主催した。席上に添えられたのは1本30万円もする仏ボルドー産の高級ワインの「シャトー・オー・ブリオン1989年」だったという。
1989年は民主化を求める学生を中国当局が武力で鎮圧し、多数の死傷者を出した天安門事件があった年で、中国が最も触れたくない年のはず。
1989年ワインは暗喩の皮肉か、かけ値なしのおもてなしか?
ワインはともかくとして、習主席が女王の前で話したのは中国が独豪などと合作した映画で描かれたジョージ・ホッグ記者の話しである。
記者は赤十字職員と偽って南京に入城し、南京虐殺の現場を撮影したところ、日本兵に見つかり処刑される寸前に中国共産党の軍人に助けられるというストーリだという。
習主席にとっては、「南京大虐殺」を現実に目撃した英国人記者で、日本の悪を暴く動かぬ証拠の現場写真を撮った人物である。
暴露されることを怖れる日本軍が彼を処刑しようとしたこと、それを中国共産党籍の軍人が救助したこと、これは素晴らしい英中の友情物語であるし、女王を前にした晩餐会で話すにふさわしいこれ以上の題材は見つからなかったのであろう。
ところが、この台本となったホッグの評伝『オーシャン・デビル』では、ホッグは1938年2月に上海に入国し、漢口を経て、黄石市(湖北省)に移り、ここで戦災孤児施設の教師を務めている。
国民党が孤児を徴兵しようとすると、孤児60人を連れて1100キロ離れたモンゴル国境に近い山丹(甘粛省)に逃れる。孤児たちを戦争から守ったということで、「中国版シンドラーのリスト」として評価されているという。
ホッグは上海、漢口に滞在しているが、南京に入っておらず、しかも上海入国自体が、日本の南京占領(37年12月13日~38年1月13日)が終わった後であることが評伝から明確である。



まず疑問に思ったこと。

ワインはともかくとして、習主席が女王の前で話したのは中国が独豪などと合作した映画で描かれたジョージ・ホッグ記者の話しである。


中国がドイツ、オーストラリアなどと合作で作った映画に、たまたま実在の人物であるジョージ・ホッグ記者が登場したからといって、それが、そのまま歴史的事実だと、なぜ思えるのでしょうか?

徳川光圀は実在の人物ですけど、光圀をモデルにしたドラマ「水戸黄門」がそのまま歴史的事実であると考える日本人は、普通いません。

また黄門様の全国漫遊が史実ではないから、「水戸黄門は実在しなかった」などと言ったらバカにされても仕方ないでしょう。

同様に

ジョージ・ホッグが当時の南京にいなかったからといって、それが「南京大虐殺」が嘘だった証明になるわけではありません。

せいぜい、映画のストーリーがそうなっているんですね、程度の話です。

そもそも、劇中のジョージ・ホッグ記者は、当時の南京にはいなかったはずの中国共産党籍の軍人が救助されるという、その時点でフィクションだと理解しろよ!

という話です。

なお、当時の南京にはニューヨーク・タイムズ社のF・ティルマン・ダーディン記者、シカゴ・デイリー・ニューズのA・T・スティール記者などがおり、彼らによって「南京大虐殺」の様子は記事にされています。

ダーディン
http://yu77799.g1.xrea.com/durdin.html


スティール
http://yu77799.g1.xrea.com/steele.html


最低でも、まずこれらが「嘘」である明確な根拠を挙げてくれないことにはお話にさえなりません。

なお、当のジョージ・ホッグ記者については、こちらが参考になります。

http://scopedog.hatenablog.com/entry/20160831/1472665656


あと、ホッグが南京事件を目撃したとか主張している人が誰かいるんでしょうかね?ホッグは陥落直前の漢口にはいました*1が、陥落時の南京にいたという歴史資料は多分ないと思いますよ。あるとすれば、脚色として、舞台を有名な南京事件の場に変えている映画の中の話だけでしょう。「「南京事件」の現場にもいなかったことが30日までに明らかになった」なんてドヤ顔で報じる方が恥ずかしいと思います。


本当に、こんな映画の話題だけで、ここまで騒げる「南京事件」否定論者の精神構造は疑いたくはなりますね。

ロシアの「北方領土」領有権は国際社会においては支持されていない

2019-01-27 19:23:50 | 国際情勢
一般的にロシア人は、いわゆる「北方領土」(国後、択捉、歯舞、色丹の諸島)について、これは第二次世界大戦の結果、正当な権利として得た自国領土であると認識していると理解しています。

だから、仮にプーチン大統領が日本国に対して、この「北方領土」を返還するなどと言ったら、間違いなく、その政治生命にもかかわる事態となるでしょう。

暴動やクーデターが起こっても不思議ありません。

けれども忌憚なく言わせてもらえば

国際社会は、そうしたロシアの「北方領土」領有権についての主張については、ハッキリと否定的です、

例えばEU諸国はロシアに対して「北方領土」の日本への返還を呼びかけています。

孫引きなので恐縮ですが
https://blog.goo.ne.jp/princeofwales1941/e/f1aab3b739be34e2a4166d8885a329b7

ロシア通信によると、ウラジーミル・チジョフ露外務次官は18日、欧州連合(EU)の欧州議会が今月7日、北方領土の返還をロシアに促す決議を採択したことについて、「ばかげている。欧州議会は別の惑星に住んでいるようだ」と強く反発した。欧州議会の決議は、極東の安全保障強化を東アジア諸国に呼びかけたもので、北方領土については「第2次大戦末期にソ連によって占領された」とし、日本への返還を求めている。北方領土問題をめぐり、主要国で日本の主張を支持しているのは米国だったが、欧州議会が日本支持の決議を採択したのは初めてだった。

「日本政府が南クリル諸島の扱いについて立場を変更する可能性は低い。それに加え、EUと米国の担当者は米国国防相のドナルド=ラムズフェルドの面前でロシアは論争中の四島全てを日本に返還すべきと忠告した(この一文はロシア語版では、「EUと米国は米国国防相のドナルド=ラムズフェルドと欧州議会を通して、ロシアは論争中の四島全てを日本に返還すべきと忠告した」となっている)。プーチンの訪日は今年始めに予定されていたが中止された。11月に予定されているプーチン訪日は両者に何ら利益をもたらさないのではないかという話が出ている。


また中華人民共和国もロシアの北方領土領有の主張については、これを支持せず、例えば中国製の世界地図(例えば新編実用世界地図冊/中国地図出版社発行の地図など)では北方領土は日本領土とされています。

https://hbol.jp/33907?display=b


中にはロシアの北方領土についての主張を支持する国家もあるのかもしれませんけど、例えば台湾(中華民国)を国家承認する少数の国があるからといって、台湾が国際社会から国家として認められているとは言えないのと同様、ロシアの北方領土領有に関する主張も一般的には国際社会から認められているとは言えないでしょう。

それぞれの国家の政治的な思惑はあるとしても、一体、なぜこのようなことが起こるのでしょうか?

理由は簡単で、ロシアの北方領土領有に関する主張には国際法による裏付けがないからです。

北方領土領有の主張の根拠として、ロシア側はヤルタ秘密協定を挙げますが、当事者ではない日本国の同意を得ない「秘密協定」それ自体には(日本国に対する)拘束力がありません。

次に日本国は確かにサンフランシスコ平和条約において「千島列島」を放棄していますが、その「千島列島の範囲は条約の上では明らかになっていません」。


勿論、実際にはいわゆる「南千島」(国後、択捉)がサンフランシスコ平和条約上の「千島列島」に含まれていたのは、当時の日本国政府関係者の答弁を含め、状況証拠から明らかなのですけど

当のサンフランシスコ平和条約の起草国とも言うべきアメリカは、その後1956年9月7日付けの米国政府覚書でこのような見解を述べています。

「米国は、歴史上の事実を注意深く検討した結果、択捉、国後両島は(北海道の一部たる歯舞群島及び色丹島とともに)常に固有の日本領土の一部をなしてきたものであり、かつ正当に日本の主権下にあるものとして認められなければならないものであるとの結論に達した」


出典;高野雄一『国際法からみた北方領土』(岩波ブックレット)P42

つまりサンフランシスコ平和条約の起草国とも言うべきアメリカ自身が、いわゆる「北方領土」は日本国が同条約において放棄した千島列島には含まれないとの「お墨付き」を与えたわけです。

それが歴史的根拠として見たときにどうなのか?

あるいは地理学上どうなのか?

という議論をするのは実際のところ、大した意味はありません。

要は

いわゆる「北方領土」に対するロシアの領有に対する国際社会の支持はほとんどなく、単に日露の係争地としてしか見られていないというのが現実だということです。

更に悪いことに、当のロシア自身が1993年の「東京宣言」において「領土問題」の存在を認めてしまっています。

https://www8.cao.go.jp/hoppo/shiryou/pdf/gaikou46.pdf

2 日本国総理大臣及びロシア連邦大統領は、両国関係における困難な過去の遺産は克服されなければならないとの認識に共有し、択捉島、国後島、色丹島及び歯舞群島の帰属に関する問題について真剣な交渉を行った。双方は、この問題を歴史的・法的事実に立脚し、両国の間で合意の上作成された諸文書及び法と正義の原則を基礎として解決することにより平和条約を早期に締結するよう交渉を継続し、もって両国間の関係を完全に正常化すべきことに合意する。この関連で、日本国政府及びロシア連邦政府は、ロシア連邦がソ連邦と国家としての継続性を有する同一の国家であり、日本国とソ連邦との間のすべての条約その他の国際約束は日本国とロシア連邦との間で引き続き適用されることを確認する。日本国政府及びロシア連邦政府は、また、これまで両国間の平和条約作業部会において建設的な対話が行われ、その成果の一つとして1992年9月に「日露間領土問題の歴史に関する共同作成資料集」が日露共同で発表されたことを想起する。日本国政府及びロシア連邦政府は、両国間で合意の上策定された枠組みの下で行われてきている前記の諸島に現に居住している住民と日本国の住民との間の相互訪問を一層円滑化することをはじめ、相互理解の増進へ向けた一連の措置を採ることに同意する。



ちなみに、ここでいう「帰属」は「日本への帰属」ではありません。

あくまでも中立的表現となっていますが、これに署名したことはロシア側にとっては失策としか言えないでしょう。

それ以前の日ソ共同宣言では「ソヴィエト社会主義共和国連邦は、日本国の要請にこたえかつ日本国の利益を考慮して、歯舞群島及び色丹島を日本国に引き渡すことに同意する」として、国後、択捉にふれなかったのはもとより、あくまでも「引き渡す」という表現に留めていたのに
(ソ連の正当な領土だが、日本国の要請に答えて「譲渡する」と読めるような表現という意味)


この東京宣言では日露両国の間で四島の帰属問題が未解決、つまり日露間に未解決の領土問題が存在することを認めてしまったからです。

この宣言のあとで、例えばロシア側が「北方四島はロシアの主権下にあることを日本側は認めろ」と言ってみたところで、後の祭りです。

我が国としては

でも貴国は東京宣言において両国間の領土問題の存在を認めていますよね?

と指摘すればいいだけの話ですので。

「北方領土」の帰属先については係争中であるというのが国際社会の一般的な認識であり、当のロシアも東京宣言に署名したことで、それを認めてしまっている、というお話です。

「北方領土」に対するソ連の「先占」は成立しない

2019-01-22 19:52:14 | 政治・社会問題
他の記事でもふれていますが、国際法上はロシアの南樺太、千島列島に対する領有権原は成立しているとは言えません。

ロシア側が主張する「ヤルタ秘密協定」に基づく北方領土に対する領有権原の正当性も、国際社会からは認められているとは言いがたいのが本当のところです。

まあ、Yahoo!知恵袋で、このような主張をする方をお見かけしたこともありましたけど

ちなみに、もし、サンフランシスコ講和条約で日本が領有権を放棄したから無主の地になった、と思っているなら、仮にそれが正しければ、一旦無主の地になった南樺太と千島列島に行政権を及ぼしたロシアは、国際法上正当な領土獲得をした、って事になりますね。勿論、実際には『サンフランシスコ講和条約で日本が領有権を放棄したから無主の地になった』って言うのが間違いで、日本は領有権を放棄した以上は、領有権については(自分で調印したサンフランシスコ講和条約を今から無効と言い張らない限りは)日本はもう主張しない、ってだけの事ですけどね。

個人的に疑問に思ったのが、この方は「征服の権原」と「先占」の区別がついていないのか?

ということです。

ちょうど、同じYahoo!知恵袋に参考になる回答があったので、あえてそこから引用させていただこうと思います。

https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q11165704206


ところが、ロシア側は「第二次世界大戦の結果、ロシアの領土になった」という主張をしています。しかしこの主張からは何の権原も生み出しません。
ロシア側の措置を見ると、1945年8月~9月に北方4島を含む樺太・千島列島を「軍事占領」し、1946年2月に北方領土の「領有化宣言」を行っています。
このような「平和条約によらない領土移転」つまり「戦争時に外国領土を占領して、そのまま領有意思を表明する行為」というのは国際法上、「征服」の権原となります。
そして「征服」は「原始的無効(void and null)」であり何の権利も権原も創設されません。
サンフランシスコ平和条約に参加していないロシアは、サンフランシスコ平和条約の恩恵を受けることができません。そのため「法的治癒」によって「樺太・千島列島に対する権原」を確立させることができなかったのです(当然ながらロシアは北方4島に対する権原も権利も創設することはできません)(また、そのようなわけで日本の地図では、樺太や千島列島(=ウルップ島以北の島々)が「未定」や「白抜き」と表記されています)。


ゆえに、仮にロシアが「征服」、「先占」いずれの権原を主張したとしても

一旦無主の地になった南樺太と千島列島に行政権を及ぼしたロシアは、国際法上正当な領土獲得をした

ことにはなりませんし、なり得ません。

ロシアの南樺太、千島列島に対する国際法上の権原は、あくまでも日本国との平和条約締結後に確立するものであり、それまではただの既成事実に過ぎないんです。