稲見一良、『男は旗』

 花冷えの雨そぼふる…。でも心は海賊。七つの海を進め、進め。
 稲見さんの作品は初めてでした。

 『男は旗』、稲見一良を読みました。
 

〔 「子供は風の子というが、わたしは男はみんな風の子だと思う。旗のように風の中で遊んでいると機嫌がいい……」 〕 51頁

 やー、気持ちよかったです。なんつーか痛快! 何しろタイトルがタイトルだから、もっと女の入り込む隙間のない男たちだけの世界が描かれているのかと思っていました。そうは言っても、作品の根本にある男のロマン…みたいなものは感じましたが。でもシリウス号のクルーにはちゃんと女性陣も加わっていて、一緒にはちゃめちゃ活躍しているところが、同性としてはなんとも頼もしくて嬉しかったりしました。 
 特にシャーリィ、可愛くて小さくって強い! ちっちゃい体で途方もなくでっかいものばかり、華麗に盗み取っちゃうのだもの。読んでいて本当に胸がすかっとしました。

 物語の語り手は、キャプテン安楽さんと行動を共にするチョックです。チョックの視点はいつも人間たちより高いところにあって、動かずにいれば彫物か置物に見えなくもない。語り手としては相応しいようです。まさに鳥瞰。
 安楽さんに拾われた15歳の少年風太。ショップ担当のハナさんにお志津さん。怪しい諺や格言がお得意な(曰く“ウゴノタラノコのよう”)、シェフ・トレイシー。風太の従兄でエンジン博士の徹に、彼の友達・片腕のパイロット…。自由で奔放な魂が呼び寄せられたように、プロペラ・シャフトを切断された動かないはずのシリウス号へと集まり、そして機は熟し、皆が待ち望んでいたその時が…!
 ゴリラみたく逞しい安楽さんが、渋くて格好良いのである。あふるる侠気だね。

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )
« 恩田陸さん、... 山之口洋さん... »