心の風景

晴耕雨読を夢見る初老の雑記帳

懐かしい故郷の風景

2017-11-02 21:35:48 | 旅行

 久しぶりに生まれ故郷に帰ってきました。先週の土曜日、小雨降るなか、新幹線で新大阪から岡山へ。岡山から「特急やくも」に乗って出雲に向かいました。駅では、姉と義兄が待っていてくれました。まずは出雲大社にお参りです。本殿にお参りをしたあと、若くして亡くなった甥の御霊が祀られている祖霊社にお参りをしました。10年という月日のなんと早いことか......。その後、島根ワイナリーに立ち寄ってワインの品定めをして姉の家に向かいました。
 その日は姉のご家族の歓待を受けて、美味しいワインをいただきながら、夜遅くまで語らいました。認知症の初期症状が心配された姉ですが、意外としっかりしていてひと安心です。ちなみに、義兄と同居の甥一家は音楽を生業としています。新築なった音楽室を覗いてびっくり。グランドピアノが2台、うち1台はスタインウェイ製でした。

 翌日、実家のある奥出雲に向かいました。途中、義兄の計らいで日蓮宗の松尾山 金言寺(きんげんじ)に立ち寄りました。田畑が広がる山間にひっそりと佇むこのお寺は、この時期、大イチョウの紅葉で観光客が絶えないとか。小雨降るなか、幹周6.5m、樹高22mにも達する大イチョウの雄姿とご対面でありました。
 実家には一時間ほどで到着です。こんどは義姉の歓待を受けました。さっそく無量山・安楽寺にお墓参りです。1374年創建の浄土宗のお寺で、京都・知恩院の末寺になります。ご先祖の方々に長年の失礼を詫びお参りをさせていただきました。帰り際、本堂の横にある薬師堂を覗くと、薬師如来、観音菩薩と並んで弘法大師のお姿が見えました。真言宗の寺が多い四国八十八カ所を歩いている私にとって、なにかしらほっとした思いがいたしました。
 今回は2泊3日の旅程です。翌日は、朝早くにもう一度お墓参りをしたあと、家内を連れて古き良き時代の面影を訪ね歩く時間を設けました。最初に訪ねたのは、明治6年開校の小学校です。通学していた頃は木造校舎でしたが、いまは近代的な校舎に生まれ変わっています。でも、正門の横に立つ二宮尊徳の像は昔のままでした。放課後に友達とこの周りで遊んだことを思い出しました。
 次に訪ねたのは、出雲風土記にも登場する伊賀多気神社です。祭神はスサノウノミコトの御子神・五十猛命。例年11月7日に秋祭りがあります。小さい頃は広場で行われる相撲大会に出たこともあります。すぐに負けましたが(笑)。七五三のときには、着飾って小さな米俵を背に担ぎお参りをする風習がありました。本殿横の大きな樹木の前でみんなで記念写真を撮りました。そのときの樹木は老体ながら今も健在でした。
 次は稲田神社。ヤマタノオロチ神話に登場する稲田姫を奉る神社で、近くには稲田姫の生まれたときに使われた「産湯の池」や、臍の緒を切った竹のヘラを逆さに挿しておいたところ萌芽して繁茂したと伝えられる「笹の宮」があります。幼稚園や小学校では恰好の遠足先で、桜の季節や紅葉の季節になるとお弁当をもってよく出かけました。この日は、社務所で営業しているお蕎麦屋さん「姫のそば ゆかり庵」で、美味しい田舎蕎麦と山菜の天婦羅をいただきました。
 お昼が過ぎて、そろそろ帰阪の時間が迫ってきます。ふつう伯備線の最寄り駅まで車で移動するのですが、時間に余裕のある今回は、JRの鈍行列車の旅と洒落込みました。まずは木次線の出雲横田駅から備後落合駅へ向かいます。途中、標高564mの出雲坂根駅からスキー場のある三井野原駅(標高726m)へは、3段式スイッチバック方式で登っていきます。山の斜面をジグザクに登っていくわけです。そして、ループ橋が見下ろせるお山のてっぺんをひた走ります。お客さんは一両列車に10人足らずでしたが、運転手さんは見せ場では速度を落として観光ガイド役を務めるなど、めいっぱいのサービスでした。なにかしらアットホームな鈍行列車の旅でありました。
 備後落合駅で芸備線に乗り換え、次は伯備線の新見駅に向かいます。中国山地の山を越えたこのあたりにくると、線路も平坦になり列車も徐々にスピードを上げていきます。新見駅で「特急やくも」に乗り換えると、さらにスピードアップ、岡山駅で新幹線に乗り換えると、もはや別世界。スピードだけでなく人の数も爆発的に多くなります。これだけのギャップに「心」が追いついていくには、少し時間を要しました。
 ところで、出雲横田駅で列車を待っているとき、家内が見知らぬお婆さんと楽しそうにお話しをしていました。「どこから来なさったかね」「おたくらは恋愛結婚かね。わたしらの若い頃は、結婚といえばみんな仲人さんに決めてもらったもんだ」「わたしゃ都会に出たことはないが、ここで十分楽しい生活ができている。幸せなことじゃ」「最近の若いもんは山のもの(キノコや栗やアケビなど)を採ろうとしなくなった。美味しいのになあ」「きょうはよう冷えたなあ。まもなく雪かきの季節がやってくる。これが身体に一番こたえるんだわ」....。お友達でもあるかのように、次から次へと話は尽きません。列車に乗って家内いわく。「なにか寂しいねぇ」「地方創生なんて言ってるけど、何か違うような気がしない?モノとコト。お金のかけ方が違うような気がしてきた」と。この素朴な気持ち、きょうもまだ引き摺っています。
 ここ奥出雲地方。住環境はずいぶん良くはなっているけれど、過疎化と高齢化の急速な進展に、ひょっとしたら追いついていないのかもしれません。道路が整備され車移動が増えた分、列車やバスの利用が減り赤字路線のため減便が進みます。お年寄りにとっては痛し痒し。なかなか難しい問題です。スーパーも町の中心部に一カ所あるけれども、スーパーの出店によって町の小さな商店が姿を消しています。それなりの対策は講じられているようですが、だだっ広い田園地帯では車がないと日々の生活も大変だろうと思ったりもします。
 とは言え、久しぶりの帰省で、我が故郷を再発見することができた旅でもありました。来年は父の33回忌、兄の7回忌があります。また帰省するつもりです。

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