心の風景

晴耕雨読を夢見る初老の雑記帳

深まる秋にアルマ・マーラーの世界と戯れる

2012-10-28 09:45:35 | Weblog
 きょうは朝から静かに雨が降っています。いや、降ったり止んだりしています。それでも家内は、地元のコミュニティーで開かれているバザーのお世話で朝早くからお出かけでした。そんな休日の朝、めずらしくグスタフ・マーラーのLPを取り出して聴いています。交響曲第2番「復活」。ショルティ指揮、ロンドン交響楽団、ソプラノはヘザー・ハーパー、コントラルトはヘレン・ワッツです。

 さて、ここ数カ月の間、スキマ時間を利用しては村上春樹の小説を読んできました。「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」を読み終えて、先週帰りの新幹線のなかで「風の歌を聴け」を読み終え、さあて次は何にしようかと思案しながら、なぜか釈然としない。村上ワールドの不思議な深みにずぶずぶとのめり込んでいくことの不安。
 そこで手にしたのが、ドストエフスキーの「カラマーゾフの兄弟」(亀山郁夫訳:光文社文庫)でした。村上春樹の小説のなかにも時々ロシアの作家のことが登場すること、もうひとつは、やはり兄を亡くし、ここ数日、「家」「家族」のことをぼんやりと考えていたこと。....そういえば、かつて母を亡くした頃、トーマス・マンの長編「ブッデンブローク家の人々」を読んだことがありました。
 
 そんな週末、仕事の合間に、広島県立美術館を覗いてきました。9月末まで京都文化博物館で開催されていた「世界遺産ヴェネツィア展~魅惑の芸術、千年の都~」を見逃していたからでした。夕方の閉館前の1時間、500年をさかのぼるルネサンス期の鮮やかな色彩に、しばし時間を忘れて見入ってしまいました。ヨーロッパ&レジーナに泊まってヴェネツィア市街を散策したのは、もう14年も前のことです。またいつか、と思いながら、のびのびになっています。家内にはリタイアしたあとのお楽しみ、と言い聞かせていますが、さあて、いつになることやら。
 カンヴァスや板あるいは羊皮紙に描かれた鮮やかな色彩、歌劇の服装を思わせるドレスや礼服、クリスタル、工芸品、書物、....。現代でもそのまま通用するような煌びやかなデザイン。
 塩野七生さんの「海の都の物語~ヴェネツィア共和国一千年」を読んだのは、もうずいぶん前のこと。ひとつの国体が一千年にわたって営まれていたことの本質を学びたい、そんな思いがありました。ひとつには「多様性」、もうひとつには長期政権を許さず市民代表の合議制に拘った政治体制。こうした仕組みが時代の変化を柔軟に受け入れ自己変革を促す素地を作っていた。しかし一千年を経て瓦解していく政体の脆さもまた知ることに。その後、「レパントの海戦」「ロードス島攻防記」「コンスタンティノーブルの陥落」と、塩野さんが描く中世イタリアの世界にのめり込んでいきました。

 その興奮冷めやらぬなか、美術館を出て小雨が降る町を歩いていると、小さな古書店を見つけました。そこで手にしたのが「マーラー~愛と苦悩の回想」(音楽之友社発行:石井宏訳)でした。著者はアルマ・マーラー。マーラーの奥さんです。昭和46年の発行ですから、少し痛んでいましたが、ずしりとその重さを感じました。
 さっそく序文に目を通すと、「これが私の生存中に出版されることは、私の本意ではない」と。「今日、ドイツが彼の音楽を追放し、彼の生活と作曲活動の足跡は丁寧に消されている」「この苦痛と歓喜の入り混じった日々の思い出を、彼へのあかしとして、世に贈る次第である」。1939年夏、と記されていました。ナチス・ドイツの暗雲立ち込める時代背景のなかで妻アルマが書き綴っていたものでした。以前から探していた本でした。コレクターなら6千円でもほしい品のようですが、600円でのご購入です。
 「カラマーゾフの兄弟」1巻目を読み終えたところで、いったん小休止。しばしアルマ・マーラーの世界と戯れることにいたしましょう。
 
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永遠の別れと新しい門出

2012-10-21 09:25:25 | 愛犬ゴンタ

 どたばたの1週間が終わり、静かな日曜日の朝を迎えています。きょうは秋晴れのなか、久しぶりに愛犬ゴンタと朝のお散歩に出かけました。観月公園を通って、その先にある里山を一緒に散策しました。

 そんな清々しい朝にはどんな曲がお似合いでしょう。LPレコード棚から取り出したのは、ウィーン八重奏団員によるクラリネットの五重奏でした。モーツアルト、ワーグナー、ブラームス。その昔、クラリネットと戯れたことがありますが、秋の澄んだ空気のなかで木管楽器の音色が私の心に沁みます。

 さて、先週は水曜日、広島から帰って晩酌を楽しんでいると、田舎から兄急逝の知らせ。長く患っていましたから覚悟はしていましたが、ひと冬を越えるのは難しかったようです。....翌朝、家内と田舎に向かい、なんとか夕刻の密葬に間に合うことができました。奥の間で、「おくりびと」を見ているかのように、静かに時間が流れていきました。
 考えてみれば、年老いた両親の面倒を見るために、兄一家が職を辞して大阪から田舎に引っ越して35年。人生半ばでのUターンは大変だったことだろうと思います。都会から転校した子供たちは田舎の小学校、中学校、高等学校を卒業し、大学に進み、今は地元の銀行や役所で働いている。それは、母が私にも望んでいたことでしたが、私はその望みを適えてあげることはでませんでした。その後、母が逝き、父が逝き、そして兄が逝く、....私と田舎を繋いでいたものが、これでまた一つ私の手元から零れ落ちていきました。
 告別式でふと思ったのも、やはり時の流れでした。参列していただいた方々のお顔とお名前が一致しません。何人もの方々から小さな声で「○○○さん、お久しぶり」とひっそりと声をかけていただきましたが、思い出すのにずいぶん時間がかかりました。それほどに、私の中の田舎は既に「過去」のものになっていました。
 私は小さい頃に事故と病気で長男と次男を亡くしています。だから、唯一兄と呼べるのは三男のこの兄だけでした。でも兄と私は年齢差が16歳もありました。物心ついた頃には兄は大学に行っていたので、一緒に遊んだ記憶が全くありません。この年齢差を、私は結局最後までちぢめることができませんでした。このことが、私の性格を歪にしたのかもしれません。でも、いまさら騒いでみたところで....。私自身あと何年生きられることやら。

 すべての儀式を終えると、私は夕刻、タクシーを呼び、40分ほどかけて県境の山を越えJRの最寄駅をめざしました。そこで特急電車に乗って新幹線駅に向かいます。田舎の町にもJRの駅はありますが、赤字路線のため最近は1日数便しか走っていない単線です。乗客が少ないから便数を減らすとマイカーが増える。マイカーが増えると公共交通機関の赤字がますます増える。鶏が先か卵が先か。過疎化が進む田舎の、悩ましい現実がそこにはありました。

 話は変わりますが、先日、孫君の七五三にご案内をいただきました。近くのお寺で七五三の祈祷をしていただいたあと、皆で孫君の門出を祝いました。....真っ暗な七つの山を越えて浄土に旅立つ者あれば、この世に生を受けて5年、輝かしい未来に向かって成長を遂げようとしている元気溌剌とした幼子の門出。不思議な因縁というべきか、こうして人間は永遠に生死を繰り返していくのかもしれません。今日はなにやら重たいテーマになってしまいました。

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運動会の秋、読書の秋....

2012-10-14 09:58:55 | Weblog
 先週の日曜日は孫君の運動会でした。朝9時に始まり正午過ぎまでちびっこたちの熱戦が繰り広げられました。その間、両家のお祖父さんお祖母さんはテント下の「敬老席」で観戦です。少子高齢化の時代、元気な子供たちの姿を見ていると、ほっとします。でも、よく見ていると、幼稚園の運動会もなんとなく女性優位の様子。男女比も若干女性が上回っていたように思いますし、なによりも女の子たちが元気です。年長組最後のプログラム「クラス対抗リレー」などは、俄然女の子の頑張りが目立ちました。やはり女性は強い、ということなんでしょうか。いずれにしても孫の成長を眺めるのは楽しいものです。

 話は変わりますが、今年のノーベル文学賞は中国人の莫言氏でした。前評判の高かった村上春樹さんは惜しくも選から漏れました。そんなTVニュースを見ていると、熱狂的な村上春樹ファンのことを「ハルキスト」というんだそうです。軽いなあ、と思ってしまうのは私だけでしょうか。
 かくいう私は、先に紹介したインタビュー本の影響もあって、いま「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」(全2巻)を読んでいます。「海辺のカフカ」を読む前に目を通しておきたい小説です。きょうにも下巻を求めようと思っていますが、なんとも不思議な春樹ワールドのお話です。この不思議さ、現実と非現実との彷徨、おとぎの国のお話、60を超えてなお若者の心を失わない、そんな世界に惹きこまれていきます。

 読書といえば、先日、久しぶりに季刊誌「考える人」を手にしました。早いものです。創刊10周年を迎えたそうです。今号の特集は「歩く~時速4kmの思考」でした。やはり人間は二足歩行です。車社会になって久しいとはいえ、改めて歩くことの意味を考えました。「明治11年、イザベラ・ルーシー・バード、東北への旅」や「日本の神々はよく歩く」なども興味深く眺めました。
 歩くことで脳が活性化されることだってあるのかも。最近はご無沙汰していますが、以前は最寄駅から30分ほどをかけて、それも淀川縁を歩いて職場に向かうこともありました。愛犬ゴンタとのお散歩も、ある意味では私自身の散歩です。歩くことで重苦しい肩が軽くなることだってある。机に向かってあれこれない知恵を絞るよりも、身体全身を使って歩く。ひとつの風景に身を置く。爽快感が漂います。ぼんやりと閃くものがあります。

 先日、スマートフォンの機種を変更したら、万歩計がついていました。夜帰宅して数字を確かめると、昔ほど歩いていないことに気づきます。金木犀の香りがどこからともなく漂ってくる夜の街を、天空の星に見つめられながら愛犬ゴンタとひたすら歩き続ける、こころが素直になれる瞬間でもあります。

 昨夜帰阪して明日は再び広島行きです。きょうの日曜日は時間を止めてシュワルツコップのLPでも聴きながら「考える人」と戯れることにいたしましょう。数週間前に種を播いた野菜の苗もずいぶん大きくなりました。ここらあたりで3回目の間引きをしなければ。
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フェスティバルホールこけら落とし公演

2012-10-07 00:07:51 | Weblog
 最近、土曜日にお休みをいただくことが多いので、きょうから3連休です。いま夜の12時前。夕方から雨が降ったりやんだりしていますが、明日は幼稚園に通う孫君の運動会です。晴れることを期待して、今晩のうちにブログを更新しておくことにしました。

 きょうは、一日中たっぷりと愛犬ゴンタのお相手をしました。一時期ずいぶん年老いた様子でしたが、夏の終わり頃、病院に連れて行って、そこでいただいた飲み薬が良かったのでしょう。身も引き締まり、行動も心なしか若返ったかのようです。寒い季節を前に、身体を洗ってあげました。そういえば、畑の片隅に季節外れの秋ナスがひとつぶら下がっていました。カメラを向けると、近くの葉っぱの上にバッタさんが二匹。親子でしょうか。

 そうそう、夕刊を見ながら、はたと気づきました。そうです。10月6日は、来年4月にオープンする大阪のフェスティバルホールのこけら落とし公演「フェニーチェ歌劇場」の一般予約の初日でした。慌ててチケットぴあにアクセスすると、まだ席がありました。歌劇「オテロ」は週の半ばの公演なので断念。土曜日なら大丈夫だろうと、4月13日の特別コンサートのチケットを2枚ゲットしました。指揮/チョン・ミョンフン。フェニーチェ歌劇場管弦楽団・合唱団。ヴェルディ:歌劇「リゴレット」より第3幕、歌劇「椿姫」より第2幕。

 そんなウキウキ感もあって、今夜はピエトロ・マスカーニの歌劇「カヴァレリア・ルスティカーナ」をDVDで楽しみました。崇高な旋律の素晴らしさは良く知っていますが、歌劇という物語の「場」については、ついつい忘れがちです。曲想とは全く異なる風景を夢見てしまいがちです。
 この歌劇はイタリアはシチリアのある村が舞台です。婚約していたトゥリッドゥ(テノール)とローラ(メッゾ・ソプラノ)、それに村の娘サントゥッツァが加わる、いわゆる男女の複雑な関係のお話しです。トゥリッドゥが軍隊に入隊している間に、ローラは金持ちの馬車屋アルフィオと結婚します。軍隊から帰郷したトゥリッドゥは、その事実を知ってローラへのあてつけにサントゥッツァと仲良くなる。ところが、それに嫉妬したローラは亭主の目を盗んでトゥリッドゥを誘惑し、仲良くなる。サントゥッツァがかわいそうですね。
 最後は、アルフィオとトゥリッドゥが街の外れで決闘に挑みます。そしてトゥリッドゥは命を落とす。歌劇独特の単純なシナリオですが、素晴らしい歌曲が人の心をゆすぶるのでしょう。人の心を素直に感動させてくれるこの歌劇、私は好きです。「フェニーチェ歌劇場」公演では、私の大好きな「椿姫」も。願わくば、隣で家内が眠らないことを願っています。

 話は変わりますが、先週、職場の周年記念パーティがあり、懐かしい方々にお会いしました。もう20年も前に退職された先輩が、会場のあちらこちらに。かつての面影を残しつつ、しかし歳相応の表情が時の流れを思わせました。中には、子どもが巣立ち、昨年の冬には奥様を亡くされ、この歳になって独身生活を謳歌していると強がりを言う85歳の元部長さんも。でも、まだまだお元気そうでした。
 悲しいニュースもありました。パーティーの数日後のことですが、私と比較的近しい関係にあった先輩が、数か月前に独りひっそりとお亡くなりになったとか。同じ大学の先輩でもあったその方とは、退職後も何度かお会いして、このブログでも少し触れたことがありますが、脳梗塞で帰らぬ人となったのだと。
 人の心がどういう状況であろうと、時間はいつも同じ歩調で時を刻みます。居間にある壁掛け時計は、職場の友人から結婚祝にいただいたものです。あれから36年。しっかりと時を刻んでいます。その横には、昨秋、珊瑚婚記念で購入したアンリオ夫人の絵も。
 最近、昭和に生きた方々の逝去が跡を絶ちません。人は死ぬものと分かりきっていても、自分は別と思っている。でも実際は少しずつ状況は変化している。そのことを悟らなければならないということでしょうか。

 さあ、明日は孫君の運動会です。デジタルカメラをもってでかけましょう。
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