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ファースト・マン 【感想】

2019-02-20 08:00:00 | 映画


「地球は青かった」はガガーリンで、宇宙飛行に初めて成功した人。本作の主人公、ニール・アームストロングは世界で初めて月面に降り立った人だ。ガガーリンが宇宙にようやく出た、わずか8年後に遥か彼方の月面に到着してしまう。「技術の進化は目覚しい」と思いきや、とんでもない。不完全とも思えるギリギリの技術力で、宇宙空間を横断する。それは文字通りに命がけの挑戦だ。

アームストロングのテストパイロット時代が冒頭で描かれる。薄い鉄板で作られた飛行機で大気圏を突破、体を押し潰さんとする重力に耐え、すぐに制御不能になる機体性能を人力でカバーし、「ガタガタ」と今にも外圧で吹き飛ばされそうな機体の振動に耐える。安全に飛行させるためのテスト飛行であるが、それでも人間を乗せるレベルには達していない。あれで宇宙に行こうなんて、当時の飛行技術は明らかに未熟だ。

飛行シーンにおける撮影ショットは、空飛ぶ機体を俯瞰で捉えない。アームストロングを初めとする飛行士たちの顔面に接近し、彼らの視点から見える小窓から宇宙を望む。観客に迫るのは体感だ。それもスリルを超えた恐怖である。狭い操縦室に押し込まれ、外部から厳重にナットで密閉され、乗ったら最後、待ち受けるのは生か死か。さながら鉄の棺桶だ。実際、これほど多くの命の犠牲があったとは全く知らなかった。偉業への賞賛よりも、恐ろしくて言葉を失う。

そんな「月」への挑戦に、アームストロングは取り憑かれる。描かれるのは、月面着陸に至ったプロセスよりも、アームストロングの知られざるドラマだ。命を賭けてまで彼が月に執着したのはなぜか。米ソの宇宙開発戦争、巨額の血税を投じる事業への世論の逆風など、当時の社会情勢がもたらす影響力と使命感もしっかり抑えられるが、アームストロングのパーソナルな家族のドラマにフォーカスされている。偉業の達成に世界が沸くなか、歓喜しないラストシーンが印象的だ。

長編3作目となる監督のデイミアン・チャゼル。今回初めて脚本から離れたせいか、やや人物描写に距離を感じるのは気のせいか。彼が月面でやりたかったこと、寡黙な人物であまりにも感情を表に出さないだけあって、回想シーンだけでは不十分に思えた。しかしながら、それでも映画は素晴らしい。音響、編集、撮影といった技術面を中心に、徹底したリアルを追及、CGをできるだけ排除した「実物」での再現に、映像の強度は圧倒的だ。これまではフレッシュで勢いあるチャゼル映画だったが、本作でもう1つ上のステージに上がったようだ。

人知を超えた挑戦の前提には、絶対的な宇宙への畏怖があり、「人類にとって大きな一歩」となったクライマックスのシーンに鳥肌が立った。音という概念が存在しない無音の宇宙空間。いつも地球から見上げていた月、今度は月から見上げた先に青い地球がある。凄いリアリティを感じた。

【75点】
コメント (2)
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