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バリー・シール/アメリカをはめた男 【感想】

2017-11-10 08:00:00 | 映画


夢の国アメリカは逸話の底なし沼だ。こんな面白い話がまだあった。アメリカとソ連の冷戦時代、そしてアメリカと中米の麻薬戦争の裏にあった、数奇な男の半生。こういうダイナミックな話がたまらなく好きだ。主演のトム・クルーズが「ザ・マミー」の出演ミスから一転、いつもの調子でカムバック。栄光と転落を猛スピードで駆け抜けた主人公をエネルギッシュに演じる。これぞトム・クルーズ映画。

週末の台風の影響もあり公開3週目で見た。日本での評判が芳しくないため、優先順位を落としていたが、いやいや面白かった。

民間飛行機会社でパイロットをしていた男が、CIAと麻薬カルテルという2つの組織の運び屋として奔走する様子を描く。実話の映画化とのこと。

このテの話の主人公はたいてい、自らで進むべき道を切り開いていくような「能動的」タイプが多いが、本作の主人公は逆で、与えられた機会にひたすらありつく「受動的」タイプといえる。「つい先走っちゃうのよ」と主人公自身も自己分析しているとおり、楽しい、あるいは金になることを目の前にぶら下げられると後先を考えずに食いついてしまう。日本の副題では主人公が「ハメた」と言っているし、現に劇中の主人公も「俺がやってやったぜ」とイキるが、どうにもそう見えないのが可笑しい。

先月、NETFLIXで配信されていた「ナルコス」の最新シーズン(傑作!)を見たばかりの自分にとって、本作で描かれる内容はまさにタイムリーだった。最新シーズンはシーズン1、2で射殺されたパブロ・エスコバルの後の話であり、本作の時代設定とは少しズレているが、アメリカへの密輸問題と、アメリカのDEAとCIAと、麻薬カルテルの関係性が濃密に描かれていた。本作の主人公はアメリカのCIAと、エスコバル率いる麻薬カルテルの両方と手を組む。

主人公に与えられた個性は飛行機の運転テクと、楽天的な野心だ。飛行機を運転するのが大好きで、スリルも大好き。主人公の些細な弱みに目をつけたCIAは、主人公を利用し始める。コンプライアンスもゆるゆるだった時代のこと、CIAの独立性と自由度、非道っぷりは、ドラマ「ナルコス」でもずっと描かれていた。新しい玩具を与えられた主人公は危険も顧みずに喜んでCIAの犬になる。一方、CIAの手伝いをするため、これまで勤めていた民間会社をやめ、収入が不安定になる。そこで入ってきたのが、麻薬カルテルからの「仕事」のオファーだ。そして案の定、大金に目が眩んだ主人公は密輸という犯罪に手を染めていく。

そして主人公は大金を手にする。麻薬ビジネスのダイナミックな恩恵をもろに受けるのだ。やはり人間は基本的にお金が好き。自分も溢れ返る大金の画に釘付けになってしまった。ダグ・リーマンらしい、疾走感たっぷりの編集が効果的で、主人公の栄光劇を盛り上げる。主人公のサクセスストーリーと平行して、アメリカによる中米の政情コントロールや、その状況を利用する麻薬カルテルの強かさなどが描かれ、当時、アメリカと中米との嘘のようなホントの友好(?)関係がわかりやすく解説される。

栄光あれば転落あり。本作の主人公が不幸だったのはCIAと麻薬カルテルと手を組んでしまったことだ。様々な海外ドラマでも描かれているCIAの常套手段「トカゲの尻尾きり」や、麻薬カルテルならではの残虐性たっぷりな報復行為が、主人公の身に降りかかる。まあ案の定といったところだが、その様子は悲惨でスリリングだ。主人公のバリー・シールという人物は日本版のウィキペディアに乗っていないほど、あまり知られておらず、当然予備知識もないため、本作で初めて知ることになるが、かなり衝撃的な展開が待っていた。本作もまたネタバレ厳禁。

主人公演じるトム・クルーズがドンピシャ。CIAと麻薬カルテルに転がされ、愚かしくも見える主人公がそれでも魅力的に映るのは、トム・クルーズの功績が大きい。ユーモアと良心とパワー。陽性型俳優、トム・クルーズの才能ともいえる個性が本作の特異なキャラでも発揮されている。自分が好きなトム・クルーズが再び帰ってきた。また、「オール・ユー・ニード・イズ・キル」に続き、監督ダグ・リーマンとの相性の良さも感じられ、監督はトム・クルーズの輝かせ方を良く知っているようだ。主人公をかき乱す義弟「JB」を演じたケイレブ・ランドリー・ジョーンズが、「ゲット・アウト」に続く怪演。

ストーリーも面白いが、主人公が乗り回す飛行機の空中アクションもかなりの迫力。そのアクションの代償として、撮影中に大変な不幸が起きてしまったことも話題になった。まずは絶対安全。それを分かってしまうと楽しく見られないので。

【70点】

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