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主に食べ歩きの記録。北海道室蘭市在住。

【本】ローマ人の物語 14・15・16 パクス・ロマーナ

2008年10月13日 22時10分05秒 | 読書記録2008
ローマ人の物語 14・15・16 パクス・ロマーナ(上)(中)(下), 塩野七生, 新潮文庫 し-12-64・65・66(7509・7510・7511), 2004年
・古代ローマの歴史絵巻シリーズ第6集。話は紀元前700年代から始まって、ついに紀元をまたぐところまできました。今回の主役はユリウス・カエサルの跡を継ぎ、ローマの初代皇帝となったアウグストゥス(オクタビアヌス)。ローマは安定した平和の時代へ。
・「ユリウス・カエサルの言葉の中で、私が最も好きなのは次の一句である。  「人間ならば誰にでも、現実のすべてが見えるわけではない。多くの人は、見たいと欲する現実しか見ていない」」上巻p.12
・「天災の後を継いだ天才でない人物が、どうやって、天才が到達できなかった目標に達せたのか。それを、これから物語ってみたい。」上巻p.13
・「オクタヴィアヌスは、手段ではちがっても目的では、完全にカエサルと考えを一にしていた。国家ローマは、領土拡張の時代から領土維持の時代に入ったとする認識である。」上巻p.25
・「何事であれ新しいことをはじめる場合の基本姿勢は、現状の正確な把握にあるのは当然だ。」上巻p.28
・「アウグストゥスは、まれなる美男であったという。武骨な容貌だったアントニウスが、カエサルが後継者に指名したのは、17歳当時のアウグストゥスが美少年であったからだ、と悪口を言ったほどである。(中略)しかし、彼の美しさは、形の美だけではなかった。その顔は、話をしているときも話に耳を傾けているときも、無限の静けさと晴れやかさが乱されることはなく、それが会う人に、容貌の美以上の美を印象づけたのである。」上巻p.61
・「そして、共和政時代のほうが非拡張主義で帝政時代が拡張主義と思うと、ローマ史では完全にまちがう。共和政時代こそ覇権拡大の時期であり、帝政は防衛の時代に変る。」上巻p.80
・「「慎重」こそ、アウグストゥスの生涯を律した性格でもあった。」上巻p.90
・「ローマの帝政とは、選挙つきの帝政なのである。」上巻p.146
・「ローマ人の間での内紛はローマ人の間で決着がつくのに、オリエント諸国では王家間の結婚による結びつきが緊密なためか、他国の介入を呼んでの戦域拡大に進むことが多かった。」上巻p.176
・「何であろうと自由は認める、ただし反ローマに立たない限りは、が、アウグストゥスの、そしてその後のローマ帝国の、統治の基本方針になっていくのである。」上巻p.185
・「平衡感覚とは、互いに矛盾する両極にあることの、中間点に腰をすえることではないと思う。両極の間の行き来をくり返しつつ、しばしば一方の極に接近する場合もありつつ、問題の解決により適した一点を探し求めるという、永遠の移動行為ではなかろうか。」中巻p.31
・「防衛線は、山ではなく河、という考えが、カエサル以後のローマの戦略になる。河ならば、対岸が望めるからである。(中略)ライン河の防衛線は、カエサルが確立してくれていた。ユーフラテス河は、アウグストゥスが外交で解決している。黒海も、南は属州、東は同盟国で固め、北のボスフォロス王国とも同盟して、「パクス・ロマーナ」は半ばにしろ完了していた。残るは、ドナウ河である。」中巻p.46
・「ローマ軍団の真の強さは、武器を交えての戦闘よりも、計画に基づいての事前準備の完璧さにある。」中巻p.49
・「ときの執政官マリウスによって、五百年間つづいてきたローマの軍事制度の大改革が行われる。徴兵制から志願制への移行だった。ローマの兵士は、市民の義務から、市民の職業になったのである。」中巻p.75
・「しかし、いかにこの種のローマ化が進もうと、軍団兵補助兵合わせても30万足らずという兵力で、全長一万キロにおよぶ防衛線を守りきるのは大変な事業である。だが、種々の事情で30万に押さえるしかなかったからこそ、防衛力の効率性の追求という、ローマ軍の真のパワーにもつなげることができたのである。」中巻p.100
・「一貫した方針とケース・バイ・ケースという、概念では矛盾するやり方をともに行使し、しかも積極的に活用していくには、基本線は簡単なものであったほうがよい。そして、これとともに求められるのは、バランス感覚である。この才能でも、ローマ人は群を抜いていた。」中巻p.100
・「まったく、現代のローマは、古代のローマの上に建っている。おかげで、地下に駐車場をつくることもむずかしい。現代の地下一階は、古代の地上一階に相当するからである。」中巻p.118
・「私見にすぎないが、納税者が節税や脱税に情熱を傾けるようになるのは、直接税なら10パーセント、間接税ならば5パーセントからではないかと思ったりしている。」中巻p.132
・「都市計画とは、一人ですべてを計画するよりも、いくつかの「核」になる建造物を「公」が担当し、その周辺は「民」にまかせたほうが人間的な街づくりになるように思う。」中巻p.136
・「知性とは、知識だけではなく教養だけでもなく、多くの人が見たいと欲する現実しか見ない中で見たくない現実まで見すえる才能であると思うが、見すえるだけでは充分ではない。見透した後で、それがどの方向に向うのが最善の道であるかも理解してこそ、真の知性と言えるのだと思う。言い換えれば、創造性を欠く現実認識力は、百点満点の知性ではない。」中巻p.148
・「アウグストゥスには、「読ませる」「聴かせる」能力が不十分なのだ。内容のいかんにかかわらず、読み、聴く快感を与える才能が不十分であったのだと思う。」中巻p.151
・「一見逆説のようだが、逆説ではなくて真実である。文明の度が高ければ高いほど、その民族の制覇は容易になり、低ければ低いほど、その民族の制覇は困難になる。とくに、征服した相手を滅ぼさずに活かすローマ人のやり方では、このちがいはより明白になった。」中巻p.170
・「そして、ローマ人の最高の徳は、自分たちだけで何もかもしようとしない点にあった。ローマ覇権下に生きる各民族には、それぞれが得意とする分野で活躍する機会と舞台があったのである。  だが、文明を知らないで生きてきた民に文明による利益を納得させるのは、大変な難事になる。これがまず、未開の民相手の制覇行の難点になった。」中巻p.171
・「ローマ人の死生観は、死生観などという大仰な文字で言いあらわすのがはばかられるほど、非宗教的で非哲学的で、ということはすこぶる健全な死生観であったと私は思う。死を、忌み嫌ったりはしなかった。「人間」と言うところを、「死すべき者」という言い方をするのが普通の民族だったのである。」中巻p.191
・「「平和」は、唱えているだけでは絶対に実現しない。」下巻p.8
・「「国父(パーテル・パトリアエ)」の栄誉だけは、カエサルが与えられていた栄誉のうちで、アウグストゥスが得ていなかった最後のものであった。」下巻p.32
・「政治とは、小林秀雄によれば、「ある職業でもなくある技術でもなく、高度な緊張を要する生活」であるという。(中略)この状態を生き抜くのに必要な資質は、第一に、自らの能力の限界を知ることもふくめて、見たいと欲しない現実までも見すえる冷徹な認識力であり、第二には、一日一日の労苦のつみ重ねこそ成功の最大要因と信じて、その労をいとわない持続力であり、第三は、適度の楽観性であり、第四は、いかなることでも極端にとらえないバランス感覚であると思う。」下巻p.34
・「編年記風に歴史をたどるならば、われわれはこれより先に進む前に、あることに想いを馳せずにはいられない。  それは、紀元前と後の境界線上にあるこの時期、イエス・キリストが生まれていたはずだからだ。ただし、ローマ皇帝アウグストゥスによる国勢調査(チエンスス)のためにヨセフとマリアが本籍地にもどる旅の途中で生まれたという美しいエピソードだが、この前後には国勢調査は実施されていないのである。」下巻p.38
・「後にマキアヴェッリが注目することになる特色だが、ローマ人には、危機到来となればそれまで敵対していたもの同士でも直ちに一致団結し、実力あると認めたものに全権を委託するという性向がある。」下巻p.63
・「ローマ人は食事をとるとき、寝台式のものに片腕で支える形で横になってするのが習慣になっている。そのローマ人が椅子に座って食事するというのは、現代の感覚ならば、立ったままで食事する、に等しい。」下巻p.70
・「つまりカエサルは、現代風に言えば「絨毯爆撃」を徹底させることでしか完全制覇の見込みのない、ゲルマニアの地への深入りを断念したのである。現地を熟知し、兵士の間で生きてきた人にしてはじめて、迷うことなく下せる決断であった。反対にアウグストゥスのゲルマニア制覇は、文官が机の上で地図だけを相手に練り上げた戦略であったのだ。」下巻p.107
・「老いてもなおアウグストゥスは、現実的な男でありつづけたのだ。物産が自由に流通してこそ、帝国全体の経済力も向上し生活水準も向上するのである。そして、それを可能にするのが、「平和(パクス)」なのであった。」下巻p.123

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