パピとママ映画のblog

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悪党に粛清を★★★.5

2015年08月13日 | アクション映画ーア行
『偽りなき者』などのデンマークを代表する国際派スター、マッツ・ミケルセンが主演を務め、19世紀アメリカを舞台に描かれる怒とうの西部劇。はるばる海を渡りやって来た妻子と7年ぶりに再会した男が、妻子の命を虫けらのように奪ったならず者を殺害したために起こる復讐(ふくしゅう)の連鎖に肉迫する。敵方に属する沈黙のヒロインを『ダーク・シャドウ』などのエヴァ・グリーンが好演。荒くれ者たちを相手に、愛と正義のために銃を取る主人公の男気に脱帽。
あらすじ:1864年、ジョン(マッツ・ミケルセン)と兄のピーター(ミカエル・パーシュブラント)は、祖国デンマークで兵士として勇敢に戦った。戦争に嫌悪感を抱いた彼らは新天地を求めアメリカ西部に移住し、ジョンは1871年にようやく妻と息子をアメリカに呼び寄せる。だが、駅での再会の喜びもつかの間、親子3人は帰りの駅馬車でならず者と同乗することになり……。

<感想>風が吹き抜けシンプルな音楽が流れて、冒頭から期待が高まるのですが、マカロニ・ウエスタンに比べると、デンマーク製の西部劇は北欧の神秘性が加わった神話の世界がする。
新天地を求めて兄とともに渡米したデンマーク人のジョンは、待ちに待った妻子と7年ぶりの再会を果たす。しかし、その喜びもつかの間、駅馬車に乗り合ったならず者たちが、デンマークから来たばかりで英語が話せない妻子に目を付け、狭い馬車に無理やり乗り込むならず者の、絵に描いたような悪党ぶりといったらない。

やられたらやり返す、文明社会では秩序や優しさの名の下に、封じ込められた人間本来の感情がほとばしって清清しく、暴徒の支配下で生きる民衆との駆け引きも見応えがあります。

妻子を殺害されたジョンは、怒りに任せるまま彼らに報復するが、やがてそれは容赦ない復讐の連鎖となって西部の街を呑みこんでいく。妻子を殺された男が、弟を殺された男と戦うことになる復讐対復讐の構図は、ジョン・フォードの「荒野の決闘」と、往年の西部劇が蘇ってくる。

ジョンがいよいよ対決に向かう時、雑貨屋に行き、拳銃と弾丸、それに油を買うのも描写が丁寧。開拓時代の町では雑貨屋が必須だった。店の少年が、祖母を殺されているので、ジョンひとりだけの戦いに加わろうとするのも納得がいく。銃撃戦も見せ場が多いし、特に敵の一人が床に銃弾を撃ち込むと、次々に穴に光が差し込むところなんかは、鮮やかですね。
デンマーク人の監督、クリスチャン・レヴリングはじめとするデンマーク人スタッフの下に、南アフリカで前編ロケを敢行したという異色の西部劇。全体に青みがかった、黒が溶かし込まれた映像に驚く。アメリカの西部劇にはこういう色調は見た事がないから、主人公から遠く離れていく闇夜の駅馬車をはじめ、湧き出る石油、黒焦げになった廃屋での決闘、さらにはフランドル派の絵画のような色調を見ているようだった。

元軍人らしい寡黙さを身に纏ったハードボイルドな主人公、ジョンを演じたマッツ・ミケルセン。一見爬虫類顔で、冷血っぽいミケルセンの熱い一面に血が踊る。イーストウッドなら、妻に手を出す奴は、瞬間に射殺されているに違いない。渋くてとてもいいのだが、「許されざる者」に匹敵する西部劇には及ばないのが残念でもある。
ここから町全体を敵に廻した復讐劇が切って落とされる。本当らしさの罠に陥っていないところが素晴らしい。現実に似せることにより、ショットの充実と、省略の切れ味によって作品を立ち上げているのである。

いきなり子供も殺されるという物語も異常だが、ヒロインのエヴァ・グリーンは、野性的な色気を放ちながらも、先住民に舌を切断されたという、恐ろしい設定なのだ。事件は野蛮だが、品はいいです。一言も台詞のないエヴァ・グリーンの、高貴ながら野性味あふれる存在感が凄まじく感じた。

家族を理不尽に惨殺され、非道な拷問に遭い、その忍従の呪縛を振り払うかのごとく、おもむろに銃を取る。追い詰められて人間性を失い、彼の眼は死んでしまったかのよう。だからといってジョンが悪党になったわけではない。これまで真面目に生きてきた男が、家族を失って捨て鉢になっただけなのだ。例え復讐を果たしても、彼の行き先は地獄しかない。
これはひたすら兄とともに家族の到着を待ち望んだ男の物語であり、感情を表に現さないジョンの緊張が、その時しっかりと観客にも伝わってくる。にもかかわらず、彼はその家族の幸福すら手にすることができなかった。その残酷さにも、デンマーク人的なシニカルさが反映されているように思えました。
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