パピとママ映画のblog

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サイの季節 ★★★

2015年09月22日 | アクション映画ーサ行
『ペルシャ猫を誰も知らない』の撮影後、国外で亡命生活を送るイラン人の監督バフマン・ゴバディによる衝撃の社会派ドラマ。実在するクルド系イラン人の詩人サデッグ・キャマンガールをモデルに、イスラム革命によって引き裂かれた夫婦の苦難の道のりを描く。『灼熱の肌』などのイタリアを代表する女優モニカ・ベルッチが出演。30年という長い年月を前に立ちすくむ夫婦の悲劇に絶句する。
あらすじ:混乱のさなかにあったイスラム革命中、詩人サヘル(ビーローズ・ヴォソーギ)はいわれなき罪で投獄され、30年後にようやく釈放される。彼の妻ミナ(モニカ・ベルッチ)はサヘルの釈放を切望していたが、夫はすでに刑務所内で死んだという悪意あるうそを信じ込まされていた。ようやく出所した後、サヘルは必死に妻ミナの行方を捜すが……。

<感想>イスラム革命で運命を狂わされた男女の奇数な人生を、映画のためにイランを亡命したバフマン・ゴバディ監督が手掛ける渾身作であります。政治的なテーマが語られる一方で、かなりラヴストーリーの色合いが濃いです。しかも、イタリアの女優のモニカ・ベルッチが、ヒロインで出演とあればなお濃厚であります。

それにしても、モニカ・ベルッチの美しさが際立っていて、熟すとますます美しいのか。若い時代から老けメイクも味があるのだ。映像を見ていて目に焼き付くのが、熟年のモニカの裸体であり、深く神秘的な黒とブルーであり、その内に潜む生の情熱に痺れる。

いわれなき罪で投獄された夫のサヘルと共に、妻のミナも獄中にいる。面会を拒否されて、それでも、黒い布を頭から被せられて夫の元へと刑務所らしき中でつかの間の逢瀬でも、裸で抱き合い、直ぐに引き離されて、次に抱き合ったのは夫ではなく運転手の男アクバルであった。強制的に離婚をさせられて、獄中で運転手の子供を妊娠し、双子の女の子を出産して、夫のサヘルが死んだと言われ、無理やり運転手のアクバルと結婚する。どうやら、この運転手のアクバルの策略で、反逆罪としてサヘル夫婦は投獄されたらしいのだ。

30年後に出所したサヘルは、妻を探していく内に、双子の娘を助けるのだ。その娘は、妻と運転手の間に出来た双子の娘であり、売春婦をしているようだ。ミナは、運転手のアクバルの元から離婚をして亡命しようと計画する。
沈黙をはらむ風景は、現実か追憶なのかそれとも幻想か。それが次々と提示されていくのである。冒頭の横たわる巨木のシーン、根をまるで凧の足のように広げている巨木の前で、二人の男の運命的な別れ道が描写され、それがすべての革命による権力者の、位置の逆転の出発点だったと見ているうちに気が付いてくるのだ。

語らない主人公サヘルの顔の大写しと、彼の心の中のような脱色した映像が圧倒的であった。妻の行方を追う途中で、車の中に馬の首が出てきたり、その馬の目は妻のミナの瞳のように見える。獄中では、柱に縛り付けられたサヘルに、そこに降り注ぐ大粒の雨かと思ったら、それはなんと小さな亀。亀が雨のように降ってくるではないか。カメが降ってくる夢を見たりという映像も。このシーンは何を意味するのだろう?
一番気持ちが悪かったのが、男たちが背中へ蒜を這わせて悪い血を吸わせている映像が酷かった。

30年の歳月が肝となる物語を、配役も無理なく、ダイナミックに描いているのだが、これは、沈黙をめぐる作品ともいえる。もっとも苦しみ多き人であろう主人公の詩人サヘルの台詞は極力抑えられているし、映像も色彩を削ってしまい渋いのである。
ラストでは、タトゥーを彫る女がミナで、死んだと思っていたサヘルが自分の背中にタトゥーを彫ってもらう。それはサヘルの詩であり「国境に生きる者だけが新たな祖国を作る」という、未来を指す言葉。

ビルの廃墟での因縁の男の対決だ。年老いても、運転手への恨み怨念がこもっており、2人の男は車で海の中へと沈んでゆく。まるでサイの肌を思わせるような塩湖で、妻のミナと逢うサヘルの姿が映し出される。
これは、イラン国外へとバフマン・ゴバディ監督が、亡命先のトルコで完成されたこのフィルムは、いわばゴバディ監督にとっての「ノスタルジア」でもあります。この映画のすべてが、郷里への想いに衝かれて泣き出しそうに震えているように感じた。触れることのできないものへ向けて、そして詩はつむがれて肌に刻まれていくのである。
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