パピとママ映画のblog

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あさがくるまえに★★★★

2017年11月01日 | アクション映画ーア行

心臓移植をめぐり葛藤する人々の1日を描いた人間ドラマ。事故で脳死と判定された息子の臓器提供について選択を迫られる両親、心臓病を患いながら移植をためらう女性、限られた時間の中で奔走する臓器移植コーディネーターらの姿が映し出される。監督は『聖少女アンナ』などのカテル・キレヴェレ。『預言者』『ダゲレオタイプの女』などのタハール・ラヒムをはじめ、エマニュエル・セニエ、アンヌ・ドルヴァル、ドミニク・ブランらが出演。

あらすじ:フランス、ル・アーブル。ガールフレンドの部屋からそっと抜け出し、早朝から友人たちとサーフィンに繰り出したシモン。しかしその帰り道、彼は交通事故に巻き込まれ、搬送された病院で脳死と判定される。医師は激しく動揺する両親に蘇生する可能性がないことを説明し、臓器の提供を提案する。両親にとってはあまりにも過酷な決断だったが、移植が可能な時間的猶予は限られていた。一方パリには、心臓が末期的状態の音楽家クレールがいた。生き延びるためには心臓移植しかなかったが、決して若くはない自分が、他人の心臓を使ってまで延命すべきなのか、答えを出せずにいた。そんな時、担当医からドナーが見つかったとの連絡が入るが…。


<感想>ぼくの心臓の鼓動が、あなたの心を、きっと、ずっと、震わせ続ける。最愛の息子が突然の事故で脳死状態となり悲しみに暮れる両親が、心臓移植を提案され苦悩するさまと、移植に可能な時間的猶予が限られているから、それは家族にとっては決断を迫られる短い時間の中で、辛い選択に違いない。

そして、提供を待つ一人の女性の葛藤を、もう若くないからと医師に相談する患者。かなり繊細なタッチで描いたヒューマン・ドラマでもあります。

まだ薄暗い夜明け前、若い男女が寝ているベッド。男が先に起きて女の顔にキスをする。窓からその若者は外へと出て行く。そして夜明け前の北仏ル・アーブルの街を丘陵から港までいっきに下降していく躍動感で、いきなり見る側の心を鷲づかみにされてしまうのだ。伏線として、きっとこの青年に何かが起きることを。

仲間と一緒に、夜明け前のル・アーブルの海でサーフィンにこうじる少年たち。青春、真っただ中にいるこの青年は、帰路、運転している青年の不注意で事故に巻き込まれ、脳死状態となる。3人の青年が乗っていたのに、後の2人はシートベルトをしていたために、命が助かったのだ。

しかし、本作では、脳死患者からの心臓移植というスタンドアローンな設定に絞った作りになっている。唐突に単純化すれば、本作は日本映画に似ている。

元来こういう劇構造は、日本映画が得意とするものだから。息子の心臓提供を望まれた両親は、喧嘩別れをして別居中であり、ここで夫婦がまた息子のために何かをして上げられたらと悩むのだ。

こちらは、パリに暮らす音楽家の中年女性、大人になったばかりの2人の息子を持つ彼女は、重い心臓の病を患っている。夫とは離婚をして、彼女はレズの女性ピアニストと恋愛関係にある。ゆくゆくは一緒に暮らしたいと願っている。

舞台を異なる場所にするこの2つの物語が、やがて命を繋ぐ物語として1つに溶け合っていくわけなんですね。

心臓移植の手術寸前、ある人間がある行動をする。それは、脳死といえども、心臓は動いているわけで、耳元へそっと囁きかける医師。そして、青年の耳に音楽のイヤホンを差し込むのだ。以降、それまで登場した人物たちすべてが愛おしく見えてきたのだ。臓器を提供した青年、その家族と恋人、そして手術にかかわる病院の人々、その一人一人が。

前半でさりげなく口にした言葉や、行動、表情などが画面を通してことごとく活きて来る。群像劇なのに、それぞれの人間性がさらりと滲み出て、この脚本の構成は新鮮な驚きでした。まるで、日本の「おくりびと」のような感じがしてならなかったから。

あるひとつの命をめぐり、数々の思いが交錯するヒューマン・ドラマでもあり、見終わった後に、なにか大きな、大切なものを受け取ったと感じられる映画。決して押しつけがましいわけではないが、描かれているテーマや出来事に、自分の人生を照らされずにはいられないでしょう。美しい映像と、丹念に描写される登場人物たちの姿に、心が捕われてしまいました。

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