軌道エレベーター派

伝統ある「軌道エレベーター」の名の復権を目指すサイト(記事、画像の転載は出典を明記してください)

軌道エレベーターが登場するお話(15) ミスター・ノーバディ

2016-06-25 23:08:28 | 軌道エレベーターが登場するお話

ミスター・ノーバディ
ジャコ・ヴァン・ドルマル監督
仏・独・加・ベルギー共同制作(2009年)



あらすじ 人々が不死となった2092年、記憶をなくした老人ニモ・ノーバディは、死を迎える最後の人類として脚光を浴びる。彼は死を目前にして、様々な人生をたどってきたという信じられない過去を語り出す。


1. 本作に登場する軌道エレベーター
 ほんのちょこっとしか登場しませんが、実写映画で軌道エレベーターが描かれるのは極めて珍しく、また映像が非常に綺麗なので取り上げました。本作では火星に人類が進出しており、ここに3本のピラーから成る軌道エレベーターらしきものが建造されています。主人公のニモが火星を訪れ、末端に宇宙船が接舷して、彼は地上との間をエレベーターで行き来します。ちなみにニモは「火星に遺灰を撒く」という恋人との約束を果たすためにやって来ました。
 
 ここで火星の軌道エレベーターの説明を。火星の静止軌道は対地高度約1万3600kmの位置になります。二大衛星の一つ「フォボス」の平均高度は約6000kmと静止軌道より低く、そのままだと軌道が交差して衝突します。ですがこれはSFの常識と言ってよく、火星の軌道エレベーターは大抵フォボスを「避ける」んですね。『楽園の泉』では、地球で建造するためのトライアルとして、まず火星にエレベーターを造るのですが、フォボスが衝突コースに重なる時はピラーを曲げて回避し、さらにこのアクションを観光客向けのショーにしようなんて話が出てきます。本作も静止軌道エレベーターであれば、フォボスを同じように回避していると思われ、さぞかし見ものでしょう。
 エレベーター本体が軌道運動をしているか疑問の描写もあるのですが、いずれにしても登場場面は短く、詳細は不明です。単なる作中の小道具に過ぎないので、科学的な検証や図割は愛します。とはいえ本作の映像技術はそれはもう見事で、軌道エレベーターの外観はなかなか美しいです。


2. ストーリーについて
 ニモは117歳の余命わずかな老人で、人類が不死(テロメアの減損を食い止める医療技術が確立してるみたい)を手に入れ、生殖不要で恋愛もしなくなった時代の「死んじゃう最後の1人」なんだそうです。実はこのニモ、複数の世界線?で様々な人生をたどってきた記憶をすべて有しているという、魔眼リーディング・シュタイナーの持ち主です。ダース・モールみたいな医師や記者に回想を語る形で、子供のころに「離婚した母親についていったら」「父親についていったら」「恋人と再会できたら」「できなかったら」などと、電話レンジ(仮)もなしに全部体験したと称し、色んなルートの人生を振り返ります。
 とにかく場面があっちへ飛ぶわこっちへ移るわ、はたまた『木更津キャッツアイ』みたいにシーンが巻き戻されて別のルートに入るわ、複雑な世界線をたどりながら物語が進みます。話を聞いてる医師や記者も、ニモ自身も何が真相なのか分からず混乱状態で、その混乱を見る側に押し付けてきます。

 彼の記憶や体験が多重化しているのには少々カラクリ(ネタバレは避けます)もあるのですが、それも含め本当なのか、単なる妄想か、ボケてるのか、あえて不可解につくってあるので、結局は観客一人ひとりの解釈に委ねられるところです。個人的には「単なる中二病的妄想だろう」という印象です。「どの人生も最高だった」とか言って何でも美化するあたり、「体験したくてもできなかった劣等感の裏返しじゃね?」と見てしまうのは、ひねくれ過ぎでしょうか。

 しかし結局は、アトラクタフィールドの収束によって118歳の誕生日に死を迎えることになり、いまわの際に沢山の矛盾した体験談を語って聞かせるという状況にたどりつくようです。中には若くして事故死したり何者かに殺されたりしちゃう(SERNのラウンダーか?)末路もあるんですが、それは彼がダイバージェンス1%の壁を超えてβ世界線に移動できたということなのでしょう。
 本作には、成功や失敗、後悔や反省などの思いをかみしめながら、多岐にわたる人生を重ねることで、「自分の意志で人生を選択することがいかに大事か」というテーマ性や「人はなぜ異性を愛するのか」といった問いかけも盛り込んであって、感動的なシーンもあります。ただ最終的にはよくわからないままです。まー、自分をだまし、世界をだまし通した狂気のマッドサイエンティスト・鳳凰院凶真の中二病レベルにはとうてい及ばないな、ということにしておきます前から思ってたけど「狂気」と「マッド」がかぶってるのはネタなんだろうな。


3. 科学的な作品にあらず
 シュタゲネタはこのへんにしておきます。本作をSF扱いする声を散見しましたが、科学的な用語をちりばめているだけで全然SFじゃないです。それが別に悪くはないですけど、科学的な物語やSFとして期待すると肩透かしをくらいます。例えば、現在の宇宙論の中には、宇宙が膨張の限界に達すると反転して収縮を始め、「ビッグクランチ」に収束するというものがあり、収縮に転ずると時間の矢が反転するとも言われます。本作では2092年2月9日(!?)に膨張が終わり、そこまで生き延びた人間は時間の反転に伴い若返るんだそうです。
 実際にある理論では、宇宙の膨張が止まり時間が反転するのは、エントロピーが極大になり、そこから減少する方向に物理法則が逆転するからで、エントロピーの極大とは、すなわち人間を含めたあらゆる物質が、形状も位相もすべての秩序を失って全部混じり合った存在になる状態です。収縮の瞬間まで人間が生きることはない。このほかにもバタフライ効果(カオス理論)や量子力学、スーパーストリング理論など色々出てきますが、観客を煙に巻く道具に使われるに過ぎません。


4. 全体の感想
 最後に、本作には心打たれる部分もメッセージ性もあるし、映像も見ごたえがある。それでも、全体としていい印象を抱けなかった一作でした。観ていて、デヴィット・フィンチャー監督の『セブン』と同じ匂いを感じました。どこが共通するのかというと、観客を掌の上で転がして遊んでいるように思えるんです。このコーナーでは制作者批判は極力避けているのですが、本作は見る側を小馬鹿にしているように感じます。
 冒頭に登場する「ハトの迷信行動」も、特に意味はないのに勝手に脳内補完して自己満足し、「自分にはわかる!」と喝采を贈る観客を揶揄しているのではないか。これも私の勝手な脳内補完ですが、こういう手法はすでに出尽くしている感があり、昨今の難解なアニメに慣れた日本の観客などには食傷気味に感じるのではないでしょうか。
 今回は少々批判的な結びで筆を置きますが、こう感じるのは私だけなのか? 内容が複雑な上に2時間以上ある非常に長い映画で、ほとんどレンタルもされてませんが、ご覧になった方がいらしたら、意見を聞いてみたいものです。長くなりましたが、ここまで読んでくださり、ありがとうございました。

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2016年NHK熱中症予防情報 速報

2016-06-19 13:01:12 | その他の雑記
 NHKの天気予報で夏季に放送される、暑くなるほど少年(?)が悶え苦しむ「熱中症予防情報」、だいぶ有名になってご存知の方多いと思います。えー、私は「熱中症太郎」(姓が熱中で名が症太郎)と勝手に命名し、症太郎君と呼んで毎年ウォッチしてます。先日『タモリ倶楽部』でみうらじゅん氏の「ナイブーム」というディープなネタをやってましたが、こんなノリですね。で、今年もこの前の月曜日からお目見えしました。そのせいか、関連する過去の記事が閲覧率上がってるみたいで、今回は今年の速報です。



 初日(正確にはその翌日の予報)は上の画像の通り涼しくて、私の一番のお気に入りの「厳重警戒」が登場したのは、木曜日でした。



 昨年と比較して、特に違いはないみたいですね。症太郎君が昨年紫色と化した最高レベルの「危険」もあのままなのかが気になるところです。今年もじっくり観察していこうと思います。速報でした。軌道エレベーター関係の記事書かんと。。。

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JSEA理事に復帰しました

2016-06-04 14:54:14 | その他の雑記
 宇宙エレベーター協会(JSEA)の総会のことを先日お知らせしましたが、その総会の席において、数年ぶりにJSEAの理事に復帰しました。
 もともと2008年4月にJSEAが発足した当初、理事を務めておりまして。。。っていうか発足時のメンバーは10人足らずで、全員がそのまま理事になったんですね。その後理事から「代議員」という役職になった後、仕事との兼ね合いもあっていったん退きました。その後もやってることはあまり変わりないんですが、万年人手不足のJSEAですので、理事の改選期にあたる今回、復帰することになりました。

「お前は軌道エレベーター派の野望を捨てたのか?」とお叱りを受けそうですが、いやいや、これは潜入工作ですよ。"宇宙" 派を内から喰らい、切り崩す作戦。。。かどうか? 今回、理事改選にあたって自己紹介がてら抱負や公約などを書いて提出し、議案書に記載されました。そこでは伏せましたが、密かに胸に抱いてますよ、「団体名を軌道エレベーター協会に名称変更します」という裏公約を (`Д´)/

 まあこれは野望というか陰謀として胸に秘め、粛々と働きつつ、軌道エレベーターの復権も目指します。真面目な話、友人たちとJSEAを発足させ、育ててきた立場としては、やっぱり放っとけないんですよ。ちなみに理事になったので、JSEAの名刺を作り直すことになるのですが、早速「自費で作るから、裏側を『軌道エレベーター派』の名刺としても使えるようにしたい」と申し出てるところです。そんなわけで、軌道エレベーター派に加え、改めてJSEA理事としてもよろしくお願いいたします。

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宇宙エレベーター学会(JpSEC)開催

2016-05-29 21:33:34 | ニュース
 宇宙エレベーター協会(JSEA)主催の「宇宙エレベーター学会(JpSEC)講演会」が28日、千代田区で開かれた。
 JSEAが毎年開いている学会と年次総会を兼ねたもので、午前中の総会で年度事業の承認や役員の選任などが行われた後、午後には各分野の研究者が軌道エレベーターに関して講演。『宇宙エレベーターの物理学』著者で、星新一賞でグランプリを受賞した東海大学の佐藤実講師による開会あいさつに続き、大野修一・JSEA会長が軌道エレベーターの研究の現状やJSEAの取り組みなどを伝えた。
 
 「国連宇宙条約と米国2015年宇宙法」と題した、日本大学の甲斐素直教授の講演では、米国の宇宙関連法規の特徴や問題点などを解説。宇宙の資源について、米国が優先的な所有権を有するかのようにも受け取れる内容になっており、独占を禁じた国際法に抵触する問題点などを挙げ、「意図的に、宇宙条約の規制を免れられることを意図しており、違法である」と指摘した。

 2012年に「宇宙エレベーター構想」を打ち出したした大林組の石川洋二氏は、軌道エレベーターのピラーを構成するケーブルの挙動の研究を中心に、同社の取り組みの現状を紹介。静止軌道から上下両方向にカーボンナノチューブ製ケーブルを伸ばした場合のケーブルの振る舞いを解析した結果、ケーブルは最初コリオリで東西方向に運動し、一定以上伸びると重力や遠心力の大きさが勝って反対側に寄っていくとした。またクライマーの昇降運動によるコリオリの影響については、降下時の方が振幅が大きく、昇りと同時に行われた方が安定するなどと説明した。

 このほか、クライマーの性能や、地上基部のデザインなどに関する発表が行われた。(軌道エレベーター派 2016/5/28)


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近況報告

2016-05-18 14:16:01 | その他の雑記
 柄にもなく働いていたもので、しばらく更新できませんでした、すみません。久々に間ができて、今回はただの近況報告です。

 いい天気ですね。きょうは午前中所要を済ませた後、都心をウロついてます。六本木で浮世絵展を観て、神保町で書店巡りしてました。久々に書泉グランデに入ったら『ガールズ&パンツァー』関連本だらけ! 少なくとも半分以上の階に『ガルパン』本が置いてある。ファンに媚びたか? と思いきや、ここは元々ディープな趣味本が多く、マニアックな戦車の本も多かったので、相乗効果なんでしょう。CDまで置いてあったよ。そんなにガルパンがいいのか! いいよなガルパンは確かに。
 三省堂2階で新刊小説を眺めてたら、藤井太洋氏の『オービタル・クラウド』が文庫化されてました。宇宙機が磁気圏との相互作用で軌道修正や発電をする、エレクトロダイナミック・テザー・マニューバをメインガジェットにしたSFで、以前電子版で読みましたが掛け値なしに面白いです。何よりも、この仕組みは軌道エレベーターの親戚ともいえるロータベータや極超音速スカイフックなどに通じるものがあり、こちらの琴線に触れてくる内容です。細かいネタバレは避けておきますが作中でも少し関係してきますし、「オービタル」という響きもいい!
電子版で読んだ時は、まるで永遠に軌道上を回っていられるかのような描写に疑問を感じた部分もありましたが(電力を取り出すなどすれば、それが抵抗となり高度低下につながるのでは?)、文庫版でどうなってるか今度確かめてみよう。

 書店行脚の後は歩いて秋葉原へ。今その途中です。以前はこのコースが定番だったのですが、随分久しぶりです。で、靖国通りをアキバへ向かう途中で東京スカイツリーが見え、距離があるので少し霞んでます。この景色を見るたびに思うのですが、軌道エレベーターが実現したら、地上基部もこのように見えるんじゃないでしょうか。ちょうど同志たちと宇宙エレベーター協会を設立した頃、頻繁にこのコースを通っていて、やがてスカイツリーが視界に加わるようになって、「いつかこんな風に軌道エレベーターが出現するといいな」などと思ったものです。ああ道険し。
 ただの街歩きブログになってしまいましたが、散策にはもってこいの日であります。また更新増やすよう心がけますので、軌道エレベーター派をよろしくお願いいたします。

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