軌道エレベーター派

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軌道エレベーターが登場するお話 番外編(3)宇宙戦艦ヤマト2199(後編)

2013-09-30 00:48:20 | 軌道エレベーターが登場するお話

宇宙戦艦ヤマト2199
原作 西崎義展
宇宙戦艦ヤマト2199製作委員会
(2012年)


前編はこちら。

4. キャラ云々の続き(ガミラス、イスカンダル編)
(ガミラス)
アベルト・デスラー
 大ガミラス帝星総統。声をあてた山寺宏一さん、『宇宙戦艦ヤマト 復活編』では古代進の声を演じていたので、キャストが発表された時は何の冗談だと思ったものですが、古代より似合ってました。復活編が続いていたら一体どうなっていたのやら? ため息をつくような喋り方誰かに似てると思ってたらぶりぶりざえもんだった。
 旧作では裏表のない狂気の人でしたが、今作では人格的に何者だったのか、いまいち判然としない人物でした。ファンの間では諸評あったようですが、私はこういう二面性のあるキャラが好きなので、2199の中ではもっとも深みがあるキャラだったと思います。
 強大な星間帝国を統べる立場にありながら「ああつまんねえな」という態度丸出しで、シラケ世代の厭世的な指導者。明らかに帝国の運営を「くだらない」とシラケ切ってました。
 それもこれも、スターシャのためにやってるからなのでしょうか。彼の方法論では、宇宙の平和と統一には武力が必要であり(これは正しい)、口で理想を唱えるだけのスターシャに対し、自分はその汚れ役を買って出たようです。結局好きでやってるわけじゃないから心に虚無を抱え、いっつもつまんなそうにしてたのでしょう。
 「結局何がしたいんだよこの人」と思った人は多かったでしょうが、私には彼の言動は理路整然とし、正気を保っていたように見えます。帝国の統治という常人離れした所業をやるには、人間性を捨てて狂気を持たなければならないことを理解し、それに徹していたからです。
 しかしデスラーがそうするほど、スターシャの心は離れて行くのがわからないはずはないのに、それでも覇道に邁進したことは、彼の複雑な心理の表れに思えます。それだけに終盤で「欲しくなったのだよ、あの艦が」と発した裏には、波動砲を使って破壊と殺戮の限りを尽くしたにもかかわらず、スターシャに受け入れられたヤマトへの「嫉妬」があったのではないでしょうか。「私は戦争をしているのだ」という彼の最後の行為は、単なる私闘でした。
 最後は人格的に壊れた印象も受けましたが、これはデスラーが持つ振幅の範囲内であり、しっかり正気を保っていた。私の中では、ちょっと方向性はアレだけど、頑張りながら全然報われなかった人という位置づけになっています。

エルク・ドメル
 ガミラス軍上級大将。この男との闘いなくしてヤマトなし。今作では不利な条件(単艦のヤマトからすれば全然不利じゃねえだろと言いたくなるけど)で闘い、散っていきました。「このドメル、最後の最後で詰めを誤った」と反省してましたが、沖田艦長と無駄話して波動防壁を修復する時間を稼がせてしまうあたり、本当に最後の詰めが甘い。これは自己満足でしかなく、しかも「総員離艦」と言い放った時、格下の兵卒の表情は「イヤこの円盤が脱出艇なんスけど…」と言ってますねあれは。

ヘルム・ゼーリック
 ぶるああああ! この人はこれだけで十分ね。デスラーが「言いたいことはあるかね、ゼェェェェェェー」ってとこでモニターを撃って壊しちゃったんだけど、せっかく物真似してんだから最後までさせてやれよ。最後はよりにもよって、ゲールのような小物に殺されてしまった。

ミーゼラ・セレステラ
 宣伝相。アケーリアス文明の末裔だという民族ジレルの生き残りで、精神感応の能力を持つ。被征服民族だったらしく、レプタポーダで妹分のミレーネルと一緒にデスラーに解放され、忠誠を誓った。しかし忠誠というより、デスラーに精神的に依存しており、総統府に置いてけぼりにされたのに、ヤマト艦内で見境なくデスラーの元へ向かった。再会したら喜んでくれると思い込んでいたのか? 最後はそのデスラーに感応波を浴びせ、ギョッとして撃たれてしまい、この時ばかりはさすがのデスラーも狼狽し、「やっちまった」という表情全開でした。
 愛する人に殺されるというのは、本人にとって幸福なのか、不幸だったのか。彼女とデスラー、今やっていることの行く末に夢見た未来はないのだと、頭脳明晰な彼らに理解できないはずがない。そう考えると、「本当はわかってるけど後戻りできない」という、共通する精神性を感じます。
 閣僚の中でも差別されてたし、色々悲しい目に遭った苦労人ではありました。

ヒルデ・シュルツ
 2199キャラの出世頭 ( ̄▽ ̄) テロン討伐軍司令官シュルツの娘。孫の間違いじゃないのか!? あのハゲにこんな美少女の娘がいるとは宇宙の神秘だ。当初はホログラム映像だけで登場が終わるはずだったのが、予想外の人気が出て再登場に再登場を重ね、メイド服着てセレステラの侍女に就職。なんとフィギュアまで発売になった。人気が出た直後に公式サイトにアップされた画像はかなりデータが荒く、スタッフの「こんな人気出るとは思ってなかったんで用意してませんでしたサーセン」感が全開でした。最後にはヤマトに救われたガミラス人代表のような位置づけになってしまった。お前の親父殺したのあいつらだぞ。いっそのこと「デスラー・ユーゲント」なんてのがあって入団し、復讐を誓う残忍なキャラに変貌すれば面白かったのに(4/13付記:ありました。設定書見たら「デスラー少年団」と「ガミラス少女同盟」ってのがあるんだとか。設定凝り過ぎだろwww)。

レドフ・ヒス
 副総統。この人も株爆上げ。旧作では「デスラー機雷」がヤマトを沈め損ねると、

 デスラー「あの機雷はなんという名だったかね」
 ヒス「…ヒス機雷です (TдT)」


──とか散々な役回りで、さらに本土決戦に持ち込まれて敗色を悟り、デスラーにヤマトとの講和を進言したら撃ち殺されてしまった可哀想なお人でした。2199でも当初はセレステラやデスラーの侍女たちに小馬鹿にされていたのに、本人が目の前にいないと態度がデカくなりデスラーを罵倒。ヒルデを抱きかかえて助け、スターシャに対してヤマトを擁護してあげるいい人になりました。前半と後半で印象が違うという点では、南部に匹敵する。2199における出世キャラのベスト3は (1)ヒルデ (2)南部 (3)ヒス──だと思う。

ヴォルフ・フラーケン
 次元潜航艦UX-01艦長。さすがは旧作の続編『宇宙戦艦ヤマトIII』でヤマトに対し土つかずだったという潜宙艦のキャプテン、2199でも終始おいしいとこばっかり持ってった。最後に亜空間ゲート手前で浮上したシーンは劇場公開ではカットされてたので、わざわざ宇宙服着て顔出して、ゲールに「軍事法廷があんたを待ってるよ」とカッコよさ倍増。何と言いますか、粗野なんだけど気品がある。UX-01艦内自体が独立愚連隊みたいな雰囲気を醸し出していますが、副長のハイニもなんだか愛嬌があって憎めないキャラでした。藪改めヤーブを拾って仲間に加えてるし、いい奴だ。中田譲治さんの声がメチャクチャ渋い。とても別作品で「私はエロゲーが大好きだあああっ!」と叫んでいたお人とは思えない。

ハイドム・ギムレー
 親衛隊長官。側近の中でこの男だけは、デスラーがバレラスを破壊するつもりだったのを知っていて、上空の防衛線を甘くしてヤマトをバレラスに誘導した。セレステラやヒスは見捨てられたのに、何が分け目だったんでしょうね。独特の美意識にこだわっていたように見える人物(殺戮行為に美や快感を見出していたっぽい)。死生観も変わっていたのか、「なるほど、これが死か」と、さして恐怖を感じている様子もなく死亡。イマイチよくわからん人でした。

メルダ・ディッツ
 ディッツ提督の娘で軍のパイロット。 赤い機体が趣味らしい。地球の食べ物を食した初のガミラス人。地球のスィーツの味を知ってしまった彼女は、もう知らなかった自分には戻れない。ガミラスにスィーツ文化をもたらす人物として歴史に名を残すかも知れない。スタイル抜群だが、将来太るんじゃなかろうか。ガミラスはスィーツ文化が未熟であることを露呈した。

グレムト・ゲール
 ガミラス軍少将。ヤマトと何度も戦火を交えて生き残り、クーデターを画策したゼーリックを誅伐。バラン星の崩壊に巻き込まれた艦隊の残存兵力を再編し、軍を瓦解から救った名将。。。と、人物を知らずに結果だけ見れば、100年もたつと気まぐれな歴史の評価が180度ひっくり返り、こんな感じで教科書に載りそうなお人。本人は尊大、卑屈、卑怯、下衆などなど、およそ「小物」にふさわしい、人間性を否定するあらゆる表現が似合いそうな卑劣漢だったのですが、デスラーへの忠誠心だけは本物だったようで、ある意味忠臣の鏡なのかも知れない。自分の欲求に正直な人。それだけに死んじゃったのは残念だねえ。ちなみに旧作ではドメルの自決の巻き添えになって死亡した。

タラン兄弟
 「タラン、今までよく私につかえてくれた」
──と、『さらば宇宙戦艦ヤマト』で、デスラーにねぎらわれていた側近の将官。2199では兄弟に分割されてました。お互い兄弟が無事だったこと知ってたのかね?

(イスカンダル)
スターシャ・イスカンダル
 永遠の17歳。地球人やザルツ人と似たような肌の色なのに、青い肌を高貴なものとみなすガミラス人から、なぜか崇拝されているイスカンダルの女王。いやそもそも臣下も納税者もいない星で女王という肩書に意味があるのかと。どうせ自分の代で潰えるんだから、ガミラスと大統合でも大併合でもしてやればよかろうに。
 波動エネルギーを武力に用いた地球人に、コスモリバースシステムを渡すことを躊躇しましたが、ガミラスが隣にあることを黙っておいて、それで波動砲もなしでどうやってイスカンダルまでたどり着けというのか? それにこの人、ガミラスの国営放送で森をユリーシャと間違え、実物を見るとサーシャと間違えてました。上の妹と下の妹と赤の他人の区別がつかないような人の判断力など信じていいのしら?
 そもそも、デスラーに「あなたの言うとおりにするからやめて」と言えば、ぜーんぶ解決していた気がするのですが、色香で手玉にとるという芸当は苦手なんでしょうか。セレステラの言うとおり、どのみち自己犠牲はしない人なんでしょう。マジメに言うと、この人は本当に「口だけ」で、妹をパシリに使って死なせるし、自分じゃ何もしない人という気がします。デスラーの覇権主義による統治に不満なら、自分が呼びかけて各星系の代表からなる議会でも設ければよかったのだ。
 そしてコスモリバースの供与をためらっていたのは、古代守の記憶(あるいはコスモリバースの核となる意識か何か)を失いたくないからであり、波動砲のことは半分以上口実に過ぎなかったのではないか、とさえ思わせる、 深いエゴイズムを隠し持っていそうなキャラでした。いやまあ、地球人としては与えてもらう立場ですから、それでも文句は言えないんですけど。
 最後のあの仕種。。。サーシャ(妹ではなく古代守との間の子供)を宿してるのか? お前ケガ人相手に関係を持ったのかよ? 単にお腹が痛いだけだったのかな? とにかくちょっとねえ、救いの手をさしのべてくれたのに悪いんだけど、なんか色々文句いいたくなる人だったなあ。
 


ユリーシャ・イスカンダル
 ヤマトに「積み込まれ」ていたスターシャの妹。実際の地球の恩人ってこの人なんじゃないか? 「言葉ではなく、行動で…」って。。。結局金かよ! (´Д`) 遠回しにユスるヤクザじゃないんだから、こんな言い方されたら、日本人はそう考えてしまうのよ。とんでもない天然というかデンパ系で、お前の話周り置いてきぼりだぞ。友達いないんだろうな。ただしデンパの割にはM理論を完璧に理解していたらしく、真田さんと対等に議論を交わしたりして。。。やっぱりお前の話周り置いてきぼりだぞ。他人に憑依できるオカルト能力の持ち主。最後は新生ガミラスの統治に尽力するつもりらしいが、絶対政治向きじゃない。

5. BBY-01ヤマトの戦績に見るヒヤリ・ハット事案

ヒヤリ・ハット
 ヒヤリ・ハットは、結果として事故に至らなかったものであるので、見過ごされてしまうことが多い。(略)しかし、重大な事故が発生した際には、その前に多くのヒヤリ・ハットが潜んでいる可能性があり、ヒヤリ・ハットの事例を集めることで重大な災害や事故を予防することができる。(Wikipediaより)


国連宇宙軍BBY-01ヤマト 乗員999名 艦長・沖田十三宙将。人類初の恒星間航行能力を有する戦闘艦。真空偏極により航続距離は事実上無限であり、さらにワープ航行が可能。イスカンダルまでの往復において、ガミラスと幾度も戦闘を経験した。ここではヤマトの主だった戦闘記録を振り返り、ヒヤリ・ハット事案の有無を検証してツッコむものです。

メ二号作戦
 冥王星基地を破壊した作戦。山ほどある敵基地から艦載機で本丸を探し出し、砲撃を加えた。
 冥王星から新たな遊星爆弾を発射しても、次元波動エンジンが付いてるわけじゃないから地球に到達するまで優に1年以上かかるんじゃないのか(つまりヤマトの帰還の方が早いので、帰ってから対処を考えてもいいのではないかということ)、仮に1年以内に到達するほど加速してるなら、指数関数的な質量の増大で地球はイチコロではないのか、いやそもそも大マゼラン銀河は南天の天頂方向じゃないか、という疑問点は置いておきます。
 さて、ブリーフィング時に南部が波動砲で一掃することを具申し却下されますが、どう考えても南部が正しい。ただでさえ時間も資源も人命も惜しい、失敗の許されない立場なんだから、敵を冥王星ごと吹っ飛ばしてしまえば良かったのである。平時なら非難必至だけど、この場合は仕方ないよ。それができないなら冥王星をスルーしてしまった方が、まだマシとさえ言える。第一ヤマト本来の任務じゃないし、通信可能圏内なんだから国連ヤマト計画本部に判断仰ぐべきじゃね? (一任されてたんだっけ)
 そもそも地球を救うために冥王星を犠牲にして、何が問題なのだろうか? 2199の世界では人類は火星をテラフォーミングしたのですが、自分たちの都合で火星の環境を改造するのは良くて(しかも人類同士の戦争でボロボロにしてしまったらしい)、冥王星を消滅さてはいかんという理屈には説得力がない。冥王星救っても地球が滅びたら何の意味もないだろうが。だいたい、惑星間弾道弾に誘爆して結局冥王星もボロボロじゃねーか!
 さらに言うと、この冥王星での状況(反射衛星砲を使われる前ね)は、波動砲を使用するのには理想的だと思う。後述の七色星団やカレル163のような艦隊戦であれば、波動砲を撃った後の脱力状態で残党に攻撃される可能性があるけどれども、南部の言うように冥王星の場合はロングレンジで基地を破壊するんだから必要十分条件を満たしている(本作でも残存艦隊の奇襲を想定したために波動砲が使えなかったという指摘もあるのだけれど、だったら劇中で言ってくれよ)。
 それを沖田艦長、無数の拠点を偵察で調べるなんて成功率低すぎのバクチでしかない。実際、加藤が誤報を上げ、真田さんが注意喚起したにもかかわらず、「たとえ不確かでも、それに賭けねば勝てぬ戦もある」と、もう少しで戦力をそっちに割くところであった。賭けに出る状況じゃないし、賭けたら負けてたじゃん! 波動砲という選択肢があるのに運に頼った迂遠なやり方、作戦と言えんだろう。可哀想な南部 (´・ω・`)…代わりに私が言ってやる。いいじゃないか、星の二つや三つ! いいじゃないか、星の百や二百!!
 ただし冥王星を吹っ飛ばして、それがスターシャの知るところとなれば、逆鱗に触れてコスモリバースシステムはもらえなかったかも知れませんから、結果的にはこれで良かったのかも知れませんが。 私的には、エンケラドゥスのエピソードとくっつけて、「冥王星から友軍の救難信号を受信したから波動砲は使えない」という設定にすればよかったのだと思う。


次元潜航艦UX-01との対潜戦闘
 艦長不在で真田さんが指揮。潜宙艦の探知のため亜空間トランスデューサーでヤマトからピンガーを打つか、ソノブイで打つかで意見が割れ、結局母艦からピンして敵に居所を知らせてしまった。後に新見女史の言うには、真田さんは古代を死なせたくなかったんだとか。作戦の私物化じゃん。古代は古代で独断専行。結局、一士官の命令違反によって救われたのである。もう秩序崩壊状態。これ順序が逆(ソノブイで索敵しようとして、新見が勝手にヤマトからピンガー打って身バレ)だったらどうなってたか考えて欲しい。この頃より艦長自ら「それが命令であったとしても、間違っていると思ったら自分を貫く勇気も必要」と公言して憚らぬようになる。思ってても指揮官が言っちゃだめだよ(そのくせ七色星団では疑義を抱いた島や太田に「命令が聞こえんのか!」と怒鳴りちらしている。一体どうしろと?)。

カレル163星域会戦
 艦長不在で真田さんが指揮。ワープに入る直前にドメル艦隊の斥候艦に追撃を受け、まんまと罠に追い込まれた。戦略の基本中の基本である「戦場の設定」においてはヤマトは常に圧倒的に不利であり、これはもうワープ前に何とかするしかなかった。戦略的なマイナスを戦術で覆すのはまず不可能というのが定石なので、今回は闘う前に負けてたようなものですね。
 指揮を代わった沖田艦長は「敵正面に突入、これを突破する(略) 死中に活路を見出さねば、この包囲を破ることはできない」と一点突破主義で乗り切ろうとしますが、さらに包囲網の第二陣に追い込まれ、ドメルへの帰投命令がなければ沈んでいた。こりゃヒヤリハットどころじゃなく、運だけで助かったさいたる例でしたね。

バラン星の亜空間ゲート突破
 沖田艦長お得意の一点突破主義に、瑕疵の見当たらなかった稀有な例。ちゃんと戦闘の後、戦場を離脱するまでのことを考えてたからですね。これは文句無し。ちなみに、波動砲撃つ時は毎回この手を使えば、現場離脱が容易だと思うんだけど(特にメ二号作戦とか)、これはお約束ですね。

七色星団会戦
 劇場公開では短い感じがしたけど、TV放映で見たらなかなかボリュームを感じました。ドリルミサイル改め特殊削岩弾は、音も旧作とそっくりだったので感動したぜ! 今作ではガミラスの艦隊主力がバラン星から帰還中のため充分な兵力を割けなかったという、戦力差のバランスをとる展開を設けられました。しかし今作戦、まず最初の方針、

沖田「迂回コースをたどれば、それが油断となり、相手に反撃の時間を与えることになる」
真田「この危険な宙域を我々が突破するとは、敵も考え難いでしょう」
沖田「んむ」

 こーゆーのを油断と言うんじゃないか? 実際、
ドメル「ヤマトの艦長が私の思った通りの男なら、必ず七色星団を突き進んでくる」

 完全に読まれとる。沖田艦長は「もし敵が、あの時の指揮官だったら」とまで考えてるのに、前回もう少しで沈められるところだったのを忘れたのか。ただし、仮に遠回りしても、ガミラスに艦隊を立て直す余裕を与えた挙句、食いつかれていでしょうから、どのみちドメルとの決着は避けられなかったのでしょう。
 七色星団での勝敗はドメルの落ち度によるところが大きく、イオン乱流に上手く誘い込んだ沖田艦長の素早い状況判断は見事でしたが、やはり運に救われた部分が大きいのは否めないですね。ドメルは戦略家、沖田は戦術家に資質が偏っているように見えます。強いてツッコミたいのは、先遣させた航空隊本隊の隙を突かれた時のために、母艦の守りとして山本のα2を残しておいたわけですが、α1も出しゃ良かったじゃん、とおもいました。
 それにしても、波動防壁ってすごい防御力だな。旧作のヤマトは、自己修復性金属オリハルコン製という初期設定で、だから第三艦橋が、ドメルに爆破されてもガミラスの硫酸の海で溶け落ちても、早々に復活してたわけですが、今回は防壁のお陰でかなり助かってますね。

ガミラス星本土決戦
 往路最後のワープアウト直後に第二バレラスからデスラー砲で狙われ、何とか回避してガミラス本星の総統府に突っ込みました。
 まず先に「こうした方が良い」という点を述べておくと、

 (1)デスラー砲は亜光速の標的は狙えないらしい
 (2)第二バレラスはガミラス-イスカンダル系(逆?)のL1にある

──という条件から、最善の策はイスカンダルに直行直帰。 ほかにやることないだろ。ウラシマ効果は置いとくとして、亜光速まで出せるならすぐ戦場離脱できるでしょ? 全速でイスカンダルの影、すなわちデスラー砲の死角に入って回避し、降下してスターシャの元へ直行。もらうもんもらって再び死角から宇宙に出て、重力干渉が起きない距離まで離れたらワープ、さっさと地球へお帰りなさい。第二バレラスなぞ相手にせず、無視してしまえばよろしい。余計な犠牲が出ないからスターシャも賛成してくれると思うんだけど。「イスカンダルを盾にはできん」などと、誰の得にもならない美学にこだわるならガミラスの影に入る。いずれにせよ、とりあえず惑星の裏側に逃げ込んで安全確保するというのは、第二バレラスの位置を見れば素人でも最初に考えることでは? 
 しかし沖田艦長は「敵の懐深く入らぬ限り活路は見出せない」とまたもや一点突破主義。さすが期待を裏切らない! 航空隊を軌道上に置き去りにして帝都バレラスに降下し、艦首にピンポイント・パリア。。。もとい波動防壁を集中させて総統府にダイダロス・アタックをかける。艦長番組間違えてます。(そういや昔DAICONのアニメで左右の腕がヤマトとアルカディア号という凶悪なマクロスが出てたな)

 ここで謎なのが、この後どうするつもりだったのか? いやマジで。全火力を総統府の内外にぶっ放せば破壊できるかも知れないから、総統府そのものをいわば「人質」にもできたかも知れませんが、そうせずに白兵戦を仕掛けようとしていた以上、沖田艦長はほかのことを考えていたと思われます。となると考えられるのが

 (1)総統府全体を実力で制圧・掌握する
 (2)デスラーにターゲットを絞り殺害するか人質にとる
 (3)同じくデスラーに肉迫して停戦交渉を行う

──といったところですが、専制国家である以上(2)と(3)が効率的で、ひたすらデスラー1人を倒すために全力投入すれば勝機はあったのか。。。どのみち敵の本土なんだから、ここで決着をつけないと残党に蜂の巣にされたのは必至なわけで、本当に一体どうするつもりだったのかしら?
 でもって「古代、突入部隊の指揮をとれ」、森がデウスーラII世のコアシップに乗っているとわかると、舌の根も乾かぬうちに「古代、君の戦術長の任を解く」と朝令暮改。白兵戦の指揮どうすんだよ(ああ、藤堂長官が空間騎兵隊を乗艦させていれば。。。)。ちなみにコスモゼロって、大気圏離脱してL1まで飛べる航続距離あるのか。

 二つ目の謎。艦首を総統府に突っ込んで視界が塞がれた状態で、どうやって波動砲の照準合わせたんでしょう? そもそも633工区の映像どこで撮ってたんだ? (波動砲の測距儀は艦長室の左右にあるから、これでは標的の諸元が得られない。南部がトリガーを引くのにビビりまくっていたのは、実はターゲットスコープに何も映ってなかったからではなかろうか?) 海自のLINK-14みたいなシステムでも積んでて、上空に残した航空隊からデータもらってたのかねえ?
 結局、総統は死んだ(と思われてる)し、ガミラス市民を救ったことで、お咎めなしでイスカンダルへ向かえたわけですね。ここでも結果オーライであったわけで、極端なことを言えば、デスラーの暴挙のお陰でヤマトは助かったようなものです。
 とにかく沖田艦長という人、「死中に活路」とか「食い破る」とか、いつも退路を用意してないといいますか、単に「それ、落とし所考えてないだけじゃね?」といように見えます。
 
最後の闘い:亜空間ゲート内での白兵戦
 艦長不在で真田さんry) 亜空間ゲート直前で追撃を受け、「このまま(ゲートに)突入する」。カレル163でまったく同じ罠にかかり、あわや沈むところだったのに全然学習してねえじゃねえか! 誰かツッコめよ。
 それで待ち伏せしていたデウスーラII世こと新型デスラー艦に真上から取りつかれたわけですが、煙突ミサイル撃て。ここで使わなきゃ煙突ミサイルなんて出番皆無だろが何のためのVLSだよう! 主砲も仰角最大にすれば三式弾撃てるんじゃね? 魚雷もホーミングで当てられるだろ。まあデウスーラに大爆発でも起こされたら艦長室が危ないけどな(だから言ったんだよ艦長室無防備過ぎるって)。

 ここでどうすべきだったのかは難しいところですが、まずは真田さん罠を疑えよと。あとは、接舷されたら砲撃しながら艦体を高速回転させ(ヤマトは推進系を使わずに艦をロールさせられる)ガミロイド兵を振り落とし、デスラー艦も引きちぎるとかできないものかね? 何にしろ、敵兵が降下してくるのを迎撃もせずに黙って見てるとは、艦橋の連中なにやってたんだよ。

 以上、主だった戦闘を振り返りましたが、一点突破主義でヒヤリ・ハットの連続です。ほとんど運だけで旅を終えられたようなもんだわな。単艦だからしょうがないけどさあ。。。しかし、最大の ヒヤリ・ハット要因は、健康に不安を抱えた人間が艦長を努めてることだろ。健康状態の虚偽申告って軍規に反するんじゃないかと思うんだが。
 土方は沖田の体調を見抜いていて止めたのですが、気迫に押され、

「ならばもう何も言うまい」

 いや言えよ。匿名で藤堂長官にチクれ。佐渡先生もドクターストップかけろ地球の命運かかってんだから。
 実際、片道しか体調がもたず、イスカンダル到着時には病臥していてスターシャに挨拶できず、礼を失したわけですし(そもそも一種の外交交渉なのだから文民を乗せとくべきでしょうが、非常時だからまあこれは全権委任ということなんでしょう)。もし航海の途中で病死して、真田さんの指揮でドメル艦隊と闘ったりしてたらヤマトは沈んでただろう。しかし、この状況と体調で勝利して帰還できたんだから、やっぱり沖田艦長はスゴイ人だ。

──とまあ、揚げ足をとってしまいましたが、ピンチに陥って緊迫しないと面白くないからね、わかってますわかってます。ファンだからこそ意地悪くツッコんじゃうんだけど、楽しませてくれたことに大感謝です。

 最後に沖田十三艦長の人物についてですが、キャストでもトップにあるように、この人こそ本作の主人公なのですよね。物理学の博士号持ってて、学者になりたかったんだけど(じゃなんで士官学校入ったんだ)軍人の途を歩んだという稀有な人物。22世紀の日本において、どんな人生を歩むと自分を「ワシ」と呼ぶようになるのでしょうか? 子供を戦役で亡くしていて、まったく表に出さなかったものの、家族への思いで航海を乗り切ったのでしょう。お疲れ様でした。
 最終話、「地球か…何もかもみな懐かしい…」というセリフは当然入ると思ってましたが、個人的にはその直前の「佐渡先生…ありがとう」も残してくれたのは嬉しかったです。BGMも同じ曲使ってたし、もう大人の事情で生き返らせんなよ絶対。
 森を甦らせた古代守に代わり、沖田艦長がコスモリバースの核になったと解釈していいんでしょうか。すると、ヤマトそのものになったわけで、ひいては地球の守り神のような存在と化したのかもしれません(真田さんが語った「十分に発達した科学は魔法と見分けがつかない」というのは、軌道エレベーターの歴史に殿堂入りしているアーサー・C・クラーク卿の名言である)。

 七章の劇場公開では上映が終わると拍手喝采で、鼻すすってる人がたくさんいました。私も思わず目頭がうう。。。旧作への愛を感じさせつつ、21世紀のヤマトにふさわしい秀作として十分楽しませてくれました。お疲れ様です。

6.宇宙戦艦ヤマト2201はあるのか?
 こうして終了した『宇宙戦艦ヤマト2199』ですが、結論からいうと「2201を作れるように2199を作ってある。そのために玉虫色の解釈ができるシーンをたくさん挿入しました」というのがありありとわかる内容でした。
● ガトランティス帝国と国境紛争をしていて、収容所惑星で解放された中にはズォーダー大帝によく似た人物がいた
● 爆発したデウスーラからコアシップが浮上していたようにも見えた
● 次期艦長の土方が登場している
● 古代が将来の艦長っぽくなってきた(。。。らしい。単なる躁鬱病に見えるんだが)
● 沖田艦長がヤマトの守護神のような存在になったことで、『さらば』のラストシーンのような古代との対話もより自然になる
● スターシャが意味ありげにお腹に手を当てていた
最後の点は「ヤマトよ永遠に」の伏線なのですが、何か生かしようがあるかも。

たとえば、
 西暦2201年、地球の再生・復興を果たした国連宇宙軍は、新たな侵略に備えるための艦隊再建の名の下、スターシャとの誓約を破って(拡散)波動砲を装備した艦を量産。調子に乗って軍備増強の途をたどる。そのやり方に嫌気がさしたヤマトクルーたちの多くは軍を去るが、そこへ白色彗星帝国が攻めてくる。
 ガトランティスは、デスラー亡き後のガミラス(帝政から共和制に移行してるとか)の版図が力の空白状態にあるのにつけ込み、勢力拡大を図りガミラスやイスカンダルに攻略して瀕死の状態に追い詰め、次のターゲットを地球に絞ったのであった。
 で、増長していた地球艦隊は白色彗星に拡散波動砲をぶち込むが効かずに壊滅。かつてのヤマトのクルーたちはヤマトに集まり、地球の危機のためやむなく自ら波動砲の封印を解き、立ち向かう。。。とか。
 ちなみにデスラーはやっぱりガトランティスの子飼いに成り下がっているが、当然ヤマトと対峙することになる。2199は綺麗に終わったから、見たいような、見たくないような。。。もし作るなら、安易な予想をいい意味で裏切る作品にして欲しいよね。それからコスモタイガー出して。
 なお余話として、デスラーはガトランティスに制圧されたガミラスを実力で解放。引き止める人民に「私はもう君たちの主ではない」なんてスカして、宇宙のどこかへ去って行くのであった。さらにガルマンガミラスを築き、惑星破壊ミサイルを造って流れ弾を太陽にぶち込み、また地球を危機に陥れることになるのは言うまでもない。

 ──という原稿を書いた途端、来たよ「完全新作公開」。「2199」の「完全新作」だから、続編ではないのかも知れませんが、それはそれで楽しみです。ただ、旧作シリーズみたいに別の時間軸つくって続編を粗製乱造しないでね。
 来年公開とのことなので、観たらまた感想を書ければと思います。いやー、長くなった。ここまで読んでくださり、誠にありがとうございました。

軌道エレベーターが登場するお話 番外編(3)宇宙戦艦ヤマト2199(前編)

2013-09-27 23:13:23 | 軌道エレベーターが登場するお話

宇宙戦艦ヤマト2199
原作 西崎義展
宇宙戦艦ヤマト2199製作委員会
(2012年)


 言わずと知れた僕らの『宇宙戦艦ヤマト2199』です。軌道エレベーターと言っていいか微妙なのですが、それっぽいものが登場するということで、番外編として扱うことにしました。ぶっちゃけ中身にツッコミまくりたいという欲求からのコジツケなのですが、とにかく始めましょう。

あらすじ 西暦2199年、星間国家ガミラスの攻撃で地球は汚染され、滅亡まであと1年と予想されていた。人類は救いの手を差し伸べてきたイスカンダル人から技術供与を受け、宇宙戦艦ヤマトを建造。ヤマトは地球環境を浄化させるシステムを持ち帰るため、16万8000光年離れたイスカンダルに旅立つ。1974年テレビ放映された人気アニメのリメイク作品。

1. 本作に登場する軌道エレベーターっぽいもの
 当初は『公式設定資料集Garmillass』を確認してから書くつもりだったのですが、発売日が延期になってしまったので、「もういいや」と映像から推測できる限りの説明をしたいと思います。
 地球とイスカンダルの中間位置にバラン星という星があります。旧作では人工太陽を随伴する惑星で、ガミラスの前線基地がありました。2199では、ここに近道ができる「亜空間ゲート」なるものがあり、地球方面-バラン星-大マゼラン銀河のそれぞれの間のゲートをつなぐ「ハブステーション」の役割を果たしています。このバラン星、中心部に何らかの反応炉らしきエネルギープラントを備えた半人工天体の浮遊惑星です。憶測ですが、自重で核融合を起こす手前の褐色矮星であるために、中心核にプラントを設置して、自然には起きなかった「点火」を誘発させたのかも知れません。
 このため、バラン星にはプラントを制御するための「鎮守府」が設けられおり、これが軌道エレベーターみたいに見えなくもない。(付記 その後資料集を確認したら、確かに「軌道エレベーター」とありました!)途中で屈曲した形になっているので、潮汐による張力でピラーを力学的に支えているわけではなさそうです。もっとも、2199の世界では重力制御が可能なので、問題はないのかも知れません。
 さらにオービタルリングがバラン星を囲っています。これまた憶測なのですが、これはダイソン・スフィアの一種ではないかと。ダイソン・スフィアは恒星を球殻で覆い、天体のエネルギーを余さず利用するシステムのことで、これをリング状にしたものがラリイ・ニーヴンの『リングワールド』(早川書房)に登場します。バラン星のリングはこれと同種のものであり、ゲートや鎮守府のエネルギー維持に活用されていると思われます。ですので、本作では本来の意味のORSの役割は果たしていないと思われ、そんなこともあって番外編にした次第です。なおこれらは元々古代文明アケーリアス(やっぱ商標の関係で名前変えたのかね)が残した遺跡であり、それをガミラスが使用しているとのことです。

 本編では、ガミラスのゼーリック元帥がクーデターを画策し、艦隊をバラン星に集結させたところで地球方面側ゲートからヤマトが出現。一時轟沈を装いながらマゼラン側ゲート手前で180度回頭し、波動砲でバラン星のプラントを撃って(いくら人工天体だからって、冥王星はダメでバラン星はぶっ壊してもいいのかよ)ガミラス艦隊に壊滅的打撃を与え、自らは反作用でゲートに後ろ向きに突っ込み、大マゼランまで跳躍を果たします。旧作にはないオリジナルシーン、いやお見事! 後述しますが、沖田艦長がちゃんとした戦術を展開したのはこの時だけだったのではないかと思います。
 はい、軌道エレベーター絡みの話はここまで。あとは思いっきりツッコミを楽しみます。


2. 登場人物について。新しくなってもヤマトはツッコミ甲斐がある(地球編)
 軌道エレベーターについての解説は済ませたので、あとはアンサイクロペディア風にキャラ別にツッコんで、勝手に楽しませてもらいます。まずは地球側キャラについてです(沖田艦長については、別の節を立てて次回述べます)。

古代進
 普通は殉職者にしか適用されない二階級特進で、ヤマト戦術長に就任。一応主人公だけど影薄すぎ。尖ったところのない人格者に設定変更されちゃって、イジリ甲斐のないキャラになってしもうた。戦術長の割にまともに戦術立案したのは冥王星くらいだし、七色星団から後は指揮らしい指揮をまったくとっておらず、最後の波動砲発射まで南部にもってかれた。「ユキーーーーッ!!」って叫ぶ時の表情は狂気じみてて怖いし。今風と言えば言えるキャラかも知れませんが、レギュラーの中で一番書くことがない人であった。

島大介
 ヤマト航海長。旧作の古代から性格を一部受け継いでおり、普段はチャラいようで、ガミラスの悪口になると激情家となる兄ちゃん。古代と同じく棚ボタ出世で、不幸にもいきなりヤマトの操舵士に抜擢された。全長333m(これは世界最大の軍艦である米海軍のニミッツ級空母と同じ長さであり、縦にすると東京タワーの高さに相当する)という巨大な宇宙戦艦の操舵を担っていたわけだが、大軍に突っ込むわガミラス総統府にダイダロス・アタックかけるわ、沖田艦長ときたら駆逐艦や強襲揚陸艦の所業を無茶ぶり。よくあれだけアクロバティックな操艦ができたものです。キャラ的にはツッコミどころは少ないんだけど、いやホント、ヤマトの勝利って島の操艦のお陰だよね。

森雪
 船務長。旧作ではナヨナヨしているくせに生活班長、看護師、電探と何でもこなすスーパー女だったのが、今作では一見気が強そうで意外にか弱いツンデレキャラに。巨乳→原田、熟女&メガネっ子→新見、ロリ→岬、戦う女性キャラ→山本と、それぞれ視聴者層の需用に応えていたのに対し、いわゆるヤマトガールズの中では埋没気味だったヒロイン。
 この女とんでもない奴で、1話で読み聞かせの形でガミラスとの開戦の経緯(しかも嘘)を解説するのですが、「地球は滅びの道を歩んでいるのです。科学者によれば、人類が滅亡するまでおよそ1年」って、子供になんて話してんだよ。「君たちあと1年で死ぬのよ? ねえどういう気分? ☆(ゝω・)vキャピ」って言われてんのに、次郎(島の弟)も「お姉さん綺麗な顔して病んでますね」くらい言い返せよ。大体いくら土方のコネとはいえ、1年分の記憶しかない人間を責任のある立場につけていいのか?
 結局サーシャたちと瓜二つなのは偶然なの? 「お、今回はそっくりなのは何かの伏線なのか、これは楽しみ」と期待させといてそりゃあないだろう。とはいえ、精神攻撃を受けた時に次元波動エンジンを再起動させて艦を救ったり、ガミラスに囚われて第二バレラスを自爆させたりと、かなり活躍してくれました。1年前は事故に遭い、航海中に誘拐され、終盤では銃撃されて1回死んでと(これは旧作もだけど)、大変な苦労人ではあります。

真田志郎
 ヤマト副長兼技術長。この人なくしてヤマトなし。旧作では眉毛がなくてまるで任侠みたいな顔だったけど、今作ではカタギに。推進用に供与された次元波動エンジンをいじくり、当時ガミラスさえ未完成だった波動砲を開発した。志郎。。。恐ろしい子! きっと空間磁力メッキも出番がなかっただけで造ってあったのだろう。
 しかし、一体誰がこの人を副長に選んだのだろうか? 詳しくは後編で述べますが、艦長不在で指揮中、同じ手口で2度も罠に追い込まれるわ、潜宙艦に位置知らせるわ、戦闘の局面になるとまるっきりニワトリ頭で正しい判断を下した試しがない。山南あたりを副長にすべきだったよなあ。ちなみに「シロシンタ」の名で活躍する投稿マニアらしい。「心のお話」とか出てきたので、てっきり旧作と同じくサイボーグで、機械化された自分の心の有無について悩んでいるのかと思っていたのですが、サイボーグネタは無かったですねK田さん。

徳川彦左衛門
 沖田艦長の信頼厚い機関長。地球に残した家族との通信で、闇物資に手を出すなと怒ってたけど、自分はOMCSでたらふく食ってでっぷり肥えた体で何を偉そうに。

南部康雄
 戦術科砲雷長。旧作よりもイケメンだし、古代よりも遥かにキャラが立っていた大艦巨砲主義者で、なんだかんだで愛されキャラ。「三式弾なら実体弾なので射撃可能です」→「三式弾は射程が短い!」、「いいじゃないか星の一つや二つ」→「ダメだ!」(いやこの場合はいいじゃないか。2199屈指の名言だと思う)、「まあまあ君たち」→「お前は黙ってろ!」と、物語前半は皆に否定されてばっかりだったのに、七色星団会戦では「任せろ、俺は大砲屋だ!」と、特殊削岩弾(ドリルミサイル)を狙撃して敵空母を誘爆させ、何とガミラス本星では本編最後の波動砲発射という大役を果たした! 最後のデスラー艦との艦砲戦でも、古代は艦橋にいなかったから南部が砲術指揮をとっていたに違いない。名セリフも連発して大出世だ。
 この男は2199の中で一番の勝ち組じゃなかろうか? 実家の南部重工は大金持ちで、帰還後はアンドロメダや主力戦艦の建造特需で大儲け間違いなし。ヤマトの砲手を務めたのだから、軍人としても民間に天下りしても一流のキャリアで、帰還後の人生は前途洋洋でしょう。ヤマトクルーの中で一番面白い奴だった。森には歯牙にもかけられなかったが、悪いこと言わんからモリタ製薬の御令嬢にしとけ。

新見薫
 技術科情報長。真田さんの補佐役で、色気ムンムンの美熟女という席を独占。回想シーンの学生時代もサーバント×サービスの人みたいで可愛い。悪だくみをする時だけギラリと光る特殊メガネを装着し、クーデターの画策、特殊削岩弾の反転、ガミロイド兵の殲滅と良くも悪くも大活躍。古代より南部の方がキャラが立ってたように、森よりこのお方の方が注目株でした。
 古代守の恋人だったそうで、旧作のように彼が生きていて、スターシャとドロドロの三角バトルになるのを見たかったんだが。
 ちなみにクーデターの時は島や藪を色仕掛けで籠絡しておいて、その島と星名に一杯喰わされ、形勢不利と見るや「もうやめてよ、こんなこと!」と、あたかも自分は反対してたかのように、巧みにポジションを変えて保身に走る変わり身の早さ。さすが頭脳明晰だけど、
お前がそれ言う? (゚Д゚ )
 こんなあざとい姿を見て泉下の守はどう思うことか…「汚れちまった悲しみに…」
 クマさん柄のマグカップとハンコ(古代と島のバツ当番表参照)を愛用。ちなみに技術科では桐生美影も可愛かったのう。

佐渡酒造
 ヤマトの艦医で、佐官待遇の軍属。今度は誤診すんなよ。

加藤三郎
 戦術科航空隊長。古代と島を殴りつけたが、その後二人が飛び級で上官になってしまった時は面食らっただろう。単純で喧嘩っ早いけど、スジの通った熱血漢で人情家という、2199の中では古典的・正道的キャラ。太陽系赤道祭で坊主の格好で表れ周りをドン引きさせていたが、やっぱり太田にかつがれたのだろうか? 航海中に原田とくっついて子供までできた。下世話な話ですが、原田と一体ヤマト艦内のどこで子作りしてたのか? 原田は岬と同室なので、おそらく士官として個室を与えられていたのであろう加藤の部屋に原田が夜這いをかけていたと考えられる。寺の息子のくせしてこの破戒僧! 駄目だよーさぶちゃーん。

原田真琴
 這いよれ!ニャル子さんばりのアホ毛が特徴の巨乳衛生士。佐渡先生に付き従って乗艦しましたが、こともあろうにメイド服を持ちこんでいたコスプレ趣味の持ち主。制服のタイツ部分のファスナーを締めず、セパレートのスカート状にしたり、イスカンダルで水着シーン(この水着も制服のパーツらしい)を提案したり、最終話では花嫁姿を披露したりと、見られるの好きなんだろうね。法衣や袈裟を持ってた加藤とゴールインしたのは当然の成り行きか。マジメに言うと、二人の子供が、ヤマトのお陰で復活する地球で生きて行くのだから、クルーも報われると思う。

山本玲
 戦術科航空隊員。女性に設定変更された。髪が長かった頃の姿は確かに旧作の山本っぽい。コスモゼロを乗っ取ったのにお咎めなしで、そのままα2のパイロットに収まってしまった。ホントにヤマトの規律ってどうなってるんだよ。そのくせメルダとのドッグファイトでは、α2が勿体ないからってファルコンで出撃した揚句、機体をオシャカにしてしまった。さすがに今度は営倉入り(あたり前だ)。気があった古代を森にとられてしまったが、森に火を付けたのは山本自身だったんじゃないかと。艦の修理にかこつけて古代とイチャイチャしてるところを目撃し、森は「他の女のものだと思うと欲しくなる」とばかりに対抗心を燃やし、ある時期から積極的になったのである。マゼランパフェがお好み。人類史上初めて異星人と女子会を開いた人物。

岬百合亜
 船務科の士官候補生。ユリーシャに憑依されたお陰で記憶がとぶわ、ラジオヤマトも放ったらかしになるわでハタ迷惑だったことだろう。しかしユリーシャ憑依中の方が髪下ろしてて可愛かった。「まさかイスカンダル人が憑依していたなんてさ~」って南部、憑依というオカルト現象についてはスルーかよ。まあ次元波動エンジンの副次的効果なのでしょうが。森に憧れているらしいんですが、将来はどちらかというと山本か新見みたいなキャラになると思う。

相原義一
 船務科員。旧作では雪国出身でホームシックにかかり、1人で地球に帰ろうとして宇宙服のまま漂流する(それをスケスケのネグリジェ姿でくつろいでいた森が発見するのである)という、かなり気弱な人でした(最終話の母親を心配する下りはその名残りなのだろう)。岬に気があったらしいが、実社会では女子高生だぞこのロリコン! どのみち星名にとられちゃったんだけど。

榎本勇、岩田新平、遠山清
 メ2号作戦で冥王星の海で艦内に浸水した際、「宇宙船で溺れ死んだりしてみろ、シャレにならんぞ!」と激を飛ばしていた榎本さん。アンサイクロペディアでもツッコまれてましたが、そういう自分は帆のない宇宙船の掌帆長って、シャレそのものじゃねえか。しかも修理が終わると「これで地べたに足付けて闘えますよ」と、シャレを言いたいのか禁じたいのか。
 この榎本さんにパワハラを受けていた岩田と遠山、ブリッジクルーよりもよっぽど印象が強かっただけに、最後の最後で何の前フリもなく射殺されるという末路。いやもう可哀そうとしかいいようがない。アケミちゃん未亡人決定、お気の毒です。太陽系赤道祭で裸の大将のコスプレ見たかったぞ遠山。

藪助治→ヤーブ・スケルジ
 旧作では、イスカンダルで森を拉致して艦から脱走した機関士。今回は反乱の挙句、ドサクサにまぎれてレプタポーダに残ったと思ったら、何と次元潜航艦UX-01に乗艦していて、エンジントラブルから艦を救った。劇場公開ではカットされてたから本当にびっくりしたぜ! 戦艦はダメで潜宙艦ならいいというのはよくわからないが、ある意味、腕一本で宇宙を渡り歩くたくましい人間ということだよね。さすが俺たちの藪!
 もしヤマトが撃沈されて地球が滅びたら、地球人の生き残りは彼だけになってたかも知れないのだから、ある意味貴重な人材だ。もし続編が作られたら、ヤマトの危機に駆けつけるのを期待してるぜヤーブ。

AKB48
 何の話かと思われるでしょうが、乗ってるんだよ、ヤマトにAKBのメンバーが! 大島(夏樹)、柏木(紗香)、篠田、梅田、峯岸、岩佐の6人(その後宮澤、松井、板野など、ほかにもそれらしき人物に気づきましたゴメンナサイ。さらにいるかも)。卒業したせいか顔面センターの人はいない。いずれも下士官か軍属あたりと思われ、太陽系赤道祭などに登場してました。それぞれ面立ちが実物をとらえていて可愛い。公式設定資料集Earthで柏木が特に大きく載っているのは、デザイナーか編集者がゆきりんファンなのかしら? 「由紀」という名前は森雪からつけたって本当なのかね? でも鼻はニンニクじゃない。最終話で新見女史の近くで噂話していて目立っていて、OMCSのモブが多いみたい。ヤマトの歴史に足跡を残したとは、本人たちは知っているのだろうか? AKB。。。恐ろしい子!!!

 ちなみにヤマトの乗員が日本人ばっかりなのは単なる「お約束」であり、22世紀の未来において多国籍じゃないのはリアリティがないという声もあるようですが、純軍事的にみれば、命令の上意下達が齟齬なく行われるためには、部隊は母国語が同じ人員で統一された方が効率的なのは言うまでもない。DQNネームの乗員がいないのも多いに結構。これでいいのである。いや、やっぱりヤマトはこれでなくちゃいかんのである。

 ──好き放題書いてたら、地球側だけでとんでもない行数になってしまったので、次回に続きます。後編はガミラスとイスカンダルのキャラうんぬんと、ヤマトの戦闘の仕方について述べようと思っています。TV版最終回の今月30日にアップ予定です。

後編に続く

OEV豆知識(29) 軌道エレベーターの殿堂

2013-09-22 21:06:14 | 軌道エレベーター豆知識
 軌道エレベーターという情報が、日常で人口に膾炙というか、人々の一般知識の隅っこに席を得るようになったのはごく最近のことですが、その研究の系譜は、足かけ三つの世紀にわたる歴史を持っています。今回の豆知識は、この分野で顕著な実績を残した人々のうち、わが軌道エレベーター派の独断と偏見。。。では決してなく、まごうかたなく「殿堂入り」に値する7人(法人含む)をピックアップしました。軌道エレベーター史を語る時には決して外せない、偉大な先人たちを紹介します(敬称略。2013年9月22日現在の情報で、故人のみ生没年を記載。呼称は「軌道」に統一)。

コンスタンティン・E・ツィオルコフスキー(1857~1935)
 「ロケットの父」として知られるロシア(旧ソ連)の科学者。宇宙速度や多段式ロケットの理論など、ロケット工学を確立して宇宙開発の礎を築いたとして名高いこの人物が、早くも19世紀に軌道エレベーターの基となる構想を公にしていた。1895年、赤道上から垂直にどこまでも高く塔を建てた場合、昇るにつれて重力が軽減し、静止軌道では無重量状態になるという思考実験を、エッセイ『空と大地の間、そしてヴェスタの上における夢想』で紹介した。後述のアルツターノフと並ぶ「軌道エレベーターの始祖」と呼んでも差し支えない人物(書題の邦訳は『軌道エレベーター -宇宙へ架ける橋-』による)。

ユーリ・N・アルツターノフ
 同じくロシア(同)の技術者。ツィオルコフスキーは地上から建ててゆくモデルを想定していたとされるが、アルツターノフは現在の軌道エレベーターの基礎理論となる、静止軌道から吊り下げた構造のモデルを発案した。1960年、『電車で宇宙へ』と題し、7月31日付『コムソモルスカヤ・プラウダ』に発表した。位置エネルギーを利用した電力の回収や月面上の軌道エレベーターなどのアイデアも盛り込み、軌道エレベーターの標準モデルを確立し、利用可能性の多様さを示した。なんとまだご存命とのこと。なおこれを記念し、当サイトでは7月31日を「軌道エレベーターの日」と定めている(書題の邦訳は『SFマガジン』1961年2月号による)。

アーサー・C・クラーク(1917~2008)
 ご存じ『2001年 宇宙の旅』の原作者として有名な英国のSF作家。アイザック・アシモフ、ロバート・A・ハインラインと並ぶ「SF御三家」として、日本でも不動の人気を誇る。1979年に軌道エレベーターの建造をテーマにした小説『楽園の泉』(邦訳は早川書房刊)を発表。軌道エレベーターの発想を一般の人々に知らしめることに多大な貢献をし、このテーマを語る時に欠かせないバイブルとなった。同作のほかにも、『2001年─』の続編『3001年 終局への旅』(1997年)や、『太陽の盾』(2005年)、『最終定理』(2008年。いずれも邦訳は早川書房)などにも軌道エレベーターを登場させている。

金子隆一(1956~2013)
 日本の作家、サイエンスライター。1997年、石原藤夫(後述)とともに、世界初の軌道エレベーター専門書『軌道エレベータ -宇宙へ架ける橋-』を発刊(初刊は裳華房刊。2009年に『軌道エレベーター -宇宙へ架ける橋-』に改題し早川書房から復刊)。このほかにも、極めて早くから軌道エレベーターの意義に着目し、クラークの『楽園の泉』の発表と同じ1979年には、設定に携わったTVアニメ作品『宇宙空母ブルーノア』で、映像作品としては初めて軌道エレベーターを登場させているほか、数多くの著述で軌道エレベーターを紹介、解説した。今年8月30日、惜しまれつつもこの世を去った(『軌道エレベーター』の筆頭著者は石原氏ですが、金子氏に敬意を表し先に紹介させていただきました。ご冥福をお祈りいたします)。

石原藤夫
 日本の作家。上記『軌道エレベータ(ー)』の著者。同書は軌道エレベーターの意義を見出し、先行研究やアイデアの応用例など、広い視野で研究を包含、紹介する歴史的な一冊となった。それまでSFのネタでしかなかった軌道エレベーターに、一つの研究分野として学術的に正しい評価を与えた。『惑星』シリーズ、『宇宙線オロモルフ号の冒険』(いずれも早川書房)などのSF小説や、解説書なども著している。

ブラッドリー・C・エドワーズ
 米国の物理学者。米ロスアラモス国立研究所で軌道エレベーター研究に携わり、成果をまとめて出版。このうち『宇宙旅行はエレベーターで』は2008年にランダムハウス講談社から翻訳書が発刊、今年6月にオーム社から復刊されている。建造プロセスや必要な年数、輸送コストなどをシミュレーションし、初めて詳細かつ本格的に打ち出したもので、後述の大林組のモデルと並ぶ、軌道エレベーターの規範となる具体像を描いた。

大林組(法人。石川洋二氏をはじめとする『宇宙エレベーター建設構想』プロジェクトチーム)
 完成したひとつの軌道エレベーター構想を、最新の知見にもとづき建設プランとしてまとめた『宇宙エレベーター建設構想』を2012年に発表。ピラーの長周期振動や荷重による伸長などを具体的なパラメータで計算し、2050年には建造可能という見解を示した。2013年現在、軌道エレベーターの最新研究といえば、必ずこのプロジェクトが紹介される。この分野の研究において貴重なベンチマークを提供し、日本がリードする牽引力となっている。

 ──今回は「軌道エレベーターが一般に普及することへの貢献」に重きを置いて、この業界でよく知られた方々を殿堂入りとしましたが、このほかにも、同じくらいふさわしい方々を申し添えておきます。
 西側世界で早くに軌道エレベーターを研究したジョン・アイザックスらのチームやジェローム・ピアソン、ポール・バーチとG.ポリヤコフ(いずれもORSの提唱者)、ロバート・ズブリン(極超音速スカイフックの研究)、D.V.スミサーマン(NASAの研究レポートの編者)ら、フィリップ・レーガン(エドワーズの共同研究者)、チャールズ・シェフィールド(『星ぼしに架ける橋』著者)。日本では、おそらく世界で初めて軌道エレベーターが登場する小説を書いた小松左京、石川憲二(『宇宙エレベーター -宇宙旅行を可能にする新技術-』著者)、佐藤実(『宇宙エレベーターの物理学』著者)などなど。。。
 そして宇宙エレベーター協会も殿堂入りに値すると思ってはいるのですが、当事者である私自身が選出したら内輪褒めになってイタいだけなので、とりあえず外します。我々の評価は後世の歴史家次第といったところでしょうか。

 「軌道エレベーター学」あるいは「軌道エレベーターネタ」も、ずいぶんと広がりを見せてきました。それもこれも、上述した方々をはじめとする、偉大なパイオニアたちのお陰です。みんな人に先んじてオービタってきたのだ。この原稿をまとめている最中に、金子隆一先生が亡くなり、惜しまれてなりませんが、こうした方々に感謝と敬意を表しつつ、足跡を受け継いでいかねばと実感します。

 この7人が後に「軌道派の七賢人」と呼ばれることになるのである。。。かどうか。

イプシロン、打ち上げ成功

2013-09-15 13:12:50 | 気になる記事
イプシロン、打ち上げ成功…新型国産12年ぶり

 宇宙航空研究開発機構(JAXA)の新型ロケット「イプシロン」が14日午後2時、鹿児島県肝付町の内之浦宇宙空間観測所から打ち上げられた。機体は轟音をあげて上昇、同3時1分に観測衛星「スプリントA」を分離、打ち上げは成功した。衛星は順調に軌道を周回している。衛星の愛称は、発射場に近い岬の地名「火崎」にちなみ「ひさき」と命名された。日本の新型ロケットの打ち上げは、2001年の大型ロケット「H2A」以来、12年ぶりとなる。(後略。YOMIURI ONLINE 9月14日)

 当初は「豆知識」の更新の予定だったのですが、世間をにぎわしているので一筆。イプシロン打ち上げおめでとうございます。台風の前に決着ついて良かったですね。取材の都合でやきもきしていた秋山さんもひと安心したことでしょう(業務日報 フリーライター秋山文野の取材日誌)

 国産ロケットとしては12年ぶりの新型だそうで。H-2シリーズ(?)が登場した時の感動ほどではありませんが、軌道エレベーターの実現(つまりロケット時代の終焉)を叫ぶ立場ではあっても、1人の宇宙好きとして新世代ロケットの登場はときめいてしまいます。
 ちなみに初めてH-2の仕組みを知った時は「これぞ日本のお家芸」と感心したものです。固体燃料ロケットブースター(SRB)コンポジットの組み合わせによって、低軌道から静止軌道、さらに地球外天体まで、軌道投入能力のバリエーションの幅広さに脱帽してしまいました。
 イプシロンは、このH-2に使われたSRB-Aを第1段に使用してコストを削減、全体として低軌道用モータに特化した機体を造ったわけですね。米国の「アレス」もSRBの転用などをやっていますが、パソコンが2台あれば可能な管制なども含め、売れ筋トラックの部品を使って、お徳用の軽トラを造ったみたいな印象を受けますね。あるいはiPhone5sと5c? 技術の再利用によるコスト削減を進めた一方で、イプシロンには打ち上げ時の自己診断を行うAIを積んでいるんだそうです。先日リフトオフ直前に延期となったのは、これが正常に機能したお陰だとすれば大したものです(もっとアバウトでもいいという指摘もありますが)。

 そもそも宇宙機の開発というのは「枯れた技術」を用いるのが常識だそうです。何しろロケットは打ち上げ時の加速と振動がものすごいし、宇宙空間での放射線や熱の影響から機能中枢を守らなければならない。だから新品で高性能だからいいというわけでもなく、いくら性能が良くてもデリケートなものや、使用経験値の浅い装置、修理が困難な機械などは極力積まないのだそうです。人工衛星も搭載前に、振動試験設備で慎重にテストして、ちゃんとMAX-Q(最大動圧高度)を越えられるかを実証しますし、宇宙船のスイッチ類が仕組みの単純なアナログ式が主で、プログラムに左右されるタッチパネルなどになったりしないのは、そのためなんでしょう(馬鹿の一つ覚えのようですが、軌道エレベーターができたら、こうした問題は解消されます)。
 そうした中で、安くて精密なイプシロンには、日本の技術者の込めた愛のようなものが感じられますね。ただちょっと残念なのは、日本の宇宙開発の方向性が、低軌道重視に傾いているように見えることでしょうか。安全保障上重要なことだし、H-2との両輪でやっていくとのことですが、個人的にはやっぱり宇宙の神秘や謎を解く方に重点を置いてもらえればうれしいのですが。

 なお、イプシロンを大陸間弾道弾や中距離弾道弾に転用"できる"と難癖つける向きがあるそうですが、

当たり前だ。

 寝言は寝て言え。兵器転用できないロケットなんてあるの? 技術やハードウェアは医者のメスと同じだ。手術に使えば医療器具だし犯罪者が使えば凶器になる。人を害するのは人であって道具じゃないということですよね。

金子隆一氏逝く -『軌道エレベーター』の著者-

2013-09-03 20:55:23 | ニュース
 『軌道エレベーター -宇宙へ架ける橋-』(早川書房)の著者の1人で、宇宙エレベーター協会名誉会員でもあるサイエンスライターの金子隆一氏が、8月30日死去した。57歳。
 金子氏は1956年兵庫県生まれ、中央大学商学部卒。97年に同書を石原藤夫氏との共著で発刊(初刊時のタイトルは『軌道エレベータ』)。一般に普及した世界初の専門書だった。このほかにも、自然科学全般の分野で著作や科学番組の監修、SF作品の科学考証などで幅広く活躍した。1979年放映の『宇宙空母ブルーノア』では、映像作品としては初めて軌道エレベーターを設定に取り入れた。特に恐竜をはじめとする古生物に関する研究に精通し、NHK教育テレビの番組内で放送された『恐竜惑星』(93年)や『ジーンダイバー』(94年)の監修などを手がけた。
 2008年に設立された、日本宇宙エレベーター協会(現・一般社団法人宇宙エレベーター協会)の名誉会員に就任。『軌道エレベーター』は翌09年に復刊され、今も軌道エレベーター史に欠かせない必読書として高い評価を受けている。このほかの著書に『新世紀未来科学』(八幡書店)、『新恐竜伝説』(早川書房)、『アナザー人類興亡史』(技術評論社)など。(軌道エレベーター派 2013/9/3)

(以下は軌道エレベーター派の雑記です)
 ご存じの方もおられると思いますが『軌道エレベーター』で知られる金子隆一先生がお亡くなりになりました。金子先生と最初にお会いしたのは2004年の秋、『まっすぐ天へ』をきっかけに、当時の最新の研究成果について伺った時でした。取材よりもお話の面白さに夢中になってしまい、軌道エレベーターに関してそれまで疑問に思っていた点を、これを好機とばかりにぶつけまくりました。結局原稿は没になり、申し訳ないやら情けないやらでしたが、あの出会いがなければ"軌道エレベーター道"に邁進する今の自分はなかったし、このサイトもなかったことでしょう。復刊した『軌道エレベーター』の巻末対談で、この軌道エレベーター派に(大野会長がほんのちょっと触れただけですが)言及があったのは一生ものの誉れと言いますか。。。私にとっては目標でもある方でした。

 実は、次回更新予定の「豆知識」では、軌道エレベーター史において殿堂入りに値する人物を紹介する予定で、すでに選出済みの7人には当然金子先生を含めており、原稿を書きかけていたところでした。軌道エレベーターを広く知らしめたという点において、その貢献度はアーサー・C・クラーク卿に比肩するものだと私は確信しています。本当に惜しまれてなりません。
 まだまだ書くことがあるような気もしますが、言葉にするほど思っていることから離れていくみたいです。心より、心よりお悔やみ申し上げるとともに、深く感謝の念を捧げます。