あれは,あれで良いのかなPART2

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一世一代の大博打?母子殺害事件高裁審理

2007年07月01日 01時56分48秒 | 裁判・犯罪
光市母子殺害事件の差し戻し審が広島高裁で,被告人質問を中心に3日間集中審理が行われました。
被告人は,これまでの殺意について一転否定し,ただ甘えたかったなどと主張しました。

母子殺害・遺族の本村さん「聞くに堪えない3日間だった」(読売新聞) - goo ニュース

弁護団大博打に出ましたね。

この裁判においては,弁護団に対し,全国から非難が集中しているようです。
ただ,大前提として,被告人無罪推定の原則」がある以上,安易な弁護団批判は相当ではないと思われます。いつも言うとおり,「もしも自分が突然理由なく逮捕されたときにどうするのか」という点を踏まえた上で,弁護団の行動がどうなのか考えてみるのがよいでしょう。
さて,この裁判,感情論は完全に排除して,弁護団の戦略を検証したいと思います。

1 弁護団の取れる態度は限られている
  今回の裁判は,最高裁において,「無期懲役は相当と思えるべき情状が見あたらない」として,暗に「死刑が相当であるが,手続保障の機会を与える意味で,高裁で死刑にするかどうか判断せよ」との趣旨で差し戻し決定となりました。
  したがって,この高裁裁判は,通常の裁判と異なり,「死刑前提」でスタートしているのです。
  とすると,弁護団としてやれること,それは「無期懲役以下の刑となるべき情状があること」を探すこと,または「そもそもこれまでの裁判では重大な事実誤認があること」のいずれかで攻めるしかありません。
  そして,これまでの裁判資料や被告人との面会の結果,前者に該当するような情状を見いだせず,後者を選択したと思われます。

2 この手法は「大博打」である
  ところが,「事実誤認」で争うという手法には,大きなリスクがあります。それは,「反省している情状にならない」ということです。
  そもそも,今回の広島高裁においては,争点はあくまでも「情状」にあります。したがって,通常ならば,情状以外の主張立証は無駄になります。
  しかし,無駄になるかもしれないことを承知の上で,事実誤認を選んだと言うことは,仮に事実誤認が認められなかった場合,裁判所は「被告人は全く反省をしていない。」と認定することになり,最高裁の言う「無期懲役とするべき情状はない」として「死刑」にせざるを得ないことになります。
  一方,仮に事実誤認が認められたとすれば,事実認定をやり直すべく地裁に更に差し戻すことになります。そうなると,裁判は事実上1からやり直しとなるばかりではなく,殺意がないことになれば殺人罪ではないため,最高刑が死刑ではなくなります。そうなると,法律上死刑になることは絶対にないということになります。
  以上の流れから,弁護団はわずかな望みをかけて「大博打」に打って出たと推測されます。

3 弁護人のお仕事は被告人の利益を守ること
  なお,たまに誤解している人がいますので,ここで再度確認しますが,弁護人の仕事は「被告人の利益を守ること」です。したがって,この弁護団がどういう理由であるかは別にしても,この被告人の死刑を回避するためにいろんな手段を使うことは,当然の職務なのです。
  ただし,当然ですが,「だから嘘をついていい」ということはありません。また,弁護人の職務にも「実体的真実発見」はあります。さらに,裁判の迅速に協力する責務もあります。

4 被告人はすべてりかいしているのか?
  弁護団は大博打に出ていますが,被告人は果たしてこの博打の意味を理解しているでしょうか。もし,十分理解していないとしたら,これは大問題となります。
  ただ,これは勘ぐりすぎかもしれませんが,今回の裁判が最高裁で死刑が確定した場合,この高裁の裁判における弁護団とのやりとりにに重大な錯誤があったとして「再審請求」をする余地を意図的に残しているという可能性も否定はできません。仮にそうだとしたら,それは完全に弁護士倫理に反する行為となります。

5 今回の裁判の報道のあり方
  間もなく始まる裁判員制度も踏まえ,今回の報道を検証してみると,ちょっとだけ不思議な部分があります。
  それは,「被害者本位の報道」であるという点です。もちろん,今回の事件は絶対に許されるべきものではありませんし,被告人は犯罪それ自体は認めています。したがって,被害者本位になる報道はある程度はやむを得ないといえるでしょう。
  しかし,一方で,今回の裁判では,弁護団は「捜査機関の捜査内容と被告人の供述の矛盾」についても追求しています。もちろん,これを「弁護団の捏造」と主張する人もいますが,いずれにしても捜査機関の捜査の妥当性については裁判の争点になっている訳ですから,報道機関としては,少なくとも「弁護団はこういう主張をしている」という点はもっと広く知らしめてよいのではないかと思います。
  その上で,はじめてこの弁護団の弁護方針の妥当性について議論すれば良いのではないでしょうか。被害者本位で裁判を見ると,当然弁護人は悪人に見えてしまいます。
  さらに,マスコミ報道を鵜呑みにしないという態度を私たち自身身につける時期に来たといえるでしょう。そうしないと,裁判員制度は「マスコミ報道追認機関」になってしまうおそれがあるからです。

 最後に繰り返しますが,私は別に弁護団の今の弁護方針を擁護しているわけではありません。むしろ,被害者である本村さんの苦悩は筆舌に尽くし難いということは十分理解しています。
 あとは,この弁護団の大博打が吉と出るか凶と出るか,すべては裁判所が判断するでしょう。

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16 コメント

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被告人の立場で見ても (d_d-)
2007-07-01 06:07:27
「死刑前提の最高裁差し戻し」
「“更生の可能性”を理由に情状酌量が狙えない」
まさにそういうことと私も認識してます。

しかし一審・二審で争わなかった
性欲の対象として犯行に及んだという事実を
自らひっくり返すわけですから
戦術の方向性自体やけくその断末魔みたいなもので
関わる者を皆不快にし痛みを与える結果に。

人間の心理として,全ての罪を自覚し,どんな刑も受け入れると詫びてみせれば(「かわいい犬」「7年もすれば」「遺族は調子に乗ってる」手紙の存在も少しは忘れて),0.1%でも死刑回避の可能性があったかもしれないと思うのですが…いずれにしてもこの犯人にしてこの事件,この弁護団という様が非常にわかりやすい図式が示されたわけで,裁判所も国民も迷わずに済みますね。
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バクチは・・・そして (masa)
2007-07-01 13:42:58
 少なくとも私は、「ドラえもんが何とかしてくれると思った」とか、母親への思いうんぬんで抱きついたなどと発言している被告人に、反省の色は見えませんね。個人的にはバクチは失敗すると見ています。

 精神的にはどうだか知りませんが、犯行当時で既に中高生位のはず。何が良い事か悪い事か位の判断が出来ない年ではありません。

 私は裁判員制度にはある意味で賛成ですが、同時に「元少年」なんて言い方も無くしては如何かと思います。年に限らず、犯行当初から本名のフルネームにしたほうが、こういった少年犯罪は減少する可能性が高いとも思えますし・・・。
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21人の弁護士支持 (死刑反対)
2007-07-01 18:57:51
従来ならこの手の事件は死刑にはならなかった事件です。
検察の死刑求刑、最高裁の差し戻しはどうみたって理不尽です。
この理不尽に立ち向かっている21人の弁護士を断固支持します。
世界の主流派死刑廃止。日本も死刑制度の廃止を!
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なるほど (アズキ)
2007-07-01 19:33:45
弁護人の主張のポイントがハッキリ分かって勉強になりました。
私も、被害者よりのマスコミ過熱があると思ってます。弁護士は敵だ!と言って怒っている方がいますが、今の弁護団の行っていることに何か違法性があるとは思えません。今回の審理で初めて出てきた「ドラエモン云々」の話も、むしろ、今までの弁護士がしゃべらないように誘導していたんではないかと思います。
あと、死刑制度反対の論議と、今回の裁判を結びつけて考えるのもどうかと思います。あくまでも、弁護士の仕事としてどう評価されるのか、そこを見るべきじゃないでしょうか。。。
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素人考えで見ちゃうと・・・ (てるりん)
2007-07-01 19:46:29
これほど痛ましい事件はないかと思ってしまいます。
ディベートと考えるなら確かにおかしくないかもしれません。
しかし、こういう例があることによって、
同じ様な犯罪を犯す人がでてこないか?という不安と、
裁判員になった場合に、被告人、弁護団、マスコミ等の圧力にやられてしまわないかという不安があります。(現状のままでは参加したくありません)
あと、今回の被告人がもし精神異常などあるとしたら、再犯防止のための対策をしっかりとやってもらいたいものです。
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分けて論じる (ともっち)
2007-07-01 19:50:19
弁護士がやっている弁護活動の違法性と弁護活動の評価は分けて論じるべき。被害者よりの報道になるのはそこを踏まえた発言ではないからでしょう。おかにゃんさんの指摘はさすが鋭いと思います。
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d_d-さま,コメントありがとうございました (おかにゃん)
2007-07-01 23:34:45
こんばんは。
確かに情状面で攻めることが難しかったのでは,と推測していますが,弁護団自体に一致した方針があるのか,若干疑義を感じる部分もあります。
これまでの事実認定をひっくり返そうというのは相当な冒険です。弁護団としての勝算があるのかもしれませんが,この点が一般の人に理解されない部分なのかもしれませんね。
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masaさま,コメントありがとうございました (おかにゃん)
2007-07-01 23:37:31
こんばんは。
「ドラえもん」発言については,いろんな解釈がされていますが,弁護団としては,「普通の精神状態じゃなかった」ということを主張したいのでは,と推測されます。
ただ,個人的にはこの証言を出す順序を間違えているのでは,という気もします。

あとは少年犯罪において問題となる少年法の実名報道ですが,おっしゃるとおり裁判員制度や少年犯罪抑止力という点からすれば,この辺りの規定も見直す必要があるのかもしれませんね。
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痛い (ぴえる)
2007-07-01 23:38:44
おかにゃんさんのおっしゃるとおり,被告人が弁護団の大博打の意味を本当にわかって今回の裁判に臨んでいるのかという点は最も重要なことだと思います。
万が一これにより被告人が死刑を免れ「あー,死なずに助かった…」程度に考えたとすれば,被害者も浮かばれないどころか,世間の批判を受けながらも戦った弁護団が浮かばれないでしょう。

裁判員が始まったら,裁判所の方々はこんなことを毎回のように裁判員の方々に説明しなければならないのね。ホントにたいへんです…
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死刑反対さま,コメントありがとうございました (おかにゃん)
2007-07-01 23:41:15
こんばんは。
この問題を通じて死刑制度の是非を議論すると言うことは大変重要なことだと思います。
ただ,問題なのは,具体的な事件に便乗して死刑制度のあり方を考えるという手法です。「この事件は**だ。だから,死刑にすることは相当ではない。そもそも,**だから死刑は不要である。」という形で裁判を進めるのであれば問題はないのですが,今の弁護団は,どちらかといえば「死刑には反対だ。それをアピールするために,死刑になりそうな事件を利用させてもらう」という姿勢が見え隠れしています。
被告人のことを第一に考えて弁護活動をするのであればいいのですが,もしもこういう政治的活動が第一で弁護活動をしているのであれば,被告人に対しても失礼に当たるでしょう。
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