仁左衛門日記

The Diary of Nizaemon

山桜

2018年02月28日 | ムービー
『山桜』(2008年/篠原哲雄監督)を見た。
物語は、「江戸時代。東北にある小藩・海坂藩の下級武士・浦井七左衛門(篠田三郎)の娘・野江(田中麗奈)は、前の夫に病気で先立たれ、磯村庄左衛門(千葉哲也)と再婚していた。ある春の日、叔母の墓参りをした野江は満開の山桜の美しさに見入り、枝を取ろうとしたところ、父の墓参りのために通りかかった手塚弥一郎(東山紀之)に手助けしてもらう。手塚は、再婚前に縁談を申し込んできた相手で、野江はそれを断っていた。"今は幸せですか?"と尋ねる手塚に、"はい"と答える野江だったが・・・」という内容。
野江が手塚からの縁談を断ったのは、剣術の名手は怖い人という先入観を持っていたからだという。
確かにうわばみと呼ばれるほどに酒を飲むような豪快な剣豪や乱暴な態度の人も中にはいるのだろうが、剣豪と呼ばれる人が皆そうとは限らないだろう。
野江の弟・新之助(北条隆博)が通う剣術道場に最近指南役として来ているのが手塚だということで、弟から手塚の人柄や、未だ嫁をとらず母・志津(富司純子)と二人で暮らしていること、彼が随分と昔から野江のことを思っていたことなどを聞かされた野江は、内心「しまったなぁ・・・」と思ったかもしれない。
(^。^)
この作品は、藤沢周平(1927年~1997年)原作の短編集『時雨みち』(1981年/青樹社)に収められている同題名の短編小説なのだそうだが、藤沢周平作品に登場する海坂藩という舞台には、概ね悪い重役が登場することが多いように思う。
そして、今回の悪い奴は、諏訪平右衛門(村井国夫)とその取り巻きだ。
凶作が続き、藩の財政が危うい時だというのに、その危機に乗じて私腹を肥やしている諏訪と、おこぼれをいただこうと群がってくる連中。
どうにも鼻持ちならない奴等だが、そういう人達の家族、磯村左次衛門(高橋長英)やその妻・富代(永島暎子)なども、何ともいけすかない感じに描かれている。
(^_^;)
積極的に自分の意思表示をすることが少ない典型的な日本人の姿を体現している主人公だと見えるので、やはり真面目な人は応援したくなる。
少しモヤモヤした感じが残りはしたのだが、良い話だった。
(^_^)

哥(うた)

2017年06月24日 | ムービー
『哥(うた)』(1972年/実相寺昭雄監督)を見た。
物語は、「丹波篠山の山あいに豪荘な邸宅を構える森山家は、広大な山林を所有するこの地方きっての旧家。70歳を過ぎた当主・森山伊兵衛(嵐寛寿郎)は妻・ヒサノ(毛利菊枝)、そして古くからの召使・浜(荒木雅子)と共にひっそりと暮らしていた。伊兵衛には3人の息子がいて、弁護士をしている長男・康(岸田森)は、妻・夏子(八並映子)と共に本家を離れて独立し、弁護士を目指している和田(田村亮)、家政婦の藤野(桜井浩子)、書生見習の淳(篠田三郎)と共に暮らしていたのだが、実は淳は伊兵衛と浜の間に出来た子供で、その事実は伊兵衛夫婦、浜、淳自身しか知らなかった。そして、ある日、消息を断っていた次男・徹(東野孝彦)が突然現れた。"森山家は我々の代で滅びるから、生きている間に財産を使ってしまおう"と康と夏子に持ち掛け・・・」という内容。
淳は随分と几帳面な人のようで、柱時計の♪ぼーん♪ぼーん♪ぼーん♪という音と共に行動することから、「時計みたいな奴だな」と言われている。
食事は白米、おしんこ、味噌汁のみで、おやつは、はったい粉と砂糖を水で溶いたものだけという質素ぶりだ。
康に「たまには血の滴るようなステーキでも食べたらどうだ」と言われても、「穀物の味が僕には一番です」と、まったく聞く耳を持たない。
預かった裁判資料を明朝までにリコピーしなくてはならいと言われても、「僕は5時以降は働きません」とかたくなに拒み続けるのも面白かった。
母から「森山家を守るように」と言われている淳は、午前0時に必ず懐中電灯を持って邸内を見回りしていたのだが、淳の勤勉さのすべては"森山家"を守るために注がれ、書生見習の仕事は二の次なのだ。
(^_^;)
また、墓碑に刻まれている文字を書の手本としていて、墓石の文字を紙に写し取る。
通りかかった僧侶(内田良平)に「書の手本なら他にいくらでもあるだろう」と言われ、「この字を刻んだ石の中には死という名の絶対があります。墓碑名には格別の味わいがあるんです」と答えるのだが、僧侶は「石の中には何もない。あるのは暗闇だけ。墓を作ればいつまでも死者の記憶がこの世に残るというのもバカな考え。死人の魂なんか100年もすれば消えてしまう」と諭す。
あくまでも森山家が守る山林を絶対の存在として守り続けようとする淳の一途な気持ちを現したエピソードだが、淳に対するこの僧侶の台詞こそが実相寺昭雄監督の主張のような気がした。
山林の中の場面が多用され、深い緑が随分と綺麗そうだったのに、モノクロ映像作品であるのがもったいなく思えたのだが、物語は実相寺昭雄監督作品にしては理解しやすい作品だったのではないかと思う。
(^_^)