仁左衛門日記

The Diary of Nizaemon

警察日記

2013年04月25日 | ムービー
『警察日記』(1955年/久松静児監督)を見た。
物語は、「会津磐梯山のふもとにある横宮町。戦後、住民の暮らしはまだ貧しく、軽犯罪が横行し、警察署は忙しかった。やけ酒を飲んだ挙句、夜更けに道路で横になっていた馬車引きの岩太(伊藤雄之助)は警ら中の花川巡査(三國連太郎)に窃盗容疑をかけられ署に連れて行かれたが、倉持巡査(殿山泰司)から取調べを受けていた桃代(小田切みき)の"正直の上に馬鹿がつくほどの男だ"といった話で助けられる。翌朝、駅に捨てられていたユキ子(二木てるみ)と赤ん坊、身売りするところだった二田アヤ(岩崎加根子)を保護した吉井巡査(森繁久弥)は・・・」という内容で、伊藤永之介(1903~1959年)の同名小説が原作。
横宮警察署に勤務する警察官達が関わる様々な事件が織り込まれていて、凶悪な事件や心底醜悪な人間が登場する展開も無いことから、何だかのんびりしている。
しかし、「机一つもらったきりだし兼務兼務で忙しいんですよ」という役場の児童相談所、「引き取り手がなくて戸籍の面からも間違いの無い孤児しか引き受けできません」という孤児収容所、「予算の中でしかできません」という保健所、ニワトリしかいなかった民生保護相談所など、どこへ相談しても保護した捨て子の落ち着き先を見つけることができず、処遇に困った吉井巡査はユキ子を自宅で、赤ん坊のマサルを料亭のヒデ(沢村貞子)に預けるというエピソードや、今を生きるお金のためにもぐりの就旋屋・杉田モヨ(杉村春子)に頼らざるを得ない二田アヤに自分のお金を渡す花川巡査のエピソードなどで、社会の制度や仕組みのゆがみ、どうにも解決できない限界といったものをあらわに描いている。
故郷に錦を飾った酒屋の次男坊・丸尾通産大臣(稲葉義男)の登場場面は僅かだったが、そんな庶民の苦労とは別世界で、凱旋パレードや芸者と遊ぶことに忙しい姿が描かれ、「政治家があれじゃ日本の世の中はなかなか良くならないだろう」と思わせる象徴のような存在だった。
吉井巡査の「警察に来て相談すれば、いくらでも方法はあったんだ」という台詞も、社会組織の適正な運用ではなく、警察官個人の資質や人間としての愛情に頼らざるを得ない状況を言い表しているに過ぎないような気がして、むなしく聞こえただけだった。
ほかにも、村田老人(東野英治郎)や無銭飲食した親子など辛い姿も描かれており、それらは誇張されたフィクションの世界だと分かってはいても、「まぁ似たようなことは実際にあったんだろうなぁ」と考えてしまう。
これはなかなかに素晴らしい映画だった。