薫り

彼の匂いが好き。
異性の匂いが好きだと…遺伝子的に相性がよいのですって。
そうしたら、私は、このうえなく彼のことを相性がよい、と感じているのだろう。

このうえなく、彼の匂いが好き。
コロンや香水の薫りではない。
彼の体臭、なのだろう。
最近、バラエティーが豊富になってトレンドの柔軟剤のような人工的な香りではない。
シャンプーという訳でもない。
隣にいても感じるか、感じないか微妙なほど、それでも抱き締められると、心がほどけていくような、少しだけ甘くて、とても柔らかく、優しい薫り。
酸味は一切なく。
シトラスのような爽やかさとも違う。
ほんの少しだけフローラルな、そして、ほんの少しお日さまのような、なんとも形容しがたい芳香。
お日さまの匂いだって、相当ふわっとした表現だけれど。
嗅いだこと、ないもの。
陰湿なものの混じっていない、穢れも曇りもなく、暖かで優しく柔らかい、そういうイメージ。

そんな彼の薫りが大好き。
その彼の薫りが…鼻腔に残る薫りの記憶は、日に日に薄らいでいき…今日が限界。
もう、イメージでしか思い出せない。
薫りって不思議だ。
視覚、聴覚、触覚、味覚に比べて…記憶に名前をつけてフォルダリングすることが難しい。
香りフェチの私がこれなのだから、一般的にはもっと難しいだろう。

でも、明確に思い出すことができなくても。
彼の薫りは、私にはしっかり記憶されていて…毎回、彼に会うと…彼の薫りに包まれて、たまらなく幸せを感じる。
毎度、毎度、彼の残り香が移っている自分の髪が、身体がいとおしくてたまらない。
呆れるくらい、彼が好きなのだろう。
彼の薫り、という香水があれば間違いなく私はそれを手に入れるだろう。

ああ、もうすぐ…私の大好きな彼の大好きな薫りの記憶が消えてしまうわ。
消えないうちに会いたい。
日々、あの薫りに身を浸していたい。
それも、執着なのかしら。

ああ、彼が好き。
こんなに恋しい愛しい気持ちが味わえて…本当に幸せだ。
たとえ、どうなろうとも、私は幸せなのだ。
どんな時も、それを忘れてはいけない。
私への、戒め。