えぬ日和

日々雑記。第二、第四土曜更新を守っているつもり。コラムを書き散らしています。

:「だから」、「だから」が前置きに

2019年08月24日 | コラム
まとまった休みをもらったタイミングと、郵便で脅迫状のようなクーポン券の消費期限の関係で
引きずられるように親に付き合って自分も携帯電話を変える羽目になった。
高額な端末を今時分に購入するつもりは全くなかったのだが、ついてきてほしいとだだをこねる声が
他の家族にかかってけんかの始まりになるのもつまらないので、長年連れ添った小さな二つ折り携帯電話と
別れる覚悟を決めた。とはいえ予定表や目覚まし機能は端末の機能をなくしても健在なので、本体は引き取っている。
通信に使う部分だけを高価な平たい端末へ移し替えるだけだ。

太目の店員からあれやこれやと契約の種類を提示される。左手の薬指にはホワイトゴールドかプラチナのような
鈍い銀色の指輪が食い込んでいる。手早く契約を最低限に済ませたいこちらの意向を無視して店員は、
マクドナルドの付け合わせを勧める調子でアプリケーションの契約を次々勧める。
携帯電話からの買い替えを促す格安とされる契約プランを帳消しにするための工作のようで、
おそらくあからさまに不機嫌な私の相手は諦めたようで、軽い冗談はことごとく無視された。冗談がつまらなかったせいだろう。
興味を惹かれたアプリケーションをいくつか親が契約した。「セットでお得ですよ」「これとこれで」「セットにすれば」
アプリケーションのセットと必要なものだけを選んだ結果は20円しか差はないが、まるでこちらが吝嗇家のような
いいざまには辟易する。
隣では親が別の店員に手伝ってもらい初期設定を済ませている。青いシャツをきちんと着こなして親切そうだ。

私の選んだ端末は他の店から運ぶ時間のせいもあり、またデータの移行にも時間はかかっていたが、
移行処理だけを終えたかと思った私の手元には初期設定まで済まされた端末が戻ってきた。
面倒が済んだと思えもするが、実際この手の端末の設定は自分でやらないとのちに困ることが多いのでもう一度辟易したが、
三時間近くも店員の勧誘をそっけなくはねのけ、契約内容と支払い方法を親に通訳し、私は疲れ切っていた。
さらにこの端末はパソコンと同じく、帰宅してからもやれアプリケーションを最新にしろだの、携帯電話会社の
関連しない必須ソフトウェアをインストールしろだのとやかましいことがてんこもりである。
その上で執拗なタブレットやアプリケーションやサービスやらの契約を勧める相手には、そろそろ憎しみに近い
苛つきも生まれそうなものだが、それが狙いならばたいしたものである。判断力を鈍らせて契約を迫るのは詐欺に近いような気もするが。
「だから」換えたがらないのだとは思わないらしい。

スマートフォンは充電器に突き刺さったまま、「通知」機能をオフにされて沈黙している。
「板フォンにするのが正しい使い方だ」
と、一切使わないiPhoneをひらひらさせる知人をうらやましく思いながら、じみじみとこの機械に浸食される日常へ
ため息をついている。
コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

・射線に捉えられない(PS2版『零』)

2019年08月10日 | コラム
 ささやかな金を自由にできる年齢になってから、十年以上前に「これが欲しい」と言えなかった高価なソフトウェアを二束三文で手に入れて遊ぶようになった。とはいえネットで動くものならたいてい発信されてしまう現在、テレビゲームも例外ではなく「実況」という動画投稿者の肉声コメント付きで放映される番組のようにゲームは扱われるようになった。テクモ(現コーエーテクモホールディングス)制作、2001年発売のPS2ソフト『零』はその代表格のようなものだ。

『零』は当時主流であった外国が舞台のホラーゲームに対し、「和風ホラー」を冠して日本人の感性にそぐった恐怖の演出と、銃やナイフといったわかりやすい抵抗手段を持たない主人公を据えて他のゲームと一線を画した世界観を打ち立てた。大いに人気を博し、現在最新版はWii Uで2014年に発売された『濡烏の巫女』まで四作が発売されている。PS2版の最初の作品『零』の時点で、勝手に主人公の背後で開くふすまやことり、と落ちる人形の首の静かな音が細い雨のように怖さを前進に広げてゆく。

 本作をはじめシリーズに共通しているのは、「ありえないもの」への唯一の対抗手段として与えられた「射影機」という蛇腹式のカメラを模した機械で「幽霊を写真撮影する」という操作だ。プレイヤーは自分に襲い掛かる怪異を払うため、逆説的にその怪異へファインダーを通して否応なしに対峙しなければならない。怖いものを見ないという選択肢はあり得ないのだ。遠くから撮影しても相手を片づけることはできない。そのため、おっかなびっくりプレイヤーはカメラを掲げて襲撃者のひずんだ姿へ立ち向かうこととなる。

 実況動画のプレイヤーたちは皆慣れた動きで雑談を挟みながら悠然と化け物を撮影してゆくが、実際コントローラを触ってみると案の定そうはいかなかった。長年使っていたコントローラは左スティックに力を入れすぎると、スティックが溝にはまって固定されてしまうクセが出来てしまっており、いざカメラを構えるとカメラの焦点がしっちゃかめっちゃかになった。ある意味「幽霊を撮影しようとするとカメラが異常をきたす」のは現実の怪奇譚にそぐった形かもしれないが、ゲームをクリアしたい人間にとってはただの故障である。まったくもってこちらの責任なのだが、操作ミスで何度も襲撃され地面をなめる羽目になるゲームの主人公にはたまったものではないだろう。お化けも最初こそ不気味だが、「あ」と何度もやられているうちにこちらが慣れてしまい、気のせいか「早く先へ行け」と苛ついているようにも見えてしまうのはどうしようもない。

 ただ、このゲームは撮影だけではなく舞台となる化け物屋敷を探索するという楽しみもあるので、幽霊との戦いは脇に置いておいて夏場らしくのんびり楽しもうと思っている。ようやく一章最後のボス戦までたどり着いたが、クリアの目算は定かではない。
コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする