えぬ日和

日々雑記。第二、第四土曜更新を守っているつもり。コラムを書き散らしています。

・火と手の勝負の完成形

2019年06月22日 | コラム
 有料チャンネルの『ヒストリーチャンネル』で今月から放映されている『マスター・オブ・アームズ』という番組を定期的に視聴している。他の番組を見たついでにつけっぱなしにしていたテレビから流れていた番組をきっかけに、毎週末は素直に帰宅するようになった。冒頭に「家で絶対に真似してはいけません」と流れるがそんなに乱暴な番組ではない。「ARMS」の題の通り、技術者が腕を競って武器を作るだけの番組だ。ただしその武器は歴史上のマイナーなものである。

 まず六時間から五時間ほどの短時間でひとつ、次に四日間をかけてひとつ作り上げる。作り上げた武器に三人の審査員が判定を行い、見た目と歴史的な再現性、それからもちろん「破壊力」で採点を行う。最後の審査に勝ち残れば「マスター・オブ・アームズ」の称号と賞金一万ドルが渡されるという企画だ。最終審査は武器に応じた的が用意され、元アメリカ海軍のスナイパーの肩書を持つ小柄ながら目つきの怖すぎるスタッフが渾身の力をふるってパフォーマンスを行う。人の形をした砂袋をナイフでぶった切ったり、クロスボウを片手撃ちしたりと少々やりすぎの感が漂うのはご愛敬だ。絵面はおっさんたちがひたすらグラインダーを筆頭にした道具で金属と戦う地味なもので、人さまから「何が楽しいのか」と何度か尋ねられた。

 何が楽しいのかといわれると、各技術者の仕事で「お手本」からそれぞれの描いた姿かたちが生み出されること、それらが元アメリカ海軍のスナイパーの手で試され、立派に役目を果たすか、はたまた大変な惨状を引き起こすかという武器の姿が見られることだ。そういう意味では、第一回目のアックスピストル編の構成はおみごとだと思う。

 まず最初にバトルアックスを六時間で作成する。審査が入り一人が脱落した。娘を追い払うためにハンマーを取った鍛冶屋と時代考証にこだわりの強い博物館勤めの人間が濃すぎるせいか、堅実な仕事をした20年キャリアの鍛冶屋が落とされる。「納得がいかない」とぼやきながら退場した彼を見送って本選だ。お題はフリントロック式アックスピストル。19世紀にヨーロッパのごくごく一部で使用された、斧と銃が一体化した武器である。これを最初に作成した斧をベースに「進化させる」のだ。当然ながら暴発なしにきっちり撃てて、斧の切れ味も高くなければならない。そして元アメリカ海軍スナイパーの剛腕で振り回されても大丈夫な堅牢性がなければならない。

 この回の本選に残ったのは片やナイフ専門、片や銃専門と住みわけが出来ていて、得意な加工も正反対なところが見ていて安定感があった。その後の回では技術者の腕が技術に追いつかない悲惨な事態が起きたので、評価が相対的に上がっていることは否定しない。ともかく斧はできている。後は銃である。

 だが、片方の参加者はついやってしまった。「俺が人を銃で殴るなら、銃身を掴んで銃床で殴る」と、銃床に斧をつけたのだ。誰が見ても銃を撃つときに自分に刺さりそうな工夫だが、四日間合計四十時間の作業で「実際に使ったとき」に想像が及ばなかったらしい。完成図はなかなかに格好良かったのだが、案の定スナイパーから「自分に刺さる」と正論をいただいて彼は敗退した。優勝は予想を覆しての博物館員。仮に台本があったとしても、完成したアックスピストルは美しかったのでどうでもよくなる。

 どうやってもたとえばプロの日本刀職人がこの番組に出ることは断じてなさそうだし、毎回変わる参加者を見ているとどれだけ刃物の需要があるのか、またアマチュアでもナイフを打つ作業ができるほどの緩さも含めてのんびりした気持ちになってしまう。画面の中で実用に堪えないとんでもないものが完成していても、それを見る目は出来の悪い子供を見守るような視線だと思う。殺意満々な実践テストもスパイスだと周囲に勧めているが、とりあえず賛同者は今のところ自分一人だけである。
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・覚書:『ドラゴンクエストXI』(3DS版)制限プレイ

2019年06月22日 | コラム
*二年前のことなので内容のネタばれについてはご了承ください。

知人から勧められて久々にプレイしたゲームタイトルが『ドラゴンクエストXI』(2017年発売 3DS版)で、
私に知人がこれを勧めたのは当時本作の売りとされていた「しばりプレイモード」を自分の代わりに
やらせるためだった。「どれを制限するの」「全部。あとはリセットとついでに武器も装備するのをやめた」
と返事をして無味乾燥な冒険に至ったのも今振り返ると懐かしい。

本作に搭載されている制限は「逃げられない」「買い物できない」「防具装備できない」「ランダムで主人公が行動不能」の
四種類だが、全て逃げ道が用意されているうえにボスも「防具装備できない」に合わせ、過去作のドラゴンクエストよりも
行動不能にできるよう調整されているので、結果論としては巷に「制限プレイ」と言われているものよりは圧倒的に
「ぬるい」内容だった。
逃げ道についてざっくり触れるとそれぞれ「シンボルエンカウント制にして手動で逃げる」「無限に道具を補充できるポイント」
「必殺技ダメージのインフレ」「仲間の交代」というところだ。正直主人公が行動不能で困る状況はほぼ序盤に限られるので、
仲間が増えたり主人公のレベルが上がれば複数回連続で行動を封じられても問題は少ない。楽しめるかどうかは別の話だ。

ちなみに3DS版では「すれちがい通信」を利用した追加ダンジョンとボスが用意されているが、その際に表示される
プロフィールでは制限プレイの状況を確認することが出来る。ひと月ほどプレイしたが、全て制限していたプレイヤーは
数名ほどだった。私感だが本作は話が長いので、ただでさえ面倒な制限プレイを周回する人数は少ないような気がする。

さて、私のプレイではこの四種類のついでに武器の装備もやめた次第だが、個人的にはここまでしてようやく
ゲームとして考えどころが生じ、面白みがあったと思う。
基本的にドラゴンクエストは文字通り、道中の「クエスト」であり関門である特定の敵を撃破することで
話が進み、最後の敵を倒せばゲーム終了というつくりになっている。
本作では先にも述べたように通常のボスには「防具装備なし」に対応した弱点が存在するのに加え、
ほぼ確実に相手を行動不能にする手段が存在するため理屈の上では完封撃破も可能だ。
また、完封せずとも味方の必殺技によるダメージがインフレしているので、中盤あたりで簡単に四桁ダメージを
拝むことができる。
そのためクリアだけを目指すならば強力な技を全員で叩きこみ続ける速攻が決まってしまうため、そこそこ味気ない。
ただし、これらの技は一部を除いて武器の装備が必須なため、武器を外せばダメージソースが大きく減少する。
当然のごとく長期戦だ。

それでもメインシナリオ、クリア後のシナリオに登場するボスは普通に撃破できてしまった。
(行動不能系の技や道具を多用してのクリアなので、Switch版ではさすがにその辺りは修正されているだろうと思う)
問題となったのは、クリア後シナリオをクリアしてから挑むことのできる、3DS限定のおまけボス陣である。
彼らは単体でも十分強く複数回行動を持つが、それが最大三体徒党を組んで襲い掛かってくるのだ。
むろん防具も武器もない私服軍団への情け容赦はなく、ボスらしく状態異常もほぼ効かないので
普通に蹂躙されて何故かほっとした。

とはいえここまでくるとこちらも意地になり、結局私服軍団で逆に蹂躙しかえしたのだが、
具体的にやったことはシリーズ伝統の個数限定道具「エルフの飲み薬」をがぶ飲みしつつ
シリーズ6から登場する伝家の宝刀「マダンテ」の連発というとてつもなく味気ない手段だった。

制限モード「買い物出来ない」の唯一の落とし穴、カジノを利用すれば「エルフの飲み薬」は
時間はかかるが量産できる。
あとはマダンテ使いを騎士道精神にのっとって「かばい」続け(「におうだち」は即死必須)、
さらに二人を他の仲間が全員で守り続けるという戦法も戦略もへったくれもない作業で
おまけボス陣総計11名をほうむりさり、一応私のデータの主人公は世界をなんとかすることに成功した。

参考になるべきことはこの二年間で既に誰かが書いていることばかりなので、詳述はメモ程度にとどめるが、
購入する予定のないSwitch版では戦闘の問題はもう少し解決されているのではと期待を投げかけて
話を終えることにする。



*具体的なメモ*
・おまけボス以外の主戦力はカミュの「ジバリカ」系魔法、ベロニカの攻撃魔法、シルビアの「ゴールドシャワー」主人公の「覇王斬」など。
 「ゴールドシャワー」は固定ダメージでメタル系以外のすべての敵には貫通。
 「覇王斬」はレベルで攻撃力が決まるがメタル系と一部ボスを除いて固定ダメージなので本縛りでは貴重。
 カミュから派生する陣形技はほぼすべての敵に通じるうえ、ベロニカの主砲の「メラ」系統の火力も上がるので一石二鳥。
 ただ、これらは相手が長期戦を許してくれることが前提になるので、おまけボスのように状態異常が一切通らず、防具で軽減すべき攻撃を
 何度も放ってくる相手には通じない。

・武器を没収すると約一名が戦力外になる上、道中にはこのユニットと二人旅になる期間があるのが面倒。
 運よく道具使用で魔法が使える武器を量産していたので事なきを得たが、主人公がイベントで「覇王斬」を覚えるまでは
 逃走一択だった。寄り道すると所持品次第ではクリアできない。
 このユニットは「メガザル」を使えて鈍足だが、これでもかと行動不能になってくれたので「撃てればいいや」くらいで
 「世界樹のしずく」(無限回収可能)係にしていた。「におうだち」は防具がなければ「かばいあい」取得用以外の用途がなくなる。

・3DS版限定のダンジョン「カラーストーン鉱山」の最初のクエストに出現する敵はMP回復道具を高確率で落とし、
 経験値も少ないため、中盤までわざとクエストをクリアせずにMP回復道具をかきあつめてしのいだ。
 他の道具もフィールドの採取ポイントを周回してちまちま稼ぐことになったので、
 ドラゴンクエストをやっているのかモンスターハンターをやっているのかだんだんわからなくなる。
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・夕間暮れより

2019年06月08日 | コラム
 ようやく空が陰って風が涼しくなった。梅雨入りを宣言した昨日はあれほど昼間から梅雨をたたえるように降り注いでいた雨の気配もなく、雲間から青空と日光を覗かせていた昼間から、天気は雨の夜へと変わろうとしている。窓を開けたまま眠れないのは残念だが、雨音を聞きながら眠りに沈み込む夜は特別に体が休まる思いがする。次の日にどこかへ行く予定がなければなおよい。濡れるのは仕方ないとしても、電車だろうが道路だろうが、普段使わない傘のおかげで何かと騒がしいのだ。
 そんなに本数の少ないわけでもなしに後を絶たない(気分は十分に同情するが)駆け込み乗車用の道具に傘はぴったりで、腕よりも長いそれをドアの間にさしはさむ人が後を絶たないらしい。カバンや肩をラグビーのゴールのように突き出す人は何度か覚えがあるが、傘を突き出した人はまだ見ていないので、あくまで電車の車内放送の伝聞である。時間帯のせいなのか、どの駅でも傘で割り込みを働く人が一定数いるようで、電車は冷やしすぎたところてんのように目詰まりして駅と駅の間で立ち往生しないよう、一つの駅に停車する時間が長くなった。
 運よく前の席が空いたので座りぼんやり雨脚の強まる外を眺めていると、次第に眠くなり窓枠へ頭をもたせかけてうとうととした。座っていれば駅へ着くはずだった。だが、あまりにも傘を電車の窓枠に差し込む人が増えたせいか、終着駅で電車をまわしきれなくなったせいか、突然車掌が声を張り上げて行き先の変更を告げた。私の降りる駅は変更された行き先のさらに先の駅だった。
 降りたホームには案の定人がこぼれるほどたむろし、慌てたような構内放送が電車とホームの間に挟まった人を理由にさらなる遅れを説明している。どうせ混むだろうと敬遠した電車に結局は乗ることとなり、傘と人いきれで蒸れた気分の悪い車内に揺られては止まり、揺られては止まりを繰り返し、駅に着くころには雨は小雨となっていた。降りた電車はドアを閉じて蒸し器のように停車していたが、それもこれも傘のせいだろう。
 雨が降り出している。次々に窓のシャッターが降りた。私も背を伸ばしてシャッターを下ろす。夕暮れが訪れながらも、夜になるのはまだ十二分に早い時間だ。
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