えぬ日和

日々雑記。第二、第四土曜更新を守っているつもり。コラムを書き散らしています。

床で読む

2020年07月25日 | コラム
 湿気は高いが気温は控えめな日は冷房を付けることが後ろめたい。手だけをのろのろと動かして何かをする、受動的にテレビやインターネットを彷徨うには十分に心地よいが、頭の中へ文字を流してゆく読書だけは蒸し暑さが耳から侵入して脳の隙間を埋め尽くすような心地がして、読めない。机に座ると昼の仕事の名残が机の上に漂っているようで、その位置に座り目線を遣る時間が耐えられない。そのせいか音楽やテレビで音を耳に入れながら過ごす時間が圧倒的に増えた気がする。それは構わない。学生の時のように教師の声だけが無機質に響くよりは意味の薄い言葉が耳を通り過ぎるほうがまだ手は動く。けれども頭に言葉を入れるには蒸し暑い。私はフローリングに寝そべることにした。
 フローリングに頭をつけて左右を見ると埃の白い粒がそこかしこに浮いていて、ばらけた髪は静電気の要領でごみを吸い付ける。床は部屋のどこよりも冷たく、私はそのまま背中と足を床につけて、その冷たさを体温に変えながら本を読んだ。ページは電灯の影で暗いが、冷えた頭には少しずつ文字が入っていった。冷房をつけてしまえば椅子に好きな姿勢で座りながら本を読める。まだ冷房を付けるには早い。本のページはめくられる。私がずれると私のいた床は生ぬるく体温がとどまり、次の床には冷気が待っている。湿気を吸った空気に押しつぶされて蛙のように床に広がった姿勢のまま、私は本を二冊読んだ。

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