さ桧隈 桧隈川の 瀬を速み
君が手取らば 言寄せむかも
=巻7-1109 作者未詳=
明日香の南西の丘陵地に桧隈寺跡がある。このあたり一帯が桧隈の里。
桧隈の野を流れる桧隈川の川瀬が早いので、あなたの手を取って渡ったらみんなに噂されるでしょうか、という意味。
明日香村の高取町との境にある桧前の里は、東漢氏(やまとのあやうじ)に代表される多くの渡来人が住んだところである。桧隈寺は渡来人が造営した寺で、他にも坂田寺や呉原寺、軽寺などがあり、明日香は渡来人が多く住んでいたところでもある。ひょっとして、土地の人と渡来人との逢瀬であったかもしれない。
今は川幅2mたらずのありふれた小川だが、古代はもっと川幅も広かったかも知れないが、名もない万葉びとのおおらかさが伝わってくる歌である。