飛鳥への旅

飛鳥万葉を軸に、
古代から近代へと時空を越えた旅をします。
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万葉アルバム(奈良):桜井、出雲

2009年03月04日 | 万葉アルバム(奈良)



籠(こ)もよ み籠持ち
ふ串もよ みふ串持ち
この岳(おか)に 菜摘ます児(こ)
家(いえ)告(の)らせ 名告らさね
そらみつ 大和の国は
おしなべて 吾こそ居れ
敷きなべて 吾こそ座(ま)せ
われこそは 告らめ 家をも名をも

    =巻1-1 雄略天皇=


良いかごを持って、良い串を持って、この丘で菜(な)を摘むお嬢さん。君の家はどこかな、教えてくれないかな。私は大和の国を治めているものです。だから私には教えてくれるでしょうね、君の家も君の名前も。という意味。

万葉集の開巻第一ページの冒頭を飾る長歌。
天皇と娘子との聖なる結婚によって、国土の繁栄が約束されることを歌った歌。
籠(こ)は摘んだ若菜を入れるカゴ、掘串(ふくし)は土を掘るヘラのこと。
「み籠」「み掘串」の「み」は相手の持ち物を讃(たた)える接頭語。
早春に娘たちが野山に出て若菜を摘み食べるのは、成人の儀式だったらしい。
「児(こ)」は女性を親しんで呼ぶ語。「そらみつ」は「大和」にかかる枕詞。

古代は名告りは重要なこととされ、男が女の名を尋ねるのは求婚を意味し、女が名を明かすのは相手の意のままになることを意味していた。
作者は5世紀後半の第21代雄略天皇(412~479年)。『古事記』下巻に登場する英雄的な君主。
歌をよくし、その霊力によって女性や国を獲得したという伝説を持つ。
権勢は全国に及んだようで、埼玉県の稲荷山古墳と熊本県の江田船山古墳から、雄略天皇をしめすと思われる「ワカタケル」の銘のある鉄剣が出土している。ただ、万葉の当時から約200年も前の天皇のため、この歌は天皇の実作ではなく伝承された歌謡と考えられている。

桜井市出雲黒崎の白山神社に「万葉歌碑」が建っている。
宇陀野へつづく狛峠を登ると、桜井市出雲の陽当たりのよい南向きの丘が望まれ、下に初瀬川の清流が初瀬街道と並行して流れ、山並みの緑に包まれた風景は、1500年前のロマンの世界に私たちを誘ってくれる。