徒然地獄編集日記OVER DRIVE

起こることはすべて起こる。/ただし、かならずしも発生順に起こるとは限らない。(ダグラス・アダムス『ほとんど無害』)

「憎悪」だけでサッカーは楽しめるのか/サッカーと愛国-フットボールvsレイシズム-(2)

2013-07-15 09:11:52 | News
『ネットと愛国』でその事実を書いた安田浩一さんも改めて指摘したように、「2002年」が嫌韓のきっかけになったレイシストは少なくないらしい。当然、2002年というのは小泉純一郎首相の日朝首脳会談と日韓ワールドカップだ。

1996年5月29日、博多の森球戯場で行なわれたキリンカップ・メキシコ戦は興味のない観衆、視聴者をも惹きつける好ゲームとなり、当時代表史上最高のゲームと評された。3日後に決定する2002年ワールドカップ開催国決定に最高の機運が訪れた。
いまだにワールドカップ出場経験のない開催候補ではあったが、ホームゲームとはいえメキシコ相手に一歩も引かないゲーム内容に、誰もが日本単独招致を疑わなかった。Jリーグ各サポーターも招致委員会の活動に協調し、来日したFIFA理事へのPRに自ら協力していたものの、Jリーグブームは沈静化し始めていたし、FIFA副会長だった鄭夢準大韓サッカー協会会長の強力な政治力に一抹の不安を感じながらも、開催国は日本だろうと固く信じていた。
しかし、結論は日韓共催。やはり鄭夢準の政治力でドローに持ち込まれたという印象が強い。
サッカーにはドローがある。劣勢がドローに持ち込めば、むしろ勝ちに近い。逆に勝利を確信しながら終了間際に同点ゴールを決められればダメージは大きい。この辺り、鄭夢準はやはり政治家で、サッカーを知っていた。
盗まれた(韓国の招致委員会設立は日本の2年後)と憤ったサッカーファンも少なくはなかったけれども、出し抜けを喰らった招致委員会はともかく、この「遺恨」についてニュースはそれほど続かなかったと思う。何しろ共催とはいえ自国開催が決まった以上、2002年の前大会である1998年のフランス大会は是が非にでも出場しなければならないとサポーターは覚悟したからだ。
だから翌1997年のアジア予選は、アジア大陸を横断する初のホーム&アウエイ方式も相まって異常な盛り上がりを見せた。アジア予選の壮行試合となった国立競技場での日韓戦では20歳の中田英寿が本格的な代表デビューを果たした。中田は後に国歌斉唱問題で右翼に糾弾されるわけだが、1997年以降、2002年へ向けて、いかに「代表」が世間の注目を集め続けていったのか、ということである。

そして2002年は日本のサッカーファン念願だった「祭り」になる。もうひとつのホスト国である韓国のゲーム(イタリア戦、スペイン戦)を、主審として華麗にアシストしたモレノというスーパースターも生まれた。



2002年までは「代表のサポーター」がいた、と思う。2002年以降は、きっと状況が変質してしまったのだろう、と思う。
しかしスタンドそのものが今変質しているのかといえばそんなことはないだろう。確かに「代表専門のサポーター」もしくは「代表にそれほど興味を持たないJリーグサポーター」が増えたのは実感としてあるが、ここでいう「過激化」しているのはサッカーや代表のゲームをダシにヘイトスピーチをする快感を覚えてしまったネット限定サポーターで、要するにネトウヨである。
鄭夢準の関与疑念を招きかねないモレノのレフリングや一部韓国サポーターの挑発的な行動は、嫌韓を是とするネトウヨを狂喜乱舞させ、彼らにサッカーの「もうひとつ」の楽しみを教えてしまった。ゲームを通じて「敵」を口汚く罵倒する楽しみ、である。勿論、サッカーの楽しみ方はそれだけではないのだが。



サポーターはネットによって育まれた。その「ゆりかご」の代表格が2ちゃんねるとサポティスタだっただろう。
2ちゃんねる前夜のサポティスタはスタジアムで配布されていた、実に情熱的なサポーター有志によるフリーペーパーだったわけだが、サイト化と同時に「ネタ」集めのポータルサイトとして浸透した。2ちゃんねるの代表的な嫌韓ネタスレといえば「しお韓(ようやくしおらしくなってきた韓国サッカー)」だろうか。数々の2ちゃん用語=ヘイトスピーチを生み出しながら、「ネタ」としての嫌韓を煽り続けた。
勿論今でも「ネタ化」をカルチャーと言い換えてもおかしくはない。それも確かにサッカーの楽しみ方である。しかしレイシズムの土壌になってしまっては、そんなカルチャーはお話にならない。

Jリーグにしても、代表にしても現状でスタンドでヘイトを繰り出す悪質なネットサポーターは少数派だろう。
磐田サポーターの少年2人がやらかした「ゴトビ核兵器」ダンマクなどは、いかにも2ちゃんねる的な無邪気なヘイトスピーチだった。そんなバカは確かにまだ少数派だ。
しかし、それに対して「スタジアムに政治は持ち込まない」というお題目を唱えているだけのリーグの対応はまったくお粗末で、ヘイトスピーチに関してやはり無自覚だったと思わざるを得ない。FIFA、UEFAがアピールしているように問題が国際的に共有されつつある今こそ、問題が小さい(小さく見える)からといってスルーするのではなく(まさにこれは「荒らしはスルー」のテンプレ化の弊害だ)、リーグも積極的にメッセージしていくべきだろうと思うのである。


(木村 元彦、園子温、安田浩一『ナショナリズムの誘惑』ころから)


(安田 浩一、朴順梨『韓国のホンネ』竹書房新書)


(ガブリエル クーン、甘糟智子・訳『アナキストサッカーマニュアル スタジアムに歓声を、革命にサッカーを』現代企画室)

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