徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

ドイツ情報、ヨーロッパ旅行記、書評、その他「心にうつりゆくよしなし事」

書評:横山秀夫著、『半落ち』(講談社文庫)

2016年09月29日 | 書評ー小説:作者ヤ・ラ・ワ行

引き続き横山秀夫作品です。『半落ち』(講談社文庫、2005.9)はリレーのような小説です。短編集のような体裁で、1編ごとに主人公が変わるのですが、時系列に沿ってアルツハイマーの妻の嘱託殺人をしたと自首してきた現職警察官・梶聡一郎(49)を、警察の取り調べから検察・裁判所を経て刑務所まで追っていく構成です。

動機も経過も素直に明かす梶。だけど、殺害から自首までの2日間の行動だけは頑として語ろうとしません。梶が完全に“落ち”ないのはなぜなのか、その胸に秘めている想いとは何か… これは最後に明かされます。

面白いのは、「半落ち」のまま梶は司法の「ベルトコンベア」に乗せられ、刑務所までたどり着いてしまうことです。目次は以下の通り:

  1. 志木和正の章 ->捜査一課強行犯指導官。梶の取り調べを担当。
  2. 佐瀬銛男の章 ->検事。梶の起訴を担当。
  3. 中尾洋平の章 ->東洋新聞記者。梶の殺害後の「空白の2日間」を追い、虚偽証言と警察と検察の裏取引を記事にする。
  4. 植村学の章 ->私選弁護士。梶の殺害後の「空白の2日間」を探ろうとするが、結局そっとしておくことに。
  5. 藤林圭吾の章 ->左陪席裁判官。梶に懲役刑の判決を下す。
  6. 古賀誠二の章 ー>刑務官。梶の監視担当。

この作品の本来の主役は梶総一郎のはずですが、彼はあくまでも他者目線で描き出されるだけで、自らは決して語らない謎めいた人物であることがストーリー構成として変わっていて、興味深いと思いました。

サブテーマとして、「人間五十年」があり、登場人物の多くが50手前だったりします。人生を振り返り、悔いたり失望したり。先が見えてきて失望したり。まああまり希望に満ちた年齢層ではないのは確かで、犯罪を犯したり、自殺したりするのが増えるのも50手前が多いらしいですね。その意味では、『半落ち』は中年以上向けの読み物ですね。(笑)

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ドイツ銀行危機~政府は緊急救済計画を策定中か?

2016年09月29日 | 社会

政府のドイツ銀行緊急救済計画を報じたのはツァイトで、具体的なソースは言及されていませんが、アメリカ政府が罰金140億ドルを一歩も譲らなければ、ドイツ銀行の財務は危機的状況に陥るとし、その場合は国がドイツ銀行株25%を取得し、部分国営化を実行する計画のようです。

本当のところは分かりません。ドイツ政府及びドイツ銀行が緊急救済計画をはなから否定しているからです。ドイツ政府は過去に何度も「ドイツ銀行救済のために税金を投入することはない」と主張してきました。しかし、ワーストケースシナリオとしてそのような救済計画が策定されていてもおかしくはないと思います。なんにでも「万一に備える」のがドイツです。冷戦時代は常に「第3次世界大戦シナリオ」を策定し、それに応じて準備・訓練などをしてきたのですから、現在、「テロシナリオ」や「金融危機シナリオ」が描かれ、その万一の時のための対策が練られているのはむしろ自明の理ではないかとも思います。ただ、それを公表して無用なパニックを起こさせたり、株式市場を不安にさせて余計に事態を悪化させるのは問題なので、公にはそれを否定する、ということでしょう。

ドイツ銀行総裁のジョン・クライアンも、アメリカ政府から科せられた罰金140億ドルがあったとしても、国の支援なしに困難を乗り切ることができると主張しています。「状況は外から見える印象ほど悪くはない」「去年より財務状況は改善された」とクライアン氏。

罰金140億ドルのインパクトは大きく、今週の初め、ドイツ銀行の株価は6%以上下落し、10.29ユーロとなりました。昨日(9月28日)は少し持ち直して、10.94ユーロでしたが、低迷が続いていることは確か。3年間で67.5%値崩れしました。

もっとも株価は往々にして実経済とは異なる次元で動くので、実際のところは株価から読み取れないわけですが。

ドイツ銀行の第三四半期報告書は10月27日に公表予定。

 

参照記事:
ツァイトオンライン、2016.09.28、「政府はドイツ銀行のための緊急計画を策定中」 
ツァイトオンライン、2016.09.27、「ドイツ銀行: 酷い二日酔い
シュピーゲルオンライン、2016.09.28、「ドイツ銀行危機:政府はドイツ銀行救済計画を否定」 


ドイツ銀行の危機についてー【ドイツ財政危機】ではありません