お久しぶり!
川原の案山子さんたち、今日も一致団結、ダム小屋で頑張ってますね。
私?
私はね、今日は川原の秋を見に来たの。
ええ、昨日も川棚に来ましたよ。
でも、いつも夜でしょ。こうばるの美しい秋景色をぜんぜん見てないんだもの。
黄金の稲穂と、コスモスがお目当てでね。
おお!
予想通りの黄色の海ですね。いいですね~
どれどれ、今年のできは…?
異常気象のせいで不作の地域が多いと聞いているけど、
素人目にはよく実ってるように見えますねぇ。
う~ん!素敵だなぁ。
アンダンテの「稲の旋律」が聞こえてきそう。。
おお!コスモスも満開ではありませんか!
あちこちにカメラを向けていたら、
「なんば撮りよっと?」「どっから来たと?」と、おじいさん集団(4,5人)に声をかけられた。
知らない顔ばかりなので川原の人たちではなさそうだが、皆さん作業服姿。手には草刈りの道具。
「佐世保です。田んぼやコスモスを撮ってるんですよ。きれいですねー。おじさんたちは?」
「俺たちはシルバーよ」
は?
「草刈りに来とるとよ。年に3回くらい。役所に頼まれてな」
「はぁ。ボランティアですか?」
「違うよ。シルバーて言うたろ。ちゃんとお金はもらうよ。ここにもうすぐダムができるとよ。
草を刈っとかんと、ダムの水が腐ってしまうけん、きれいにしよるとよ」
「はぁ。やっぱりダムはできるんですかね~?こんなきれいな自然は残して欲しいんですけどね…」
そうしたら、そのおじさん、オヤ?という顔をしたのです。
そして、周りにいたお仲間が、休憩が終わって草刈り現場に向かい始めるのを見ながら、
「実は俺もそう思っとると」と、ポツリ。
「えー、ほんとですか?嬉しいですねー」
で、しばし歓談。そのお話から見えてきたおじさんのプロフィールは・・・
現在70歳。以前佐世保に住んでいた。佐世保は楽しかった。
米軍の船の中で働いていた。
で、彼らに「スケベバー」を紹介してやると、すごく喜んでたくさんお金をくれた。
川棚に越してからずいぶん経つが、川棚は好きになれない。
(なぜ?と訊くと)
人間がみみっちい。
(ケチということではなく人間としての器のことらしい)
佐世保の人間はよそ者に親切だったが、川棚はそこが違う。
(ほんの隣町なのにそんなに違うんですか?と訊くと)
違う!だからダムのことも、思ってても反対とか言えん。
どうも川棚で出会った方々との相性が悪かったみたいです。
私が出会った川棚の方々は、みみっちいとは正反対の人ばかりです。
佐世保時代のこと、いろいろ話されても私がポカンとしてるので、
「あんた、佐世保の人じゃないね」
「はい。2年前に埼玉から越してきました」
「埼玉?よかとこやないね。なんでこげん田舎にきたとね。俺も一時川崎に住んどったよ」
「えー!川崎ですか?私も住んでましたよ、ちょっとだけ」
「そうね。俺は中原区だったけど」
「えー!私も中原区ですよ!下小田中ってところ」
「ほんなこつか?俺も下小田中よ。会社の寮やったけど。あの頃は周りは田んぼばっかりで…」
「そうそう。ここが川崎?って感じでしたものね」
近所にあったお店や学校の名前を言われたけれど、その記憶は私にはなく…
(住んでた時期が10年ほど違っていた)
話がかみ合わなくなった頃、おじさんはお仲間の方に呼ばれて、仕事場に向かって行った。
やれやれ。
再び、コスモス注目。
あれ?コスモスと看板って意外と似合ってますね。
それにしても、素晴らしいコスモスの群生です。
もちろんかってに咲いたのではありません。
「こうばるの花屋さん」と私が密かに名付けた「ふさえさん」が丹精込めて咲かせたコスモスです。
佐世保には「オランダの花屋さん」という素敵なお店がありますが、
「こうばるの花屋さん」はお金をとりません。
県の要請に応じてダム建設のために家や土地を売って出ていった人たち。
近所にあるその跡地が荒れ放題になっているのを見かねて、ふさえさんはそこに花を植え始めました。
仕事や家事の忙しい合間を縫って、一生懸命世話をしてくれるので、
花たちも喜んで嬉々として咲いています。
そこを通る人たちは思わず足を止め見惚れます。
(虚空蔵山への登山者も多いようです)
すると、ふさえさんは「どうぞ。どれでも好きなだけ持っていってください」と声をかけ、
ハサミまで貸してくれます。
「こうばるの花屋さん」は太っ腹なのです。
そのふさえさんが、『川原のうた』を歌うようになって、
歌詞に出てくるコスモスを、もっといっぱい咲かせたいと思い、
夏の暑いときも毎日草取りをして頑張ったのだそうです。
ハチも美味しい美味しいと喜んでいます。
写真を撮っていたら、ふさえさんがやってきて、
いつものように「これも持っていったら、あれも持っていったら」と、
いろんな種類のお花をパチンパチンと切ってくれるので、
「あ、ごめんなさい。まだ、これから川に行ってきたいので…」
「あ、そうか。じゃあ、バケツに入れておくね。ハサミもここに置いておくから、帰りに好きなだけとってね」
ふさえさんと別れて少し歩くと、遠くの田んぼに、きむこさんの姿。
互いに気づき手を振り合う。
そばに干された稲の束が見事!
「すごいねー」「今年はあんまり良くなかとですよー」「どうしてー」と大声を出し合うが、
遠すぎてあまり聞き取れない。
また後でゆっくり聞こうと先を急ぐ。
少し行くと、「昨日はお疲れさまー!」と、玄関先からじゅんこさんの声。
「インスタントだけどコーヒー飲んでいかなーい?」
「ありがとう!だけど、もうすぐ雨が降りそうだから、急いで川に行ってみたいの」
「そうだねー、降りそうだねー、あそこの川やろ?今日は暗いかもよ。気をつけてね~」
ありがとう~
やっと着きました。
あいかわらず澄んだ流れです。
でも、真夏に来た時よりずいぶん草が茂っています。
苔も増えていてすべりそう…なんて下ばかり見てはいられません。
あちこちに蜘蛛のネットがかかっていますから。
おおー、怖っ
おや~
水といっしょに新しい落ち葉が流れてきます。
周りは一見緑の樹木ばかりのようですが・・・
上を見ながら進んで行くと、ありました。
透明な川に秋の模様を散りばめてくれていたのは、この木だったんですね。
しばらくすると、ついにポツポツ降り出しました。
やばい!
傘もない!車もない!
川を出て、急いで駅に向かっていたら、
ふさえさんが迎えに来てくれて、駅まで送ってくれました。
コスモス、ムラサキシキブなどたくさんの花束とみかんと
こうばるの皆さんの優しさをお土産にいただきました。
稲の海 コスモス揺れて 風薫る
実りのこうばる 心も満腹