言語空間+備忘録

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日本の公共事業費は先進国並みである

2011-05-03 | 日記
藤井聡 『公共事業が日本を救う』 ( p.14 )

 毎年、「公共事業」には何兆円も、何十兆円も費やされている。そして、ほとんど利用されていない道路や、効果もほとんど期待できない一方で環境を破壊するだけのダムなど、無駄としか言いようのないコンクリートのかたまりが次々につくられてきている――、一般のテレビや新聞、雑誌、書籍などでは、しばしばこうした論調を目にする。

(中略)

 例えば、公共事業を批判的に報道するような論調の中で、しばしば、
 「日本の公共事業費が、異様に高い」
 というデータを見聞きすることがある。
 図1をご覧いただきたい。
 この図は『道路をどうするか』という2008年の暮れに出版された書籍で紹介されているグラフである。このグラフは、「道路、日本危機の元凶」という章の「特異な国、日本」という節に紹介されているものである。確かに、このグラフを見ると、公共事業費(一般政府固定資本形成)が先進諸国の中で「異常に高い」(P108)。そして著者らはそれを踏まえて、日本の公共事業を大幅に見直すべきだという論を展開していく。

(中略)

 そもそも、このグラフの注に記載されているように、諸外国は『ナショナル・アカウンツ』というOECD(経済協力開発機構)の統計からデータを引用している一方で、日本だけが『国民経済計算』という国内の発表資料を用いているという点が、まず気になった。日本はOECDの加盟国なのだから、著者らが引用しているOECDの『ナショナル・アカウンツ』には、当然、日本の統計値も掲載されているはずである。とはいえ、両者は基本的に同じ数値であるので、それはそれで構わないと言えば構わないのだが、諸外国は「2007年」の資料を利用している一方で、日本だけが「2004年度」(平成16年度)の資料を用いているという点だけは、どうも腑に落ちなかった。
 なぜ、どういう意図があって、日本だけ古いデータを用いて、諸外国は最新のデータを使ったのだろう?
 こうした疑問を抱いた筆者は、著者らが引用しているOECDの『ナショナル・アカウンツ』に立ち戻って改めてグラフをつくってみた。
 それが、図2である。
 見比べていただきたい。明らかに受ける印象が異なることがお分かりいただけよう。
 日本の公共事業費は、先進諸外国の中でも突出して高いというわけではない。むしろ、フランスの方が高いくらいだ。
 ちなみに、OECDには、我々の隣国、韓国も加盟しており、かつ、現時点では翌年の統計値も入手できるので、最新の統計値を用いて、韓国も含めたグラフを書いてみた。それが図3である。
 もうお分かりいただけよう。
 客観的なデータで見る限り、少なくともここ数年の日本は、公共事業費が「異常に高い」「特異な国」でも何でもないのである。強いて言うなら、韓国こそが「特異な国」と言わねばならないだろう。
 この事実は、日本の公共事業の在り方を考える上で、重大な意味を持つ。
 なぜなら、著者らが主張するように、「日本は先進諸国の中でGDP(国内総生産)に占める公共事業費が異常に高いことを指摘したが、それが公共事業の見直し論の引き金の一つになった」(P108)からである。そうだとするなら、その認識そのものが、少なくとも2005年時点において既に妥当していないのだから、「公共事業の見直し論を続けていく必然性」、つまり「コンクリートから人へ」と叫ぶ必要性は、今日においてはほとんどない、ということになるのではなかろうか。


 「日本の公共事業費が、異様に高い」という主張が公共事業見直し論の引き金の一つになったが、その根拠となったデータは「おかしい」。少なくとも2005年の時点においては、そのような主張は既に妥当していない、と書かれています。



 引用文中の
  • 図1(過去に出版された書籍で紹介されている「国民経済に占める一般政府固定資本形成(対GDP比)」のグラフ、
  • 図2『ナショナル・アカウンツ』2007年版に報告されている2005年の数値を用いて求めたグラフ、
  • 図3『ナショナル・アカウンツ』2007年版に報告されている2006年の数値を用いて求めたグラフ(含む韓国)
から (目分量で適当に) 読み取った数値を、下記に記します。



       図1    図2    図3

ドイツ   1・5%  1・5%  1・5%
英国    1・5%  0・8%  2・1%
イタリア  1・8%  2・7%  2・9%
カナダ   1・9%  3・0%  3・1%
フランス  2・0%  3・6%  3・7%
米国    2・1%  2・8%  3・0%
日本    6・0%  3・3%  3・0%
韓国                5・8%



 この表 (図1~図3の数値表) を見ると、
  • たしかに「日本の公共事業費が、異様に高い」という主張の根拠となったデータでは、日本の公共事業費だけが対GDP比6・0%になっており、「異様に高い」数値になっているにもかかわらず、
  • 著者 (=私が引用している本の著者、藤井聡) が調べた「公平な」データでは、日本の公共事業費は諸外国並みである
ことがわかります。

 そしてまた、著者 (=私が引用している本の著者、藤井聡) が述べているように、「異様に高い」公共事業費を費やしているのは韓国であることもわかります。



 とすれば、公共事業見直し論は「結論先にありき」で「操作されたデータ」に基づいて主張されていた可能性が高いと考えられます。すくなくとも著者が述べているように、公共事業見直し論 (…の根拠のうちの一つ) は「少なくとも2005年時点において既に妥当していない」ということになります。



 そこで、今度はこの本を読み進めつつ、公共事業の是非や、どのような公共事業が必要とされているのかを考えたいと思います (震災復興のために公共事業が必要なのはあきらかですが、それとは別個に、つまり一般論として考えたいと思います) 。



■追記 ( 2011-5-5 )
 日本における公共事業費は先進国並みである。このデータは、「日本においては公共事業費を増額せよ」という主張には (ただちに) 結びつきません。増額すれば「先進国並み」ではなく、「異常に高い」状況に陥るからです。

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