7月1日 読売新聞「編集手帳」
詩人の川崎洋さんは17歳の次女から詩作を頼まれたことがある。
半年のうちに両親を相次いで亡くした友だちに贈りたいからと。
悩んだすえ一緒に悲しむしかないと腹をくくり、
書いた。
一節を引く。
<一日を我慢して
二日目を我慢してください
それが三日になり一か月になり
やがて一年になります
そして五年がたちます
そのとき
きっと今とはちがいます
ですから
今を我慢してください>
(『ことばの力』岩波ジュニア新書)
新型ウイルスによる死者が世界で50万人を超えた。
日本でも900人以上が亡くなっている。
膨大な数の遺族がいつか悲しみがちがってくる日に向け、
苦しくも歩み出している。
高齢者を中心に死者が膨らんだ春先、
女子高校生がわがことのように悼み、
「お年寄りのために私ができるのはマスクを忘れないでいることです」と話すのをテレビで見た。
川崎さんの娘さんしかり。
世の中には、
他者の悲しみへの共感というものを教えてくれる優しい人がいる。
太平洋の向こうの国々ではマスクをしない大統領が2人ばかりいて、
話題になっている。
優しい人にはあまり見えない。