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この夏読んだ本 vol.2 ~甲子園関連編~

2012-09-30 18:29:58 | ブックレヴュー
今年の夏に読んだ本の備忘録的記事第2弾。

「甲子園が割れた日」中村計

「幻の甲子園」早坂隆 「昭和17年の夏 戦時下の球児たち」


筆者が初めて甲子園に行った日、高校野球史に残る試合を観戦した。
その試合とそこに関係した人々を丹念に取材、その真相に迫ったのが中村作品。
その試合とは星陵-明徳義塾線。星陵の松井秀樹が5打席連続敬遠され、結局明徳義塾が勝利したという試合。
単に評価の高い松井のバッティングが観たい、というだけで甲子園に来た筆者などにとっては、確かに試合中にもスタンドから(明徳徳批判の)物が投げ入られたり、異様な雰囲気はあったが、現場ではむしろ過熱した一部観客に対する批判的な印象が強かった。
が、夜のニュースから後の焦点は、明徳の作戦の妥当性から始まり、高校野球と指導者の在り方(どこまで勝利を優先すべきか)、報道機関の姿勢(馬淵明徳監督叩きなど)と広がりをみせた。

著者中村計は当初自らも報道にミスリードされていた部分があった、と告白しつつ、関係者への丹念な取材に基づいて事実を浮き彫りにする。その筆致はあくまで冷徹で、ときには読み手の読後感が必ずしも良くないであろう事実などもオブラートにくるむことなく叙述する。

筆者がたまたま実際に目にした、ある野球の試合が関係した人々にどういう影響を与えたのかがよくわかり、読みごたえがあった。

読後、この作品で語られている諸々の事実は確かに重いものではあろうが、しかし(もちろんこの作品では全く想定されてはいない視座だが)所詮高校生の部活の試合に何をそんなに大袈裟な・・・という思いを禁じ得なかったのは元バレー部の筆者のやっかみと言うべきか。


昭和16年から終戦の昭和20年までの間は戦争のため、甲子園大会は開催されなかった、という事実は知っていたが、実はその間の昭和17年、主催は朝日新聞から文部省に代わり、大会運営も時世に合わせて戦時色の濃いものになってしまったが、大会が開催されていた、という事実を扱ったのが早坂作品。

出場した16校が参加した試合の全てと選手(この大会では「選士」と称していた)のその後を緻密に記してあり、高校野球の歴史の隠れた1ページに光を当てたというだけでなく、戦時中の一般市民の生活史・風俗史としても一級の作品だろう。

手垢のついた表現だが、スポーツがあるのも平和あればこそ、という思いを強くした。
大会後、戦火に倒れた球児たちに黙祷。


(文中、敬称略させていただきました。)


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